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第17話「ロード達を追う男」
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「──どうか、お受け取りください」
「これは?」
数日間の療養を経て、旅装を整えたレイルが村を発つ直前のこと。
恭しく差しだされたのは小さな布袋だった。
どうやら、中身は銀貨らしい。
「えっと……??」
「──せめてものお礼でございます」
グリフォンから救ってくれて感謝しますと、村全体の総意だという。
「お、お礼……ですか? でも、正式な報酬はギルドが支払ってくれますよ?」
グリフォン討伐はギルド経由の依頼であり、報酬はすでにギルドが準備している。
村には労をねぎらう以上に、報酬を支払う義務はないはずだ。
「いえ! それとは別に、ぜひともお受け取りください! レイル様がいなければ我々は全滅しておりました!──その程度の礼で恩を返せるとは思いませんが……!」
「いや、様付けはやめてくださいよ……俺なんかただのDランクで、ゴニョゴニョ」
赤くなった顔を隠すように伏せるレイルだが、村長は頓着しない。食い気味にぐいぐいと銀貨を押し付けてくる。
「いえいえいえ!! さぁさ、ほんの! ほんのお礼です!」
──さぁ、さぁ、さぁ!!
「あ、え。は、はぁ……はい」
頑なに銀貨を押し付けようとする村長。そして、背後に居並ぶ村人たち。
その表情を見て、固辞するのも悪いと思ったレイルは素直に受け取る。
「あ、ありがとうございます! 大事に使います……」
ポリポリと頭を掻きながら受け取るとニコリとほほ笑む村長。
「アナタは英雄だ……感謝してもしきれない」
まっすぐにお礼を言われることに慣れていないレイルはひたすら赤面する。
「いえ。こちらこそ……」
なんだかぎこちないレイルに集まった村人たちがドッと湧き上がる。
……じつに気持ちのいい村だ。
そっと懐に収めた銀貨の袋は重かった。
そして、温かい。
(これが感謝されるということか……)
──疫病神!
──疫病神!
レイルは頭を振って、脳裏に流れる声を消し去る。
(俺はもう疫病神なんかじゃない──……)
村長からドロップ品を受け取り、さらには謝礼として銀貨を得たレイル。
銀貨は30枚程度で、どれも古いものばかり。多くもなければ少なくもない額だ。
村人たちは貨幣経済から隔離されているので集めるには苦労しただろう。一般的な謝礼として見れば少ないが、村のお礼としては上等な方だ。
最初は固辞しようとしたのだが、これからのことを考えると資金は必要だった。
「首を洗って待っていろ──ロード……!」
そうして村人たちの感謝と見送りを受けて、
全ての旅装を整えると、グリフォンの素材とドロップ品。そして、『放浪者』の残した荷物を荷車に積んで出発するレイル。
背には、ラ・タンクの残した槍──「ブリューナクコピー」を担い、一路はじまりの地──辺境の町を目指す。
「ブリューナク・コピー」は天職『盗賊』のレイルには扱いなれない武器だが、今手元にあるもので一番強力なものだ。
だが、いただいておかない理由はないだろう。
他にも、宿の中にはロード達が放置した荷物があったが、そこには装備品の類はほとんど残っていなかった。
おそらく、いざというときに備えて、荷物は避難させていたようだ。
それ以前に、撤退をも前提にしていたに違いない。
(用意のいい連中だ……)
随分、手慣れていやがる。
この分だと……真正面から戦っても勝ち目はないだろう。
だが、レイルにはスキルがある。
スキル──『一昨日に行く』という、時間遡行のスキルがある。
たったの数分だけとはいえ、それは大きなアドバンテージになるはずだ。
ならば、策を練れ。
頭を使って戦え。
奴らの状況を分析するんだ───。
(……どうせ、ほとぼりが冷めるまで町で時間を潰してるんだろう?)
せいぜい惰眠をむさぼるがいい、ロード。
レイルは村でダラダラと過ごしていたロード達を思い出していた。
あれと同じように、グリフォンが村を滅ぼし、その後は鳥頭よろしくロード達を諦めるまで時間を潰すつもりなのだ。
そして、何もかも終わったころに村に舞い戻り荷物を回収する────な~んてことを考えているに違いない。
間違っても、レイルが生き残っているとは思っていないだろう。
だが、
「──そうはさせない。ロード達が油断している今が狙い目だ……!」
レイルは諦めない。
ロードだろうが、ギルドだろうが、許してなるものかよ──。
「囮にされたことも、疫病神と呼ばれたことも、」
そして……。
「──今まで何人もの孤独な冒険者を食い物にしてきたことも……全部償わせてやる!」
ギリリリ……!
そうとも。
「──そうとも!! お前の顔面にこいつをぶち込んでやるッ!」
ブンッッッ!!
虚空に浮かんだロードのニヤケ面を思い出し、
拳を握りしめ、奴の顔面が陥没するくらいにパンチをくれてやると、固く……固く決意した。
そして、残りの『放浪者』どもにも、56人分の冒険者──56発分のパンチを──!
「……たっぷりお返ししてやるからな────ロード!!
──さぁ、行くぞ!! いざ、辺境の町ベームスへ。
決意も固く、目標を定めると村人から貰った荷馬車とロバに拍車をかけた。
「はぁ!!」──ブヒヒーン!
グリフォンの素材と食料などの物資を積んだ荷車は、ゴロゴロと動き出す。
背後に、村長達の丸い背中を置き去りにして、景色がどんどん流れていく。
死にかけて──……スキル『一昨日に行く』に目覚めたこの村を離れるレイル。
きっと忘れることができない村になるだろう。
レイルの人生の転機となった村だ。感慨深げに村を流し見しつつ、レイルは村を出た。
そして、一度だけ振り返り、レイルなりに村に感謝を告げようと、
(ありが──)
──ワッッッ!!
レイルがそっと振り返り、開拓村に感謝を告げようとしたその瞬間。
「「「ありがとう!」」」
え?
「「「ありがとう、レイルさん!」」」
村の門の前には人だかりができていた。
老若男女。
怪我人も、病人もすべて────……。
「な、ちょ────……!」
「「「あなたのおかげです! ありがとう!! レイルさん、私たちの英雄さま!!」」」
うわぁぁぁあああああああああ!!
わぁぁぁああああああああああ!!
思いがけず、村人の心からの感謝を受けたレイル。
(マジかよ。こんなに感謝されるなんて……)
「あ、ああ、どうも──」
こ、木っ恥ずかしいからやめてくれ……。
彼らの顔が直視できず、真っ赤になった顔を隠すように伏せてレイルは手綱を握る。
だけど、冒険者になってよかったと生まれて初めて感じていた。
「……俺の方こそ、ありがとうだよ──」
そうして、門を抜け、
村人たちの盛大な見送りを受けながら十分な距離をとったところでようやくレイルは顔を起こした。
「本当にありがとう……!」
初めてレイルを認めてくれた人たち。
いつの間にか熱い涙がこぼれている。
(人の悪意は知っている──……だけど、掛値のない善意と感謝をくれたのはこの村だけだ)
だから、開拓村には感謝を──。
すべてを諦めていたレイルにチャンスをくれたことに感謝を…………!!
そして、
そして────ドン底に落としてくれたロード達には「顔面パンチ」を。
「…………さぁ、次は借りを返しに行こうか!」
決意も新たに、レイルは駆ける。
レイルを騙し、「疫病神」と罵ったうえでグリフォンの餌にしようとした、あのロードに借りを返すために!
そうとも、
「ロード達に鉄槌を下してやる!!」
レイルは一心不乱に町へ帰る道を行く。
その途上で、胸に沸き起こるロード達への憎しみをさらにさらに燃やし再燃させていく。
「──何がSランクだ……! 何が勇者だ!! 何が……何が!!」
『──ぜひ、君の力を借りたいんだッ。
頼む、君が必要なんだ──レイル』
勧誘時のロードの言葉が脳裏に蘇る。
そして、その後の顛末までもが……。
「なにが──……!」
ギリリリ、バリッ。
「嘘つき! 嘘つき──……!!」
かみしめた奥歯から血が滴り、口に鉄の味が染みわたる。
それほどまでの怒り。
そうやって、何人もの孤独な冒険者を騙してきたという憤り──。
借りは……。
借りは、必ず返すッッ!!
『あばよ、疫病神……!』
そして、最期のあのひと時──……あの刹那の瞬間にみせたロードの顔が浮かんでは消える。
屈辱と、
悔しさと、
そして……憤り!
それらをすべてバネにしてレイルは駆ける!
さぁ、待っていろロード。
……そして、目にものを見せてやる『放浪者』!
「──ロード…………俺は疫病神なんかじゃないぞ!」
「これは?」
数日間の療養を経て、旅装を整えたレイルが村を発つ直前のこと。
恭しく差しだされたのは小さな布袋だった。
どうやら、中身は銀貨らしい。
「えっと……??」
「──せめてものお礼でございます」
グリフォンから救ってくれて感謝しますと、村全体の総意だという。
「お、お礼……ですか? でも、正式な報酬はギルドが支払ってくれますよ?」
グリフォン討伐はギルド経由の依頼であり、報酬はすでにギルドが準備している。
村には労をねぎらう以上に、報酬を支払う義務はないはずだ。
「いえ! それとは別に、ぜひともお受け取りください! レイル様がいなければ我々は全滅しておりました!──その程度の礼で恩を返せるとは思いませんが……!」
「いや、様付けはやめてくださいよ……俺なんかただのDランクで、ゴニョゴニョ」
赤くなった顔を隠すように伏せるレイルだが、村長は頓着しない。食い気味にぐいぐいと銀貨を押し付けてくる。
「いえいえいえ!! さぁさ、ほんの! ほんのお礼です!」
──さぁ、さぁ、さぁ!!
「あ、え。は、はぁ……はい」
頑なに銀貨を押し付けようとする村長。そして、背後に居並ぶ村人たち。
その表情を見て、固辞するのも悪いと思ったレイルは素直に受け取る。
「あ、ありがとうございます! 大事に使います……」
ポリポリと頭を掻きながら受け取るとニコリとほほ笑む村長。
「アナタは英雄だ……感謝してもしきれない」
まっすぐにお礼を言われることに慣れていないレイルはひたすら赤面する。
「いえ。こちらこそ……」
なんだかぎこちないレイルに集まった村人たちがドッと湧き上がる。
……じつに気持ちのいい村だ。
そっと懐に収めた銀貨の袋は重かった。
そして、温かい。
(これが感謝されるということか……)
──疫病神!
──疫病神!
レイルは頭を振って、脳裏に流れる声を消し去る。
(俺はもう疫病神なんかじゃない──……)
村長からドロップ品を受け取り、さらには謝礼として銀貨を得たレイル。
銀貨は30枚程度で、どれも古いものばかり。多くもなければ少なくもない額だ。
村人たちは貨幣経済から隔離されているので集めるには苦労しただろう。一般的な謝礼として見れば少ないが、村のお礼としては上等な方だ。
最初は固辞しようとしたのだが、これからのことを考えると資金は必要だった。
「首を洗って待っていろ──ロード……!」
そうして村人たちの感謝と見送りを受けて、
全ての旅装を整えると、グリフォンの素材とドロップ品。そして、『放浪者』の残した荷物を荷車に積んで出発するレイル。
背には、ラ・タンクの残した槍──「ブリューナクコピー」を担い、一路はじまりの地──辺境の町を目指す。
「ブリューナク・コピー」は天職『盗賊』のレイルには扱いなれない武器だが、今手元にあるもので一番強力なものだ。
だが、いただいておかない理由はないだろう。
他にも、宿の中にはロード達が放置した荷物があったが、そこには装備品の類はほとんど残っていなかった。
おそらく、いざというときに備えて、荷物は避難させていたようだ。
それ以前に、撤退をも前提にしていたに違いない。
(用意のいい連中だ……)
随分、手慣れていやがる。
この分だと……真正面から戦っても勝ち目はないだろう。
だが、レイルにはスキルがある。
スキル──『一昨日に行く』という、時間遡行のスキルがある。
たったの数分だけとはいえ、それは大きなアドバンテージになるはずだ。
ならば、策を練れ。
頭を使って戦え。
奴らの状況を分析するんだ───。
(……どうせ、ほとぼりが冷めるまで町で時間を潰してるんだろう?)
せいぜい惰眠をむさぼるがいい、ロード。
レイルは村でダラダラと過ごしていたロード達を思い出していた。
あれと同じように、グリフォンが村を滅ぼし、その後は鳥頭よろしくロード達を諦めるまで時間を潰すつもりなのだ。
そして、何もかも終わったころに村に舞い戻り荷物を回収する────な~んてことを考えているに違いない。
間違っても、レイルが生き残っているとは思っていないだろう。
だが、
「──そうはさせない。ロード達が油断している今が狙い目だ……!」
レイルは諦めない。
ロードだろうが、ギルドだろうが、許してなるものかよ──。
「囮にされたことも、疫病神と呼ばれたことも、」
そして……。
「──今まで何人もの孤独な冒険者を食い物にしてきたことも……全部償わせてやる!」
ギリリリ……!
そうとも。
「──そうとも!! お前の顔面にこいつをぶち込んでやるッ!」
ブンッッッ!!
虚空に浮かんだロードのニヤケ面を思い出し、
拳を握りしめ、奴の顔面が陥没するくらいにパンチをくれてやると、固く……固く決意した。
そして、残りの『放浪者』どもにも、56人分の冒険者──56発分のパンチを──!
「……たっぷりお返ししてやるからな────ロード!!
──さぁ、行くぞ!! いざ、辺境の町ベームスへ。
決意も固く、目標を定めると村人から貰った荷馬車とロバに拍車をかけた。
「はぁ!!」──ブヒヒーン!
グリフォンの素材と食料などの物資を積んだ荷車は、ゴロゴロと動き出す。
背後に、村長達の丸い背中を置き去りにして、景色がどんどん流れていく。
死にかけて──……スキル『一昨日に行く』に目覚めたこの村を離れるレイル。
きっと忘れることができない村になるだろう。
レイルの人生の転機となった村だ。感慨深げに村を流し見しつつ、レイルは村を出た。
そして、一度だけ振り返り、レイルなりに村に感謝を告げようと、
(ありが──)
──ワッッッ!!
レイルがそっと振り返り、開拓村に感謝を告げようとしたその瞬間。
「「「ありがとう!」」」
え?
「「「ありがとう、レイルさん!」」」
村の門の前には人だかりができていた。
老若男女。
怪我人も、病人もすべて────……。
「な、ちょ────……!」
「「「あなたのおかげです! ありがとう!! レイルさん、私たちの英雄さま!!」」」
うわぁぁぁあああああああああ!!
わぁぁぁああああああああああ!!
思いがけず、村人の心からの感謝を受けたレイル。
(マジかよ。こんなに感謝されるなんて……)
「あ、ああ、どうも──」
こ、木っ恥ずかしいからやめてくれ……。
彼らの顔が直視できず、真っ赤になった顔を隠すように伏せてレイルは手綱を握る。
だけど、冒険者になってよかったと生まれて初めて感じていた。
「……俺の方こそ、ありがとうだよ──」
そうして、門を抜け、
村人たちの盛大な見送りを受けながら十分な距離をとったところでようやくレイルは顔を起こした。
「本当にありがとう……!」
初めてレイルを認めてくれた人たち。
いつの間にか熱い涙がこぼれている。
(人の悪意は知っている──……だけど、掛値のない善意と感謝をくれたのはこの村だけだ)
だから、開拓村には感謝を──。
すべてを諦めていたレイルにチャンスをくれたことに感謝を…………!!
そして、
そして────ドン底に落としてくれたロード達には「顔面パンチ」を。
「…………さぁ、次は借りを返しに行こうか!」
決意も新たに、レイルは駆ける。
レイルを騙し、「疫病神」と罵ったうえでグリフォンの餌にしようとした、あのロードに借りを返すために!
そうとも、
「ロード達に鉄槌を下してやる!!」
レイルは一心不乱に町へ帰る道を行く。
その途上で、胸に沸き起こるロード達への憎しみをさらにさらに燃やし再燃させていく。
「──何がSランクだ……! 何が勇者だ!! 何が……何が!!」
『──ぜひ、君の力を借りたいんだッ。
頼む、君が必要なんだ──レイル』
勧誘時のロードの言葉が脳裏に蘇る。
そして、その後の顛末までもが……。
「なにが──……!」
ギリリリ、バリッ。
「嘘つき! 嘘つき──……!!」
かみしめた奥歯から血が滴り、口に鉄の味が染みわたる。
それほどまでの怒り。
そうやって、何人もの孤独な冒険者を騙してきたという憤り──。
借りは……。
借りは、必ず返すッッ!!
『あばよ、疫病神……!』
そして、最期のあのひと時──……あの刹那の瞬間にみせたロードの顔が浮かんでは消える。
屈辱と、
悔しさと、
そして……憤り!
それらをすべてバネにしてレイルは駆ける!
さぁ、待っていろロード。
……そして、目にものを見せてやる『放浪者』!
「──ロード…………俺は疫病神なんかじゃないぞ!」
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