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Episode③ 魂の居場所

第11章|エイチアイ石鹸株式会社 <4>はじめての保健指導

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<4>


 職場巡視が終わり、安全衛生委員会のメンバーが解散したところで、私と鈴木先生、大山さんは3階の会議室に戻った。


「足立さん、今日は事前にお伝えしていた通り、残りの時間で大山さんの保健指導をお願いします」
鈴木先生が言った。


「は、はいっ! 」

 今日は、私が産業保健師になって初めての『保健指導』を行うことになっている。


『保健指導』とは、医師・保健師・看護師・栄養士といった医療者が、生活習慣病など病気の予防や健康維持・増進を目的として、運動・食事・睡眠・飲酒・喫煙などの生活習慣について改善の助言を行うこと、だ。

産業保健師の場合は、その会社で働いている社員さんを対象に保健指導を行う。


そして私の記念すべき“保健指導デビュー”の対象者は、鈴木先生からのご指名で『エイチアイ石鹸株式会社』の大山彦和さんになった。


あらかじめ鈴木先生から、今日保健指導をさせてもらう大山さんには”高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症(痛風)”の持病があると聞いていた。
また体型を見ると、メタボリックシンドローム(通称メタボ)なのは間違いない。

メジャーな生活習慣病がひとつの身体に勢ぞろいしている状態なので、積極的に介入を行って健康な生活習慣を身に着けてほしい社員さんといえる。



「これが私の今年の健診結果と、お薬手帳です」
大山さんは、あらかじめ自分の健康に関する資料を準備してくれていた。


「あ、ありがとうございます。お預かりしますね………えーと、私からも、これをお渡しします。どちらも大山さんに差し上げますので」

『株式会社E・M・A』が編集した保健指導用のパンフレット、それと布製の柔らかいメジャーをひとつ、手渡した。


「フルカラーで50ページもある。こりゃあ豪華な冊子ですね」大山さんがページをめくった。


「はい。こちらの冊子は、生活習慣改善に必要な情報をコンパクトにまとめたものです。
①メタボ、②高血圧・脂質異常症・糖尿病・肝機能障害・高尿酸血症、③生活習慣改善がうまくいった人の体験談➃食生活、⑤運動、⑥睡眠、⑦口腔衛生、⑧タバコ、という構成です。この中から大山さんに必要なページを選んで一緒に見つつ、ご説明をしていきます」


「では……、僕はここで、お先に失礼致しますね。あとはよろしくお願いします」

鈴木先生が腕時計を見て、立ち上がって挨拶した。
『エイチアイ石鹸株式会社』との契約時間は月1時間だけだ。

このまま鈴木先生も保健指導に同席すると“延長対応”になってしまい、時間的に次の現場に間に合わなくなってしまう。
だから今日は、ここから別行動で私だけ居残り、大山さんに保健指導をさせて頂く予定になっている。


「鈴木先生、お疲れ様です! 
で、え~、えっと、あー、あー、最初は冊子の何ページを開いてもらうんでしたっけ……えーと、えーと」


事前に保健師の先輩である福島さんと持野さんに保健指導のやり方を聞いて、練習台にもなってもらったものの、本物の社員さんといざ話すとなると、緊張する。


しどろもどろになり焦る私に、

「ゆっくりで、大丈夫ですから」

そのテディベアのようなふっくらした体型に合った、のんびりした口調で、大山さんが笑った。

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