呟怖千夜一夜

だんぞう

文字の大きさ
上 下
88 / 619

#0088 顔文字ボード

しおりを挟む
「俺達に話を聞きに来たんですか?」
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
 紘彬が部室を見回しながら答えた。

「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
 紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
 紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
 聖子が持っていた紙を指した。
 差し出された紙を如月が手袋をめた手で受け取ると部室を後にした。

「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
 弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
 垂水が厳しい声で弥奈の言葉をさえぎる。

「でも、ここの部員の名字、被枕ひまくらにある名前ばかりだよねぇ」
 弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
 耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
 弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。

「わ、わたしは……」
 由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
 聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
 今度は結城が狼狽うろたえたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
 聖子はぴしゃりと言って結城の言葉をさえぎった。
「…………」
 一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。

「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
 垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。

 部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。

「学校を見て回られてたんですか?」
 垂水が訊ねた。
 紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
 母校というのは事実だが。

「いえ、署に戻ってたんです」
 小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
 警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
 それで一旦戻って調べてきたのだ。

「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
 如月にそう返されて垂水は言葉にまった。
 垂水は如月にうながされて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。

「その紙、まだありますか?」
 話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
 垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
 そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
 被枕は『大宮』

「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
 垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
 紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
 と言った。

「桜井さん、どう思いますか?」
 校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
 これから警察署に帰るのである。
 如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
 この箱は証拠品である。

「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
 そうなのだ。
 調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
 駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。

 わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。

五月二十一日――鞍馬の山――

 垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
 椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。

「それは?」
 カプセルを嚥下えんかした時、背後から声が聞こえた。
 振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
 垂水はそう答えてから、
「何か?」
 と紘彬達に訊ねた。

「確認したいことがありまして」
 如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
 如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。

 垂水は箱を手に取って改めた。
 箱に変わった点はなかった。

 が――。

「『はるひの』は入れてない」
 垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日かすが』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
 垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
 と言うことは――。

「部員に春日がいるんですか?」
 そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
 紘彬と如月が顔を見合わせる。
 昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
 垂水が弁解するように答えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...