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第一章 星が集いし町
21.笑い合える友はかけがえのない宝物
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量産の帝国機といえども、所属する部隊や個人の気質により扱う武器には違いがある。剣、槍、斧、ボウガン。代表的な物で言えばそんなところだが、グルカの手にする棍とてそう珍しい物でもない。
「糞がっ!正気か!? 今ならまだ間に合う、僕に協力し……」
不本意ながらも命令とあらばやむを得ないと腹を括った帝国の兵士達。それは町中に連れられた者達に限らず、エスクルサを包囲していた兵達にも及ぶ。
コロシアムの……いや、エスクルサの全住民との乱戦に突入した彼らは、勝てないのを分かりながらもグルカに挑み屍の山を作り出した……まぁ、誰一人として死んではいないのだが。
「口はいいから手を動かせ。ほらほらほらっ、集中しねぇと自慢の魔攻機装が壊れても知らねぇぞ?」
愉しげに棍を振り回す近衛騎士は、準備運動を終えて本命に臨む。
「反逆罪だ!」
「知らねぇつったろ?」
「そんなことがまかり通ると……おぶぅっ」
「手を動かせ、クソガキ」
「おま!?ちょっ!待っ……げふっ」
殺傷能力の低い棍。それが金属ですらなく木製ともなれば、金属製の鎧を纏ううえに魔力障壁に護られる魔攻機装戦において、相手を殺すなど容易いことではない。
しかし、宮廷十二機士たるアノカトの魔力障壁を一撃の元に叩き割るグルカ。その姿はまさに異様であり、関わり合いになりたくないとは思いつつも逃げ出すわけにも行かず、立ち行かなくなった帝国兵の一部が二人を中心とした円形の人垣を作り上げていた。
「前々から気になってたんだ。分不相応な権力と力を与えられちまった不幸なガキンチョ。
ひねたガキの教育は大人の仕事だ。叩いて伸ばして真っ直ぐにしてやるから安心しろ」
一手目で魔力障壁を叩き割り、魔力障壁が再構築される前の素早い二手目で根性を叩き直すためのお灸を叩き込む。
当然のように身を躱し、大剣を合わせ、距離を置いて再構築の時間を稼ごうと試みるヴォルナーではあるが、正に子供扱いするグルカはそれを許さず、二振りに一度は『喝』が入れられる。
公然なる教育が行われる一方で、チュアランを始めとするエスクルサと帝国兵の鬩ぎ合いは激化していた。
戦争に勝利するために開発された魔攻機装同士の戦闘は、グルカのように相手を黙らせるだけで済むはずがない。
敵を傷付け、行動不能にする。殺す事を目的とした武器やギミックは当然のように殺傷能力に優れ、コロシアム内の模擬戦のようにルールの無いこの内戦では互いに多くの命が失われていた。
『お前には他にやることがあるのだろう?』
一際豪華な黄色い魔攻機装と対峙する友、古さを感じさせるオリーブの鎧を身に纏うグルカと視線を交差させたチュアランは言外にそう告げられた気がした。
武器を交差させるヴォルナーですら気付かないほど僅かにシャクられた顎は『行け』という合図に他ならない。付き合いの深いチュアランだからこそ感じ取れる僅かなシグナルだ。
──レーンとディアナの元へ
近衛の隊長という立場のグルカが今この場に現れた。その意味を機敏に理解したチュアランは彼の意思を尊重し、残りの宮廷十二機士を相手にしているであろう二人の援護に向かうべく小さく顎を引く。
「リロイ、ドミニャスはどうした?」
「他でよろしくやってるようですよ? どうやら『純白の不死者』にやられた鬱憤が相当溜まってるようで、かなり派手に暴れているようですね」
最も簡単に帝国兵を薙ぎ倒した【リロイ】はチュアランの問いに淡々と答える。
この男はコロシアム三銃士の一人、チュアランの腹心と噂のある若い男。魅せる外見と実力とを兼ね備えるコロシアムのNo.2だった。
「それならそれで良い。リロイは俺と来い、イェルダンもだっ」
「ん?儂もですかい?」
三銃士の最後の一人である【イェルダン】は老齢の戦士。最年長を誇る歴戦の勇者はコロシアムの生き字引とも言われ、御歳七十歳にして未だ現役を貫く最強のお爺ちゃんだ。
「ああ、あと何人か適当に見繕え」
「どちらに?」
「この元凶の中心を叩く」
「ほほぅ、面白そうなお誘いですな」
顎髭を蓄える好好爺の容姿でありながら、白い歯を見せて片側の口角を釣り上げる姿は不敵であり、見る者の悪寒を誘う。
いくら歳月を重ねようとも……いや、長い年月を重ねたからこそ蓄積されてきた多くの経験が他者を震え上がらせる闘気として昇華されていた。
「ミトラ、チェル、この場はお前達にまかせた」
『模擬戦』という名目の荒事を管理するコロシアムには、戦いを行う戦士、その世話をする管理者と小間使い、そして、客として訪れる者に至るまでの全てが気性の荒い者に偏る傾向があった。
そんな荒野の入り口に咲く誰しもが美しいと認める一輪の花。
ウサギ獣人である受付嬢【ミトラ・カストレン】は、男達に押し負けぬ胆力と共に、物理的に言うことを聞かせられる操者としての腕前を兼ね備えた超優良物件だ。
そしてミトラと双璧を成すのが、コロシアムという組織に深く関わる者だけが知ることとなるチュアランの擁護するエルフ【チェル・キュベレィ】。表に出ることはなくとも護られる対価として秘書として働く彼女は、魔攻機装が無くとも魔法を使えるという種族特性が物語るように、華奢で儚げな見た目の印象とは裏腹に操者としても有能な女性である。
「「はいっ」」
己の抱える二輪の花の心地良い返事に満足すると、チュアランの視線は視界の端で忙しく動く白い魔攻機装へと向けられた。
「ルイス!」
見た目からして弱いと思い込まれているのが大きいのだろう。魔攻機装の色からしてヴォルナーが追いかけた重要参考人と認識されているルイスは、群がる帝国兵を相手に黙々と戦いを続けていた。
「はいっ!」
チュアランの掛け声に答えるルイス。その意図を察した数人がルイスと帝国兵との間に割って入り、組み合っていた相手を手にする槍で押し退けたルイスがチュアランの元へと滑り込む。
「俺はあの二人の元に行く。だからお前は、一足先に工房に戻って脱出の準備をしろ」
「でもそれじゃあっ!」
「奴等はレーンを捕らえるついでにエスクルサに喧嘩を売りやがった。確かに帝国は強大だ、町一つが歯向かったとて敵う筈もない。けどな……」
言葉を切ったチュアランはルイスの肩に手を置き視線を合わせる。
薄い水色の瞳には力と意志とが溢れており、彼の熱い決意が注ぎ込まれるかのようにルイスへと伝わる。
「訳もわからず打たれれば何をするんだと牙を剥く。俺達は謂れ無き暴力に屈するほど良い子じゃないのさ。
後から報復があろうと知ったことか。売られた喧嘩はもう買っちまったんだからな、力尽きるまで直走る。それがこの町、エスクルサの戦士の生き様なんだよ」
唇を噛み締めるルイスには反論する余地などない。
彼らの生き方は彼らが決める。たとえその先の未来に暗雲が立ち込めていようとも。
「行けっ、ルイス。あの二人は強そうでいて脆い。出来る限りで良い、支えてやってくれ」
本音で言えば本物の妹のように可愛がったミュリノアとの別れは望んでなどいない。しかし、宮廷十二機士の一人であるギヨームを殺した負い目から、人殺しの自分が彼女の近くに居続けるのは良くないと葛藤した末の答え。
更に言えば、黒き厄災を探して破壊するのを目的とする以上、その操者と敵対、果ては殺し合いをすることになるだろう。
だからルイスは、レーンと共にこの町から逃げ出すと決意したのだ。
力強く頷いたルイスは青白い光を放ちながら数多くの魔攻機装が入り乱れる狂瀾怒濤のエスクルサを駆け抜けて行く。
向かう先は、ディアナの実家とも言える工房。
「良かったんですか?」
その後ろ姿を眺めていたチュアランは呆けていた自分に気が付くが、何事もなかったかのように平然を装って振り返る。
「何がだ?」
彼の心情を正確に読み取った優男は、魔攻機装特有の鋭い指先で丸メガネを押し上げる。
その顔に現れているのは、笑顔とも苦笑いとも取れる複雑そうな表情。
「いえ、チュアランさんが良ければいいんです」
「リロイ、はっきり言え」
「あれほど熱を上げたディアナは諦めるのかと聞いとるんじゃよ?」
肩をすくめてみせるイェルダンはリロイと同じく三銃士と呼ばれる存在。二人は当然のようにチュアランと付き合いが長く、年齢に差はあれど、気心の知れた友人のような関係を保っている。チュアランの心根に気付かぬほど薄っぺらな関係ではないのだ。
「何年も口説いて振り向かなかったんだぞ?今更どう足掻いたって、あれだけベタ惚れした男に勝てる要素なんぞ欠片も無い。
俺に出来るのはあいつの幸せを後押ししてやる事くらいだよ」
「くくくっ、それにエスクルサが巻き込まれてしまうのは何とも言えない複雑な気分ですなぁ。友の肩を持つべきか、生まれ故郷の安寧を願い寝返るべきか……」
「イェルダンさん、寝返るんですか!? ならここで俺と一戦……」
「なぜそこで興奮するんじゃ? お主、ちと頭おかしいぞ?
老い先短い儂を苛める前に、失恋したくせにコロシアムの高嶺の花を両手に抱えておるリア充野郎に鉄槌をくれてやったらどうじゃ?」
「それも良いですね! じゃあチュアランさんっ、俺に負けてミトラかチェルのどちらかを譲るか、俺に負けて二人共譲るか、どっちがいいですか?」
「リロイてめぇ、なんで俺がお前に負ける選択肢しかねぇんだ?
シバいてやりたいところだが、戦闘狂のお前にとっちゃ良いも悪くも思惑通りにしかなりゃしねぇ。だから俺は上司として命令してやるよ、今からお前の戦う相手は宮廷十二機士だっ!」
「う~ん、チュアランさんをコテンパンにするのはいつでも出来るか……良いでしょう、滅多にお目にかかれない宮廷十二機士で我慢します。そうと決まれば早く行きましょう!」
多くの者が戦闘を続ける最中、現金なヤツだと笑い合った三人は、世界の中でも卓抜した実力者の集まりたる宮廷十二機士を複数相手取るレーンとディアナの元へと足を進めるのだった。
「糞がっ!正気か!? 今ならまだ間に合う、僕に協力し……」
不本意ながらも命令とあらばやむを得ないと腹を括った帝国の兵士達。それは町中に連れられた者達に限らず、エスクルサを包囲していた兵達にも及ぶ。
コロシアムの……いや、エスクルサの全住民との乱戦に突入した彼らは、勝てないのを分かりながらもグルカに挑み屍の山を作り出した……まぁ、誰一人として死んではいないのだが。
「口はいいから手を動かせ。ほらほらほらっ、集中しねぇと自慢の魔攻機装が壊れても知らねぇぞ?」
愉しげに棍を振り回す近衛騎士は、準備運動を終えて本命に臨む。
「反逆罪だ!」
「知らねぇつったろ?」
「そんなことがまかり通ると……おぶぅっ」
「手を動かせ、クソガキ」
「おま!?ちょっ!待っ……げふっ」
殺傷能力の低い棍。それが金属ですらなく木製ともなれば、金属製の鎧を纏ううえに魔力障壁に護られる魔攻機装戦において、相手を殺すなど容易いことではない。
しかし、宮廷十二機士たるアノカトの魔力障壁を一撃の元に叩き割るグルカ。その姿はまさに異様であり、関わり合いになりたくないとは思いつつも逃げ出すわけにも行かず、立ち行かなくなった帝国兵の一部が二人を中心とした円形の人垣を作り上げていた。
「前々から気になってたんだ。分不相応な権力と力を与えられちまった不幸なガキンチョ。
ひねたガキの教育は大人の仕事だ。叩いて伸ばして真っ直ぐにしてやるから安心しろ」
一手目で魔力障壁を叩き割り、魔力障壁が再構築される前の素早い二手目で根性を叩き直すためのお灸を叩き込む。
当然のように身を躱し、大剣を合わせ、距離を置いて再構築の時間を稼ごうと試みるヴォルナーではあるが、正に子供扱いするグルカはそれを許さず、二振りに一度は『喝』が入れられる。
公然なる教育が行われる一方で、チュアランを始めとするエスクルサと帝国兵の鬩ぎ合いは激化していた。
戦争に勝利するために開発された魔攻機装同士の戦闘は、グルカのように相手を黙らせるだけで済むはずがない。
敵を傷付け、行動不能にする。殺す事を目的とした武器やギミックは当然のように殺傷能力に優れ、コロシアム内の模擬戦のようにルールの無いこの内戦では互いに多くの命が失われていた。
『お前には他にやることがあるのだろう?』
一際豪華な黄色い魔攻機装と対峙する友、古さを感じさせるオリーブの鎧を身に纏うグルカと視線を交差させたチュアランは言外にそう告げられた気がした。
武器を交差させるヴォルナーですら気付かないほど僅かにシャクられた顎は『行け』という合図に他ならない。付き合いの深いチュアランだからこそ感じ取れる僅かなシグナルだ。
──レーンとディアナの元へ
近衛の隊長という立場のグルカが今この場に現れた。その意味を機敏に理解したチュアランは彼の意思を尊重し、残りの宮廷十二機士を相手にしているであろう二人の援護に向かうべく小さく顎を引く。
「リロイ、ドミニャスはどうした?」
「他でよろしくやってるようですよ? どうやら『純白の不死者』にやられた鬱憤が相当溜まってるようで、かなり派手に暴れているようですね」
最も簡単に帝国兵を薙ぎ倒した【リロイ】はチュアランの問いに淡々と答える。
この男はコロシアム三銃士の一人、チュアランの腹心と噂のある若い男。魅せる外見と実力とを兼ね備えるコロシアムのNo.2だった。
「それならそれで良い。リロイは俺と来い、イェルダンもだっ」
「ん?儂もですかい?」
三銃士の最後の一人である【イェルダン】は老齢の戦士。最年長を誇る歴戦の勇者はコロシアムの生き字引とも言われ、御歳七十歳にして未だ現役を貫く最強のお爺ちゃんだ。
「ああ、あと何人か適当に見繕え」
「どちらに?」
「この元凶の中心を叩く」
「ほほぅ、面白そうなお誘いですな」
顎髭を蓄える好好爺の容姿でありながら、白い歯を見せて片側の口角を釣り上げる姿は不敵であり、見る者の悪寒を誘う。
いくら歳月を重ねようとも……いや、長い年月を重ねたからこそ蓄積されてきた多くの経験が他者を震え上がらせる闘気として昇華されていた。
「ミトラ、チェル、この場はお前達にまかせた」
『模擬戦』という名目の荒事を管理するコロシアムには、戦いを行う戦士、その世話をする管理者と小間使い、そして、客として訪れる者に至るまでの全てが気性の荒い者に偏る傾向があった。
そんな荒野の入り口に咲く誰しもが美しいと認める一輪の花。
ウサギ獣人である受付嬢【ミトラ・カストレン】は、男達に押し負けぬ胆力と共に、物理的に言うことを聞かせられる操者としての腕前を兼ね備えた超優良物件だ。
そしてミトラと双璧を成すのが、コロシアムという組織に深く関わる者だけが知ることとなるチュアランの擁護するエルフ【チェル・キュベレィ】。表に出ることはなくとも護られる対価として秘書として働く彼女は、魔攻機装が無くとも魔法を使えるという種族特性が物語るように、華奢で儚げな見た目の印象とは裏腹に操者としても有能な女性である。
「「はいっ」」
己の抱える二輪の花の心地良い返事に満足すると、チュアランの視線は視界の端で忙しく動く白い魔攻機装へと向けられた。
「ルイス!」
見た目からして弱いと思い込まれているのが大きいのだろう。魔攻機装の色からしてヴォルナーが追いかけた重要参考人と認識されているルイスは、群がる帝国兵を相手に黙々と戦いを続けていた。
「はいっ!」
チュアランの掛け声に答えるルイス。その意図を察した数人がルイスと帝国兵との間に割って入り、組み合っていた相手を手にする槍で押し退けたルイスがチュアランの元へと滑り込む。
「俺はあの二人の元に行く。だからお前は、一足先に工房に戻って脱出の準備をしろ」
「でもそれじゃあっ!」
「奴等はレーンを捕らえるついでにエスクルサに喧嘩を売りやがった。確かに帝国は強大だ、町一つが歯向かったとて敵う筈もない。けどな……」
言葉を切ったチュアランはルイスの肩に手を置き視線を合わせる。
薄い水色の瞳には力と意志とが溢れており、彼の熱い決意が注ぎ込まれるかのようにルイスへと伝わる。
「訳もわからず打たれれば何をするんだと牙を剥く。俺達は謂れ無き暴力に屈するほど良い子じゃないのさ。
後から報復があろうと知ったことか。売られた喧嘩はもう買っちまったんだからな、力尽きるまで直走る。それがこの町、エスクルサの戦士の生き様なんだよ」
唇を噛み締めるルイスには反論する余地などない。
彼らの生き方は彼らが決める。たとえその先の未来に暗雲が立ち込めていようとも。
「行けっ、ルイス。あの二人は強そうでいて脆い。出来る限りで良い、支えてやってくれ」
本音で言えば本物の妹のように可愛がったミュリノアとの別れは望んでなどいない。しかし、宮廷十二機士の一人であるギヨームを殺した負い目から、人殺しの自分が彼女の近くに居続けるのは良くないと葛藤した末の答え。
更に言えば、黒き厄災を探して破壊するのを目的とする以上、その操者と敵対、果ては殺し合いをすることになるだろう。
だからルイスは、レーンと共にこの町から逃げ出すと決意したのだ。
力強く頷いたルイスは青白い光を放ちながら数多くの魔攻機装が入り乱れる狂瀾怒濤のエスクルサを駆け抜けて行く。
向かう先は、ディアナの実家とも言える工房。
「良かったんですか?」
その後ろ姿を眺めていたチュアランは呆けていた自分に気が付くが、何事もなかったかのように平然を装って振り返る。
「何がだ?」
彼の心情を正確に読み取った優男は、魔攻機装特有の鋭い指先で丸メガネを押し上げる。
その顔に現れているのは、笑顔とも苦笑いとも取れる複雑そうな表情。
「いえ、チュアランさんが良ければいいんです」
「リロイ、はっきり言え」
「あれほど熱を上げたディアナは諦めるのかと聞いとるんじゃよ?」
肩をすくめてみせるイェルダンはリロイと同じく三銃士と呼ばれる存在。二人は当然のようにチュアランと付き合いが長く、年齢に差はあれど、気心の知れた友人のような関係を保っている。チュアランの心根に気付かぬほど薄っぺらな関係ではないのだ。
「何年も口説いて振り向かなかったんだぞ?今更どう足掻いたって、あれだけベタ惚れした男に勝てる要素なんぞ欠片も無い。
俺に出来るのはあいつの幸せを後押ししてやる事くらいだよ」
「くくくっ、それにエスクルサが巻き込まれてしまうのは何とも言えない複雑な気分ですなぁ。友の肩を持つべきか、生まれ故郷の安寧を願い寝返るべきか……」
「イェルダンさん、寝返るんですか!? ならここで俺と一戦……」
「なぜそこで興奮するんじゃ? お主、ちと頭おかしいぞ?
老い先短い儂を苛める前に、失恋したくせにコロシアムの高嶺の花を両手に抱えておるリア充野郎に鉄槌をくれてやったらどうじゃ?」
「それも良いですね! じゃあチュアランさんっ、俺に負けてミトラかチェルのどちらかを譲るか、俺に負けて二人共譲るか、どっちがいいですか?」
「リロイてめぇ、なんで俺がお前に負ける選択肢しかねぇんだ?
シバいてやりたいところだが、戦闘狂のお前にとっちゃ良いも悪くも思惑通りにしかなりゃしねぇ。だから俺は上司として命令してやるよ、今からお前の戦う相手は宮廷十二機士だっ!」
「う~ん、チュアランさんをコテンパンにするのはいつでも出来るか……良いでしょう、滅多にお目にかかれない宮廷十二機士で我慢します。そうと決まれば早く行きましょう!」
多くの者が戦闘を続ける最中、現金なヤツだと笑い合った三人は、世界の中でも卓抜した実力者の集まりたる宮廷十二機士を複数相手取るレーンとディアナの元へと足を進めるのだった。
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