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Episode② 港区ラプソディ
第9章|弱肉強食の世界 <16>産業医のピンチ
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<16>
「鈴木先生ッ! なんか密森さんって、色々と失礼じゃなかったですか!? 」
『ジュリー・マリー・キャピタル』から『株式会社E・M・A』に戻ってすぐ、私は鈴木先生に訴えるように言った。
「まぁ…………ある程度、想定の範囲内ではあるものの……正直、腹が立ちましたね」
鈴木先生が手を洗い、コーヒーを淹れ始めた。私は喫茶コーナーにあったチョコレートを掴んだ。甘い物でも食べなきゃ、やってられない。
「想定の範囲内ですか!? 」
「ええ…………。産業医や保健師が企業で働く場合、その立場は、従業員寄りでもなく、会社寄りでもなく、あくまで中立とされている。しかしながら現実として、産業医や保健師に報酬を払っているのは、会社側です」
「それは、そうですけど……」
「今日のように、会社側から『もう来なくていい』と言われれば、産業医や保健師は、それ以上、一切その会社に関わることはできません。ましてや『ジュリー・マリー・キャピタル』は社員50名に満たない事業所ですので、産業医が存在意義をしっかり示し、先方にも納得してもらわなければ、すぐに契約終了になります」
「もっと安い業者がいる、みたいな話もされましたけど……なんか感じ悪い」
「『Future_Sangyoui株式会社』ですね。あの会社は、我々の業界ではよく知られていますよ、悪い意味で」
「どういうことですか」
「端的に言えば、質を問わない、薄利多売の金儲け主義。とにかく安い値段で、会社に産業医を紹介することをウリにしています。本来、産業医は継続的に会社の健康管理を担当する者のはずなのに、『数か月に1回プラン』などと称し、法律違反ギリギリの契約内容で仲介を行っています。
限界まで安い値段で産業医を探したい会社と、条件は問わないので契約が欲しい産業医を、引き合わせているビジネスとも言えます。
噂では、社長の好みで容姿により産業医をランク付けしているとか、裏で産業医を“うちで飼ってる商材”と呼んでいるとか、産業医への給与支払いミスも多い……なんて話も、お聞きしますね」
「なんか産業医を、見下してる感じの会社ですね……」
「まぁ、それはそうなのですが……。一方で、産業医資格だけ持っていて、価値のある産業保健サービスを提供できる実力がない産業医も、存在しているのかもしれません、残念なことですが」
「でも、せめて今回の件は、せっかくご依頼頂いたんですから、江鳩さんが元気になるまでをサポートさせて頂きたかったです。
中途半端な状態で江鳩さんの面談フォローが終わってしまうのも心配ですし、密森さん、江鳩さんをクビにするつもりだったみたいじゃないですか。そんなの、おかしいです」
「残念ですが、江鳩さんに関与できるのは、次回面談が最後です。僕は、江鳩さんは、適切に対処さえすれば、きっと元気になって普通に働けるようになる方だ、と思っています……なんとか回復していただきたいのですが……」
鈴木先生が、コーヒーを一口飲んで、黙った。
「江鳩さん……そう簡単に、クビにはされないんですよね? 」
「まぁ……雇用形態にもよりますね。基本的に日本は解雇規制が厳しい国ですが、密森さんの口ぶりですと、色々と制度的な部分はご存知なのでしょうから……。
ところで足立さん…………『ブラック産業医』という言葉、聞いたことありますか」
「えっ…………聞いたこと、ないです…………」
「鈴木先生ッ! なんか密森さんって、色々と失礼じゃなかったですか!? 」
『ジュリー・マリー・キャピタル』から『株式会社E・M・A』に戻ってすぐ、私は鈴木先生に訴えるように言った。
「まぁ…………ある程度、想定の範囲内ではあるものの……正直、腹が立ちましたね」
鈴木先生が手を洗い、コーヒーを淹れ始めた。私は喫茶コーナーにあったチョコレートを掴んだ。甘い物でも食べなきゃ、やってられない。
「想定の範囲内ですか!? 」
「ええ…………。産業医や保健師が企業で働く場合、その立場は、従業員寄りでもなく、会社寄りでもなく、あくまで中立とされている。しかしながら現実として、産業医や保健師に報酬を払っているのは、会社側です」
「それは、そうですけど……」
「今日のように、会社側から『もう来なくていい』と言われれば、産業医や保健師は、それ以上、一切その会社に関わることはできません。ましてや『ジュリー・マリー・キャピタル』は社員50名に満たない事業所ですので、産業医が存在意義をしっかり示し、先方にも納得してもらわなければ、すぐに契約終了になります」
「もっと安い業者がいる、みたいな話もされましたけど……なんか感じ悪い」
「『Future_Sangyoui株式会社』ですね。あの会社は、我々の業界ではよく知られていますよ、悪い意味で」
「どういうことですか」
「端的に言えば、質を問わない、薄利多売の金儲け主義。とにかく安い値段で、会社に産業医を紹介することをウリにしています。本来、産業医は継続的に会社の健康管理を担当する者のはずなのに、『数か月に1回プラン』などと称し、法律違反ギリギリの契約内容で仲介を行っています。
限界まで安い値段で産業医を探したい会社と、条件は問わないので契約が欲しい産業医を、引き合わせているビジネスとも言えます。
噂では、社長の好みで容姿により産業医をランク付けしているとか、裏で産業医を“うちで飼ってる商材”と呼んでいるとか、産業医への給与支払いミスも多い……なんて話も、お聞きしますね」
「なんか産業医を、見下してる感じの会社ですね……」
「まぁ、それはそうなのですが……。一方で、産業医資格だけ持っていて、価値のある産業保健サービスを提供できる実力がない産業医も、存在しているのかもしれません、残念なことですが」
「でも、せめて今回の件は、せっかくご依頼頂いたんですから、江鳩さんが元気になるまでをサポートさせて頂きたかったです。
中途半端な状態で江鳩さんの面談フォローが終わってしまうのも心配ですし、密森さん、江鳩さんをクビにするつもりだったみたいじゃないですか。そんなの、おかしいです」
「残念ですが、江鳩さんに関与できるのは、次回面談が最後です。僕は、江鳩さんは、適切に対処さえすれば、きっと元気になって普通に働けるようになる方だ、と思っています……なんとか回復していただきたいのですが……」
鈴木先生が、コーヒーを一口飲んで、黙った。
「江鳩さん……そう簡単に、クビにはされないんですよね? 」
「まぁ……雇用形態にもよりますね。基本的に日本は解雇規制が厳しい国ですが、密森さんの口ぶりですと、色々と制度的な部分はご存知なのでしょうから……。
ところで足立さん…………『ブラック産業医』という言葉、聞いたことありますか」
「えっ…………聞いたこと、ないです…………」
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