327 / 405
Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組
第36章|砂見礼子の奮闘 <5>会社での変化
しおりを挟む
<5>
――――――『ブルーテイル商運株式会社』オフィスにて。
「飛石さんっ、この書類、一人で完成させたの? すごい! 成長してる。私のときはできるようになるまで数ヶ月はかかったよ! 」
先日入社した派遣社員の飛石さんと、ハイタッチをした。
「砂見さんのご指導がわかりやすいんですっ。私、貿易事務の基本のキが少しだけ分かってきた気がしてます。ありがとうございます」
未経験者ということで心配されていた飛石さんは、確かに未経験者だったものの、派遣会社のうたい文句通り、真面目によく働く人だった。教えてあげたことをちゃんと吸収してくれるから、早くも限られた事務処理の範囲では、戦力カウントできる状況になりつつある。
「ほんと助かる。これからもよろしくねっ」
「はい! 」
振り返ると、後輩社員の早乙女さんが『職場状況チェックシート』に手書きで文字を書いている。
「早乙女さん、『社内交換留学』、そっちのチームはどう? 」
「お互い、勉強になってると思います。砂見さんの代わりに営業チームから来た楠木さん、頑張って貿易事務の仕事も覚えてくれてて。『営業が仕事取ってきてから貿易事務チームに渡すまでのタイムラグが、こんなに貿易事務チームの仕事を遅らせているとは思わなかった』って言ってくれたんです。これから営業からの仕事が早く回ってくるようになれば、私たちの残業、もっと減らせると思うんですよね」
「そっか~! それは良かった。私もこのあいだ、灰原課長と営業同行して『オタ・オタ商事』っていうところから正式見積もり頼まれたんだけど、灰原さんが会社に持ち帰ってからゆっくり処理してるから、とにかく早く貿易事務チームに渡してくれ、って頼んだわ。
でも営業チームは営業チームでけっこう大変よねぇ。だいぶ気温下がってきてるから外回りは寒いし、私、今日、筋肉痛で足パンパンだもん」
「お疲れ様です。ところで砂見さん・・・・・・この『職場状況チェックシート』って、このあとどうするんですか? 」
「うん。みんなに書いてもらったあと、管理職会議にかけようと思ってるの。ストレスチェックで挙がった『高ストレス職場』のメンバー一人一人に、職場のストレス源になっているところと、その解決案をリストアップして出してもらう・・・・・・。出た案の中で、明日からでも取り組めることがあれば、ひとつでも変えていきたいの。少しでも働きやすい職場にしたいし、来年のストレスチェックで、みんなの感じ方の変化がわかるのが楽しみでしょ。
あ、何を書いても、社員個人を責めることはしない約束になってるから、安心して書いてね」
「そうなんですね。じゃあ本気で書いておきますね! 」
『職場状況チェックシート』は、ウチの会社の産業医が所属している会社、『株式会社E・M・A』の勉強会に参加したとき、出てきたひな形をそのまま使わせてもらった。
「お願いね~」
「あの・・・・・・、砂見さん」早乙女さんが言った。
「ん? 」
「私、砂見さんが課長になって、よかったと思います。職場環境が良くなりそうで、前向きになれます」
「えっ・・・・・・・・・あ。あはは。やだ~。ありがとう」
――――――早乙女さん、そう言ってくれるのは嬉しいけど・・・・・・・・・。
ストレスチェックの件と、残業過多解消の件は、ある程度自分で道筋を付けるつもりだ。
だけど管理職は、次々と降りかかってくる会社の経営課題を背負う役割だ。
私には支えるべき夫がと子供がいる。思うように残業もできないし、これからまた別のテーマが入ってきたら持ちこたえられるか不安だ。ならば会社では、誰かが決めたことを言われた通りにやっておく下っ端の係でいるほうがいいんだと思ってる。
どうせ、同僚の灰原課長にだって歓迎されていないのだ。ハラスメントが許されない時代だから、口に出して面と向かっていじめられないだけで。
男だけの神聖な土俵に初めて立たせて貰う女の役、ガラスの天井をぶち破る役は、罵声や負傷を覚悟したうえで、それでも上に登りたい人だけがやればいいことだ。
私にはとうてい無理だ。勇気ある撤退が賢い。
-------------------------------------------------------------------------------
少し仕事が落ち着いた合間に、デスクの上の書類の束に紛れている、紙の資料を見直した。
産業医や保健師を派遣している会社、『株式会社E・M・A』の勉強会資料・・・・・・・・・
“中間管理職・ミドルマネージャー向けの
『ストレスチェックの集団分析結果を生かした、現場からの組織マネジメント』”
『ブルーテイル商運株式会社』のような中小企業では、残念ながら昇進した社員を対象としたしっかりした管理職研修は行われていない。それに、私が管理職になったのは突然のことだったから、最初は何をしたらいいのかよくわかっていなかった。
そんなタイミングでたまたま参加したこの勉強会で、中間管理職の役割についても学ばせてもらったのは、ありがたかった。
でも・・・・・・。
でも・・・・・・・・・・・・。
資料に書いてある、ここの意味が私、よくわからないんだよね。
英単語の和訳はわかるんだけどさ。
資料の文字を指でなぞった。
“【中間管理職に求められる、最も大切な役割とは――――――】”
「・・・・・・・・・
これ、いったい、どういう意味なんだろう・・・・・・・・・・・・」
――――――『ブルーテイル商運株式会社』オフィスにて。
「飛石さんっ、この書類、一人で完成させたの? すごい! 成長してる。私のときはできるようになるまで数ヶ月はかかったよ! 」
先日入社した派遣社員の飛石さんと、ハイタッチをした。
「砂見さんのご指導がわかりやすいんですっ。私、貿易事務の基本のキが少しだけ分かってきた気がしてます。ありがとうございます」
未経験者ということで心配されていた飛石さんは、確かに未経験者だったものの、派遣会社のうたい文句通り、真面目によく働く人だった。教えてあげたことをちゃんと吸収してくれるから、早くも限られた事務処理の範囲では、戦力カウントできる状況になりつつある。
「ほんと助かる。これからもよろしくねっ」
「はい! 」
振り返ると、後輩社員の早乙女さんが『職場状況チェックシート』に手書きで文字を書いている。
「早乙女さん、『社内交換留学』、そっちのチームはどう? 」
「お互い、勉強になってると思います。砂見さんの代わりに営業チームから来た楠木さん、頑張って貿易事務の仕事も覚えてくれてて。『営業が仕事取ってきてから貿易事務チームに渡すまでのタイムラグが、こんなに貿易事務チームの仕事を遅らせているとは思わなかった』って言ってくれたんです。これから営業からの仕事が早く回ってくるようになれば、私たちの残業、もっと減らせると思うんですよね」
「そっか~! それは良かった。私もこのあいだ、灰原課長と営業同行して『オタ・オタ商事』っていうところから正式見積もり頼まれたんだけど、灰原さんが会社に持ち帰ってからゆっくり処理してるから、とにかく早く貿易事務チームに渡してくれ、って頼んだわ。
でも営業チームは営業チームでけっこう大変よねぇ。だいぶ気温下がってきてるから外回りは寒いし、私、今日、筋肉痛で足パンパンだもん」
「お疲れ様です。ところで砂見さん・・・・・・この『職場状況チェックシート』って、このあとどうするんですか? 」
「うん。みんなに書いてもらったあと、管理職会議にかけようと思ってるの。ストレスチェックで挙がった『高ストレス職場』のメンバー一人一人に、職場のストレス源になっているところと、その解決案をリストアップして出してもらう・・・・・・。出た案の中で、明日からでも取り組めることがあれば、ひとつでも変えていきたいの。少しでも働きやすい職場にしたいし、来年のストレスチェックで、みんなの感じ方の変化がわかるのが楽しみでしょ。
あ、何を書いても、社員個人を責めることはしない約束になってるから、安心して書いてね」
「そうなんですね。じゃあ本気で書いておきますね! 」
『職場状況チェックシート』は、ウチの会社の産業医が所属している会社、『株式会社E・M・A』の勉強会に参加したとき、出てきたひな形をそのまま使わせてもらった。
「お願いね~」
「あの・・・・・・、砂見さん」早乙女さんが言った。
「ん? 」
「私、砂見さんが課長になって、よかったと思います。職場環境が良くなりそうで、前向きになれます」
「えっ・・・・・・・・・あ。あはは。やだ~。ありがとう」
――――――早乙女さん、そう言ってくれるのは嬉しいけど・・・・・・・・・。
ストレスチェックの件と、残業過多解消の件は、ある程度自分で道筋を付けるつもりだ。
だけど管理職は、次々と降りかかってくる会社の経営課題を背負う役割だ。
私には支えるべき夫がと子供がいる。思うように残業もできないし、これからまた別のテーマが入ってきたら持ちこたえられるか不安だ。ならば会社では、誰かが決めたことを言われた通りにやっておく下っ端の係でいるほうがいいんだと思ってる。
どうせ、同僚の灰原課長にだって歓迎されていないのだ。ハラスメントが許されない時代だから、口に出して面と向かっていじめられないだけで。
男だけの神聖な土俵に初めて立たせて貰う女の役、ガラスの天井をぶち破る役は、罵声や負傷を覚悟したうえで、それでも上に登りたい人だけがやればいいことだ。
私にはとうてい無理だ。勇気ある撤退が賢い。
-------------------------------------------------------------------------------
少し仕事が落ち着いた合間に、デスクの上の書類の束に紛れている、紙の資料を見直した。
産業医や保健師を派遣している会社、『株式会社E・M・A』の勉強会資料・・・・・・・・・
“中間管理職・ミドルマネージャー向けの
『ストレスチェックの集団分析結果を生かした、現場からの組織マネジメント』”
『ブルーテイル商運株式会社』のような中小企業では、残念ながら昇進した社員を対象としたしっかりした管理職研修は行われていない。それに、私が管理職になったのは突然のことだったから、最初は何をしたらいいのかよくわかっていなかった。
そんなタイミングでたまたま参加したこの勉強会で、中間管理職の役割についても学ばせてもらったのは、ありがたかった。
でも・・・・・・。
でも・・・・・・・・・・・・。
資料に書いてある、ここの意味が私、よくわからないんだよね。
英単語の和訳はわかるんだけどさ。
資料の文字を指でなぞった。
“【中間管理職に求められる、最も大切な役割とは――――――】”
「・・・・・・・・・
これ、いったい、どういう意味なんだろう・・・・・・・・・・・・」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる