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Episode① 産業保健ってなあに
第5章|サクラマス化学株式会社 南アルプス工場 <9>鈴木先生の指
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<9>
休憩室に駆けつけてくれたのは、吉野さんと、作業着姿の鈴木先生だった。
「あっ、鈴木先生。すみません、私、もう平気です」
立ち上がろうとした私を、鈴木先生が手で制した。
「ちょっと診せてください。触りますよ」
座る私に、前かがみになった鈴木先生が手を伸ばして、私の下瞼に触れた。
今までになく顔と顔が近付いて、ドキッとした。思わず頬が熱くなる。
――――鈴木先生の指、温かい。
先生は、私に目線を合わせる形でしゃがみ込んだ。
先生、肌、綺麗だな。
真っすぐにこちらを見る黒い瞳、きゅっと結ばれた意志が強そうな口元。
……あれ? なんか、鈴木先生って、良く見るとカッコイイかも……。
「眼瞼結膜の貧血は、なさそうですね。なかなか工場内に来ないので、どうしたのかと心配していました。今日はまだかかりそうですから、先に東京に戻ってください」
「え……。東京に、……戻る。私だけ先に……」
――――ああ、私、また、やってしまった。
社員さんの健康サポートに来たのに、うっかり自分が倒れて、皆に迷惑をかけた。
これ、いつものパターンだ。
最初は、心配してくれる、守ってくれる。
でもそのうち、呆れられる。
『株式会社E・M・A』は、ぬるま湯の環境じゃない。
こんなことを繰り返していたら、きっとまたすぐ、クビになってしまうだろう。
ていうか、
鈴木先生と私は『ペア』 じゃない。
私、また明日からは、“留守番保健師”になるんだ。
でも……私、まだ、帰りたくない。
だって、……、私、せめて今日だけは、
『産業保健師 足立里菜』として、誰かの役に立ちたい。見届けたい。
「いえ、本当に大丈夫です! 緒方先生との約束で、今日までは、私、鈴木先生と一緒に行動してもいいんですよね? だったら……だったら今日だけは……、最後までとことん、お手伝いさせてください! 」
私の声に驚いたように一瞬、目を開いて、鈴木先生は言った。
「……わかりました。ただし、もし僕が、本当にまずい状況だと判断したら、その時はドクターストップを出しますから、必ず、指示に従ってくださいね」
休憩室に駆けつけてくれたのは、吉野さんと、作業着姿の鈴木先生だった。
「あっ、鈴木先生。すみません、私、もう平気です」
立ち上がろうとした私を、鈴木先生が手で制した。
「ちょっと診せてください。触りますよ」
座る私に、前かがみになった鈴木先生が手を伸ばして、私の下瞼に触れた。
今までになく顔と顔が近付いて、ドキッとした。思わず頬が熱くなる。
――――鈴木先生の指、温かい。
先生は、私に目線を合わせる形でしゃがみ込んだ。
先生、肌、綺麗だな。
真っすぐにこちらを見る黒い瞳、きゅっと結ばれた意志が強そうな口元。
……あれ? なんか、鈴木先生って、良く見るとカッコイイかも……。
「眼瞼結膜の貧血は、なさそうですね。なかなか工場内に来ないので、どうしたのかと心配していました。今日はまだかかりそうですから、先に東京に戻ってください」
「え……。東京に、……戻る。私だけ先に……」
――――ああ、私、また、やってしまった。
社員さんの健康サポートに来たのに、うっかり自分が倒れて、皆に迷惑をかけた。
これ、いつものパターンだ。
最初は、心配してくれる、守ってくれる。
でもそのうち、呆れられる。
『株式会社E・M・A』は、ぬるま湯の環境じゃない。
こんなことを繰り返していたら、きっとまたすぐ、クビになってしまうだろう。
ていうか、
鈴木先生と私は『ペア』 じゃない。
私、また明日からは、“留守番保健師”になるんだ。
でも……私、まだ、帰りたくない。
だって、……、私、せめて今日だけは、
『産業保健師 足立里菜』として、誰かの役に立ちたい。見届けたい。
「いえ、本当に大丈夫です! 緒方先生との約束で、今日までは、私、鈴木先生と一緒に行動してもいいんですよね? だったら……だったら今日だけは……、最後までとことん、お手伝いさせてください! 」
私の声に驚いたように一瞬、目を開いて、鈴木先生は言った。
「……わかりました。ただし、もし僕が、本当にまずい状況だと判断したら、その時はドクターストップを出しますから、必ず、指示に従ってくださいね」
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