65 / 428
Episode② 港区ラプソディ
第7章|六本木の超高級カラオケ店 <7>先輩保健師との会話
しおりを挟む
<7>
「―――――っていうことが、ありまして……」
昼下がりの『株式会社E・M・A』のオフィス。
今日はたまたま、福島さんと持野さんがオフィスに残っていたので、保健師3人で話している。
福島さんは、子犬系の笑顔が可愛い、明るいキャラの先輩男性保健師。持野さんは、ちょいギャル風の美人で、いつもテキパキ仕事が早い、女性の先輩保健師だ。入社してから2人には、保健師の仕事について、色々とご指導頂いている。
「うーん。里菜ちゃんさぁ、それ、帰らせてもらえて、良かったんじゃない? 普通に考えて、イシダとかいう国会議員男からの提案、『パパ活』のお誘いだったんじゃない?」福島さんが言う。
「あたしもそう思うよ~。その“契約”にOKしたら、部屋を見せろとか言われて、自宅で無理やり押し倒されて、犯されてたと思うなぁ」持野さんも同意した。
私、危なかったんだ。3万円のお金に釣られて “等身大・江戸からくり茶運び人形”みたいなイシダさんに部屋に上がりこまれてしまうかもしれないなんて、あの場ではまったく想像できていなかった。
もしイシダさんと連絡先を交換していたら、脂ギトギトの茶運び人形に襲われる悪夢を、毎晩繰り返し、見るハメになっていたかもしれない。
「しかも、サブスク、ってのが罠じゃない? 例えばお茶して話すだけだとしても、月に何回呼び出されるかわからないからコワイよね」
福島さんに言われて、気付く。確かにその通りだ。
「…………」
「まぁまぁ里菜ちゃん。そんなに落ち込まないで。それだけ里菜ちゃんが、魅力的だった、ってことなのかもしれないし」福島さんが慰めてくれた。
「ありがとうございます……。これからは気を付けます。それで……、なんかそのイシダ議員、『東都カレンダー』って、言ってたんです。福島さん、持野さん、何のことかわかりますか?」
「あ~、それは、これでしょ。雑誌の名前だよ」
福島さんが、スマホの画面を見せてくれた。
『東都カレンダー』とGoogle検索した画面には、超有名な旬の女優さんが、表紙を飾っている写真がずらっと並んでいた。
お寿司屋さんのカウンターのようなところで、一緒にお酒を飲みながら食事していると、自慢の彼女が笑ってこっちを見てくれた……みたいな写真ばかりだ。
「あたしも『東都カレンダー』時々、雑誌読み放題アプリで見るよぉ。高級だけど美味しい東京のご飯屋さんが沢山載ってる楽しい雑誌だよね。でも、系列の『都カレデートApp』は、パパ活の温床になってるって、噂で聞いたことあるかな」
「なるほど……勉強になります。あと……、タカさんって、荒巻先生のお友達なんでしょうか」
「うん、多分この人でしょ。『株式会社 TAU-KAPPA』の“南野鷹志”」
持野さんがPC画面をずらして見せてくれる。
「あ!! 本当だ。この人。この人です!」
会社のHPに掲載された南野さんは、確かに私が見た“タカさん”だった。
「あたしも毎月、荒巻先生に同行して訪問してる会社ね。何度か社員と会社が揉めたことがあって、荒巻先生が入って力技で解決したの。新しくできた会社って、事業がうまくいって急拡大するときに、人事制度の整備が追いついてなくて、労務トラブルになっちゃうケースが、けっこうあるから」
「そうなんですね……。鈴木先生との同行では、今のところ、そういう経験はないような……」
「んー。それは多分さ、ウチの会社の契約先って、産業医によって担当先の傾向がハッキリしてるからだと思うよ」
福島さんが椅子の上で伸びをしながら言う。
「黒木先生と僕が担当してるところは、小規模でのんびりした社風のところが多いし、鈴木先生は、設立から年数の経った、大きめでお堅い社風の会社が多いんだ。荒巻先生は、ITベンチャーとか、経営者がワンマンで存在感あるところばっかり。産業医と会社にも、相性があるんだと思う」
「うんうん。わかる。あと荒巻先生って、毎晩のよーに『六本木・歌舞伎町・銀座』のローテで飲み歩いてて、仲良くなった経営者から産業医契約獲ってくるからさ、そういう会社が増えがちなんだよね~。あたしまで時々、高級クラブとか連れていかれるよ」持野さんが言う。
「え、そうなんですか?」
「そう。荒巻先生、夜遊び大ッ好きなの。しかも実は荒巻先生、美容系のクリニックも経営してて。クラブのホステスさんを、美容クリニックのお客さんとして誘ったりもするから、一石三鳥、夜の営業活動状態」
「そうだったんですね……」
いつもスーツ姿で、黒髪・銀縁眼鏡・お堅いサラリーマン風な鈴木先生と、柄物のシャツや革パンツを着ていて、染めたパーマヘア、ゴツいアクセサリーも身に着けていたりする荒巻先生は、かなり雰囲気が違うなぁ、と、前から思っていた。
社風も色々、産業医も色々、らしい。
「―――――っていうことが、ありまして……」
昼下がりの『株式会社E・M・A』のオフィス。
今日はたまたま、福島さんと持野さんがオフィスに残っていたので、保健師3人で話している。
福島さんは、子犬系の笑顔が可愛い、明るいキャラの先輩男性保健師。持野さんは、ちょいギャル風の美人で、いつもテキパキ仕事が早い、女性の先輩保健師だ。入社してから2人には、保健師の仕事について、色々とご指導頂いている。
「うーん。里菜ちゃんさぁ、それ、帰らせてもらえて、良かったんじゃない? 普通に考えて、イシダとかいう国会議員男からの提案、『パパ活』のお誘いだったんじゃない?」福島さんが言う。
「あたしもそう思うよ~。その“契約”にOKしたら、部屋を見せろとか言われて、自宅で無理やり押し倒されて、犯されてたと思うなぁ」持野さんも同意した。
私、危なかったんだ。3万円のお金に釣られて “等身大・江戸からくり茶運び人形”みたいなイシダさんに部屋に上がりこまれてしまうかもしれないなんて、あの場ではまったく想像できていなかった。
もしイシダさんと連絡先を交換していたら、脂ギトギトの茶運び人形に襲われる悪夢を、毎晩繰り返し、見るハメになっていたかもしれない。
「しかも、サブスク、ってのが罠じゃない? 例えばお茶して話すだけだとしても、月に何回呼び出されるかわからないからコワイよね」
福島さんに言われて、気付く。確かにその通りだ。
「…………」
「まぁまぁ里菜ちゃん。そんなに落ち込まないで。それだけ里菜ちゃんが、魅力的だった、ってことなのかもしれないし」福島さんが慰めてくれた。
「ありがとうございます……。これからは気を付けます。それで……、なんかそのイシダ議員、『東都カレンダー』って、言ってたんです。福島さん、持野さん、何のことかわかりますか?」
「あ~、それは、これでしょ。雑誌の名前だよ」
福島さんが、スマホの画面を見せてくれた。
『東都カレンダー』とGoogle検索した画面には、超有名な旬の女優さんが、表紙を飾っている写真がずらっと並んでいた。
お寿司屋さんのカウンターのようなところで、一緒にお酒を飲みながら食事していると、自慢の彼女が笑ってこっちを見てくれた……みたいな写真ばかりだ。
「あたしも『東都カレンダー』時々、雑誌読み放題アプリで見るよぉ。高級だけど美味しい東京のご飯屋さんが沢山載ってる楽しい雑誌だよね。でも、系列の『都カレデートApp』は、パパ活の温床になってるって、噂で聞いたことあるかな」
「なるほど……勉強になります。あと……、タカさんって、荒巻先生のお友達なんでしょうか」
「うん、多分この人でしょ。『株式会社 TAU-KAPPA』の“南野鷹志”」
持野さんがPC画面をずらして見せてくれる。
「あ!! 本当だ。この人。この人です!」
会社のHPに掲載された南野さんは、確かに私が見た“タカさん”だった。
「あたしも毎月、荒巻先生に同行して訪問してる会社ね。何度か社員と会社が揉めたことがあって、荒巻先生が入って力技で解決したの。新しくできた会社って、事業がうまくいって急拡大するときに、人事制度の整備が追いついてなくて、労務トラブルになっちゃうケースが、けっこうあるから」
「そうなんですね……。鈴木先生との同行では、今のところ、そういう経験はないような……」
「んー。それは多分さ、ウチの会社の契約先って、産業医によって担当先の傾向がハッキリしてるからだと思うよ」
福島さんが椅子の上で伸びをしながら言う。
「黒木先生と僕が担当してるところは、小規模でのんびりした社風のところが多いし、鈴木先生は、設立から年数の経った、大きめでお堅い社風の会社が多いんだ。荒巻先生は、ITベンチャーとか、経営者がワンマンで存在感あるところばっかり。産業医と会社にも、相性があるんだと思う」
「うんうん。わかる。あと荒巻先生って、毎晩のよーに『六本木・歌舞伎町・銀座』のローテで飲み歩いてて、仲良くなった経営者から産業医契約獲ってくるからさ、そういう会社が増えがちなんだよね~。あたしまで時々、高級クラブとか連れていかれるよ」持野さんが言う。
「え、そうなんですか?」
「そう。荒巻先生、夜遊び大ッ好きなの。しかも実は荒巻先生、美容系のクリニックも経営してて。クラブのホステスさんを、美容クリニックのお客さんとして誘ったりもするから、一石三鳥、夜の営業活動状態」
「そうだったんですね……」
いつもスーツ姿で、黒髪・銀縁眼鏡・お堅いサラリーマン風な鈴木先生と、柄物のシャツや革パンツを着ていて、染めたパーマヘア、ゴツいアクセサリーも身に着けていたりする荒巻先生は、かなり雰囲気が違うなぁ、と、前から思っていた。
社風も色々、産業医も色々、らしい。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる