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第33話「正々堂々(後編)」

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「……間に合ったわ!」



 パリィン……!

 セリアム・レリアムがポーションを飲み切った。
 そして、魔力の回復を実感するように、

「これで勝ったも同然よ! 今すぐ解毒魔法をかけるわね! さぁ、不浄なる────……ぅ?」

 解毒魔法を詠唱するセリアム・レリアムだったが……………………ギュルルルルルル。

「え? あいたたた──なんか、差し込み腹痛が…………」
 タラタラと脂汗を流す聖女さま。

「う、うそ。な、なんで? なんで、今度はお腹なの?──あう……ッ」

 突如、腹を抑えて、つややかな声をあげるセリアム・レリアム。

 うううううううううううううう……!

 これは、詠唱?
 いや、違う。…………これは悲鳴だ。

「ふ、不浄なる……うぐぐぐ────」

 セリアム・レリアムが腹を抑えているってことは────こっち・・・が間に合ったか!

「お、おい! セリアム・レリアム、どうしたんだ?! 何をしている早く!!」
 ロードラ・タンクと二人で連携し、辛うじてレイルをけん制している。
「ラ・タンク! よそ見をするな。……ボフォート! お前はさっさと聖女を起こせ────って、なんだ? は、腹が……ぐむ」

 ギュルルルルルルルルル!。
 ゴルルルルルル、ゴリュリュ……!!

「はは。こっちも・・・・効いてきたな?」

 レイルの悪そうな笑顔。

「て、てめぇ、レイル?! ぐぐぐ。なんだこれ──……」
「い、いでぇ──腹がやべぇ……! おッぐぅ、ご、ごればやばいっ」
「う、ううう……なんですか、突然全員が────ま、まさか」

 ……まさかぁ?!

 脂汗を流したボフォートはハッして先ほど投げ捨てたポーションの空き瓶を見る。
「そ、そんな?!」

 ──飲み干したそれを見て、そして、全員が同じようにポーションを飲み干した状況を見て一瞬で理解した。

「も、盛りましたね、レイル!! まさか、ポーションに毒を!? こ、このぉ……! 卑怯者ぉぉぉぉおおお──」
 ……卑怯??
「卑怯ときたかぁ! あーははははは!! よく言うぜ! ま、せいぜい味わいな──Sランクパーティといえども、腹痛には敵わんだろうさ!」

 そう。この瞬間のため、レイルはあらかじめロード達の補給物資に一服盛っておいたのだ。

 もちろん、模擬戦で殺すなんて過激な真似は出来なかったので、あの時の行商人から買ったドラゴンキラーの残りを、薄めてつくった毒である。
 それを、ちゃーんと実験して、どんな効果が出るか試しているので、安心安全? だ。
 ……多分な。

「ま、死にはしないよ。この毒は、強化薬と混ぜれば、悪寒と吐き気、さらには能力低下ステータスダウン──」
 そして、
「────ポーションと混ぜれば、腹を下す・・・・みたいだぜ?」

 ゴリュリュリュリュリュリュリュリュ!!
  ゴロロロロロロロロロロロロロロロロ!!

「や、やべぇええ!」
「うぐぐぐぐぐぐ!」

 くくくく。
 じゃ────地獄を見るんだな、ロード!

「グッバイ」

 親指を立ててからの反転───スーっと地面に向けて勝ち誇るレイル。
 いや、勝ちを誇る必要すらない。……だから、ろくに武装もせずにロード達と対峙したのだ。

 なぜなら────レイルはこの闘技場に来た時から、すでに勝っていた・・・・・・・・のだ!!

 しかしいつ?
 どこで?

 どーやって?!

 それだけがわからない!!
 パーティ一の頭脳をもつボフォートにもわからない。

 脂汗を垂らしながら、ボフォートは言った。

「い、いつのまに?? いつのまに毒を盛ったのですか?!」

 いつの間にぃぃぃいい!!

 ──レイル・アドバンスぅぅぅぅううううう!!

「はは。いつかって?」

 うがぁぁぁあああ! と、最後の叫びをあげるボフォート。
 パーティ一のキレ者を称する賢者どのにも、それだけが分からない。

 だって、口にした強化薬もポーションも、すべて数日以内に店で購入した正規品で、購入以来厳重に宿に保管していたのだから!

「この卑怯者がぁ……? く、くそぉぉ!! どこで、どんな手を使ったんですかレイルぅぅぅうううううう!! あーーーーーーーーダメ。もう限界ですぅぅぅうう!!」

 憤怒の表情が真っ青に変わり、ジタバタと暴れるボフォート。

 まだ起き上がれるロードとラ・タンクはマシだ。
 最悪、勝負を投げ出してトイレに駆け込めばいい。

 そして現時点ではパーティの紅一点であるセリアム・レリアム。
 彼女は、ついさっき「はぅあッッ……」と唸ったきり、セリアム・レリアムはすでに賢者のような表情になっている。

 どうやら、不浄なるものを浄化するまえに、御不浄を自ら体現したらしい。

 ちーーーん♪

「……時が見えるわ───」

 聖女様のようなご尊顔。
 …………どうやら一足早くお逝き・・・になったらしい。

 その様子に観客席も騒然とする。
 彼らには何が何やらわからないだろう。

「「「なんだ? どーなってんだ?! アイツラなんでのたうち回って……。まさか、負けるのか?」」」
「「「わ、わけが分からん?! なんで戦う前から自滅してんだよ!」」」
「「「おいおいおい! こんなん無効だろ?! か、金返せよ! ハゲ!!」」」

「誰がハゲじゃ!!」

「「「っていうか、なんか臭わね?…………うわ、なんだこれー!!」」」

 そして、徐々に閉鎖空間である闘技場に漂い始める悪臭。
 その都度、『放浪者』の面々が「「あ、あ、あ、あーーーー……」」とか言いつつ、賢者のような表情になっていく。


 そして、ついにロードがガクリと膝をつき、
 「あ、あぁっぁーーーー……」と、小さく叫んで、スゥーと賢者フェイスになった頃。

「「「あぁ、時が見える───」」」

 ちーーーーーん♪ ×3

 男たちは3人そろって聖女像のようなご尊顔になりにけり───。


「よう、ロード」


 レイルが余裕綽々でロードの前に立った。

「──どこで、どーやってだって?」

 ニヤリと笑うレイル。
 そして決まって言うあの決めセリフ。



 ……そんなもん。
「一昨日に決まってんだろ────!」
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