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Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組

第39章|後日談 -砂見礼子sideその1- <3>灰原課長との休憩時間(砂見礼子の視点)

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<3>

娘の失踪騒動から少し経った初冬のある日。
仕事の合間に会社ビルの屋上で休んでいたら、灰原課長がやってきた。

「よっ。砂見さん休憩? 」

「お疲れ様、うん。ちょっと遠くを見て目を休めようかと思って」

この高さからだとビルの隙間に、東京湾の濃紺の水面が少しだけ光って見える。
港区はビルが多くて、近いはずなのに海はあんまり見えない。

「いい天気だなぁ~・・・・・・こっそり、タバコ吸っていい? 」

「だめです。ビル内は全館禁煙」

灰原さんがスーツの胸ポケットから取り出したタバコを、仕舞うでもなく手持ち無沙汰そうにくるくる回した。みちるの行方不明騒動以来、私と灰原さんは少し仲良くなった。こうして気楽に雑談をできる程度には。

「ちぇ。最近は、娘さん元気? 」

「うん、おかげさまで。灰原さんのご家族は? 慶葉ボーイの息子さんとか」

だいぶ外の空気が肌寒い。こうして屋上で休憩できる季節も、もうそう長くないだろう。

「うちの家族は・・・・・・あんまり調子よくねぇな。息子、ずっと学校行ってないし」

「えっ? 」

「ほら、前に言っただろ。『学費ばっかりかかって生活苦しい』って。息子は慶葉の附属中には合格したけど、入学式が終わってからすぐ学校に行かなくなったんだ。いわゆる不登校。内部進学生にも留年制度があるからな。将来が心配だよ」

「そうだったんだ・・・・・・」

私が溜息のように吐いた息が白かった。
灰原さんも私も目を合わせず、前を見たままで話をした。まるで独白のように。

「俺は必死で働いてたんだよ。長時間労働してさ。人より長く会社にいると、残業代も稼げるし悪口も言われない。だいたいあいつはダメだ、みたいな話は、欠席裁判のときにやられるからな。結果的に早く課長にも昇進した。だけど会社で存在感が出た代わりに、家では影の薄いオヤジさ。今じゃ息子に話しかけても反応ないし、嫁さんからもなんとなく距離を置かれてる。この前、砂見さんところの家族が和気あいあいとしてて、正直羨ましかったね。ま、ただの愚痴だけど」

「ほんと色々あるよね、子育てしてると」

そんなことしか言えなかった。

「そういえばさ。砂見さんって、なんで自分が課長になったか知ってる? 」

「えっ・・・・・・なんのこと? 」

「その様子じゃまだ聞いてないか。

「何も・・・・・・聞いてないよ」

「小澤部長がいきなり、砂見さんを課長にするって言い出した時、不自然だと思わなかった? 貿易事務チームの主戦力だった崎田さんが辞めたのに、未経験派遣社員の飛石さんを補充して終わらせたことも」

「確かに・・・・・・いきなり言われた感じはしてた」

「あれ実は、ちゃーんと理由があったんだよ」

「理由? 」

「そう。貿易事務チームはいずれ大幅な人員削減になる」

「えっ・・・・・・聞いてないよ」

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