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Episode➃ 最後の一滴
第21章|折口の復調 <14>オシャレな照明をつけたいな
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<14>
「ふぅ………」
パソコンにしばらく向かい合っていた私は、『株式会社E・M・A』の事務所で、細く長く、深い息を吐いた。腹式呼吸でゆっくりと呼吸をして、お仕事モードで昂っていた交感神経を緩ませる。
眼の周囲をマッサージして、首をぐるぐる回し、肩をストレッチする。
パソコンなどのディスプレイを使ってする作業を、少し前まで産業保健の世界では“VDT作業”と呼んでいた。“VDT”って、聞き慣れない言葉だけど、“Visual Display Terminals”の略称だ。
VDT作業は、長時間連続で続けると目、肩、腰などに負担がかかる。だから集中して作業する場合にも、連続作業時間を長くしすぎずに、1時間に10分くらいは、目を画面から離してできる仕事をしたり、身体をストレッチしたりする必要がある。
「………今日は訪問、7件かぁ」
産業医の鈴木先生との企業訪問同行は、相変わらずスケジュールがぎっしり詰まった状況だ。一日に都内の事業所を少なくても5か所、多いと7か所くらい回っている。今日は7件。綱渡りみたいなスケジュールだった。11時から12時までひとつの会社で働いたあとに、30分後の12時半から次の会社で働いた。移動時間も必要なので、お昼休みは15分くらいだ。鈴木先生は、なんでこんなにがむしゃらに働いているんだろう………。
夕方遅くに帰社してからは、訪問先の会社に提出する報告書を作る。法令を満たすだけにとどまらず、会社の課題や人事担当者の悩みに寄り添える高クオリティの産業医・保健師を派遣するサービスをうたっているこの会社では、求められる報告書のレベルも高い。訪問時に話題になった事柄に関する法律などを調べているとあっという間に時間が経ってしまうし、何回も修正がかかって、夜まで作業することもある。慣れてくれば早くなるよって、先輩保健師には言われるけど……。
「あー………ちょっと休憩」
VDT作業からの休憩、と言いながら私はスマホの画面を眺めた。
PC画面からスマホ画面へ。本当は、目を酷使しすぎて、よくない休憩方法かもしれない。
「そういえば、折口さんに教えてもらった“画像検索”って、面白そうだったなぁ……。こんな便利なサービスが無料で使えるなんて、凄い時代だ……」
『シューシンハウス』のモデルハウスでもらったパンフレットを、そばに置いていたファイルから取り出して、パシャリと写真を撮ってみた。
モデルハウスにあった、あのオシャレな照明を検索して、値段を見てみたい。
「これを画像検索にかけて、っと………」
画像検索をかけたら、私が狙っているのと同じデザインの照明器具が、次々と検索結果に出てきた。
その中には『イースタグラム』の投稿もある。
「………おおお。出てきたぁ」
―――ふむふむ……。おっ。“自宅の一部を公開します。お気に入りの天井照明♥”……この人、自宅でこの照明使ってるのかなぁ………?
親指を素早く動かして、検索した画像を開いたら、不思議な感覚にとらわれた。
「あれ……この景色。なんかこれ見たことあるような………あっ。あれっ」
画像検索で出てきた『イースタグラム』のアカウントは女性のもののようだった。綺麗な黒髪ストレート。ほっそりした身体……。
「ん? “あんな XXX*X”さん。………これって、唐田アンナさんじゃない!? 」
自宅の様子として私のお目当ての照明の写真をアップロードしている人は、『シューシンハウス』のモデルハウスで会ったパートナー社員の唐田アンナさんのようだった。
うっかりリアルの知り合いをSNSで見つけてしまったときって、のぞき見をしてるみたいでドキドキする。
でも、興味が勝った。彼女の投稿を見ていく。
「う、うわぁ……。やっぱ美人は違うわ……。全顔は出してないのに、『イースタ』でもめっちゃモテてるよ~……」
唐田さんの自撮り投稿についた男性らしきアカウントからの絶賛コメントを見て、思わず、机の上に突っ伏した。写真のチラ見せだけで、次々に男の人が寄ってくる人生なんて、うらやましすぎる。私なんか最近、浮ついた話、ひとつもない……。ひとりだけでいいから、私を本気で好きになってくれる人がいてほしい。
「彼氏って、どーすれば手に入るんだろうね……うぐっ」
突っ伏した姿勢から顔を挙げて、そのまま惰性で唐田さんのものらしき『イースタ』を見ていたら、こんな書き込みが見つかった。
――――マジで髪がきれい、ヘアケア何使ってるの?
――――charm15/55XXX* 嬉しいです。今週中に、お気に入りのヘアケア用品もアップしますね!
――――それ楽しみだ♥私もあんなちゃんみたいなツルサラヘアになりたい~。美は髪に宿る★絶対チェック!
投稿を見て、ハッとして思わず自分の後頭部に手を触れた。そうか、髪か。髪から変えよう。
「アンナさんのお気に入りヘアケア………知りたい!!! これ絶対、要チェックだわ」
私は『イースタグラム』の“フォローする”ボタンを押して、唐田アンナさんと思われる人……(ID:charm15/55XXX*)を、お気に入りに登録した。
「ふぅ………」
パソコンにしばらく向かい合っていた私は、『株式会社E・M・A』の事務所で、細く長く、深い息を吐いた。腹式呼吸でゆっくりと呼吸をして、お仕事モードで昂っていた交感神経を緩ませる。
眼の周囲をマッサージして、首をぐるぐる回し、肩をストレッチする。
パソコンなどのディスプレイを使ってする作業を、少し前まで産業保健の世界では“VDT作業”と呼んでいた。“VDT”って、聞き慣れない言葉だけど、“Visual Display Terminals”の略称だ。
VDT作業は、長時間連続で続けると目、肩、腰などに負担がかかる。だから集中して作業する場合にも、連続作業時間を長くしすぎずに、1時間に10分くらいは、目を画面から離してできる仕事をしたり、身体をストレッチしたりする必要がある。
「………今日は訪問、7件かぁ」
産業医の鈴木先生との企業訪問同行は、相変わらずスケジュールがぎっしり詰まった状況だ。一日に都内の事業所を少なくても5か所、多いと7か所くらい回っている。今日は7件。綱渡りみたいなスケジュールだった。11時から12時までひとつの会社で働いたあとに、30分後の12時半から次の会社で働いた。移動時間も必要なので、お昼休みは15分くらいだ。鈴木先生は、なんでこんなにがむしゃらに働いているんだろう………。
夕方遅くに帰社してからは、訪問先の会社に提出する報告書を作る。法令を満たすだけにとどまらず、会社の課題や人事担当者の悩みに寄り添える高クオリティの産業医・保健師を派遣するサービスをうたっているこの会社では、求められる報告書のレベルも高い。訪問時に話題になった事柄に関する法律などを調べているとあっという間に時間が経ってしまうし、何回も修正がかかって、夜まで作業することもある。慣れてくれば早くなるよって、先輩保健師には言われるけど……。
「あー………ちょっと休憩」
VDT作業からの休憩、と言いながら私はスマホの画面を眺めた。
PC画面からスマホ画面へ。本当は、目を酷使しすぎて、よくない休憩方法かもしれない。
「そういえば、折口さんに教えてもらった“画像検索”って、面白そうだったなぁ……。こんな便利なサービスが無料で使えるなんて、凄い時代だ……」
『シューシンハウス』のモデルハウスでもらったパンフレットを、そばに置いていたファイルから取り出して、パシャリと写真を撮ってみた。
モデルハウスにあった、あのオシャレな照明を検索して、値段を見てみたい。
「これを画像検索にかけて、っと………」
画像検索をかけたら、私が狙っているのと同じデザインの照明器具が、次々と検索結果に出てきた。
その中には『イースタグラム』の投稿もある。
「………おおお。出てきたぁ」
―――ふむふむ……。おっ。“自宅の一部を公開します。お気に入りの天井照明♥”……この人、自宅でこの照明使ってるのかなぁ………?
親指を素早く動かして、検索した画像を開いたら、不思議な感覚にとらわれた。
「あれ……この景色。なんかこれ見たことあるような………あっ。あれっ」
画像検索で出てきた『イースタグラム』のアカウントは女性のもののようだった。綺麗な黒髪ストレート。ほっそりした身体……。
「ん? “あんな XXX*X”さん。………これって、唐田アンナさんじゃない!? 」
自宅の様子として私のお目当ての照明の写真をアップロードしている人は、『シューシンハウス』のモデルハウスで会ったパートナー社員の唐田アンナさんのようだった。
うっかりリアルの知り合いをSNSで見つけてしまったときって、のぞき見をしてるみたいでドキドキする。
でも、興味が勝った。彼女の投稿を見ていく。
「う、うわぁ……。やっぱ美人は違うわ……。全顔は出してないのに、『イースタ』でもめっちゃモテてるよ~……」
唐田さんの自撮り投稿についた男性らしきアカウントからの絶賛コメントを見て、思わず、机の上に突っ伏した。写真のチラ見せだけで、次々に男の人が寄ってくる人生なんて、うらやましすぎる。私なんか最近、浮ついた話、ひとつもない……。ひとりだけでいいから、私を本気で好きになってくれる人がいてほしい。
「彼氏って、どーすれば手に入るんだろうね……うぐっ」
突っ伏した姿勢から顔を挙げて、そのまま惰性で唐田さんのものらしき『イースタ』を見ていたら、こんな書き込みが見つかった。
――――マジで髪がきれい、ヘアケア何使ってるの?
――――charm15/55XXX* 嬉しいです。今週中に、お気に入りのヘアケア用品もアップしますね!
――――それ楽しみだ♥私もあんなちゃんみたいなツルサラヘアになりたい~。美は髪に宿る★絶対チェック!
投稿を見て、ハッとして思わず自分の後頭部に手を触れた。そうか、髪か。髪から変えよう。
「アンナさんのお気に入りヘアケア………知りたい!!! これ絶対、要チェックだわ」
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