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第4話「よくある追放話」

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 とぼとぼ…………。

「はぁ……」

 とぼとぼ…………。

「どうしよう……」


 カランカラ~ン♪


「「「ぎゃっはっはっはっは!!」」」
「おーい! そのクエスト俺のだぞ!」

「ポーション品切れってどういうことだよ!!」

「パーティ! パーティ募集してるよー! 回復士ヒーラー、先着一名~!」

 ギルドのスイングドアを潜ったとたん、いつもの喧騒に耳が痛い。
 ゲラゲラ笑う冒険者に、
 喧嘩する冒険者。

 そして、ニコやかに受け答えするギルド職員に、
 酒場で注文をとる親父。


 ……いつもの冒険者ギルドだ。


「あら? レイルさん。おかえりなさい。スキル授与式はどうでした?」
 そういって朗らかに笑いながら声をかけてくれたのはメリッサという若い女性のギルド職員だった。

「あ、いや……その──」

 しかし、メリッサに比べてレイルの顔は暗い。
 そりゃそうだろう…………。

「あ、もしかして────そ、その……ごめんなさい」
 ペコリと頭を下げて謝るメリッサ。
 彼女のこの反応は、おそらく望んだスキルが手に入らなかったのだろうという気遣いからだろう。


 もちろん、勘違いなわけだが……。


「あ、いえ。だ、大丈夫です」

 ……大丈夫なわけがない。
 だって、誰が思う??

 誰もがもらえるスキル授与式で──……前代未聞。女神ブチ切れ事件を起こし、スキルを貰うことができなかったなど────。


 誰が思う?


「す、すみません──不躾すぎましたね」
「いえ、メリッサさんが悪いわけじゃないですよ。……えっと、ジャン達います?」

 いや、今はもっと大事で気の重いことがあった。
 メリッサに頭を下げてもらっている場合じゃない。

「ジャンさん? あー【鉄の虎アイゼンティーガー】の皆さんなら、ほらアソコ──」

 メリッサの示す先には、酒場の丸テーブルを占拠した4人組がいる。
 ジャン、ベイヴ、メルシア、チェイミーで間違いない。

 未成年だというチェイミーをのぞく3人は、すでにかなり出来上がっているようだ。

「「「ぎゃはははははは! あーっはっはっは」」」
「…………うるさいなー」

 随分と楽しそうな雰囲気の彼らに、これから話しかけるのは非常に気が重い。

「はぁ…………………」

 どんよりと沈み込んだレイルに、メリッサは何といって声をかけていいかわからず、「あ、あの……」と手を伸ばすが、俯くレイルには届かず。トボトボと歩いていくその背中を見送るしかできなかった。



 そして、数十秒後────!!



「なんだと! レイル!!────お、お前はもうクビだぁぁあああ!!!」

 …………どこかで見たような光景が展開されるのだった。


 ※ ※


「レイル。悪いが、もう決めたことだ」
「そ、そんな!! ま、待ってくれよ! い、いきなりすぎるだろう!!」

 教会から戻ってきたレイルを待っていたのは予想通り過ぎる反応だった。

「いきなりだと?……俺は言ったよな?」
「う……」

 ジロリと、ジャンに真正面から睨まれるレイル。

「有用なスキルがないなら、………………クビにするってな」
「く……! だ、だけどッッ」

 確かに、そう言う約束だ。
 だけど……。だからって────!!

「おいおい。しつけぇぞ」
「そーよぉ────いくら言っても無駄、無駄ぁ」

 密着しているベイヴとメルシア。
 囃し立てるようにレイルをあざける。

「…………スキルを貰えなかったなんて聞いたことない。前代未聞」

 プイっとそっぽを向くチェイミー。

「そうだ! ありえないだろうが! 将来性を期待して気を使ってやってた俺たちが馬鹿を見たよ!!」
「そ、そんなこと言われても──……! そ、そうだ! スキルが一つしかないって言うなら、チェイミーだって!」

 突然話題を振られたチェイミーが不機嫌そうに上目遣いにレイルを睨む。

「僕を出しに使わないでよ。……レイルと違って僕のスキルは『上級魔法』だよ?……スキル授与を受けるまでもなく、超有用ー」
「そーそー! お前のカススキルとは違うんだよ!…………オマケにお前は最後のチャンスすら逃した────スキルを貰えなかったカスの【盗賊】なんてよー」


 ペッ!


 反吐を吐いたジャンは言う。


「いらねーーーーーーんだよ! さっさと失せろ!」
「ッ……!」

 三度突き付けられた追放宣言にレイルの目頭が熱くなる。
 動悸が激しくなり、拳に力が入る……。

 ここでジャンを思いっきり殴ってやれば、どれほど気持ちい事だろうか!!

 雑用に、
 偵察、下調べ、囮────……これまでもどれほどひどい扱いを受けてきたか知れないが、それでも!!

 それでも、レイルなりに頑張ってきたつもりだ。
 なのに!!


「おい。まだいるつもりか? いくら粘っても、考えは変わらねーぞ?」
「そーだぜぇ? もっと早く追い出してもよかったんだけどよ、温情だよ、オンジョー。ゲハハハハハ!」

 そういって散々こき使ってきたジャンとベイヴがゲラゲラと笑う。
 酒の勢いもあるのだろうが、本気で追放する気なのだ。

「だいたいさー。アンタってば、『疫病神』じゃん? 知らないとでも思ってた?」
「……皆知ってる。『疫病神』のレイルとは関わるなって」

 ぐ……!
 そ、それは────。

「同情してよー。まぁ低賃金でよく働くから今まで使ってやってたけど、スキルを貰えないとか、マジありえねー」
「本当に『疫病神』らしいぜ。ゲーーーッハッハッハ!」

 グビグビと豪快に酒を飲みつつ、『疫病神』『疫病神』と罵られるレイル。
 これについては反論の余地もないので、グググと拳を握って耐えるだけだ。


「い、いいんだな?」


 ようやく絞り出した一言。

「あ゛? なにが?」

「ほ、本当にいいんだな!? お、俺がいなくなっても────」

「「「「…………………」」」」

 顔を見合わせるジャン達四人。
 次の瞬間────。

「ぶはははははははははは!」
 「げはははははははははは!」
  「きゃははははははははは!」
   「あは、あは、あはははは!」

 ゲラゲラと大爆笑。
 ついでに、周囲で聞き耳を立てていた冒険者どもも、口をそろえて罵り笑う。

「「「「ぎゃーーーはっはっはっは!!」」」」
「見ろよ、聞けよ、笑えよ!! あ、あの疫病神野郎が、一丁前に自分をアピールしてやがるぜ」
「わはははははは! ジャンの野郎、災難すぎるだろ? あ、あのレイルにしつこく言い寄られてよー」


「「「「「ひゃはははははははははは!」」」」」

 そうやって酒場中が笑う。
 これには、レイルも顔を真っ赤にして俯くしかない。

 怒り、
 悔しさ、
 恥ずかしさ、

 なにより──────……。


「く────……!」


 涙が溢れそうになり、ぐッと顔を覆うレイル。
 そのしぐさがまた面白かったのか、ジャン達や、冒険者が次々に笑い、囃し立てる。

「ひゅーひゅー♪ レイルちゃんが泣いちゃうぞー」
「僕ちゃん可哀そうだね~。涙チョチョ切れか~い?」
「おやおや~? ママが恋しくなっちゃったかなー? あ、親はいないんだっけ?」

「「「そうそう! どこかの疫病神のせいでなーーー!!」」」



 ぎゃーーーーっはっはっはっはっはっは!!



 酒場全体が怒号に包まれたかのように大笑い。

 そして、騒ぎに気付いたギルド職員が何事かと顔を出し、
 レイルと顔見知りのメリッサがさすがにこれは────と、そう思って助け舟を出そうとする。


「れ、レイルさん……。ちょっと、アンタたち! いいかげ────」


 ガシリ



「──え?」

 止めに入ろうとしたメリッサを力強い腕が押しとどめる。
 しかし、乱暴さはなく、どこか優しさと親しみさえ感じる雰囲気で、

「まぁ、待ちなよ──」

 だ、誰?
 メリッサが振り向いたその先にいたのは──…………「あ、アナタは?!」






 白銀の鎧。
 神々しいオーラに溢れた大剣。

 そして、煌めくプラチナブロンドの髪…………。



「ゆ、勇者────。勇者ロード様?!」

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