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Episode➃ 最後の一滴

第23章|人生ゲーム <2>会社に来なくなった足立さん

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<2>


 『株式会社E・M・A』の事務所で、社長の緒方、副社長の高根、保健師の持野が集まっていた。

「足立さん、欠勤、もうすぐ一週間………。大丈夫かしら……」緒方が大きな窓の外を見た。

「どうやら先週、産業医の鈴木先生と言い合いをしていたって話じゃないですか、やっぱりあの二人は相性が悪かったかな? 持野さん、どんな状況だったんですか? 」
高根が肩をすくめる。口調は心配そうであったが、表情からは“面倒だな”とも読み取れる。

「はい。足立さんが、訪問先企業の社員さんと個人的に連絡を取っていたみたいで……。怒った鈴木先生が、少し強めの言葉で足立さんに指導をしたみたいです。そのあと足立さんが過呼吸みたいな状態になってしまって、たまたまオフィスにいた私が駆けつけて、鈴木先生と一緒に介抱したんです。その日はすぐに落ち着いて、最寄り駅まで私が送っていったんですが……。それ以来、会社に来てなくて……」

「現在は、契約先への訪問は、鈴木先生だけで行ってる状態、ってワケね」

「一応、欠勤理由は『頭痛』ってことで連絡は来てましたけどね。さてどこまで本当やら」

「鈴木先生は、産業保健スタッフが個人的に社員と連絡を取りあうことで、お互いの立場が曖昧になるのはよくないと思っていたみたいです……」

「そりゃそうよね……足立さんは若い女性だし。気軽に連絡先を教えて、意図せずに好意を寄せられて、ストーカー行為をされたりしたら困るもの」

「私も以前は、病棟で看護師として働いていたので……。整形外科病棟にいた時はよく、患者さんから連絡先を渡されました。病院って高齢者が大半だけど、整形外科の患者さんって若くて元気な人が多いじゃないですか。骨折で入ってきた男の人とか、看護師と仲良くなるのって、結構、ありますよね」

「持野さん、美人だから。うん」高根が納得、という風にうなずいた。

「私だけじゃないです。同僚ナースもみんな連絡先渡されてましたよ。でも………。結局ほとんど、うまくいかないんですよ。患者さんは、病棟で見た白衣の天使、みたいな看護師像にあこがれて、なんて優しいんだろうって思って、連絡先をくれるんです。だけど普段着になったナースは、ただの仕事で疲れた女の子。プライベートでも甲斐甲斐しくお世話してくれないと、思っていたのと違うって、失望されて終わることも多いみたいです」

「その話、私が病棟で働いてた時代から変わらないわねぇ。何故か女医は、患者さんから連絡先をもらうことは、ほとんどないんだけど。やっぱり看護師のほうが、患者からは身近に感じられるってことかしら」

「仕事で一生懸命に尽くすことと、プライベートは別。仕事でやっていることを、24時間ずっと続けることは、普通はできないし期待されても困りますよね……。だから、患者さんとナースから始まる関係を病院の外に持ち出すのはやめたほうがいいって、私、先輩ナースに言われました」

「まぁ……。どちらにしても、僕も鈴木先生の考えに賛同ですね。産業医や保健師は社員の健康状態という機密情報を得て、会社から社員の健康管理を任されているプロです。お友達気分で気軽に個人的に連絡を取られて、万が一そこからトラブルに発展すれば、弊社との契約ごと、解消されかねない。ビジネス上の大損害です」

「…………そうね。足立さんには一度、私から連絡してみましょうか」緒方がため息を吐いた。

「いえ。緒方先生が出るには及びません。僕が対応しますよ」

「わかったわ。高根さん、よろしくね」



***********************************



副社長室に戻った高根が、一人呟いた。


「足立さん。俺は最初から、うちの会社には合わないって、緒方先生に忠告してたんですけどね……」


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