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第一章

第一話 プロローグ

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この世界はテイマーで溢れている。


この世界では飼育している生き物をパートナーと呼び、テイマーはご飯を食べるときも、寝るときも、魔物と戦うときも、いついかなる時もパートナーと一緒に生活している。
すべてのテイマーはテイマーの頂点であるゴートテイマーになるために日々鍛錬している。
そんな世界に産まれた僕、エンニオ・ミドルもゴートテイマーになることを夢見て日々生活していた。
この話は、僕がテイマーの頂点であるゴートテイマーになるまでの話である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



僕が生まれたのは貴族でも王族でもない、ごく普通の家庭だった。
お父さんもお母さんもテイマーの、ごく普通の。
僕たち家族の暮らしはとても幸せなものだった。一緒にご飯を食べたり、食卓を囲んだり、眠ったり。
そんな暮らしが一変したのは僕が13歳の誕生日を迎えた年、そう『パートナー契約』の儀式の日からだった。






「行ってきます!」

僕は元気よく扉を開け、お父さんとお母さんに手を振る。

「「行ってらっしゃい」」
「気を付けていくのよ~」

僕は走って『パートナー契約』の儀式が行われる教会へ向かった。


教会の近くに到着すると、すでにたくさんの人たちが年に一度の儀式のための出し物で賑わっていた。
僕はそんな人ごみの中を掻き分けながら教会へ向かった。

教会の前まで行き、受付を済ませて中に一列に整列した。
しばらくすると教会の牧師が話し始めた。

「諸君。今日は人生で最も大切だと言われている『パートナー契約』の日だ。
 だが、恐れることはない。夢を叶えるため、自信をもって迎えるがよい。」

その言葉の後、一斉に大きな拍手や歓声が響き渡り、運命の契約の儀式が始まった。

『パートナー契約』の儀式は人生で一度だけのパートナーを召喚する儀式である。
契約の方法は教壇に上った先にある水晶に向かって、右の手のひらを向け
「汝、仄暗い同居人に身を滅ぼせし者。
 その誇り高き自我を以ってその姿を現せ!リレイズ」
と詠唱すると、目の前にパートナーが召喚され、契約を交わす。
詠唱が少し恥ずかしく思えるのは僕だけだろうか。

そして、召喚されたパートナーもランク付けされる。
ランクの高い方からA、B、C、Dとなっていて、ランクが高くなればなるほど強いパートナーということになる。ゴートテイマーになるためにもより高いランクが好まれているのは言うまでもない。

そんなことを話しているうちにも、次々とパートナー契約が行われていく。
Aランクのパートナーと契約出来て両手放しで喜んでいる子もいれば、Dランクのパートナーで肩を沈めている子もいた。

そしていよいよ僕の番が回ってきた。
僕はゆっくりと深く息を吐き、教壇の上へ足を運び、水晶の前に立つ。
右手を水晶に向け、呪文を唱える。


「汝、仄暗い同居人に身を滅ぼせし者。
 その誇り高き自我を以ってその姿を現せ!リレイズ!」



「・・・・・・・」

何も起こらなかった。
僕はもう一度唱えてみる。


「汝、仄暗い同居人に身を滅ぼせし者。
 その誇り高き自我を以ってその姿を現せ!リレイズ!」



すると、水晶がいきなり光り輝き始めたと思えば、亀裂が入り始め、


パリン


割れて、粉々になってしまった。



周りの人たちがざわざわし始めるのを、牧師が制止する。

「静粛にして下さい。水晶が割れたということは、昔話に聞くところの、この世界ではめったに見られない飼育パートナーがいない人が現れただけです。私も見るのは初めてです。代わりの水晶を持ってきますので、ご安心ください。」

そういって、新しい水晶が持ってこられるが、僕はたたずんだままだった。

「君、悲しいことだが君は『飼育パートなし』らしい。気を付けて帰りなさい。」

教会の関係者はそう僕に言いながら、僕の背中を押し出口へ連れて行った。
教会から帰るときにに、すごい拍手と歓声が何度か響いていたが、僕の耳には届いてこなかった。
家に帰ってからもお父さんやお母さんが心配してくれたが、僕は正気を失ったように布団にずっと横になっていた。


それから何日か経ってから、お母さんがしびれを切らして僕に外に散歩にでも行くように言ってきた。
僕は行くところもないのでただ町を歩いていた。
すると、後ろから声を掛けられた。

「おい、そこのお前!」

振り向くとそこには、僕と同い年ぐらいの少年が三人立っていた。

「お前、『飼育パートナーなし』の男だろ?儀式の日、お前がそう言われた後にパー トナーランクAと契約を果たした二人の内の一人。ゴラギエ・サモンズだ!こいつらは俺の仲間とそのパートナーたちだ。
 お前、俺たちと一緒にダンジョンに行くぞ。パートナーなしだったら一緒に冒険する仲間もいないだろう?俺たちが一緒に行ってやるよ。」

僕はその言葉に絶望の暗闇の中一筋の光が差し込んだように思えた。パートナーのおらず冒険するのも絶望的で、ゴートテイマーへの道が閉ざされたと思っていたがそんな僕と一緒に冒険しようと誘ってくれる人たちがいたのだ。
僕はその誘いを喜んで受けることにした。

「本当?ありがとう!僕はエンニオ・ミドル。よろしく。」
「おう。よろしくな、ミドル。」

そういって、僕らは握手をする。
そして、僕らは早速装備を整え、ダンジョンに向かった。


ダンジョンは地下100階層まであり、深くなればなるほど強い魔物がうごめいている場所であり、100階層まで攻略すると新しいダンジョンに生まれ変わる。最下層まで到達することゴートテイマーの条件の一つとされているが、今のゴートテイマーが前のダンジョンを攻略してから誰も最下層に到達できていない。
ゴートテイマーになるためにたくさんのテイマーたちが毎日特訓する場所となっている。


僕らはダンジョンに到着し、受付を済ませて早速一階層から攻略を始めた。
一から五階層はスライムやゴブリンなどの基本的に弱く戦いやすい魔物が出現する。
僕らの前に一匹のスライムが現れる。

「ミドル、お前は後ろの方に居ろよ。」
「うん。」

そういって、サモンズはランクAのパートナーである鷹、イーグルに指示をする。

「イーグル、ウィンド!」

は翼を強く羽ばたかせ、スライムに向かって攻撃する。
スライムは吹っ飛ばされ消滅した。

「俺らの隊長、優しいし強いしすごいんだぜ。」

そう自慢してきたのは、サモンズの仲間の一人のブマル・ハケスでパートナーはランクCの大きなカエル、フロッグだ。

「それに、親も貴族なんだってよ。」

話に加わって来たのは、もう一人の仲間ディニス・レノンでパートナーはランクBのムササビ、スクアラルだ。

「ハケスとレノンのパートナーも凄いよ。僕なんてパートナーすらいないんだから」
「そんなこと言うなよ。隊長についていけばこの先心配ないさ!」

そんなことを話しながら、ダンジョンの下層へ進んでいく。
魔物が現れればサモンズがイーグルで倒し、を繰り返しあっという間に五階層まで来た。

「ミドル!ちょっとそこの穴見てこい!」
「分かった。」

僕は何の疑いもなく見に行き、穴を覗き込む。とても深い穴だった。

「サモンズ、何もないよ。」

僕はそう告げ、振り返ろうとすると後ろから何かに押される。



「えっ?!」



僕は何が起きたのか分からなかった。
時間がゆっくりに見える、感じる。
そして何が起きているのか、理解する。
落とされたんだ。彼、サモンズに。

「『飼育パートナーなし』のお前と冒険する奴なんかいるかよ」

サモンズは落ちる僕を見ながら、そんなことを口にし、そして仲間三人と笑っていた。
そして、三人は僕からは見えなくなった。

僕は騙されたのだ。
簡単に信じた俺がバカだったのだ。
僕は死を覚悟しながら、長い長い穴の中を永遠とも感じられる時間落ちて行った。








ポタポタと一定の間隔で落ちてくる雫に顔を打たれ目が覚める。

「いててて、」

体をおこそうとすると全身に痛みが走る。

落ちていく僕をただ見つめるだけのサモンズたちの光景がフラッシュバックする。

「『飼育パートナーなし』のお前と冒険する奴なんかいるかよ」



「そうだよな。俺なんかと何て組みたくないよな。」

僕はそう呟き、落ちてきた穴を見上げる。穴の先には光すら見えず、まるで今の僕を表しているかのようだった。

「ここ何階層なんだろう。こんなに高いところから落ちたんだし、いっそ死んだほう がマシだったのに。」


死にたいと思ってしまったことが呼び寄せたのか、そもそも死ぬ運命だったのか奥の方から大きな足音と共に何かが近づいてくる。


僕は痛む体を起き上がらせて、その音の方向とは逆にゆっくりとバックしながら様子を伺う。
だんだん音も近づいてきて、ほんのりとシルエットも見えてくるとそれが人ではないことは明確であった。そのシルエットがくっきりと見えるようになるまでには時間は要らなかった。
そして、お互いに相手が何者か分かるとそれぞれに声を上げる。

「うわああああああああああああ」
「グオオオォォォーーーーーーー」

僕は悲鳴を、化け物は咆哮を。




僕の足は死にたいと思っていたからなのか動かなかった、それとも最強の魔物「ミノタウロス」を目の前にして恐怖で動かなかったのか定かではないが、ピクリともしない。

そんなことは容赦なくミノタウロスは持っている大きな金属の棍棒のようなものを僕めがけて振り下ろしてくる。僕は何の抵抗もせず、その攻撃は僕の左腕を持っていった。
全身に激痛が走る。
そして、再びミノタウロスが棍棒を僕に振りかざしてくる。
その光景がゆっくりに見え、これまでのことが走馬灯のように見え始める。


「『飼育パートナーなし』のお前と冒険する奴なんかいるかよ」
「君、悲しいことだが君は『飼育パートなし』らしい。」


そんな悲しいことが見え、僕はこのまま死んでもいいやと思い目をつぶり、歯を食いしばる。しかし、再び走馬灯が見える。


「「行ってらっしゃい」」
「気を付けていくのよ~」
お父さんとお母さんとの家族との思いでだった。そして、

「僕ね、ゴートテイマーになる!」

そう家族に宣言している、小さなころの僕だった。


僕は死にたくないと思った。強く思った。ゴートテイマーになると。家族とまた過ごしたいと。その心が僕を動かした。
僕は間一髪でその攻撃を躱した。

だが、パートナーもない僕にできることはほとんどない。
ミノタウロスは今度は棍棒をスイングしてきた。
今度こそ死を覚悟した。
せめてもの抵抗として、残った右手を棍棒に突き出す。

「グオオオォォォーーーーーーー」

死にたくない、僕にパートナーがいれば、契約できていればこんなことにはならなかったはずだ。僕は僕自身を恨んだ。

「クソぉぉぉぉぉぉーーーーーー」

すると、右手の方から白い光が輝き始め、そして視界を包んだ。
少しして目を開けると、そこにはミノタウロスの攻撃を指一本で止めるの女性が立っていた。
腰まで届きそうな長い白銀の髪が、ダンジョンの暗さと相まってより際立っている。色素が抜けたような白い肌、尖るような顎先と、襟から覗く細い首筋と胸元が危うい魅力を醸し出している。腰についている剣も不思議と様になっている。そんな女神のような彼女に見とれていると、

「ミドル様、あなたに盾突くこの汚らしい汚物を片付けてもよろしいですか?」

「・・・あ、はい。」

僕があっけにとられながら返事をすると、彼女はミノタウロスの棍棒を軽々と吹き飛ばし、指を鳴らした。その瞬間、ミノタウロスは粉々になってしまった。

「わたくしのパートナーに手を出すのは千年早いですよ」

そう彼女は言うと、僕の方に近寄ってきて僕に魔法をかける。
すると、僕の左腕はみるみる治っていき、体中の痛みも消えていった。

「・・・助けてくれてありがとう。」
「いえいえ、わたくしは当然のことをしたまでですよ。
 自己紹介が遅れて申し訳ありません。わたくしはあなたとパートナー契約をした
 パートナーランクSの女神、アストレアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」


僕はその光景にただ、見とれていただけだった。
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