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第2話「これが勇者(暫定)パーティ」
しおりを挟む「ぎゃっはっはっは!! いやー大漁大漁」
「きゃはははははは!! 見て見て! 魔石と宝石だよぉ!」
「あははははははは!! 凄まじい量のドロップ品ですねー」
勇者パーティ「光の戦士たち」の面々が、倒したハイオークの群れからドロップ品を漁っている。
かなりの数だったので、戦闘は何十分も続いていたのだが、大魔法と特殊スキルを乱発することで何とか殲滅に成功したのだ。
そして、その後は楽しい楽しい死体漁りの時間というわけ。
魔物の核である魔石やらドロップアイテムやらを、ホクホク顔で漁る勇者ジェイス達。
一方で、ハイオークの攻撃を一手に誘引していたアルガスはと言えば、ボコボコの状態で半死半生になり、リズに介抱されていた。
「ゴメン……! ゴメンね!」
ポロポロと涙を流しながらアルガスのフェイスガード越しに血と汗を拭い、ポーションを含ませた布を傷口に当てていく。
「いててて……」
鋼鉄製の鎧といえど、ハイオークの膂力で鈍器を使ってぶん殴られればひしゃげる。
実際、よく生きていたなというほどにズタボロ。
口の中が切れて、うまく喋れない有様だ。
「だ、大丈夫だ……。お前は無事か?」
うん、うん、と涙を流しつつ、コクコクと首を縦に振るリズ。
相変わらずよく泣く子だ。
こういう所はこの子の母を思い出す。
まだまだ幼さが残るとは言え、この子も母親に似てきた。
ポフポフと頭を撫でてやり、
「親友に預かった大切な娘だ───オマエに怪我がなくて何よりだよ。泣くなって」
「ぞんな……びずず。だって、アルガスが酷い目にあってるんだもん」
グズグズと鼻をすすりながら、涙を流すリズ。
流行り病でぽっくりと言っちまった戦友から託された娘。
アルガスより20歳も年上だった『聖戦士』の戦友。
アイツとは二周りほど歳は離れていたけど、奴とは気があったんだ……。
その彼の娘なので、実はアルガスとリズはさほど年は離れていない。
だから、父親代わりなんてどれほどできているか分からないけど、この子だけは失うわけにはいかない。
それがアルガスの行動理念だ。
そのためなら、『タンク』でもなんでもやってやるさ。
「おい、いつまで寝てんだ! さっさと手伝えっつーの!」
オークから捥ぎ取った棍棒を、アルガス目掛けてぶん投げるジェイス。
(───あっぶねッ!)
リズが巻き込まれやしないかとヒヤリとしたが、彼女は一瞬早く反応し、空中で棍棒を受け止めると逆にジェイスに投げ返した。
「うお?! あっぶねーだろッ!」
「こっちのセリフよ! アルガスは重傷なのに! 先に回復させるのがリーダーのやることじゃないの!」
キッと目を吊り上げ、真っ向から言い返してくれるリズの姿に感動するも、ジェイスがそんなことで態度を改めるわけがない。
そもそも、アルガスはリズのオマケ───保護者のような立ち位置を傘に、無理やりパーティに同行しているという立場だから、相当に発言力が弱いのだ。
「お、落ち着けよリズ。アルガスは防御力が高いんだから、あれくらいかすり傷さ」
そう言ってリズの肩を抱くと、無理やりアルガスから引き離してしまった。
その姿を見て、憎悪に近い感情を覚えるも、アルガスは黙って見過ごすしかない。
王国によって『勇者』の称号を授かったジェイスは、魔王討伐のため優秀なメンバーを自由に選べるのだ。
そして、旅の途中で見掛けた若く美しいリズに目を付けたジェイス。
リズが「聖戦士の娘」という理由付けのもと、冒険者になりたての彼女を無理矢理パーティに加入させようとしたのだ。
だが、そこにはすでに冒険者のアルガスが傍にいた。
だから、「はい、そうですか」と渡せるわけがない。
当然ながら、アルガスはジェイスの下心をも見抜いていたので、最初は引き抜きそのものを断ったのだが……。
王国の勅命を見せられては、アルガスごときの田舎冒険者にはどうにもできない。
仕方なく、コンビ丸ごとの加入を条件にして、ジェイスのパーティへの参加することを認めた。
もちろん、リズが目当てのジェイスは難色を示していたが、彼女自身の要望もあり渋々アルガスのパーティ加入を認めざるを得なかったという経緯がある。
そんなわけで、アルガスとジェイスは折り合いが悪い。
冒険中も最底辺の扱いを受けているし、時には嫌がらせをくらう。
その上、ステータスも自由に割り振ることは許されず───結果、前衛職という名目で「タンク」をやらされているというわけ。
ようは、ほとんど嫌がらせ───単なるイジメだ。
「リズ一人にやらせるわけにもいかないか。いてて…………」
リーダーの命令には逆らえず、渋々ドロップ品をかき集めているリズの姿を見て、アルガスも加わろうと何とか立ち上がる。
幸いにして、骨には異常は無さそうだ。
安物のポーションを呷り、最低限の負傷を癒すと、トボトボと死体漁りに参加する。
どうせこのドロップ品も、全てアルガスが担いで持っていく羽目になるのだ……。
気分が乗るはずもない。
報酬だって仲間の10分の1しかもらえず、装備の修理代もアルガスの負担だ。
情けない話───リズに資金を援助してもらうこともある。
「はぁ……」
「鬱陶しいからため息止めてよね~」
クソ女のメイベルがアルガスを小突く。
「ホント使えない男ですね」
クソ野郎のザラディンがドロップ品をアルガスに押し付ける。
「早く集めろ! もう一個群れを倒して、ようやくクエスト完了なんだぜ! お前のノロマな足にあわせてたら日が暮れちまうよ」
クソ勇者のジェイスが宣う。
お前のせいだろうがッ!
と、何度も心で呟くも、口には出せない。
明確な反抗心があると言われて、ギルドや王国に告げ口されると、強制的にパーティから排除されてしまうのだ。
むしろ、ジェイスはそれを狙っているのだろうが、リズのことを考えるとどんな目にあっても我慢して耐え続けるしかない。
(ふん。耐えるのは慣れてる───……なんせ、俺はタンクだからな)
「ち……! いつも通りにダンマリか?───おら、さっきのでLv上がったんだろ? とっとと、防御に全振りしとけよノロマ!」
黙々と作業を続けるアルガスに、思いっきり舌打ちをしてジェイスは去っていった。
どうせ木陰でメイベルとイチャコラするつもりなんだろう。
ふざけやがって……!
何が、防御に全振りだ。
───もう、防御力をあげるのはウンザリだ!
いくら防御力を上昇させても、人間の体は鋼鉄になるわけではない。
剣で突かれれば刺さるし、鈍器で殴られれば骨だって折れる。
あくまで人間基準の防御力なのだから、ステータスをあげてもおのずと限界は来るのだ。
だから、アルガスはステータスポイントを防御に振るのを止め、不自然にならない程度に敏捷や体力に割り振っている。
残りは、ただひたすら貯め込んでおいた。
いつか、リズと二人だけの冒険に戻った時に彼女と一緒に考えようと思う。
「重戦士」から、「聖戦士」や「魔法戦士」に進化してもいい。
魔法が使えるかどうかは別にして、もう守るだけの壁役はウンザリなんだ……!
「ゴメンねアルガス……。私のせいで──」
「お前のせいじゃないよ。……国の命令じゃ仕方ないさ」
ジェイスの態度に、リズがシュンと項垂れる。
リズがいなければ、ジェイスに絡まれることもなかったのだから、彼女が気にするのも分かる。
だが、
「そんな悲しそうな顔すんなよ。俺ぁ大丈夫さ! なんたって、『重戦士』だぞ!」
その頭をクシャっと撫でてやると、猫のようにスリスリと手の感触を楽しむリズ。
「もう、子供じゃないよー」
とか言いつつ、すごく嬉しそう。
「はは。まだ子供さ。───さぁ、早い所終わらせよう」
「うん!」
せっせっ、せっせとドロップ品を集めるとズダ袋に押し込んで一纏めにする。
う……。滅茶苦茶重そうだ。
「だ、大丈夫? 半分持とうか?」
「大丈夫、大丈夫───さぁ行こう」
リズの機動性を失わせてはならない。
天職「戦士」から、敏捷性にステータスを大きく割いて「軽戦士」に進化したリズは、機動性を生かした遊撃が主任務だ。
双剣と弓を使いこなし、トリッキーかつ華麗な動きで敵を翻弄しつつ屠る。
冒険者になりたてで、勇者パーティに加入した当時のか弱い少女と言った印象はもはやどこにもない。
しなやかで、大型の猫を思わせる強さを見せるリズは、もうアルガスの庇護を必要としていないのかもしれない。
だけど───。
(約束したからな……)
今はもう亡き親友。
聖戦士のリズの親───。
(───わかってるよ……。最低野郎のジェイスの毒牙からは、絶対守るから)
凄まじい重量になったドロップ品を抱えて、傷だらけのアルガスは今日も今日とて、勇者パーティの前衛タンクとして荒野を征く。
なんとか物資がもつうちに、もう一つの魔物の群れを殲滅し、街に帰還できたのはそれから数日後のことだった。
※ アルガスのステータス ※
名 前:アルガス・ハイデマン
職 業:重戦士
体 力:1202
筋 力: 906
防御力:8800
魔 力: 38
敏 捷: 58
抵抗力: 122
残ステータスポイント「+2200」
スキル:スロット1「鉄壁」
スロット2「シールドバッシュ」
スロット3「盾鳴らし」
スロット4「ド根性」
スロット5「咆哮」
スロット6「要塞化」
※ スロット数は職業により変化、
他のスキルと入れ替えることができる ※
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