魔攻機装

野良ねこ

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第四章

4-19.広い世界で重なるもの

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 格納庫に鎮座する一機の魔攻機装ミカニマギア。傷一つない滑らかな装甲は桃色を薄く塗布した派手さに欠けるメタリックカラー。桜色の機体の名は【イザイラム】、ニナが設計から製造に至るまでの全てを自分の手で行い、ようやく後一歩で完成となるまで漕ぎ着けた我が子とも言える愛機である。

「やっとです」
「ニナらしい可愛い色に仕上がったね」
「え?何て言いました?」
「ニナらしい可愛い色に……」
「ニナ……可愛い?」
「色の話しなんだけど……」
「じゃあ私は可愛いわけではない、と?」
「言ってない!言ってないからっ!」
「…………」
「ニナは可愛いよっ!もちろん!!」
「それはよかったです」
「……ねぇ、最近性格変わってきてない?」
「ニナはニナのままですよ」

 誰彼かまわず他人を受け入れる人当たりの良い人というのは得手して真の己を晒さず広く浅く人付き合いをする者が多い。しかし、他人をなかなか受け入れない者ほど受け入れられた時には心が大きく開かれるもので、後者であるニナもコレに該当していた。
 加えてニナ自身がルイスに異性としての好意を懐いていることが拍車をかけ自分を晒すことに躊躇がなくなってきている。

 エルフである彼女ほど他人を受け入れることに抵抗を示さないにしろ、それを受ける側のルイスもまたニナと同じサイドの性格。似た者同士とは得てして惹かれ合うものなのかも知れない。

「それはそうと、後は武器が揃えば完成なの?」
「ですね。お師匠さん達に頼んだのですが『最高の仕事をする』とか言ってなかなか完成させてくれないのです」

 ルイスの武器は刃幅三十センチ、刃渡り百五十センチと稀に見る大振りの大剣。
 わざわざドワーフという最高の鍛冶師に槍を作ってもらったというのに「あっ、良い物あるじゃない」とか何とか言いながら、三本ともを材料に使われ剣へと造り変えられてしまった。全ては意外と我儘な性格が露呈してきた【アンジェラス】の気分なのである、ナムナム……。

「ちなみにどんな武器なの?」

 片方は百七十センチ、もう片方は八十センチと、細長い円錐が対となった白銀の双頭ランスを持つレーンの【オゥフェン】。
 ディアナの【エルキュール】は金のレイピアを二本、グルカの【キャサリン】は四メートルの木棍を、シェリルの【キリア】は二メートルの槍を装備している。

 それぞれの操者ティリスチーが得意とする武器を持っているのが魔攻機装ミカニマギアなのだが、戦う姿が想像の付かないニナは何を装備させるのかという疑問はルイスでなくとも持つことだろう。

「気になります?」
「うん、気になる」
「じゃあ教えてあげましょう。【イザイラム】完成の最後のパーツは弓です」

 銃の弱点といえば装填された弾を撃ち尽くしてしまえば補給が必要になるという点。マガジンの交換によりそれを最小限に補う銃とは違い、矢を筒に入れて持ち運ぶ弓はおいそれと補給をすることが出来ない。
 撃つ際に溜めを必要とする弓は銃より魔法が乗せやすく強力な攻撃が可能ではあるものの、矢が尽きればそれまでの弓という武器を主に据える魔攻機装ミカニマギアなど特殊な場合を除けば考慮にも値しない。

「そ、そう……それが出来れば完成なんだから早く造ってもらえると良いね」
「全くもってその通りです」

 弓の弱点など言わなくても分かるはず。それに【イザイラム】の製造にはディアナの助言も反映されているだろう。と、なれば知識のない自分が口を出すべきではなかろうと結論づけたルイスは言葉を濁すに止め、日課である『二人だけの時間』を楽しむため話題を切り替えた。


▲▼▲▼


 現在地は地上からおよそ十キロの高高度。重力制御機構グラビティゼダー加圧粒子噴出装置パルティカル・プラティスマにより空を駆けるミネルバは、新たに導入された抵抗大気緩和機構アンチソリエボンにより迫り来る空気を切り裂き大気の流れが安定し始める遥か上空まで到達することが可能となった。

 リヒテンベルグ帝国の遥か上空を北へ北へと進路をとるレーン御一行、共に行くのは仕事の依頼人である諜報員ユースケだ。
 目指す場所は帝国の北に隣接するビスマルク。小国ながらも、世界最高峰と絶賛される茶葉の原産国として商人や上流階級の者達には名を通す、知る人ぞ知る紅茶の国である。

「楽になったのは良いが、コレは眠気との闘いだな」
「贅沢な悩みですね、お嬢様?」

 微笑むカーヤから紅茶の差し入れを受け取るシェリルは運転中だというのにミネルバを制御するハンドルから両手を離してしまっている。

 元来の設計ではハンドルを通して運転手の魔力を動力部へと送っていたのだが、メインパネル内の地図をタップして目的地を設定すれば勝手に進路を調整してくれるという画期的なシステムの実装によりハンドルを操作する必要がなくなってしまったのだ。
 これを受けて新たに導入されたのが座っている椅子から魔力を伝導させるというしんシステム、もとい、新システム。障害物のない飛行時に限られるが、ただただ座っていれば良い運転など楽にも程があり、逆に暇を持て余す。

「んん?……これは、戦闘なのか?」
「土埃が巻き上がって……あっ、今のは爆発のようですね」
「そうみたいだな」

 ここぞとばかりに横から画面を覗き込んだカーヤが主人たるシェリルに身体を密着させる。国にいた頃ではあり得ない従者らしからぬ軽率な行為ではあるものの、当のシェリルは何も言わないどころか迷惑そうな顔すら見せずに極々当たり前のように画面を操作していく。

魔攻機装ミカニマギアと人との戦いのようだな」
「レジスタンスか何かでしょうか?」

「レジスタンスぅ?」

 背後からの声にキツネ耳をビクリッ!と大きく震わせたカーヤはシェリルに接する態度が普通ではないと分かっての行動であるらしい。
 至福の時間を邪魔されムッとする感情を抑えつつ、他人には分からないほど僅かにだけズレた大きな丸メガネを中指で直す。それは自分の間を作るための一呼吸だった。

「あぁ。暇だったのでな、何か面白いものはないかと地上をモニターしていたのだ。そうしたらコレだよ。人間の国は平穏だと聞いていたが、帝国では度々このような戦闘があるものなのか?」

魔攻機装ミカニマギア同士の決闘なら偶にあることだけどコレ、集団戦闘よね……ん?ちょっとゴメン」

 連続した爆発が見られるのは木の疎らな森の浅い部分。見え隠れするモスグリーンの機体は帝国の特務部隊によく見受けられるカラーリング。その魔攻機装ミカニマギア相手に対人用の爆弾を使い銃で応戦するなど愚の骨頂、子供でも無駄だと知っている馬鹿な行為だ。
 しかし、更に拡大された画面に木々を縫うようにして移動する他の機体が見受けられるのならば話しは変わってくる。

 魔攻機装ミカニマギアが展開する魔力障壁パリエスを破ることは銃器や爆弾ではほぼ不可能。しかしこの魔力障壁パリエスは無敵というわけではない。

 魔攻機装ミカニマギア自体の性能、操者ティリスチーの能力、そして操者ティリスチーの精神状態により強度が変化する魔力障壁パリエスは、その三点により展開出来る量も変わってくる。
 分かりやすく言うなれば……一方からだけの攻撃であれば厚さ十ミリの魔力障壁パリエスが展開できるとしよう。しかし五方向から銃撃を受けた場合には、それぞれの銃弾を防ぐのに五分の一たる二ミリずつの魔力障壁パリエスを展開することになるということ。

 銃弾や爆弾程度であれば例え全方向から攻撃されたとてまず間違いなく魔力障壁パリエスが勝つが、一方からの攻撃を全力で防ぐ横から同じ威力の攻撃を同時に受けた場合、魔力障壁パリエスが展開されることなくダメージを負うこととなる。
 つまり、魔攻機装ミカニマギア入り混じる集団戦では如何に仲間と連帯して多対一の状況に持ち込めるかが勝利の鍵となるのだ。

 これを利用した戦法が眼下で繰り広げられるゲリラ戦だ。生身の兵士が放つ銃弾で気を逸らし、その隙に魔攻機装ミカニマギアを纏う者が強襲をかける。それで仕留められれば上場。だが真の狙いは魔攻機装ミカニマギアの攻撃で全力の魔力障壁パリエスを展開させ、その隙を突いて装甲のない剥き出しの生身部分に銃弾を撃ち込む作戦。
 言うは簡単だが相手は意志のある人間。当然のように思惑を読んでくる上に動き回る的にマッチした位置取りなどおいそれとできるものではない。

「ええっとぉ……誰か嘘だって否定してくれない?」

 目を瞑り、眉間を揉み解すディアナは己の目を疑った。凝視する画面にチラ見えするのは相対する帝国兵と同じく色と形の揃う魔攻機装ミカニマギア達。恐らく五機いるだろうその集団に見覚えがあるのは、自らが手を加えて改良を施したからに他ならない。元気にやっているのならそれで構わない。しかし、広い世界の一角で約束もなく再び巡り会った。しかも彼らと別れるキッカケとなった帝国兵に追われている状況で。

「ゴメン、急ぐのは一旦中止。あそこに降下してくれるかしら?」


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