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 リズの目の前にはあんかけ味噌クラゲ丼が置かれている。その素材を見ていなければ箸は進んでいただろう。だが、どこかの着ぐるみが図鑑を開き見せたことによってリズの食欲が減ってしまったのだ。しかし、お腹が空いているのには変わりないので、恐る恐る口の中へと放り込んでみる。

「・・・美味しい」

「でしょ?!リズ君なら分かってくれると思ってたよ~!」

 力説していたクマの前には器が10皿。食べるときは頭を取るのかと思えば、気が付いたら器の中身が消えていた。どうやら転移で口の中に運んでいるらしく、魔力の無駄遣いとはこのことだなとリズは心の中で呟いた。

「どうしてリズが選ばれたかはわかった?」

「うん。精霊が周りに沢山いるんだよな。それをリーヴァルが見つけた?」

「そう。で、私がヴライ王に話をしたってところね」

 見えないリズにとって、自身の周りに精霊がいるという事実はにわかに信じがたい。だが、精霊の母であるリーヴァルが言うのだから間違いないのだろう。

「でも、俺はなんの役に立つんだ?」

「淀みを緩和する役よ。
邪神が放つ淀みはそこにある全てを腐らせる。木は枯れ、水は毒となり、空気は痺れとなる。そして生物は・・・死んでいくわ。
苦しみながら、時間をかけてゆっくりと」

「リーヴァルは難しいのか?」

「ええ。あたしは影響を受けやすいのよ。
さっき生物と言ったけれど、精霊も同じよ。精霊が淀みの影響を受けたとき、自然の暴走が始まるわ」

 火の精霊なら少しの静電気で発火。
 風の精霊なら前が見え無いほどの強風。
 水の精霊なら肌に刺さるような大雨。
 土の精霊なら止まらぬ地震。

 それに加えて第二属性が発生し、更に被害は悪化する。まるで世界が終わりを告げるような。そんな悪夢が始まってしまう。だからこそ神子が存在するのだ。それさえを浄化させる神子が。

「影響を受けやすいから、力を使おうとすると飲み込まれるのよ。人を交さないでやるのは自殺と一緒だわ」

「神の代理であるリーヴァルちゃんが淀みの影響を受けたら、それはもう未来が消えたと言ってもいい」

「わかった。頑張るよ」

 精霊での戦い方はリーヴァル、通常の戦い方はクマが教えることになった。

「まあ、精霊による緩和は応急処置に過ぎないわ。星獣の力じゃないと完全に消せないわ」

「各街の入り口に祠があってね、それに星獣の力を込めると街を守る盾になるの」

 ユリアが説明を付け足す。立場上であれば神の代理であるリーヴァルが上のようだが、力は星獣が上だ。リーヴァル曰く、星獣は魔力そのもの。比べる方が馬鹿らしいとかなんとか。

「淀みを受けてない土地なら、まだリーヴァルちゃんの力を借りれる。問題は邪神がそこに現れた場合だ。
さすがのリーヴァルちゃんでも厳しいな」

「そうね。邪神が現れたということは柱の神子が消えたということ。回れてない街の盾は消えてるでしょうね」

「というわけで、僕達は1日でも早く邪神を封印しにいかなきゃいけない。
だから日が暮れる前に出て、今日の目標地点まで行くんだけどっと、どうぞ」

 扉がノックされクマの返事により開かれる。

「ミュリン!武器できたの?」

「ええ、あと防具ね。ステータスにある防具にセットすれば反映されるわ」

 言われたとおりステータスを開き、もらった防具をセットする。見た目は変わっていないがどことなく頑丈になった気がした。数値を見てみると全体的に上がっているようだ。

【ステータス

 HP 240/300
 MP     60/120
 攻   73
 防   66
 魔   480   】

「凄い上がってる!」

「ふふん、可愛い男の子のためよ。ちょっと頑張っちゃった」

「いつもありがとうね、ミュリン」

「神子様のご命令であればなんなりと」

 かしこまったのはやめて、とユリアが言うと彼女はリズと会った時と同じように抱きつきにいった。困った表情のユリアだが、満更なさそうな表情もしている。

「リズ君、ちょっといいかな?」

「ん?なにクマ」

「腕輪と、武器見せて」

「う、うん。わかった」

 言われた通りに出したままの武器と右腕についている腕輪を見せる。すると何かの魔法陣が浮かび上がり吸い込まれるように武器に入っていった。

「武器には僕の魔力が付与された場合、威力が自動的に上がるように魔術を仕込んどいたよ。
これならわざわざ強化の術を発動しなくても良いでしょ?」

「なるほど。腕輪の方は?」

「通信機みたいな感じかな。容量余ってたから勿体無いなーって。
ほら、通常の通信機だと場所によっては通じ難いでしょ?ところがどっこい、僕の魔力を込めた通信機はどこでも調子がいいのだ」

 ドヤ顔をしているようだが、実際の話かなり凄いことをしているのは事実だ。嘘くさく見えるのは見た目と発言する度についてくる動きのせいだろう。

「それじゃ、私はこのあたりで失礼するわ。いつもより多くもらっちゃったから、午後はお休みにしようかしら?」

「それがいいよ。
素敵なお店を見つけたら紹介してよ?
ミュリンと行くの楽しいから」

「任せなさい、とびっきりのお店を見つけてくるわ」

 そんな会話が聞こえてリズは慌てて扉前まで追いかける。

「武器と防具を作ってくれてありがと!」

「どういたしまして。大切に使ってあげてね」

「うん!」

 それじゃ、と改めてみんなに挨拶をして扉が閉められた。

 その後は地図を開き次の目的地について話を始めた。ここから近いのは風の星獣。といっても1日かかる距離なため、途中の村まで歩きそこで一夜を過ごす。到着予定時刻は昼過ぎだ。
 
 話がまとまると各自装備や持ち物の確認をして王都を後にした。

「・・・・」

「リズくーん!置いてくよー!」

「今行くー!・・・行ってきます、兄様・・・父様」

 深くお辞儀をして、駆け足で待ってるみんなのところへ走っていく。だからこそ気が付かなかった。リズの背後に1匹の蝶が飛んでいたことに。


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