魔攻機装

野良ねこ

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第二章 奇跡の光

2-7.狼藉者を成敗せよ

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 ルピナウスの中心から立ち昇った極太の黒煙は、余りあまった高熱により大気中の水分を押し上げキノコ状の雲を形成する。
 普段見ることのない異様な景色を彩るかのように上がり始めた細い煙の群れは時間を追う毎に増えており、獣人の国全域へと拡がっているかのように見える。

「【加圧粒子噴出装置パルティカル・プラティスマ】を使ったようじゃの」
「計算通り心地良い加速だったな」
慣性緩和機構サプレッシオの調整が甘いようだぞ?」
「あんなもの気休めだ」
「物理法則には逆らえぬて」
「気分転換かと思いきや違うようだぞ?」
「キノコ雲とはこれまた初めて見る代物だな」

 それとは別にルピナウスの一端から上がり始めた黒煙。ルイスの認識ではディザストロは単独であり、その情報を共有するレーン達もまた現状の理解に苦しんでいた。

「取り敢えず近い方に向かいなさい」
「はい、お姉さま」

 町が迫り見えてきた現実、少しだけ角度を変えたミネルバが目指す場所からは火薬を用いた爆発らしきものがいくつもの赤い炎を撒き散らす。
 その爆炎をものともせず炎を引き裂き現れたのは獣人国【ルピナウス】にあるまじき魔攻機装ミカニマギアを纏う男達の姿。しかもそれを攻撃しているのは獣人というのだから、どちらの肩を持つのかなど考えるまでもなかった。

「ディザストロが人間を手引きした?」
「たった一機ではたかが知れてる。世界を掻き乱そうってんだ、手下がいても不思議じゃないだろ?」
「数が多いわね。私とレーンで手早く雑魚を片付けるわ。ルイスとグルカは本命を探してちょうだい。
 いい?決して無理はしないこと。命があれば例えこの場で取り逃しても次がある、忘れないでね」
「コイツの面倒は任しとけ。よほどのバカをやらかさない限り死なせやしないさ」


△▽


 不審な魔攻機装ミカニマギアが暴れるのが家の疎らな町の端だったのは幸いした。そこは畑ではあるみたいだが、持ち主であるだろう獣人達が爆弾を使用している時点で発生する損害に糸目をつけてやしないはず。

「反転します、掴まってください」

 それほど切迫詰まった状況ならばと瞬時に判断を下したニナは、注意喚起をするなり巧みなハンドル捌きでミネルバの前後を入れ替える。

「マジか!!」
「うおおっっ!!」

 慣性を殺すための逆噴射に利用されたミネルバの後方で光を放つ加圧魔力装置ブーストエンジン。運悪くそこに飛び出した一機の魔攻機装ミカニマギアが派手な音を立てて吹き飛ばされたが、そこはご愛嬌だろう。
 実際のところあわよくばと意識したニナのファインプレーではあったのだが、各々が姿勢維持に必死になる車内でそのことに気が付いたのは誰一人としていなかった。

「レーン!」
「おうっ!」

 動きを止めたミネルバを飛び出したディアナとレーンは、外に出るなり紅と金の光に包まれる。

「新手か!?」
「くそっ! 数が多い!」
「撃て撃て!出し惜しみはするなっ!」
「人間なんぞに好き勝手させてたまるかよ!!」

 地を蹴った紅と金の魔攻機装ミカニマギアは撃ち込まれる銃弾などモノともせず、それぞれが目標とする金属の鎧へと向かって行く。


炎槍五重奏フラムドリィ・フェンデ


 目標とした機体のさらに奥、ディアナが放った炎は槍となり油断している魔攻機装ミカニマギア魔力障壁パリエスを叩き割る。

「なっ!?」

 その三機が予想外の攻撃に視線を向けようと首を回した直後、僅かな時間差で叩き込まれた二本目の炎槍の直撃を受けて大破した二機。
 運良く炎槍の数が足らず、難を逃れた男が唖然として紅い機体を視認した直後、ディアナの持つレイピアの一つが仲間の魔力障壁パリエスを叩き割るのを目撃することとなる。

 間髪入れず突き入れられたもう一方のレイピアが魔攻機装ミカニマギアの心臓とも言える頭部を串刺しにする。

「ぐあぁぁっ!!」

 それを目の当たりにし、目を丸くした次の時には横から撃ち込まれた複数の銃弾が己が身を穿ち、耐え切れない痛みが全身を襲う。
 いくら生身の人間には負けぬとはいえ魔攻機装ミカニマギアとて無敵ではない。良い気になって獣人達を蹂躙していた男だったが、ディアナに砕かれた魔力障壁パリエスが再生される前に攻撃されればひとたまりもないのだ。


四つ牙よ、穿てテセザンナ・ゲーラ


 ディアナの魔法と時を同じくして放たれた雷の魔法。当然のように加減など必要はなく、固まっていた三機へと直撃すれば一撃のもとに意識を刈り取り戦闘不能へと陥れる。

 世界中に存在する魔攻機装ミカニマギアは、低性能機を中心とした半数以上が火の魔石を元にして造られている。その優位となる属性である雷での攻撃は、大半の魔攻機装ミカニマギアへと効果が大きく出るのは当然のこと。

 例に漏れず火の属性であった男達の魔攻機装ミカニマギア魔力障壁パリエスなど無いかの如く呆気なく地に伏せた。
 それはオゥフェンの性能もあったのだが、操者ティリスチーたるレーン自身の七日に及ぶ鉱山での鍛錬の成果でもある。

「くっ!てめ……うがぁぁぁっ!!」

 その結果を横目に確認しながら、最初から目標としていた機体に肉薄したレーンは手にする白銀の槍を遠慮なしに突き入れる。
 甲高い音を立てて砕け散る虹幕。怯んだ一瞬の隙も見逃さず返した槍を振り上げたと同時、男の利き手は持っていた斧ごと宙を舞った。

「後で遊んでやるから大人しくしてろ」

 突然の乱入に驚いたのは魔攻機装ミカニマギアを纏う男達だけではない。

「なんだ?仲間割れか?」
「知らんっ!」
「何でもいいっ、利用できるなら利用しろ!」
「紅金以外を狙え!!」

 手早く魔攻機装ミカニマギアを倒して回るオゥフェンとエルキュール。二機に当てられ勢い付く獣人達。

 レーンとディアナを敵と認識した魔攻機装ミカニマギアを纏う男達は必死に応戦するも、機体性能でも操者ティリスチーとしての腕も負けていては勝ち目は薄かった。

 唯一の勝機は機体数の多さ。しかし混乱する彼等の統率が取れていないことから多対一とはなり得ず、一対一が繰り返されるだけの一方的な戦場。
 順番にやられるだけとなった男達の頭からは、先程まで良いようにいたぶっていた獣人のことなどすっかり抜け落ちている。

 背後から撃ち込まれる弾丸、投げつけられる爆弾など魔力障壁パリエスが全て防いでくれる。脅威となるのは目の前に現れた謎の魔攻機装ミカニマギア。コイツらをどうにかしないと自分達に未来はない。

 そう結論付けた矢先に飛び込む黄色い光り。


駆け抜ける稲妻アストラッピ・コラーレ


 レーンとディアナを優先して排除しようとした男達の考えは間違ってはいない。しかし、もう少しだけ周りにも気を使うべきであった。

 それは過信が故の慢心。

 貫通力に重きを置いた稲妻は、金属の鎧である魔攻機装ミカニマギアを伝い男達の間を駆け巡る。

「くぅぅっ……」

 与えたダメージは多少痺れる程度ではあるものの彼らの魔力障壁パリエスをことごとく砕いて回った稲妻。それが役目を終えて大気に還元されるのと、思惑通りの結果に満足したレーンが口の端を僅かに吊り上げたのはほぼ同時だった。


 撃ち込まれていたのが弾丸だけであればまだましな結果になったのかも知れない。

 魔力障壁パリエスが再生するまでの無防備な時間は腕から肩にかけての金属装甲の無い場所や、常態的に剥き出しとなっている前面部に被弾すれば致命傷となり得る。
 それでも一センチ前後しかない弾丸など急所に当たらなければ助かる見込みはある。

 もっと深刻なのは時折投げつけられる爆弾。直接的な殺傷能力は高くなくとも剥き出しの生身で爆風を受けたのなら皮膚は焼け爛れ、耐え難い激しい痛みから継戦能力を一撃で奪うことだろう。
 それがたったの一発で広範囲に効果を及ぼすのだ。言ってしまえば万全の魔攻機装ミカニマギア以外、つまり、生身の兵士や建物などにとって爆弾というのは狂気の塊なのである。

「があああああぁぁぁぁっ!」

 次々と倒れゆく魔攻機装ミカニマギアを纏う男達。ある者は銃弾に倒れ、ある者は爆弾の餌食となり、またある者は魔力障壁パリエスを展開させながらも圧倒的な力量差をまざまざと見せつけられ力ずくでねじ伏せられて行った。


△▽


「おい、お前たち」

 自分達の手伝いをしてくれた人間だが、その者達が敵か味方かと問われれば判別が付かないと答えたことだろう。

 王宮の爆破を知り、立昇る黒煙を見上げて唖然としていたところに押しかけた魔攻機装ミカニマギアを纏う男達。手当たり次第に娘達を捕らえ始めたソイツ等はまごう事なき “賊” の類であった。

 全てが地に伏せたものの、まだ息のある賊共を拘束具で縛り上げる。
 その最中にかけられた声に大半の獣人が手を止め顔をあげた。

「どういう経緯か知らねぇが、あとは任せても大丈夫だよな?」
「ああ、助かった、礼を言おう。だが君たちは人間だ。だから……」
「俺とお前は赤の他人だ、信用する必要なんてない。 ただ俺達はやりたいことをやっただけだ、大丈夫そうならもう行くぜ?」
「失礼なのは重々承知だ。しかし……」
「気にするな、じゃあなっ」
「ま、待ってくれ! せめて名前だけでも聞かせてくれないか?」

 背中へと投げかけた願いに動きを止め、少しだけ迷う素振りを見せた若い人間。
 それでも、男の動向を目で追うのみでこちらを見もしない女とは違い、半身を振り向かせた男はよく通る声で問いかけに答える。

「……俺はレーン、こっちはディアナだ。急ぐんでもう行くぜ?」

 颯爽と現れ悪党を退治するなり、風のように去っていこうとする若い二人組。謝礼はおろか感謝の言葉ですらどこ吹く風といった感じに受け流した彼らは、もしかしたらルピナウスに降りかかった厄災を振り払ってくれるやもしれぬと、居合わせた獣人全員が淡い期待に胸を寄せ二人の背中を見送るのだった。


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