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 翌日、村を後にして遺跡の前に到着した神子一行。風の星獣が眠っているからか、遺跡全体が風に包まれている。

「これどうやって入るんだ?」

「そこに石版があるでしょ?神子と精霊使いが石の上に手を置くんだ」

 言われたとおりにユリアが手を置き、続いてリズも置く。風が弱まる気配はなく、むしろ強くなっている気がする。
 しかし、ガコンッと音が鳴りどこから聞こえたのかと辺りを見渡すと急な浮遊感が襲いかかる。

「・・・床が無くなってる?!」

「クマ!着地点に向かって風を!」

「りょーかい!」

 ユリアがすかさず指示をしてクマは真下へ風を放つ。上からも風がきて落ちる速度が増していくが、着地点が見えたタイミングでクマが放った風が皆に届き、ゆっくりと地面へ足をおろした。

「そういえばこんな仕掛けだったわね」

「忘れてたの?!僕がいたから良かったけど、危なかったからね?!」

「ま、まあでもみんな無事だったしよかった」

「警戒を緩めるのはまだ早い!」

 リズがクマを落ち着かせているとユリアが構えを取る。同様に警戒を強めると魔物の唸り声が真横で聞こえた。

「・・・クマ!横!」

「障壁!からのライト!」

 すぐに壁が作られぶつかる音が聞こえた。近づかなければ見えないほどの暗さを補うように光の玉を天井へと発動。空間全体が明るくなり周りにいる魔物を目視できるようになった。

「こいつら明かりに弱い魔物だ!今怯んでるからたたみかけれるよ!」

「ならいっちょ、ド派手に行くとするか!リーヴァルちゃん!」

 リーヴァルの体がカルシアと重なって消えていく。それと同時にカルシアの髪の色が黄色へと変わる。

「モード サンライト!」

 拳を合わせるとカルシアの目の前に刀が形成されていく。リズは出来上がった刀を見てなんて暖かい光なんだと感じた。眩しいことは確かだ、だがそれ以上に優しさを感じる。まるで母に愛の抱擁をされているような。

「クマ!皆を囲んどけ!」

「遺跡壊さないでよ!シェルター!」

「おうよ!いくぜリーヴァルちゃん!」

【ええ。・・・浄化の剣で安らかに眠りなさい】

「天へと還りな!」

 刀が更に輝きを増していき横へ一閃、撫でるように振られた。そしてゆっくりと刀が鞘に戻されたのと同時に魔物が倒れ消えていく。

「いっちょあがり!その名も一閃斬りってな」

「変な技名決めないで貰えるかしら?」

「変かどうかは置いといて2人ともありがとう」

 定位置に戻ったリーヴァルの言葉に苦笑いしながらユリアが話しかける。クマとリズは落ちている戦利品を回収しながら進める箇所を探し始める。

「リズくん、精霊と星獣は似たような存在ってのは夜に話したね?」

「ああ。星獣は精霊の最終進化系だったっけ」

「正解、よく覚えてるね。それで星獣がいる遺跡にはその星獣の属性に関わる精霊が多くいるんだ。
ここは風の星獣だから風の精霊が多い」

「なるほど・・・つまり、精霊に協力を求めて道を探せってこと?」

「大正解!いくら光を照らしても分厚い風があると通せないからね。自分の力を有効活用していかないと」

 そう言いながらクマは光の玉を奥へと投げる。最初こそは照らしていたが奥に進むにつれ薄くなっていき最後には消えてしまった。

「昨日力を借りたようにやってみよっか」

「わかった。・・・風の精霊よ、俺達に道を示せ!」

 風が開いていく音が聞こえる。見た目は開いたのかはわからないが、クマが再び光の玉を投げると薄れ消えゆくことなく真っ直ぐに進み続ける。そして、一番奥の壁にたどり着いたのかそれ以上小さくなることはなかった。

「うんうん、精霊との協力も順調だね。3人ともー!道があったよー!」

「階段か?」

「うん、上にいく階段だね」

 みんなが集合したのを確認し上へとあがる。先程の空間よりも明るく、そして行き止まりだった。

「これは隠し扉か階段があるね」

「壁画しか見当たらないけど・・・」

「ちっちっちっ、ユリアはまだまだだね。
こういった壁画に仕掛けが施されてるんだよ!」

「どことなく楽しそうね・・・」

 壁画を改めて見てみると、人の上に丸いモヤがある絵、それを大きな獣にささげている姿の絵、大きな獣の上に丸いモヤがある絵となっている。これを見ただけで仕掛けがあるようには見えないとリズが首を傾げていると、

「これ、逆じゃないかな。これが星獣であると仮定するとこの人間は神子。つまり、星獣から力を貰っている神子の絵になるんじゃないかな」

「・・・確かに、そう言われてみればそう見えるかも」

 左から見ていたのを右から見直してみるとユリアの説明も頷ける。

「クマの言葉で仕掛けを気にしちゃったけど、この絵のとおりにココで力を貰えばいいんじゃないかな。どう?リーヴァル」

「なぜあたしに振るのかしら」

「だってリーヴァル、前回の神子の時も一緒に同伴したでしょ?」

「・・・ええ、そうね。でも覚えていないわ。それが正しいと思うのならやってみなさい」

「うん、やってみるね」

 中央に膝をつき手を合わせ祈りの姿勢になる。
心の中で声をかけているのだろうか、しばらくしてユリアの体が光る。1回、2回と光ると消え、聞こえていた風の音がピタリと止んだ。

《・・・声が聞こえたな》

「風の星獣、シルフィード。我が名はユリア。
世界を護る神子として、契約に参りました」

《神子?・・・そうか、また廻るのか》

「はい、また、廻ります」

 緑の光る玉が明るくなっては暗くなる。

 これが星獣?壁画に書かれている大きな獣の姿ではない、むしろモヤのような形に似ているような。

 リズが疑問を感じている間も話は続いていく。その間、他のメンバーは喋ることなくその光景を見ているだけだ。

《よかろう、神子ユリアよ。この力、見事使いこなしてみよ》

「はい、ありがとうございます。星獣シルフィード」

 光る玉はユリアの胸に入っていき、緑の光に包まれる。次第に薄くなっていき完全に消えたところでユリアは立ち上がった。

「お待たせ!クマの冒険脳は大ハズレだったね」

「次こそ隠し階段があるはず!!」

「馬鹿やってないでさっさと上に上がるわよ」

「どうやって上にいくんだ?」

「クマの転移を使うの」

 リーヴァルに指摘され歩き出す。転移とは本来大きな移動は出来ない。多くの人を遠い場所に転移させる場合、それなりの機材を用意しなければならない。
 だが、このクマ。自身で転移を変換させ、自身が訪れたことがある場所に移動できるようにしたのだ。天才魔術師と呼ばれるはずなのだが、見た目のせいか態度のせいかはたまた両方のせいか、ただの変人としか見られない。

「それじゃあサクサクっと転移!」

 瞬きをしてる間に遺跡前に移動した。

「次はこの街を経由して水の星獣に会いに行きましょ」

「この街まで2日かかるから一旦王都に戻って馬車を借りようか。確か途中に何ヶ所か村無かった?」

「この道を使ったことないから私は分からないわ。カルシア、リーヴァル2人は?」

「あたしは知らないわね」

「俺も記憶にねぇな」

「馬車の人なら知ってるかもだね、王都まで転移!」

 流れるように王都へ転移した。戦闘に慣れるために転移を軽々使わない!とユリアがクマに叱ってるのをよそにカルシアが馬車を借りる手続きに向かった。

「ここが、俺が生まれた場所、か・・・」

 こうして改めて王都を見渡すのは始めてだ。外の喧騒は聞こえていたし、窓から外の景色は見えていた。それでも地面に足をつけて歩くのはなかった。

「坊主、あそこで喧嘩してる2人に準備できたって言ってきてくれるか?」

「ん、わかった」

 喧嘩、というよりかユリアに怒られているクマだが、2人の元にかけよっていく。

「2人と・・・蝶?」

 ヒラヒラと目の前を通り過ぎていく黒い蝶。気がつけばその蝶を追いかけていた。人混みをかき分け、路地へ入り人気が少ないところまでやってきた。
 黒い蝶は1人の少女の指に止まった。

「君は・・・」

《よく来た、今生の神子》

「今生の、神子?何を言って」

《我が名は星獣シャドウ。星獣であるが故、見分けることは容易だ》

 少女はニコリと笑う。星獣がこのような場所にいるはずがない。それに自分は神子ではないと、言葉を紡ぎたいのに、目の前にいる少女であるはずの何かに恐怖を抱いてしまう。

《あやつに気が付かれてはならぬ。早々に契約を開始する》

「え?!待って、俺神子じゃなっ」

 少女の指に止まっていた蝶が、リズの体を通り抜けた。その瞬間、彼の中で膨大な魔力が入ってくるのを感じた。

「なっ、にこれ」

《契約とは我の魔力を与えるということだ。これで我の力を使えようぞ》

 脳内でシャドウの声が聞こえる。それと同時にシャドウだと思っていた少女がその場に倒れ込んだ。

《ああ、そのおなごは依代にしただけだ。すぐに起きるだろう》

「え?!思っきり倒れたよ?!怪我してないかな」

《今生の神子よ、あやつが来る。我のことは伝えるなよ?》

「は?!てか、神子じゃないって!説明しろって!」

 少女を支えながらシャドウに訴えるも反応が返ってこない。

「リズくんいたいた!」

「クマ!」

「こんなとこで何やってるの?」

「それが今」

 シャドウっていう星獣が、

「女の子が怪しいやつについてくのが見えてさ」

 俺のことを今生の神子とか言って、

「心配になって追いかけたら、危ないとこだったんだ」

 契約してしまったんだ。

「気絶しちゃったし、どうしようかなって」

「・・・そっか、リズくんってば小さいのにかっくいー!」

「うるせ!」

 心の中では伝えようとしていたのに、口からでた言葉は少女の事だけ。シャドウに忠告されたからではない、クマを見て言ってはいけないと感じてしまった。

「近くに保護施設があるからそこに預けよっか!」

「わかった。ありがと」

「子守はリズくんだけで勘弁っあいた!殴らないで!痛い!」

「見た目は子どもでも中身は成人しとるわ!」

 とりあえず3発程腰に拳をいれておいた。


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