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第四章
4-9.ご注文のスペシャルドリンクです
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雲などほとんど見当たらない澄み渡る空、そこは穏やかな光を降らせる太陽の独断場である。
スカイブルーと称される薄水色と世界を二分するのは、燦々と照りつける光を乱反射させる上質なサファイアのように美しい深い青色。それは世界最大の湖【リグラントミレ】の恵みの色だ。
「亀がいたぁ~っ!」
「しかも、ペアリングしてるなんてなかなかお目にかかれないと聞きました」
「小魚の群れも凄かったぞ」
「ルイス、もう一回行こう?」
穏やかな波間に顔を出したのはノルン、カーヤ、シェリルの獣人三人と、ニナにルイス。
皆、お揃いのゴーグルを顔の上へと押し上げ楽しそうにはしゃぐ。それは感情の起伏が現れにくいニナとて同じことからも、五人が五人ともこの状況をおおいに楽しんでいることが見てとれる。
「待って、まだクールタイムが終わってない。そんなに焦らなくてもまだまだ時間はあるんだし、みんな、魔力も大丈夫でしょ?」
咥えていたマウスピースをはずして興奮気味の四人を宥めるルイス。彼の言うクールタイムとは酸素ボンベの充填時間であり、これが終わらないまま再び行くとなると素潜りとなるため十分に楽しむことができないのだ。
五人が居るのは湖岸から二百メートルほど沖合の地点。送迎してくれる小型のクルーザーに連れられたこの場所は海洋生物の宝庫であり、リグラントミレの観光名所の一つでもある。
「う~ん、この時間が焦ったい」
水中クルーズと名付けられたアクティビティは『アクアバイク』と呼ばれる魔導具を使う。だが早まるなかれ。バイクとは名ばかりでイメージされる車体はおろか座席なども当然無く、唯一あるのはハンドル部分のみの代物。
取り付けられている枕サイズの小型酸素ボンベと同じ大きさの本体。その真ん中にある棒状の持ち手へと魔力と共に意思を流し込めば、両端に取り付けられている掌サイズのモーターが回り、水の中を自由自在に動き回ることができる。
最大速度も時速五キロとなかなかに早く、更に速い上位機体を使ってのスポーツは国を挙げての大会が行われるほどモアザンピークではメジャーな存在だ。
「お嬢様、待つのも大切なことですよ?」
およそ十五分の供給量である小型酸素ボンベは、水上に出てから五分間の充填時間を必要とする。赤、黄、緑の三つのランプの内、赤色が点滅している今は操者も休憩をする時間だ。
微力とはいえ魔力を使って動くのは魔導具であるアクアバイクとて例外ではない。夢中になって深く潜りすぎるのを防ぐためにも、客の安全を確認するためにもこの時間は必要不可欠であり、国から定められた安全基準でも決まっていたりする。
「そんな時はさぁ、暇つぶしをすれば良くなぁ~い?」
ここは湖上、当然のように全員水着姿だ。いつもは顔を覆っている覆面も今はなく、人目を惹く八重歯を光らせたノルンの素顔にドキリとしたのも束の間、突然その姿が水の中へと消え失せてしまった。
「ねぇルイスぅ~、誰の身体が一番好みぃ?」
「ちょっ!!ノルンちゃん!?」
水の滴る三角の耳をピクピクとさせながら、捕まえたルイスの腕をこれ見よがしに抱き込むノルン。当然、ツルスベな柔肌や、意図として押し付けられた双丘が男心を刺激する。
だがそれどころではないとばかりに慌てて押し退けようともがくルイスは、必死になりすぎたあまりアクアバイクから手を離してしまう。
「ガボボボボボッ!」
そうなれば当然、沈み行くのが人間の身体。共に水中に没して尚、愉しげにルイスの様子を窺い続けるノルンだが、当のルイスは二重の混乱により本気で溺れかけている。
「で?本音はどうなんだ?」
「今聞いても答えなんて返ってきませんよ?その答えが知りたいのなら手を差し伸べてさしあげたらどうですか?」
「ふむ……」
どうにか脱出を図ろうと必死になってバタつかせていた右手に当たったナニカ。藁にもすがる思いでそれに掴まり無我夢中でよじ登れば、肺に閉じ込めた酸素が無くなる前に水面を割ることができた。
「ぷはーーーーっ! ハァハァハァハァ、死ぬかと、思った……ノルンちゃん、いい加減に離れてって、アレ?」
依然として左腕をホールドしたまま、にこやかな視線を外そうともしないノルンには物申したい。だがしかし、多少なりとも呼吸が落ち着いたところで右手が掴む柔らかな物体が何かと気になってしまったのだ。
「随分と今日は積極的だな。このまま次のステップを駆け上がるのか?」
ここは広大な湖の真っ只中。アクアバイク意外には掴まることのできるモノなど存在しない。
あるとすれば湖に浮かぶ彼女達自身……。
シェリルの声が聞こえるのはノルンとは反対である右手方向。これに加えて捕まっている左手と似たような……いいや、右手から感じられるのは掌に当たる布のような感触と、五本の指が沈み込むそれより遥かに柔らかな触感。
──こ、これはつまり……
恐る恐る首を回せば笑顔の彼女と無表情のカーヤ。思い過ごしであってくれ!と願いつつも視線を下げてみれば、シェリルの胸を鷲掴みにする己の右手がある。
それを確認した途端、サーっと音が聞こえるほど血の気が退くのをルイスは感じた。
「ごっ!ごごごごごめんっ!!わざとじゃ……っっ!?」
謝罪と同時に慌てて手を離す。だがそれを見越したシェリルがルイスの右腕を捕まえ抱き寄せる。
両腕を水着姿の美女、美少女に抱かれるルイス……羨ましい限りだっ!!
「………………」
冷ややかな目で不服を訴えるカーヤと同じく、先ほどとは違い温度の下がった顔を向けていたニナは誰にも気付かれないほど小さな溜息を漏らす。
そして向けた視線の先には豆粒ほどにしか見えない色鮮やかなパラソルの群れがあった。
△▽
グルカを家族の元に送るべく王宮にアポイントを取ろうとしたところ『大事なお客様が居るから明日にして』と断られた。
大人しく引き退がった理由、それは、来ている客というのがリヒテンベルグの高官だったからに他ならない。
説明などなくとも、自分達がモアザンピークへ避難させられた理由を正確に把握しているグルカの家族。そのグルカが訪ねて来るという意味を理解したその妻シーリルは、早く夫に逢いたい想いを押し殺してでも一日という時間を置くことにしたのだ。
その空いた時間を使うべく訪れたのが首都アメイジアにあるシェーンプラージュ。長く続く白い砂浜に沿うよう乱立する宿泊施設群である。
空に、湖上に、水中に、と様々なマリンアクティビティが楽しめる、世界最大の湖【リグラントミレ】に在るなかでも他国から訪れる人々も多い人気の観光スポットだ。
「ねぇ、レーン。そろそろお腹空かない?」
オレンジに寄り添うように立てられた真っ赤なパラソルの元、並べられた三つのリクライニングチェアーに身を横たえたディアナは半身を起こすと、その隣に横たわる金髪の男に寄りかかるようにして顔を近づける。
「わたくし、今日はお肉な気分ですの。情熱的な夜を過ごすには体力も精力も必要、でしょう?」
まっ黒なサングラスをずらしてディアナを見るレーンの更に向こう、ディアナに負けず劣らずの魅惑的なボディを生地の少ないオレンジ色の水着に押し込めた黒髪女が意図としない返事を返してしてくる。
「アンタには聞いてないっつぅーのっ!っつか、いつまでここにいるのよ!早よ帰れ!!」
「わたくしの行動は他ならぬわたくし自身が決めますわ。貴女にとやかく言われる筋合いは無くってよ?」
「私に筋が無いんだったらぁ、アンタにはレーンの隣に居る資格が無いんだからっ! だってぇレーンわぁ私のものだしぃ~」
「あ~ら、貴女がレーンの恋人なのは認めてあげるけど、貴女一人が彼の特別だと誰が決めたのかしらぁ? 今まではたまたま独り占め出来ていたかもしれないけど、それがこれからもずっと続くなんて思わないことね」
「ま~あ~?レーンほど魅力的な男は他にいないしぃ?独占できなくなる可能性は考えないわけじゃないけどぉ?あたしレベルの女ならいざ知らずぅ、貴女じぁ~無理だから……さっさと帰んなさいっ!!」
「言うに事欠いてわたくしが貴女以下ですってぇ!?このおっぱいお化けがぁぁっ!」
「路端に転がってる石ころ以下なのよ貴女はっ!身の程を弁えなさいっつってんの!!」
「わたくしが石ころなら貴女は塵以下よっ!!」
「何おぉ~っ!!」
「何なのよっ!!」
「「むぅぅ~~っっ!!」」
額を突き合わせた美女二人が互いを睨みつけ、怒りに目を血走らせる。なかなかお目にかかれない光景ではあるものの好んで見たいと思うのはよほどの変わり者だろう。
「やめろ」
すぐ目の前で繰り広げられる光景。美しき女同士の醜い争いにはため息を吐きたくなる。正にそんな状況を改変すべく、望んでもいない観劇を強要されたレーンは己の欲求を短く告げた。
「「は~い♡」」
するとどうだろう。今にも殴り合いに発展しそうだった剣呑な雰囲気など何処へやら、同時に振り向いた二人の顔は満面の笑みに満たされている。
結局、小さくため息を吐き出したレーン。その程度で収まるのなら最初からやるなと言いたい気持ちは分からんでもないが、元はと言えば二人ともを愛でるすけこまし行為が招いた結果なのだ……ざまぁみろ!
「小腹が空いたのは確かだし、なにより喉が渇いた。ここでまったりしているのも悪くないが、そろそろ場所を変えるとし……」
「いや~お兄さん!今、喉が渇いたって言いましたよね?」
隙間なく並べられたリクライニングチェアはベッドに見えなくもない。ここが屋外であり、多くの者が様々な目的で混在する公共の場だとはいえ、水着という裸に違い姿でイチャつくカップルの間に分け入るなど無粋もいいところだろう。気を遣って近付かないのがモラルだとも言える。
「あ゛?」
「っ!」
「あなた……」
だが、そんな常識などものともせず、人当たりの良さそうな笑みを浮かべた男は両手で持つ銀のトレーを三人の前に突き出す。
そこには示し合わせたかのような三つのグラス。
リゾート地で提供されるに似つかわしくない、何の装飾も工夫も無いただの容れ物。洒落っ気の欠片もないコップと表現して差し障りのないソレを満たしているのは、意図的に飲む気を削ぐように仕向けているのではなかろうかと疑いたくなるような緑の液体。
「ご注文のスペシャルドリンクです。どうぞご賞味ください」
スカイブルーと称される薄水色と世界を二分するのは、燦々と照りつける光を乱反射させる上質なサファイアのように美しい深い青色。それは世界最大の湖【リグラントミレ】の恵みの色だ。
「亀がいたぁ~っ!」
「しかも、ペアリングしてるなんてなかなかお目にかかれないと聞きました」
「小魚の群れも凄かったぞ」
「ルイス、もう一回行こう?」
穏やかな波間に顔を出したのはノルン、カーヤ、シェリルの獣人三人と、ニナにルイス。
皆、お揃いのゴーグルを顔の上へと押し上げ楽しそうにはしゃぐ。それは感情の起伏が現れにくいニナとて同じことからも、五人が五人ともこの状況をおおいに楽しんでいることが見てとれる。
「待って、まだクールタイムが終わってない。そんなに焦らなくてもまだまだ時間はあるんだし、みんな、魔力も大丈夫でしょ?」
咥えていたマウスピースをはずして興奮気味の四人を宥めるルイス。彼の言うクールタイムとは酸素ボンベの充填時間であり、これが終わらないまま再び行くとなると素潜りとなるため十分に楽しむことができないのだ。
五人が居るのは湖岸から二百メートルほど沖合の地点。送迎してくれる小型のクルーザーに連れられたこの場所は海洋生物の宝庫であり、リグラントミレの観光名所の一つでもある。
「う~ん、この時間が焦ったい」
水中クルーズと名付けられたアクティビティは『アクアバイク』と呼ばれる魔導具を使う。だが早まるなかれ。バイクとは名ばかりでイメージされる車体はおろか座席なども当然無く、唯一あるのはハンドル部分のみの代物。
取り付けられている枕サイズの小型酸素ボンベと同じ大きさの本体。その真ん中にある棒状の持ち手へと魔力と共に意思を流し込めば、両端に取り付けられている掌サイズのモーターが回り、水の中を自由自在に動き回ることができる。
最大速度も時速五キロとなかなかに早く、更に速い上位機体を使ってのスポーツは国を挙げての大会が行われるほどモアザンピークではメジャーな存在だ。
「お嬢様、待つのも大切なことですよ?」
およそ十五分の供給量である小型酸素ボンベは、水上に出てから五分間の充填時間を必要とする。赤、黄、緑の三つのランプの内、赤色が点滅している今は操者も休憩をする時間だ。
微力とはいえ魔力を使って動くのは魔導具であるアクアバイクとて例外ではない。夢中になって深く潜りすぎるのを防ぐためにも、客の安全を確認するためにもこの時間は必要不可欠であり、国から定められた安全基準でも決まっていたりする。
「そんな時はさぁ、暇つぶしをすれば良くなぁ~い?」
ここは湖上、当然のように全員水着姿だ。いつもは顔を覆っている覆面も今はなく、人目を惹く八重歯を光らせたノルンの素顔にドキリとしたのも束の間、突然その姿が水の中へと消え失せてしまった。
「ねぇルイスぅ~、誰の身体が一番好みぃ?」
「ちょっ!!ノルンちゃん!?」
水の滴る三角の耳をピクピクとさせながら、捕まえたルイスの腕をこれ見よがしに抱き込むノルン。当然、ツルスベな柔肌や、意図として押し付けられた双丘が男心を刺激する。
だがそれどころではないとばかりに慌てて押し退けようともがくルイスは、必死になりすぎたあまりアクアバイクから手を離してしまう。
「ガボボボボボッ!」
そうなれば当然、沈み行くのが人間の身体。共に水中に没して尚、愉しげにルイスの様子を窺い続けるノルンだが、当のルイスは二重の混乱により本気で溺れかけている。
「で?本音はどうなんだ?」
「今聞いても答えなんて返ってきませんよ?その答えが知りたいのなら手を差し伸べてさしあげたらどうですか?」
「ふむ……」
どうにか脱出を図ろうと必死になってバタつかせていた右手に当たったナニカ。藁にもすがる思いでそれに掴まり無我夢中でよじ登れば、肺に閉じ込めた酸素が無くなる前に水面を割ることができた。
「ぷはーーーーっ! ハァハァハァハァ、死ぬかと、思った……ノルンちゃん、いい加減に離れてって、アレ?」
依然として左腕をホールドしたまま、にこやかな視線を外そうともしないノルンには物申したい。だがしかし、多少なりとも呼吸が落ち着いたところで右手が掴む柔らかな物体が何かと気になってしまったのだ。
「随分と今日は積極的だな。このまま次のステップを駆け上がるのか?」
ここは広大な湖の真っ只中。アクアバイク意外には掴まることのできるモノなど存在しない。
あるとすれば湖に浮かぶ彼女達自身……。
シェリルの声が聞こえるのはノルンとは反対である右手方向。これに加えて捕まっている左手と似たような……いいや、右手から感じられるのは掌に当たる布のような感触と、五本の指が沈み込むそれより遥かに柔らかな触感。
──こ、これはつまり……
恐る恐る首を回せば笑顔の彼女と無表情のカーヤ。思い過ごしであってくれ!と願いつつも視線を下げてみれば、シェリルの胸を鷲掴みにする己の右手がある。
それを確認した途端、サーっと音が聞こえるほど血の気が退くのをルイスは感じた。
「ごっ!ごごごごごめんっ!!わざとじゃ……っっ!?」
謝罪と同時に慌てて手を離す。だがそれを見越したシェリルがルイスの右腕を捕まえ抱き寄せる。
両腕を水着姿の美女、美少女に抱かれるルイス……羨ましい限りだっ!!
「………………」
冷ややかな目で不服を訴えるカーヤと同じく、先ほどとは違い温度の下がった顔を向けていたニナは誰にも気付かれないほど小さな溜息を漏らす。
そして向けた視線の先には豆粒ほどにしか見えない色鮮やかなパラソルの群れがあった。
△▽
グルカを家族の元に送るべく王宮にアポイントを取ろうとしたところ『大事なお客様が居るから明日にして』と断られた。
大人しく引き退がった理由、それは、来ている客というのがリヒテンベルグの高官だったからに他ならない。
説明などなくとも、自分達がモアザンピークへ避難させられた理由を正確に把握しているグルカの家族。そのグルカが訪ねて来るという意味を理解したその妻シーリルは、早く夫に逢いたい想いを押し殺してでも一日という時間を置くことにしたのだ。
その空いた時間を使うべく訪れたのが首都アメイジアにあるシェーンプラージュ。長く続く白い砂浜に沿うよう乱立する宿泊施設群である。
空に、湖上に、水中に、と様々なマリンアクティビティが楽しめる、世界最大の湖【リグラントミレ】に在るなかでも他国から訪れる人々も多い人気の観光スポットだ。
「ねぇ、レーン。そろそろお腹空かない?」
オレンジに寄り添うように立てられた真っ赤なパラソルの元、並べられた三つのリクライニングチェアーに身を横たえたディアナは半身を起こすと、その隣に横たわる金髪の男に寄りかかるようにして顔を近づける。
「わたくし、今日はお肉な気分ですの。情熱的な夜を過ごすには体力も精力も必要、でしょう?」
まっ黒なサングラスをずらしてディアナを見るレーンの更に向こう、ディアナに負けず劣らずの魅惑的なボディを生地の少ないオレンジ色の水着に押し込めた黒髪女が意図としない返事を返してしてくる。
「アンタには聞いてないっつぅーのっ!っつか、いつまでここにいるのよ!早よ帰れ!!」
「わたくしの行動は他ならぬわたくし自身が決めますわ。貴女にとやかく言われる筋合いは無くってよ?」
「私に筋が無いんだったらぁ、アンタにはレーンの隣に居る資格が無いんだからっ! だってぇレーンわぁ私のものだしぃ~」
「あ~ら、貴女がレーンの恋人なのは認めてあげるけど、貴女一人が彼の特別だと誰が決めたのかしらぁ? 今まではたまたま独り占め出来ていたかもしれないけど、それがこれからもずっと続くなんて思わないことね」
「ま~あ~?レーンほど魅力的な男は他にいないしぃ?独占できなくなる可能性は考えないわけじゃないけどぉ?あたしレベルの女ならいざ知らずぅ、貴女じぁ~無理だから……さっさと帰んなさいっ!!」
「言うに事欠いてわたくしが貴女以下ですってぇ!?このおっぱいお化けがぁぁっ!」
「路端に転がってる石ころ以下なのよ貴女はっ!身の程を弁えなさいっつってんの!!」
「わたくしが石ころなら貴女は塵以下よっ!!」
「何おぉ~っ!!」
「何なのよっ!!」
「「むぅぅ~~っっ!!」」
額を突き合わせた美女二人が互いを睨みつけ、怒りに目を血走らせる。なかなかお目にかかれない光景ではあるものの好んで見たいと思うのはよほどの変わり者だろう。
「やめろ」
すぐ目の前で繰り広げられる光景。美しき女同士の醜い争いにはため息を吐きたくなる。正にそんな状況を改変すべく、望んでもいない観劇を強要されたレーンは己の欲求を短く告げた。
「「は~い♡」」
するとどうだろう。今にも殴り合いに発展しそうだった剣呑な雰囲気など何処へやら、同時に振り向いた二人の顔は満面の笑みに満たされている。
結局、小さくため息を吐き出したレーン。その程度で収まるのなら最初からやるなと言いたい気持ちは分からんでもないが、元はと言えば二人ともを愛でるすけこまし行為が招いた結果なのだ……ざまぁみろ!
「小腹が空いたのは確かだし、なにより喉が渇いた。ここでまったりしているのも悪くないが、そろそろ場所を変えるとし……」
「いや~お兄さん!今、喉が渇いたって言いましたよね?」
隙間なく並べられたリクライニングチェアはベッドに見えなくもない。ここが屋外であり、多くの者が様々な目的で混在する公共の場だとはいえ、水着という裸に違い姿でイチャつくカップルの間に分け入るなど無粋もいいところだろう。気を遣って近付かないのがモラルだとも言える。
「あ゛?」
「っ!」
「あなた……」
だが、そんな常識などものともせず、人当たりの良さそうな笑みを浮かべた男は両手で持つ銀のトレーを三人の前に突き出す。
そこには示し合わせたかのような三つのグラス。
リゾート地で提供されるに似つかわしくない、何の装飾も工夫も無いただの容れ物。洒落っ気の欠片もないコップと表現して差し障りのないソレを満たしているのは、意図的に飲む気を削ぐように仕向けているのではなかろうかと疑いたくなるような緑の液体。
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