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Episode② 港区ラプソディ
第9章|弱肉強食の世界 <17>ブラック産業医
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<17>
「働く人が、そのまま働き続けてもよい健康状態なのかどうかを判断する際、『医師の意見』というのは最重要視されます。この場合『医師』は2種類。ひとつは“主治医”。もうひとつは“産業医”」
鈴木先生は言った。
「そして、“主治医”と“産業医”の意見が分かれた場合、患者保護の観点からは、より慎重な意見を優先させるべき、というのが一般的な考えです。ということは、このように判断されるわけです」
鈴木先生が、ホワイトボードに文字を書き始めた。
--------------------------------------------------------------------------------
①“主治医”「就業継続可能」、“産業医”「要休業」⇒要休業
②“主治医”「要休業」、“産業医”「就業継続可能」⇒要休業
③“主治医”「復職不可」、“産業医”「復職OK」⇒復職不可
➃“主治医”「復職OK」、“産業医”「復職不可」⇒復職不可
--------------------------------------------------------------------------------
「……これらの判断のすれ違いは、現実的に起こり得ることです。主治医は診察室でしか患者を診ていないですし、産業医は会社での患者しか見ていませんからね」
「なるほど。でも、これが『ブラック産業医』と関係あるんですか? 」
「はい。顧客との産業医契約を失うことを恐れる産業医の中には、言われるがままに、会社側に忖度した意見書を書く者もいると聞いています。
では、例えばメンタル不調の社員が発生したとき、①で無理やり休職入りさせ、➃で、休職期間満了まで復職を認めなければ、どうなりますか」
「社員さんは……。休職入りして………ずっと会社に復帰できない……期間満了で、自動退職……。あ、そういうことか! 会社側と産業医がグルになれば、社員さんの雇用を操作できちゃう……ってことですね」
「そういうことになります。ただし、誤解しないで頂きたいのは、誠実でまともな産業医でも、①や➃の判定を行うこともある、という点です。しっかりと面談を行い、結果的に主治医の見立てと異なる意見を持った場合に、産業医が主治医と異なる見解を出すことは間違っていません。
しかし、あってはならないことですが、中には、産業医に期待される客観性・中立性・専門性をねじ曲げ、会社側の意向を汲んで、労働者の不当な追い出しに加担する産業医も存在しているらしいのです。実際、過去の裁判で、そういった観点で争われ、最終的に労働者側が勝訴したケースがありました」
「そういう、客観性、中立性、専門性を欠いた産業医が『ブラック産業医』になるかもしれない、ってことですね……」
鈴木先生が、うなずいた。
「ですが、僕には、自ら好んで『ブラック産業医』になる者など、滅多にいるとは思えません……。
医師は本来、“自分の技能を使って人を助けたい”という志を持っている者がほとんどです。
恨みを買ったり、裁判に巻き込まれたりするリスクもあるので、契約料に釣られて会社に迎合するメリットは、そこまであると思えない。
おそらく、経験値が少なかったり、無自覚だったり、会社側にうまく言いくるめられたりして、結果的に判断ミスを犯し、『ブラック産業医』と呼ばれてしまった医師が大半だと、僕は思います」
「なんか怖いですね……」
「まぁ、そんな世界もあるということです。『株式会社E・M・A』は教育制度がしっかりしていますので、この会社の中でブラック産業医に出会うことは無いと言っていい。
しかし今後、足立さんが産業保健師として仕事を続ける中で、色々なケースを見聞きすることでしょう。その時のために、一応知っておいてください」
「はい…………」
「働く人が、そのまま働き続けてもよい健康状態なのかどうかを判断する際、『医師の意見』というのは最重要視されます。この場合『医師』は2種類。ひとつは“主治医”。もうひとつは“産業医”」
鈴木先生は言った。
「そして、“主治医”と“産業医”の意見が分かれた場合、患者保護の観点からは、より慎重な意見を優先させるべき、というのが一般的な考えです。ということは、このように判断されるわけです」
鈴木先生が、ホワイトボードに文字を書き始めた。
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①“主治医”「就業継続可能」、“産業医”「要休業」⇒要休業
②“主治医”「要休業」、“産業医”「就業継続可能」⇒要休業
③“主治医”「復職不可」、“産業医”「復職OK」⇒復職不可
➃“主治医”「復職OK」、“産業医”「復職不可」⇒復職不可
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「……これらの判断のすれ違いは、現実的に起こり得ることです。主治医は診察室でしか患者を診ていないですし、産業医は会社での患者しか見ていませんからね」
「なるほど。でも、これが『ブラック産業医』と関係あるんですか? 」
「はい。顧客との産業医契約を失うことを恐れる産業医の中には、言われるがままに、会社側に忖度した意見書を書く者もいると聞いています。
では、例えばメンタル不調の社員が発生したとき、①で無理やり休職入りさせ、➃で、休職期間満了まで復職を認めなければ、どうなりますか」
「社員さんは……。休職入りして………ずっと会社に復帰できない……期間満了で、自動退職……。あ、そういうことか! 会社側と産業医がグルになれば、社員さんの雇用を操作できちゃう……ってことですね」
「そういうことになります。ただし、誤解しないで頂きたいのは、誠実でまともな産業医でも、①や➃の判定を行うこともある、という点です。しっかりと面談を行い、結果的に主治医の見立てと異なる意見を持った場合に、産業医が主治医と異なる見解を出すことは間違っていません。
しかし、あってはならないことですが、中には、産業医に期待される客観性・中立性・専門性をねじ曲げ、会社側の意向を汲んで、労働者の不当な追い出しに加担する産業医も存在しているらしいのです。実際、過去の裁判で、そういった観点で争われ、最終的に労働者側が勝訴したケースがありました」
「そういう、客観性、中立性、専門性を欠いた産業医が『ブラック産業医』になるかもしれない、ってことですね……」
鈴木先生が、うなずいた。
「ですが、僕には、自ら好んで『ブラック産業医』になる者など、滅多にいるとは思えません……。
医師は本来、“自分の技能を使って人を助けたい”という志を持っている者がほとんどです。
恨みを買ったり、裁判に巻き込まれたりするリスクもあるので、契約料に釣られて会社に迎合するメリットは、そこまであると思えない。
おそらく、経験値が少なかったり、無自覚だったり、会社側にうまく言いくるめられたりして、結果的に判断ミスを犯し、『ブラック産業医』と呼ばれてしまった医師が大半だと、僕は思います」
「なんか怖いですね……」
「まぁ、そんな世界もあるということです。『株式会社E・M・A』は教育制度がしっかりしていますので、この会社の中でブラック産業医に出会うことは無いと言っていい。
しかし今後、足立さんが産業保健師として仕事を続ける中で、色々なケースを見聞きすることでしょう。その時のために、一応知っておいてください」
「はい…………」
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