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Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組
第29章|誰も知らないふたりの話 <7>鈴木風寿の過去(密森司の視点)
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<7>
・・・
・・・・・・
「いや~、密森さん、お会いできて嬉しいですよ。ウチの会社を辞めたあと、今は連続増収増益のPEファンドで働かれてるそうじゃないですか。先輩はウチでも出世頭でしたけど、転職先でもあっという間に重役待遇になっちゃってるらしいって、噂は聞いてます。さすがですね」
中華料理店の机に向かい合って座りおしぼりで手を拭きながら、後輩の恩田がこちらを見た。
俺は今日、古巣の企業信用情報調査会社の横浜支店近くまで遊びに来ている。在職していた頃に可愛がっていた後輩の恩田が支店で働いているので、情報をもらうついでに、久しぶりに一緒に昼飯でもどうかと誘い出したのだ。
「ハハハ。恩ちゃん、言うねぇ。まぁ投資関係ってのは案外、ハッタリが効く世界なのさ。だから俺は、日々それっぽい雰囲気を演じて回ってるだけだよ。あの会社はイイんじゃないですか~とかちょっとだけアドバイスしてさ」
「でも、それで儲かってるんでしょう? いいなぁ。すごいなぁ。うちの会社なんか、毎年企業レポートの件数ノルマが厳しくなってるから嫌になっちゃいますよ。おかげで一日中パソコンとにらめっこで、ついに腰痛になりましたからね。先輩たちの若い頃みたいに、書類取りに法務局行ってきま~す! って、気軽に外出することもできないから、窮屈なもんですよ~」
恩田は元・ラグビー部だ。長身で大柄だから、古びた会社の事務机に身を縮こめてずっと座り作業をするのは人一倍つらいのだろう。
「今は登記証明の取得なんて全部オンラインで済むもんなぁ。それに社内は完全禁煙でタバコ休憩も取れない。うまくサボるための口実が減らされてる時代だな」
「ええ、ほんとに・・・・・・。あ。ああ、そうだ。先輩に頼まれていた『鈴木建設コンサルタント』の倒産情報、忘れないうちに渡しておきます」恩田が鞄から書類を差し出した。
「お、サンキュ。助かるわ」受け取った書類の束を早速開く。
「・・・・・・あの。余計な詮索かもしれませんけど。密森さん、その会社、なんか気になることがあったんですか? だいぶ前の倒産記録みたいですが・・・・・・」
恩田が訊いてきた。好奇心をそそられたらしい。
「あ~。仕事関係でちょっと使うかもしれなくてなぁ・・・・・・。ま、確信があるわけじゃないんだけど」
ページを繰り、情報に眼を走らせた。
「そうですか。この『鈴木建設コンサルタント』の企業レポートを担当していたのは、既に定年退職済みのOB社員でした。ただ、まだウチとつながりがあったんで、当時の様子を少し聞くことができました。結構地元じゃ、評判のいい会社だったようですよ。
創業社長の鈴木良介は仕事熱心な職人肌の技術者で、官公庁系のインフラ調査設計案件、民間企業相手の防災対策設計・耐震評価、それに環境調査なんかを積極的に請け負っていた。誠実な仕事ぶりが認められて、一代で会社をどんどん大きくしていったようです」
「そういう感じか。じゃあなんでこんな不渡りを出しちゃったのかな? 倒産の数年前まで、財務状態もきわめて堅実だったようだけど」
「それが・・・・・・、創業社長がある日突然、脳出血で倒れて寝たきりになったらしいんですよ。社長は当時50代。まだまだ自分が現役でやっていくつもりだったんでしょうね。事業継承の準備を何もしてないところに起きた急病で、それをきっかけに経営が傾いていったらしいんです。社長には一人息子もいたようですが、ちょうどそのころ、九州の医学部に進学したばかりだったみたいで、会社運営の頼りにはできなかったとか」
(――――――ああ、知ってるよ。それ、鈴木風寿のことな。)
俺は、かつて会ったことがある産業医の顔を思い出した。
俺がわざわざ『鈴木建設コンサルタント』の過去を探っているのは、他でもない、鈴木風寿のことが気になったからだ。とは言え、奴がなんの役に立つかはわからない。俺はただ、勘と興味で動いているだけだ。しかし、時に直感は、自分を面白い場所に導いてくれる。
恩田が続けた。
「その状況下で緊急的に事業を引き継いだのは創業社長の弟だったそうなんですが、棚ぼたで社長に祭り上げられて気が大きくなったのか、会社の金をしこたまギャンブルに使い込んで億の金を溶かし、財務状態を悪化させてしまった。
それに、官公庁の案件を扱っていた関係で雇い入れた役所OBもよくなかったらしい。事業のことなど何も知らないギャンブル中毒の新社長を言いくるめて実権を握り、社内外への横暴な振る舞いで大口取引先との関係を次々に悪くしてしまったとか。
創業社長の鈴木良介を慕っていた社員達は当然、猛反発したものの、社内に代わりとなる統率力のある人材はなく、肝心の鈴木良介も病気の後遺症が重くて、結局一度も社会復帰できないまま・・・・・・。そんなこんなで、会社は空中分裂しちゃったみたいです」
「へぇ。そりゃ災難だったねぇ。つくづく社長の健康管理ってのは大事だよなァ。会社が大きく成長して自律軌道に乗るまでは、文字通り『社長イコール会社そのもの』みたいなところがあるから。で、結局この会社、今はどうなってるの? 」
「倒産はしたんですけど、事業の一部だけがメインバンクの仲介で譲渡されて、さらにそこから紆余曲折・・・・・・結局今は、畑違いの大企業に吸収されているようです。と言っても、元の会社の僅かな部分が切り貼りされて残っているだけで、既に創業家の鈴木一族の関与はなくなっているようですが・・・・・・」
「会社の金でギャンブルするような代理社長がいたんじゃあ、身売りのタイミングで創業家が追い出されても当然だな。で、最終的に引き受けてる大企業って、どこだ? 」
「ええと、確か・・・・・・ああ。『HOZUMA』ですね」恩田が資料の一部をのぞき込んで答えた。
「ふーん。HOZUMAか・・・・・・」
俺はぐちゃぐちゃのパズルの中に初めてピースのつながりを見つけたときのような、特別な閃きを感じた。鈴木風寿が産業医として担当している企業のいくつかは、HOZUMA関連企業だったはずだ。偶然だろうか?
「HOZUMAは手当たり次第、いろんな事業を買ってますからねぇ。『スペリオールHOZUMA計画』でしたっけ? 多角経営を進めて、社内で融合発展的シナジーを期待するとかナントカで・・・・・・」
「よく言うよなぁ。あそこの企業買収は、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、って感じで失敗続きだぜ。それとも役にも立たないヨソの事業を、言い値でHOZUMAに買わせてる黒幕でもいるのかね? 」
祖業の繊維事業が長らく赤字状態のHOZUMAは、数十年前からビジネスモデルの大幅な転換を求められている。しかし明確な次の一手が打ち出せないままアメーバのように触手を伸ばし、色々なビジネスを内部に取り込んだものの、結局どれもうまくいっていない。
もちろんHOZUMAのM&Aには毎度、もっともらしい理由付けがなされているが、買収の背景に確たる戦略や企業の目指す方向性が見えないことが多い。業界の優良企業ではなく、なぜかのれん代の嵩む三流どころを買ったりもしている。
事業の売買は、今も昔も、目端の利く上澄みの奴らの錬金術だ。
そこそこの収益が取れるベンチャー企業を立ち上げた社長が、個人的な人脈を使って大企業に自分の事業を買わせ、高値で売り抜けて財を成すのは一種の定番勝ちパターンといえる。特に10年以上前などはM&Aを専業でやる仲介会社が一般的ではなく、事業の売買取引は非常に閉鎖的な市場で行われていた。
東京の有名大学を出た奴ら、財閥系企業の奴らが経済界で強いのは、こういうシーンで使える持ちつ持たれつの人脈を豊富に手にしているからでもある。エリート達は大企業や銀行に就職し、いずれ決済担当者として権限を持つようになる。やつらが潤沢な資金が入った企業の財布を開くのを後押ししてやれば、小さな事業が大金に化ける。なかなかオイシイ商売である。
そんな内輪のサークルが、確かに会社の利になる場合もあるし、単に会社の財産を流出させることもある。無茶なM&Aも、乱発すれば当然、企業体力を削ぐ。大手の財布だって無尽蔵ではない。
ここ最近のHOZUMAの迷走ぶりを見ると、長年溜め込んできた会社の栄養をむしゃぶり尽くす寄生虫のような関係者に、棲みつかれてでもいるのではないかと勘ぐってしまう。
賞味期限切れで腐りかけた宿主だろうと、HOZUMAが日本有数の名門企業であることには違いない。
うまく立ち回れれば、有象無象の腹を満たす旨い汁はまだまだタップリ残っているだろう。
HOZUMAの乱脈経営の裏では、密かに寄生虫どもの私利私欲に塗れた攻防が繰り広げられているのではあるまいか。
「さぁ、どうなんでしょうね。でもHOZUMAの業績、最近は少し持ち直してるみたいですよ。公式発表の数字上では、ですが」
恩田が口を尖らせた。
「数字上は、な・・・・・・・・・」
周りの客には聞こえないよう、声を潜めた。
「数字ってのは、多少はイジれるもんだろ? 俺は会社の本質は、実際に関わってみてこそ感じ取れるものだと思ってるんだ。
巧みにお化粧した澄まし顔の美女がずらーっと何人も並んでりゃ、遠くからでは誰がどうだか見分けも付かないが、一晩、隣で一緒に過ごしてみれば、お互いの相性も、そいつの本性も、ハッキリ肌感覚で分かっちまうのと同じさ。
俺はあの会社と関わったことが何度かあるが、雰囲気がどうも好きじゃない。それに経営陣、あいつらプライドが高くて口先ばかり達者だ。だから俺は、HOZUMAの出す数字は信じていない」
恩田もうなずいた。
「・・・・・・同感、ですね。表向きで取り繕っても、HOZUMAの本質的な事業価値は下落続き。
知名度があって配当金も悪くないから、株価も今のところそこそこの水準を維持してますけど、綺麗にお化粧された決算資料の下から、隠されてた悪材料がいつ出てきてもおかしくない。
経済アナリストや機関投資家の連中は公の場では絶対に口に出さないが、水面下では騙し合いのババ抜き合戦が始まってると思いますよ」
・・・
・・・・・・
「いや~、密森さん、お会いできて嬉しいですよ。ウチの会社を辞めたあと、今は連続増収増益のPEファンドで働かれてるそうじゃないですか。先輩はウチでも出世頭でしたけど、転職先でもあっという間に重役待遇になっちゃってるらしいって、噂は聞いてます。さすがですね」
中華料理店の机に向かい合って座りおしぼりで手を拭きながら、後輩の恩田がこちらを見た。
俺は今日、古巣の企業信用情報調査会社の横浜支店近くまで遊びに来ている。在職していた頃に可愛がっていた後輩の恩田が支店で働いているので、情報をもらうついでに、久しぶりに一緒に昼飯でもどうかと誘い出したのだ。
「ハハハ。恩ちゃん、言うねぇ。まぁ投資関係ってのは案外、ハッタリが効く世界なのさ。だから俺は、日々それっぽい雰囲気を演じて回ってるだけだよ。あの会社はイイんじゃないですか~とかちょっとだけアドバイスしてさ」
「でも、それで儲かってるんでしょう? いいなぁ。すごいなぁ。うちの会社なんか、毎年企業レポートの件数ノルマが厳しくなってるから嫌になっちゃいますよ。おかげで一日中パソコンとにらめっこで、ついに腰痛になりましたからね。先輩たちの若い頃みたいに、書類取りに法務局行ってきま~す! って、気軽に外出することもできないから、窮屈なもんですよ~」
恩田は元・ラグビー部だ。長身で大柄だから、古びた会社の事務机に身を縮こめてずっと座り作業をするのは人一倍つらいのだろう。
「今は登記証明の取得なんて全部オンラインで済むもんなぁ。それに社内は完全禁煙でタバコ休憩も取れない。うまくサボるための口実が減らされてる時代だな」
「ええ、ほんとに・・・・・・。あ。ああ、そうだ。先輩に頼まれていた『鈴木建設コンサルタント』の倒産情報、忘れないうちに渡しておきます」恩田が鞄から書類を差し出した。
「お、サンキュ。助かるわ」受け取った書類の束を早速開く。
「・・・・・・あの。余計な詮索かもしれませんけど。密森さん、その会社、なんか気になることがあったんですか? だいぶ前の倒産記録みたいですが・・・・・・」
恩田が訊いてきた。好奇心をそそられたらしい。
「あ~。仕事関係でちょっと使うかもしれなくてなぁ・・・・・・。ま、確信があるわけじゃないんだけど」
ページを繰り、情報に眼を走らせた。
「そうですか。この『鈴木建設コンサルタント』の企業レポートを担当していたのは、既に定年退職済みのOB社員でした。ただ、まだウチとつながりがあったんで、当時の様子を少し聞くことができました。結構地元じゃ、評判のいい会社だったようですよ。
創業社長の鈴木良介は仕事熱心な職人肌の技術者で、官公庁系のインフラ調査設計案件、民間企業相手の防災対策設計・耐震評価、それに環境調査なんかを積極的に請け負っていた。誠実な仕事ぶりが認められて、一代で会社をどんどん大きくしていったようです」
「そういう感じか。じゃあなんでこんな不渡りを出しちゃったのかな? 倒産の数年前まで、財務状態もきわめて堅実だったようだけど」
「それが・・・・・・、創業社長がある日突然、脳出血で倒れて寝たきりになったらしいんですよ。社長は当時50代。まだまだ自分が現役でやっていくつもりだったんでしょうね。事業継承の準備を何もしてないところに起きた急病で、それをきっかけに経営が傾いていったらしいんです。社長には一人息子もいたようですが、ちょうどそのころ、九州の医学部に進学したばかりだったみたいで、会社運営の頼りにはできなかったとか」
(――――――ああ、知ってるよ。それ、鈴木風寿のことな。)
俺は、かつて会ったことがある産業医の顔を思い出した。
俺がわざわざ『鈴木建設コンサルタント』の過去を探っているのは、他でもない、鈴木風寿のことが気になったからだ。とは言え、奴がなんの役に立つかはわからない。俺はただ、勘と興味で動いているだけだ。しかし、時に直感は、自分を面白い場所に導いてくれる。
恩田が続けた。
「その状況下で緊急的に事業を引き継いだのは創業社長の弟だったそうなんですが、棚ぼたで社長に祭り上げられて気が大きくなったのか、会社の金をしこたまギャンブルに使い込んで億の金を溶かし、財務状態を悪化させてしまった。
それに、官公庁の案件を扱っていた関係で雇い入れた役所OBもよくなかったらしい。事業のことなど何も知らないギャンブル中毒の新社長を言いくるめて実権を握り、社内外への横暴な振る舞いで大口取引先との関係を次々に悪くしてしまったとか。
創業社長の鈴木良介を慕っていた社員達は当然、猛反発したものの、社内に代わりとなる統率力のある人材はなく、肝心の鈴木良介も病気の後遺症が重くて、結局一度も社会復帰できないまま・・・・・・。そんなこんなで、会社は空中分裂しちゃったみたいです」
「へぇ。そりゃ災難だったねぇ。つくづく社長の健康管理ってのは大事だよなァ。会社が大きく成長して自律軌道に乗るまでは、文字通り『社長イコール会社そのもの』みたいなところがあるから。で、結局この会社、今はどうなってるの? 」
「倒産はしたんですけど、事業の一部だけがメインバンクの仲介で譲渡されて、さらにそこから紆余曲折・・・・・・結局今は、畑違いの大企業に吸収されているようです。と言っても、元の会社の僅かな部分が切り貼りされて残っているだけで、既に創業家の鈴木一族の関与はなくなっているようですが・・・・・・」
「会社の金でギャンブルするような代理社長がいたんじゃあ、身売りのタイミングで創業家が追い出されても当然だな。で、最終的に引き受けてる大企業って、どこだ? 」
「ええと、確か・・・・・・ああ。『HOZUMA』ですね」恩田が資料の一部をのぞき込んで答えた。
「ふーん。HOZUMAか・・・・・・」
俺はぐちゃぐちゃのパズルの中に初めてピースのつながりを見つけたときのような、特別な閃きを感じた。鈴木風寿が産業医として担当している企業のいくつかは、HOZUMA関連企業だったはずだ。偶然だろうか?
「HOZUMAは手当たり次第、いろんな事業を買ってますからねぇ。『スペリオールHOZUMA計画』でしたっけ? 多角経営を進めて、社内で融合発展的シナジーを期待するとかナントカで・・・・・・」
「よく言うよなぁ。あそこの企業買収は、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、って感じで失敗続きだぜ。それとも役にも立たないヨソの事業を、言い値でHOZUMAに買わせてる黒幕でもいるのかね? 」
祖業の繊維事業が長らく赤字状態のHOZUMAは、数十年前からビジネスモデルの大幅な転換を求められている。しかし明確な次の一手が打ち出せないままアメーバのように触手を伸ばし、色々なビジネスを内部に取り込んだものの、結局どれもうまくいっていない。
もちろんHOZUMAのM&Aには毎度、もっともらしい理由付けがなされているが、買収の背景に確たる戦略や企業の目指す方向性が見えないことが多い。業界の優良企業ではなく、なぜかのれん代の嵩む三流どころを買ったりもしている。
事業の売買は、今も昔も、目端の利く上澄みの奴らの錬金術だ。
そこそこの収益が取れるベンチャー企業を立ち上げた社長が、個人的な人脈を使って大企業に自分の事業を買わせ、高値で売り抜けて財を成すのは一種の定番勝ちパターンといえる。特に10年以上前などはM&Aを専業でやる仲介会社が一般的ではなく、事業の売買取引は非常に閉鎖的な市場で行われていた。
東京の有名大学を出た奴ら、財閥系企業の奴らが経済界で強いのは、こういうシーンで使える持ちつ持たれつの人脈を豊富に手にしているからでもある。エリート達は大企業や銀行に就職し、いずれ決済担当者として権限を持つようになる。やつらが潤沢な資金が入った企業の財布を開くのを後押ししてやれば、小さな事業が大金に化ける。なかなかオイシイ商売である。
そんな内輪のサークルが、確かに会社の利になる場合もあるし、単に会社の財産を流出させることもある。無茶なM&Aも、乱発すれば当然、企業体力を削ぐ。大手の財布だって無尽蔵ではない。
ここ最近のHOZUMAの迷走ぶりを見ると、長年溜め込んできた会社の栄養をむしゃぶり尽くす寄生虫のような関係者に、棲みつかれてでもいるのではないかと勘ぐってしまう。
賞味期限切れで腐りかけた宿主だろうと、HOZUMAが日本有数の名門企業であることには違いない。
うまく立ち回れれば、有象無象の腹を満たす旨い汁はまだまだタップリ残っているだろう。
HOZUMAの乱脈経営の裏では、密かに寄生虫どもの私利私欲に塗れた攻防が繰り広げられているのではあるまいか。
「さぁ、どうなんでしょうね。でもHOZUMAの業績、最近は少し持ち直してるみたいですよ。公式発表の数字上では、ですが」
恩田が口を尖らせた。
「数字上は、な・・・・・・・・・」
周りの客には聞こえないよう、声を潜めた。
「数字ってのは、多少はイジれるもんだろ? 俺は会社の本質は、実際に関わってみてこそ感じ取れるものだと思ってるんだ。
巧みにお化粧した澄まし顔の美女がずらーっと何人も並んでりゃ、遠くからでは誰がどうだか見分けも付かないが、一晩、隣で一緒に過ごしてみれば、お互いの相性も、そいつの本性も、ハッキリ肌感覚で分かっちまうのと同じさ。
俺はあの会社と関わったことが何度かあるが、雰囲気がどうも好きじゃない。それに経営陣、あいつらプライドが高くて口先ばかり達者だ。だから俺は、HOZUMAの出す数字は信じていない」
恩田もうなずいた。
「・・・・・・同感、ですね。表向きで取り繕っても、HOZUMAの本質的な事業価値は下落続き。
知名度があって配当金も悪くないから、株価も今のところそこそこの水準を維持してますけど、綺麗にお化粧された決算資料の下から、隠されてた悪材料がいつ出てきてもおかしくない。
経済アナリストや機関投資家の連中は公の場では絶対に口に出さないが、水面下では騙し合いのババ抜き合戦が始まってると思いますよ」
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