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第3話「ひれ伏せ、人類」
しおりを挟む『────────………………ぶっ殺すぞ?』(ボソッ)
(え?……いま、なにか────)
チラリと女神の顔を窺うレイル。
(……ぶ、ブッ殺? コロコロ?)
え? 女神様がそんなことを────……。
「えっと…………戦闘用ス──」
『うるせぇぞ、下等生物……』
「へ? 加藤さん??」
ぶちっ………………。
『うるっせぇぇぇえええええ、つってんだよ、ごらぁぁあああああ!!』
カッ────────!!
ビュワン!!
「ひゃぁ?!」
突如、意味不明?に切れる女神様。
その暴挙に腰を抜かしたレイルの眼前を白い光が走る。
一瞬のことで見えなかったけど────今の……。
ズズズズ…………ズン!!!
「ひょ、ひょえぇぇぇ……」
レイルの背後。
大聖堂奥の間に安置されていた女神像が音を立てて両断されていた。
『あんのよぉ…………。お前、わかってんの?』
「え……?」
私。
『──私は女神。スキルをくれてやってる女神…………アンダスタン?』
コクコク。
目をビカビカと光らせた女神様がズンズンとレイルに歩み寄る。
さっきまでその場から動かずにいたのに……。す、すげぇ迫力!!
『いやさ、ほら。アタシもいい大人だよ? クソガキごときが何言っても基本は怒らないわけよ』
「は、はい?」
『せやけどね? 口の利き方ってあるじゃん? 一応、ほら、神様って目上の人に当たるわけじゃん?』
「い、いえす」
コクコクコク!!
『──で、さぁ。……スキルとか無料でくれてやってるわけよ? お前ら弱っちいからだべ? んな?』
「や、ヤボール!」
カックン、カックン!!
『……で、お前なによ? あ゛? その女神様に……なんっつった?』
「え、えっと…………」
……て、手料理はいらない? とか?
『あーそーそー。それな、せなや。そーいうのもあかんな? うんうん、──────で?』
で、で? って……。
「あ、あの。なんか──」
『ちょっぱや、なるはやー……。おなしゃす?』
……え? そこ?
『アタシさぁ、アンタの友達じゃないわけじゃん? 普通は丁寧に話すのが社会人じゃん? な?』
「は、はい……おっしゃる通りで────」
うん。うん。
コクリ────と、女神様が頷く。そして、少しは空気が和らぎ、ニコリと慈愛の笑みを。
『ほな、こういう時どーするん? ん? 言ってみ』
え?
あ……?
え────?
…………あ!
『さ、さーせん!! さーせんっした女神様ぁぁああ!』
さーせん!!
さーせん……。
さー……………………。
『うん、うん、うん────────……………………ぶっ殺すぞ!! 下等生物がぁぁぁあああああああああああ!!』
レイルに、ついに女神がブチ切れる。
その姿はまるで邪神。
『な・に・が、「さーせん」じゃぁぁぁあああああああ!!』
「ひえ?! お、俺なんか言っちゃいましたか?」
その口の利き方ぁぁぁあああ!
『──うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ!』
「なになに? 何で怒ってんの?!」
『うるせぇぇぇえええええ!!』
うるっせぇぇぇえええんだよぉぉおおお!!
この下等生物がぁぁぁああああああああ!!
バーーーーーーン!!
と、部屋中を揺るがす大音響!
神像がはじけ飛び、天井や床には罅が奔る。
さらには、断続的に目からビームを発射し、天井を貫き空を焦がしていく!!
ビカーーーー!!
びかーーーーー!!
「(な、なにごとじゃーーー!?)」
「(か、神の怒りじゃ! 女神様がお怒りじゃーーーー!)」
外から教会関係者らの悲鳴が聞こえてくる。
そして、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! と、教会に地響きが広がるに至り、ついには「逃げろぉぉぉお!」と、外にいた人々は散を乱して撤退。
『こぉおんの、下等生物がぁあ……。いい顔してやってたら調子に乗りやがってぇぇぇえ!!』
「ひぃ! ご、ごめんさい」
反射的に謝るも、もはや女神は悪鬼のごとし表情。
『今更遅いわぁぁあ! なぁぁぁぁにが、ごめんさーい、だ!!』
聞くか!!
聞く耳もつかッッ!!
『マジでぶっ殺してやろうか、このクソ人間風情がぁぁぁああああ!!』
ズンッ!
ズンッ!
ズーーーーーーン!!
滅茶苦茶質量のありそうな足が、床に亀裂の入るほどの強烈の一歩を踏み出しまくるッ!
『なぁぁぁにが、『手料理』はいらないだ!!』
「ひえ?!」
『なぁぁぁにが、ちょッ早だ! なにが、適当だ!! あぁぁっぁあんだごらぁぁああああ!!』
ズンズンズン!!
「ひ、ひ、ひぃぃい!」
『ぶっ殺すぞぉ、クソガキゃぁぁっぁああああああああああああ!!!』
ズドォォォオオン!!
クレーターを穿つほどのスタンプ攻撃がレイルの股間のすぐ下に作り上げられる。
『女神さんは、激おこじゃあっぁあああああああああああああ!!』
「ひゃあああああああああ!!」
め、女神キレさせるとか、どんだけ!!
そして、女神は中空に浮いていた『手料理』のスキルが入ったクリスタルをムンズとつかみ取ると、グチャアアア! とつぶしてしまった。
そして──。
すぅぅ……。
『────テメェにくれてやるスキルなんざねぇ!!』
「そ、そんな!? お、俺はただ────……!」
『あああん? スっキル~だぁあ?! ざっけんな!! スキルが欲しけりゃ、一昨日来やがれぇぇぇぇええッッ!!!!』
ピシャーーーーーン!!
女神を顕現させている空間から電撃が迸る。
その姿はまさに魔王! 魔神!! 覇王降臨!!
「うぎゃあああああああ!!」
ババン! バババン!! と、雷が天井やら床やら壁を焦がして大地が揺れる!
ボッッッッッカーーーーーーーーーーン!!
ついに崩落した教会。
レイルはこの衝撃とともに放り出されて教会の外に転がっていく。
「うぐわーーーーーーー!!」
煙を吹きながら、燻りゴロゴロゴロと、転がる様に放出されたレイル。
もう、生きているのが不思議なくらいだ。
「「ひえぇぇぇ! 教会が──……!」」
「「女神様、御乱心じゃぁぁああ!」」
崩落した教会。
そこでグルグルと渦巻く魔力の渦は、まるで地獄だ。
そして、その中央に立つ女神はまるで悪鬼のごとしだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「ひぇぇぇえ……教会は──人類は終わりじゃぁぁあ!」
最初にレイルを案内してくれた司祭が、腰を抜かしつつ頭を抱えている。
そして、何とか五体満足で飛び出したレイルと、それを睨みつけている女神。
ズンズンズンッ!!
歩くたびにエネルギーがほとばしり、床や天井、瓦礫を焦がしていく。
そして、
──おんどりゃぁぁあああ!!!
『てめぇは、二度と来るんじゃねぇぇぇえ!! うがぁぁああああああああああああああ!』
ビリビリビリと空気が震える。
そして、
ぶっ殺してやるぞ、下等生物ぅぅぅぅううううう!!
『うがぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」
がぁっぁああああああああああああああああ!!!
『ぁぁぁあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──────…………はい。では、次の者──スキル授与を行いますね』
………………ニッ~~~コリ。
そして、ひとしきり叫んだ女神は、まるで何事もなかったかのようににこやかに微笑む。
教会で渦巻いていた地獄のような煙と魔力の迸りは露と消え、キラキラと輝く荘厳な空間へと一瞬にして戻る。
──瓦礫の山だけど……。
しーーーーーーーーーーーーーーーん。
だけど、さすがに誰も動けない。
教会関係者も腰を抜かし、今日スキルを貰う予定の新成人たちも茫然自失。
その親や関係者、または有用なスキルを獲得したものをスカウトするための様々な職域の人間たちも口を開けてあんぐり……。
もちろんレイルも────。
「ご、ごめんなさい……」
「そ、それでは。スキル授与式を続ける…………」
ガクガクブルブルと膝を震わせた例の司祭が職業意識だけで立ち上がると、フラフラとしながら瓦礫の山と化した教会へと戻っていく。
レイルだけはそのまま取り残され、また新成人が一人、また一人と呼ばれてはスキルを受け取り戻ってきた。
喜ぶ者、
落胆する者、
微妙な顔をする者、
そして、後に残されたのは女神を怒らせた────……レイルだけ。
え???
「……お、俺のスキルは──────?」
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