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第33話「遠慮の二文字を知ってるかね?」

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 ブスッとした雰囲気を隠しもしない少女は、アルガス用に注がれたエールを勝手に取ると、グビグビ。

「おい、誰が飲めっつったよ」
「うっさいなー。なんやねん、このオッサン」

 こっちのセリフだ。

 面倒くさくなったので、もう一杯エールを注文し、ミィナには果実ジュースを別に頼んでおく。

「もらうで」

 ツマミも勝手に、ポリポリ食い始めたのでさらにムカつく。

「ち……。おい、要件は何だ? 俺はお前みたいな厚かましい奴に、知り合いはいなかったはずだが……」
「アタシもアンタみたいな無礼な奴と知り合いとちゃうわ───あと、お前とちゃう。シーリン! シーリン・エンバニアっちゅう、そりゃあ立派な名前があるねん!」

 どっちが無礼なんだよ。
 名前とかどーでもええわ。

 女子供だから殴られないとか思ってんじゃないぞ。

「で?」
「ふん───預かりもんや」

 預かりもん?

 そう言って、シーリンが差し出したのは……、

「──────リズ?!」

 手紙。
 そして、差出人の名前を見て、アルガスがいきなり前のめりになる。

「び、ビックリしたぁ……! 食われるかと思ったやん?!」

 誰が食うかッ!

 その割にはしっかりとジョッキとツマミを確保していやがるし……。

 だが、テーブルの上は、アルガスの動きによってグッチャグチャ。

 ミィナが、ジュースをブッ被って茫然としている。

「おまッ! これをどこで?!」

 だが、アルガスには余裕がない。
 シーリンの肩を掴んでガックンガックンと揺さぶる。

 その拍子に、彼女の服がビリリと破れて、肩が覗く───、

「きゃッ?! ちょっ、や、やめぇや! だれか、誰かぁぁー! 犯されるぅぅうう!」
「犯すかボケッ! いいから答えろッ!」

 興奮するアルガスだが、ミィナがその足を掴んだ。
「アルガスさん止ーめーてー! お姉ちゃん何も悪いことしてないよ?! ねぇ!!」

 ミィナに引っ張られたくらいでアルガスはビクともしないが、その悲壮な声にハッと我に返る。

「アルガスさんヤメテ! ねぇぇってば!」

 グイグイと力いっぱい引っ張るミィナ。
 その間、シーリンは体を庇うようにして赤面している。

 そこで、ようやく自分のやったことに気付く。

「あ……すまん」

 シーリンを離すと、ドサリと椅子に腰かけ自分の手を見て、そして顔を覆う。

(しまった……。やっちまった)

 いくら無礼な少女相手とはいえ、完全に行き過ぎだ。

「え、ええわい。許したる───ほ、ほな、渡したで?」
 それだけ言うと、シーリンは立ち去ろうとする。

「ま、待ってくれ。すまなかった……何か詫びをさせてくれ」

 素直に頭を下げるアルガス。
 あっさりと許してくれたが、少女の服を破ったのは事実。

 時と場合によってはしょっ引かれる・・・・・・・案件だ。

「ええて、ええて。アタシも初対面でぶん殴ってもーたでな。それでチャラや」
「すまん……。せめて奢らせてくれ」

 そう言って、アルガスは給仕に適当に大盛りのセットを注文する。

 シーリンは良いというが、まだ話を聞きたいというのもある。

 ようやく見つけたリズの手がかりだ。
 それに、悪い奴じゃあなさそうだ。
 冒険者なら、こんな美味しいネタを逃したりしない。
 場合によっては、これを元に揺すったりする連中なんかゴマンといる。

「ほうか? ほな、遠慮なく!」

 去っていくかと思いきや、シーリンはあっさりと席に戻った。
 そして、給仕にさらに追加注文。

「あ! お姉さ~ん、高級チーズのわがままピザと、このー……超高級ステーキを、レアで、あと、金小麦の柔らかパンと、この高そうな卵の入ったスープを頂戴。あ、お支払いはこのお兄さんに」

 前言撤回。
 悪い奴だ。


「私も食べゆー!」

 …………うん。
 ミィナちゃんも調子にのらないの!!

 はいはーい! って、二人揃って手をあげて給仕さんにアピール。

 っていうか、おばちゃん?
 なにをアムズアップ親指をあげる仕草しとんねん!?

 今の二人前?!

 ここのメニューは基本安物だけど、上級の冒険者用にスゲー高級品もあるのだ。

 それも、金貨で払うクラスの……。

「………………食いながらでいいから、話は聞かせてくれよ」
 


 疲れた表情でアルガスは席に沈んだ。
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