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Episode➃ 最後の一滴
第17章|真摯な営業姿勢を見せろ <3>後輩との喧嘩
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<3>
「…………………………」
文書管理室から皆が立ち去り、部屋には俺と栃内と、目黒だけが残った。
目黒が言う。
「折口さん、1日に3500枚ってキツそうっスけど、ぶっちゃけ不可能な数字ではないと思うんで、なんとか頑張ってください。俺、連帯責任イヤッスよ」
しかし栃内が言った。
「折口、そろそろ年貢の納め時だよ。とっとと辞表書け。若洲と夢の島で3日間1万枚なんて、まともにやりゃ、絶対に配れねぇんだから」
「え。そ、そうなんスか? Googleマップで見たら、ホラ、支店長が指定していたエリアって結構広いじゃないすか。江東区の端ですけど、東京でしょ? 手渡しだけじゃなくてポスティングもすれば気合でナントカ……」
「目黒、バカ言え。若洲と夢の島は、東京は東京でも、『住人ゼロエリア』なんだぜ。この場所には、集合住宅も、一軒家も、存在してねぇ。つまりポスティングするなら企業系の建物くらいしかないけど、最近は色々と厳しいからなぁ………。
許可もないのに無理やり営業のチラシ撒いて回ったら、下手すりゃ不法侵入で捕まっちまうし、歩いている人間もまばらだし。都心の感覚で、ビラの数、捌けるような場所じゃねーんだよ。支店長はそういうの全部分かってて、敢えて折口に命令してんだ」
「えっ………それって………。じゃあ、どうせ達成できないなら、俺らが3日後に連帯責任かまされるのも決定事項じゃないスか!! マジかよ、あり得ねぇわ~、ひでぇ~」目黒が頭を抱えてワシャワシャと髪を掻いた。
「まぁ、まだ詰んでねぇよ………。やってみないとわからねぇだろ」
立っているのも鬱陶しいほどの疲労感を感じながら、俺は重い口を開いた。
確かに無理筋だと思うが、辞表を書くつもりはなかった。
寄生虫でけっこうだ。これまでも居座ってきたんだ。まだやれる。
「お前って……、ほんと往生際が悪いのな」栃内が吐き捨てるように言う。
「あああ……3日後、どんなペナルティが降ってくるのか……。ただでさえノルマノルマって毎日追い立てられてんのに……もう俺、こんなの嫌だわ! 俺はちゃんと売ってんのにさぁ、無能なヤツの煽りくらってさぁ……あー、腹立つッッッ!!! 」
連帯責任の恐怖で、目黒は冷静さを失って吠えた。
連帯責任とはやっかいで、よく考えられた仕組みだ。
コイツには、これまでよくしてやったつもりだった、
入社直後から色々な仕事を手取り足取り教えてやったのに……
俺のことを“無能”とは。聞き捨てならない。
「ケッ。ピーピーわめきやがって。
目黒、文句があんならお前が先に会社辞めろ。また女に泣きついて、甘えて養ってもらえよ」
もともと支店長に吊し上げにされて苛立っていたところを煽られて、つい強い言葉が出たのだが、それを聞いた目黒は血相を変えて俺にとびかかってきた。
「ハァ!!? んだよソレ! もっかい言ってみろや!! 」
ネクタイごとグィと胸倉を掴まれて揉み合いになる。
「うるせえんだよ。ヒモ野郎!!! 」
「ああっ!? お前に何がわかるんだよ!!! 無能なジジイのくせに、こっちが我慢してりゃーよ!!!! テメェよりは俺のほうが件数売ってんだから、本来は、お前が俺より下なんだぞ!! ナメた口きいてんじゃねーぞ! 」
目黒に掴みかかられてバランスを崩し、事務机に尻が強く当たってガタガタと大きな音を立てた。
目黒の身体は細いから簡単に押し返せるかと思ったが、意外にも圧倒的に力負けしていた。
ギリギリと襟元を締め上げられて息苦しい。
「おいおい、目黒、やめとけ。コイツに突っかかってもどうにもならねぇよ、よせ、ほっとけ」
「うるせぇ、離せ!! 」
「んにゃろぉぉぉ」
「クソジジイがッ!!! 」
―――こうなったら殴り合いだ。徹底的にやってやる。
そう思って拳を振りかぶった瞬間、部屋の扉が開いた。
「あなたたち、何やってんのよ!! 」
「…………………………」
文書管理室から皆が立ち去り、部屋には俺と栃内と、目黒だけが残った。
目黒が言う。
「折口さん、1日に3500枚ってキツそうっスけど、ぶっちゃけ不可能な数字ではないと思うんで、なんとか頑張ってください。俺、連帯責任イヤッスよ」
しかし栃内が言った。
「折口、そろそろ年貢の納め時だよ。とっとと辞表書け。若洲と夢の島で3日間1万枚なんて、まともにやりゃ、絶対に配れねぇんだから」
「え。そ、そうなんスか? Googleマップで見たら、ホラ、支店長が指定していたエリアって結構広いじゃないすか。江東区の端ですけど、東京でしょ? 手渡しだけじゃなくてポスティングもすれば気合でナントカ……」
「目黒、バカ言え。若洲と夢の島は、東京は東京でも、『住人ゼロエリア』なんだぜ。この場所には、集合住宅も、一軒家も、存在してねぇ。つまりポスティングするなら企業系の建物くらいしかないけど、最近は色々と厳しいからなぁ………。
許可もないのに無理やり営業のチラシ撒いて回ったら、下手すりゃ不法侵入で捕まっちまうし、歩いている人間もまばらだし。都心の感覚で、ビラの数、捌けるような場所じゃねーんだよ。支店長はそういうの全部分かってて、敢えて折口に命令してんだ」
「えっ………それって………。じゃあ、どうせ達成できないなら、俺らが3日後に連帯責任かまされるのも決定事項じゃないスか!! マジかよ、あり得ねぇわ~、ひでぇ~」目黒が頭を抱えてワシャワシャと髪を掻いた。
「まぁ、まだ詰んでねぇよ………。やってみないとわからねぇだろ」
立っているのも鬱陶しいほどの疲労感を感じながら、俺は重い口を開いた。
確かに無理筋だと思うが、辞表を書くつもりはなかった。
寄生虫でけっこうだ。これまでも居座ってきたんだ。まだやれる。
「お前って……、ほんと往生際が悪いのな」栃内が吐き捨てるように言う。
「あああ……3日後、どんなペナルティが降ってくるのか……。ただでさえノルマノルマって毎日追い立てられてんのに……もう俺、こんなの嫌だわ! 俺はちゃんと売ってんのにさぁ、無能なヤツの煽りくらってさぁ……あー、腹立つッッッ!!! 」
連帯責任の恐怖で、目黒は冷静さを失って吠えた。
連帯責任とはやっかいで、よく考えられた仕組みだ。
コイツには、これまでよくしてやったつもりだった、
入社直後から色々な仕事を手取り足取り教えてやったのに……
俺のことを“無能”とは。聞き捨てならない。
「ケッ。ピーピーわめきやがって。
目黒、文句があんならお前が先に会社辞めろ。また女に泣きついて、甘えて養ってもらえよ」
もともと支店長に吊し上げにされて苛立っていたところを煽られて、つい強い言葉が出たのだが、それを聞いた目黒は血相を変えて俺にとびかかってきた。
「ハァ!!? んだよソレ! もっかい言ってみろや!! 」
ネクタイごとグィと胸倉を掴まれて揉み合いになる。
「うるせえんだよ。ヒモ野郎!!! 」
「ああっ!? お前に何がわかるんだよ!!! 無能なジジイのくせに、こっちが我慢してりゃーよ!!!! テメェよりは俺のほうが件数売ってんだから、本来は、お前が俺より下なんだぞ!! ナメた口きいてんじゃねーぞ! 」
目黒に掴みかかられてバランスを崩し、事務机に尻が強く当たってガタガタと大きな音を立てた。
目黒の身体は細いから簡単に押し返せるかと思ったが、意外にも圧倒的に力負けしていた。
ギリギリと襟元を締め上げられて息苦しい。
「おいおい、目黒、やめとけ。コイツに突っかかってもどうにもならねぇよ、よせ、ほっとけ」
「うるせぇ、離せ!! 」
「んにゃろぉぉぉ」
「クソジジイがッ!!! 」
―――こうなったら殴り合いだ。徹底的にやってやる。
そう思って拳を振りかぶった瞬間、部屋の扉が開いた。
「あなたたち、何やってんのよ!! 」
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