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第一章 星が集いし町
19.怒りの矛先
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隠されていたレーンの実力を推し測ろうと黙々と緑槍を振り続けるシオン。
それを軽やかに捌き続けるレーンではあったが、先程の二対一に比べたら遥かに楽な状況であるのに加え、すぐ隣で始まった “じゃれあい” に急激にやる気が削がれていた。
「お前らっ、邪魔をするな!あれは僕が殺る!」
「あんれぇ~?そんな連れないことを言うのはどの口かしらぁ?」
「止めろっ!バカっ!近寄るな!!!」
「お行儀の悪ぅ~いお口はアタシが調教してあげるわぁ~ん♪」
両肩を掴んだグンデルが押し倒さん勢いで顔を近付ける。対するヴォルナーは必死の形相で迫る顔に両手を押し付け拒絶するものの、ばっちりメイクの決まったヤマンバオカマの怪力に押されている。
徐々に近付いて行くパンダ顔と能面顔。身体を逸らすのは既に限界であり、プルプルと震えるヴォルナーの腕はゆっくりと折れ曲がって行く……。
取り囲む帝国兵の目の前で起きる拷問。見るに見かねる光景ではあるものの、それが仕事だとばかりに見守ることしか許されていないのは哀れ。公然わいせつ罪でしょっ引かれる事案ではあるが、宮廷十二機士同士が行っていれば口すら出せない……しかも、魔攻機装を纏ってやっているとかタチが悪過ぎる。
──何やってんの?コイツら……マジで
「離せぇぇぇぇ!お前は何しに来たんだよ!!」
「何って、レーちゃんに会いに?」
「会う、じゃなくて捕まえにだろうがぁぁぁっ!」
「そうだっけ?」
「任務ぐらい頭に入れてこいや!このクソカマ!」
“捕らえる” はずの相手を “殺す” と殺気立つヴォルナーには任務がどうのと口にする資格は無い。それはもはや観客と化した大勢の帝国兵達の思うところではあるが、上官たる彼にそれを言える者など居はしなかった。
「?」
「なんだっ!?」
「おやおやぁ?」
不意に聞こえた爆発音。それほど派手ではなかったものの静かな夜の町にはよく響き、唯一まともだったシモンですらレーンと距離を取り、手を休める。
誰もが視線を泳がせた先には夜空を舞う一機の魔攻機装、青白い光を撒き散らしながら遠ざかって行く白い機体を目にする事となる。
(あのバカっ!)
それはコロシアムへと向かうアンジェラスの後ろ姿であり、レーン達側からは見えないものの両手にはミュリノアとダニエメが抱えられていた。
「そうか、そういうことか、分かったぞ!」
したり顔で興奮するヴォルナーは「おい、ダルブッカ!」と、あらぬ方向に声をかけるが返事はない。
「なんスかぁ? もう帰りますぅ?」
再度声を荒げてのようやくの返事。建物の屋上で身を起こしたのは紙巻きタバコを咥えた男【ダルブッカ・セルバン】、宮廷十二機士の第八位だ。
三対一を通り越して四対一かよ!と愚痴を漏らすレーンだが、当のダルブッカは屋根に腰掛け、子供のように足をブラブラとさせている。傍にいれば喉の奥の奥まで見えそうな大きなあくび、どうやら彼はこちらに来るつもりはないらしい。
「ダルブッカ、奴を追え!アレが本物のレイフィールだっ、行って捕まえてこいっ!」
この期に及んで目の前にいるレーンをまだ偽物扱いする姿には生暖かい視線が向けられる。しかし当人は素知らぬ感じで、尚も動かぬダルブッカに「早く行け!」と怒鳴り散らす。
「面倒くせぇからお断りっス。ここにゃ大勢いるじゃないっスか。他を当たって下せぇな」
もう殆ど見えなくなったルイスの行方を指差したまま固まり、プルプルと怒りに震え始めたヴォルナーは、その怒りをぶつけるかのように地面に突き刺さっていた大剣を抜き放つとダルブッカへと切先を向ける。
「ならばせめて、そこから降りて来いっ!それくらいはやれやぁぁっ!!」
宮廷十二機士とは帝国の中でも近衛に並ぶ最上位の階級だ。しかし同じ宮廷十二機士だとしても、戦場に並び立てば序列により立場が上下する。
今回の任務は第三位であるジルダが総司令なのだが、今、彼女はここから離れた場所にいる。
つまり、最年少であり、お子ちゃま感漂うヴォルナーがこの場における最高位であり、彼より下位となるダルブッカは彼の指揮下にあることになるのだ。
「へいへい、人使いの荒いこって……ぃよっと」
渋々立ち上がると最後の一吸いをしたタバコを握りつぶした。
気怠そうに屋根から飛び降りたダルブッカは濃紺の光に包まれると、地上に着くまでの僅かな間に【コラリィ】を身に纏う。
その様子を目を細めて見るレーンは彼の一挙手一投足を注意深く観察していた。と言うのもダルブッカという男は、宮廷十二機士という要役にありながら『ヤル気』というものが全くない。もちろん任を解かれていない以上、最低限の任務はこなしているではあろうが、レーンの鬱憤の溜まり場であった教育の場に足を運ぶことはおろか、魔攻機装を纏っている姿でさえ今初めて目にしたのだ。
つまり、ダルブッカの実力をレーンは知らない。
「僕は白い奴を追う。この男のことは任せるぞ、シモン第七位」
「了解です、ヴォルナー第六位」
「残りは僕に続け!」
封建的な考え方が強いシモンであったとしても、あからさまに稚拙さの目立つヴォルナーは敬意を表するべき相手ではなかった。それでも表面上は組織を重んじ、素直に命に従う姿勢をみせる。
「申し訳ありません殿下、お時間を取らせました」
淡く、青白い光を撒き散らしながらダニエメ宅を飛び越えたヴォルナーのアノカト。着地するなり再び飛び立つとルイスの消えた暗闇を目指す。
ついて来いと命令を受けた帝国兵達ではあったが、魔攻機装を纏う者達でさえ同じようには移動できない。だからとて命令を破る訳にもいかず、魔攻機装兵達が建物を迂回しながら大慌てで行動を始める。
「俺ら……必要?」
「さぁ? でも、命令だろ?」
「だな……行くか」
「ああ、そうするしかないよな」
それを見送る一般兵達は各々顔を見合わせるものの命令違反は重罪。自分たちが今更駆けつけても仕方がないと分かりながらも、重い足取りでゾロゾロと走って行くのだった。
「あの子達、可哀想ねぇ」
「それが仕事ですよ。気に入らないのなら辞めるか、出世して命令する立場になるかの二択しかありません」
「人生を辞めるって選択肢もあるんスけど?」
「怠惰なあんたでもしない選択、捩じ込まないでくれない?」
「ちょっとした遊び心じゃないっスか、軽く流してくださいよ」
「あんたの人生も流してしまいなさい?」
「お断りっス!」
「それは私も思います」
「二人とも酷いっス!イジメっスよ!?」
▲▼▲▼
その頃ルイス達三人は、青白い光に背中を押されて街中を疾走していた。
「すみません、寒いですよね?」
向かい来る風を緩和する術を持たないルイスでは、急げば急ぐほど、両腕に座るダニエメとミュリノアにかかる負担が大きい。
かと言ってゆっくりしてられるかと聞かれれば否と即答するのが現状であり、それは思いのほか大きくなった脱出の際の爆発に自分自身でビックリして生まれた焦燥感に起因する。
「じっとしてないと危ないよ?」
終始頬を引き攣らせるダニエメとは対照的に、初めての体験に満面の笑みではしゃいでいたミュリノア。徐々に落ち着いたものの、突然身を乗り出して背後を振り向くものだからルイスの方が慌ててしまう。
「ルイ兄ぃ、アレ」
姿勢を崩さないようにと地面を滑る足と両腕に意識を集中しながらも振り返る。そこに見えたのは猛烈な勢いで追いついてくる一機の魔攻機装。
(やっぱバレるよ、ねぇ……)
目的地であるコロシアムは視界に捕らえている。
到着まであと一分足らず。出来れば逃げ切りたいところではあるが、町中であるにも関わらず平気で戦闘を仕掛けるような奴等なのだ。背後から魔法をぶっ放されても違和感など感じない相手。
「「きゃっ!」」
悪い予感や予想とは得てして当たってしまうもので、直感に従い翻した矢先、すぐ脇を駆け抜けて行く黄色の閃光。
「マジか!?」
夜の町を明るくした光は、正面にあったコロシアムのエントランスへと吸い込まれる──と同時に起こる爆発は炎を上げ、更なる灯りを灯すこととなった。
崩れた正面入り口から上がる赤々とした炎。黒煙を上げる壊れた建物を目にしたルイスは、脳裏に焼き付く今は無き故郷の最後の夜を重ねる。
△▽
「やっと追いついたぞっ! 観念しろ!レイフィー……ル?」
丁寧に二人を降ろしたルイスはゆっくりと振り返る。顔は俯き表情は見えないが、目を凝らすまでもなくレーンではないと気が付いたヴォルナー。
(どういうことだ?)
さまざまな考えが過ぎるものの結論として、認めたくはないとは思いつつも先程の偽物が本物だったとの事実に辿り着く。
──しかし、アレは三人に任せた。判断を誤った上に手ぶらで帰るのも気が引ける
ニヤリと口角を吊り上げたヴォルナーは、 “レーンの仲間” との見解から、目の前に居るルイスを溜まりに溜まったストレスの捌け口とすることに決定した。
「罪人に加担した悪人め、宮廷十二機士たるこの僕が成敗してくれるっ!!」
大剣を抜き放ち、切先を向けるも、俯いたままのルイスからは反応がない。
どうせなら泣き叫び、命乞いでもしてくれればと舌打ちをするヴォルナーは思い通りに進まぬ苛々ですら、これから起こる虐待で解消する腹づもりだ。
腹立たしい思いで蹴りつけた地面は抉れ、加速という上納金を支払わせる。
勢いよく迫り、振り上げる大剣。未だ動かぬままでいるルイスの不審など気に留めるわけがなかった。『なんだコイツ?』と多少は疑問には思ったものの『良い的』だと認定し、構わず全力で振り下ろす。
「ルイ兄ぃ!!」
「ルイス!?」
「なっ!?」
展開された魔力障壁が美しい虹色を描く。それを脚色するのは夜町に響く乾いた音色。何事かと慌てて飛び出してきた大勢の町人達の目の前でヴォルナーの大剣があっさり跳ね返される。
「これもだと!ばかなっ!!」
明らかに弱そうな見た目に一撃で大ダメージを与える算段だった。予想を裏切る結果に苛立ち、殺すつもりで振り下ろした第二撃。アノカトの属性である雷の魔法を纏う大剣ですら同じように跳ね返された直後、微動だにしなかったルイスが突然動き出し素早く蹴りを突き入れた。
「くっ、このぉっ!」
受け止めた魔力障壁ごと後退させられるものの、怒りに燃える屈辱顔で両足を地面に擦り付けると僅か数メートルで停止し、間髪入れずの急激な反転。黄色く稲光る大剣を乱舞させルイスを滅多斬りにし始める。
「僕をぉぉ誰だと思ってるんだぁぁぁっ!!!」
反撃を試みようとする姿勢は見せるも、いかんせん二メートルの大剣が作り出す結界。両の拳しか攻撃する術のないアンジェラスにとってリーチの差は余りにも大きく、魔力障壁を光らせる事しか出来ないでいた。
「ハンッ!僕に楯突いた事を後悔しながら、死ねっ!」
【雷帝転穿突】
光の塊となった大剣は突き出されていた左手と入れ違いに空気を斬り裂く。高速で突き込まれるヴォルナーの大剣は異形ではあるものの、それはまるで一本の槍のようだった。また、回転を与えられたことにより、歪ながらもドリルのようにも見える。
僅かな接点に小さく展開された%魔力障壁__パリエス__#、身体の中心で受け止めたルイスは弾かれるように宙を舞う。
激しい力の本流は全てを押し流し、なすがまま、されるがままに身を任せるしかなかった。
しかし、およそ一秒という空中散歩を経てコロシアムの入り口を支える太い柱に激突する直前、伸ばされた右腕にあっさり受け止められることとなる。
「おいおいルイス、これ以上俺の家を壊してくれるなよ」
唐突に現れたのはのは燻んだ青色がよく似合う重厚な魔攻機装。『蒼斧』の名を持つコロシアムの主、チュアランだ。
それを軽やかに捌き続けるレーンではあったが、先程の二対一に比べたら遥かに楽な状況であるのに加え、すぐ隣で始まった “じゃれあい” に急激にやる気が削がれていた。
「お前らっ、邪魔をするな!あれは僕が殺る!」
「あんれぇ~?そんな連れないことを言うのはどの口かしらぁ?」
「止めろっ!バカっ!近寄るな!!!」
「お行儀の悪ぅ~いお口はアタシが調教してあげるわぁ~ん♪」
両肩を掴んだグンデルが押し倒さん勢いで顔を近付ける。対するヴォルナーは必死の形相で迫る顔に両手を押し付け拒絶するものの、ばっちりメイクの決まったヤマンバオカマの怪力に押されている。
徐々に近付いて行くパンダ顔と能面顔。身体を逸らすのは既に限界であり、プルプルと震えるヴォルナーの腕はゆっくりと折れ曲がって行く……。
取り囲む帝国兵の目の前で起きる拷問。見るに見かねる光景ではあるものの、それが仕事だとばかりに見守ることしか許されていないのは哀れ。公然わいせつ罪でしょっ引かれる事案ではあるが、宮廷十二機士同士が行っていれば口すら出せない……しかも、魔攻機装を纏ってやっているとかタチが悪過ぎる。
──何やってんの?コイツら……マジで
「離せぇぇぇぇ!お前は何しに来たんだよ!!」
「何って、レーちゃんに会いに?」
「会う、じゃなくて捕まえにだろうがぁぁぁっ!」
「そうだっけ?」
「任務ぐらい頭に入れてこいや!このクソカマ!」
“捕らえる” はずの相手を “殺す” と殺気立つヴォルナーには任務がどうのと口にする資格は無い。それはもはや観客と化した大勢の帝国兵達の思うところではあるが、上官たる彼にそれを言える者など居はしなかった。
「?」
「なんだっ!?」
「おやおやぁ?」
不意に聞こえた爆発音。それほど派手ではなかったものの静かな夜の町にはよく響き、唯一まともだったシモンですらレーンと距離を取り、手を休める。
誰もが視線を泳がせた先には夜空を舞う一機の魔攻機装、青白い光を撒き散らしながら遠ざかって行く白い機体を目にする事となる。
(あのバカっ!)
それはコロシアムへと向かうアンジェラスの後ろ姿であり、レーン達側からは見えないものの両手にはミュリノアとダニエメが抱えられていた。
「そうか、そういうことか、分かったぞ!」
したり顔で興奮するヴォルナーは「おい、ダルブッカ!」と、あらぬ方向に声をかけるが返事はない。
「なんスかぁ? もう帰りますぅ?」
再度声を荒げてのようやくの返事。建物の屋上で身を起こしたのは紙巻きタバコを咥えた男【ダルブッカ・セルバン】、宮廷十二機士の第八位だ。
三対一を通り越して四対一かよ!と愚痴を漏らすレーンだが、当のダルブッカは屋根に腰掛け、子供のように足をブラブラとさせている。傍にいれば喉の奥の奥まで見えそうな大きなあくび、どうやら彼はこちらに来るつもりはないらしい。
「ダルブッカ、奴を追え!アレが本物のレイフィールだっ、行って捕まえてこいっ!」
この期に及んで目の前にいるレーンをまだ偽物扱いする姿には生暖かい視線が向けられる。しかし当人は素知らぬ感じで、尚も動かぬダルブッカに「早く行け!」と怒鳴り散らす。
「面倒くせぇからお断りっス。ここにゃ大勢いるじゃないっスか。他を当たって下せぇな」
もう殆ど見えなくなったルイスの行方を指差したまま固まり、プルプルと怒りに震え始めたヴォルナーは、その怒りをぶつけるかのように地面に突き刺さっていた大剣を抜き放つとダルブッカへと切先を向ける。
「ならばせめて、そこから降りて来いっ!それくらいはやれやぁぁっ!!」
宮廷十二機士とは帝国の中でも近衛に並ぶ最上位の階級だ。しかし同じ宮廷十二機士だとしても、戦場に並び立てば序列により立場が上下する。
今回の任務は第三位であるジルダが総司令なのだが、今、彼女はここから離れた場所にいる。
つまり、最年少であり、お子ちゃま感漂うヴォルナーがこの場における最高位であり、彼より下位となるダルブッカは彼の指揮下にあることになるのだ。
「へいへい、人使いの荒いこって……ぃよっと」
渋々立ち上がると最後の一吸いをしたタバコを握りつぶした。
気怠そうに屋根から飛び降りたダルブッカは濃紺の光に包まれると、地上に着くまでの僅かな間に【コラリィ】を身に纏う。
その様子を目を細めて見るレーンは彼の一挙手一投足を注意深く観察していた。と言うのもダルブッカという男は、宮廷十二機士という要役にありながら『ヤル気』というものが全くない。もちろん任を解かれていない以上、最低限の任務はこなしているではあろうが、レーンの鬱憤の溜まり場であった教育の場に足を運ぶことはおろか、魔攻機装を纏っている姿でさえ今初めて目にしたのだ。
つまり、ダルブッカの実力をレーンは知らない。
「僕は白い奴を追う。この男のことは任せるぞ、シモン第七位」
「了解です、ヴォルナー第六位」
「残りは僕に続け!」
封建的な考え方が強いシモンであったとしても、あからさまに稚拙さの目立つヴォルナーは敬意を表するべき相手ではなかった。それでも表面上は組織を重んじ、素直に命に従う姿勢をみせる。
「申し訳ありません殿下、お時間を取らせました」
淡く、青白い光を撒き散らしながらダニエメ宅を飛び越えたヴォルナーのアノカト。着地するなり再び飛び立つとルイスの消えた暗闇を目指す。
ついて来いと命令を受けた帝国兵達ではあったが、魔攻機装を纏う者達でさえ同じようには移動できない。だからとて命令を破る訳にもいかず、魔攻機装兵達が建物を迂回しながら大慌てで行動を始める。
「俺ら……必要?」
「さぁ? でも、命令だろ?」
「だな……行くか」
「ああ、そうするしかないよな」
それを見送る一般兵達は各々顔を見合わせるものの命令違反は重罪。自分たちが今更駆けつけても仕方がないと分かりながらも、重い足取りでゾロゾロと走って行くのだった。
「あの子達、可哀想ねぇ」
「それが仕事ですよ。気に入らないのなら辞めるか、出世して命令する立場になるかの二択しかありません」
「人生を辞めるって選択肢もあるんスけど?」
「怠惰なあんたでもしない選択、捩じ込まないでくれない?」
「ちょっとした遊び心じゃないっスか、軽く流してくださいよ」
「あんたの人生も流してしまいなさい?」
「お断りっス!」
「それは私も思います」
「二人とも酷いっス!イジメっスよ!?」
▲▼▲▼
その頃ルイス達三人は、青白い光に背中を押されて街中を疾走していた。
「すみません、寒いですよね?」
向かい来る風を緩和する術を持たないルイスでは、急げば急ぐほど、両腕に座るダニエメとミュリノアにかかる負担が大きい。
かと言ってゆっくりしてられるかと聞かれれば否と即答するのが現状であり、それは思いのほか大きくなった脱出の際の爆発に自分自身でビックリして生まれた焦燥感に起因する。
「じっとしてないと危ないよ?」
終始頬を引き攣らせるダニエメとは対照的に、初めての体験に満面の笑みではしゃいでいたミュリノア。徐々に落ち着いたものの、突然身を乗り出して背後を振り向くものだからルイスの方が慌ててしまう。
「ルイ兄ぃ、アレ」
姿勢を崩さないようにと地面を滑る足と両腕に意識を集中しながらも振り返る。そこに見えたのは猛烈な勢いで追いついてくる一機の魔攻機装。
(やっぱバレるよ、ねぇ……)
目的地であるコロシアムは視界に捕らえている。
到着まであと一分足らず。出来れば逃げ切りたいところではあるが、町中であるにも関わらず平気で戦闘を仕掛けるような奴等なのだ。背後から魔法をぶっ放されても違和感など感じない相手。
「「きゃっ!」」
悪い予感や予想とは得てして当たってしまうもので、直感に従い翻した矢先、すぐ脇を駆け抜けて行く黄色の閃光。
「マジか!?」
夜の町を明るくした光は、正面にあったコロシアムのエントランスへと吸い込まれる──と同時に起こる爆発は炎を上げ、更なる灯りを灯すこととなった。
崩れた正面入り口から上がる赤々とした炎。黒煙を上げる壊れた建物を目にしたルイスは、脳裏に焼き付く今は無き故郷の最後の夜を重ねる。
△▽
「やっと追いついたぞっ! 観念しろ!レイフィー……ル?」
丁寧に二人を降ろしたルイスはゆっくりと振り返る。顔は俯き表情は見えないが、目を凝らすまでもなくレーンではないと気が付いたヴォルナー。
(どういうことだ?)
さまざまな考えが過ぎるものの結論として、認めたくはないとは思いつつも先程の偽物が本物だったとの事実に辿り着く。
──しかし、アレは三人に任せた。判断を誤った上に手ぶらで帰るのも気が引ける
ニヤリと口角を吊り上げたヴォルナーは、 “レーンの仲間” との見解から、目の前に居るルイスを溜まりに溜まったストレスの捌け口とすることに決定した。
「罪人に加担した悪人め、宮廷十二機士たるこの僕が成敗してくれるっ!!」
大剣を抜き放ち、切先を向けるも、俯いたままのルイスからは反応がない。
どうせなら泣き叫び、命乞いでもしてくれればと舌打ちをするヴォルナーは思い通りに進まぬ苛々ですら、これから起こる虐待で解消する腹づもりだ。
腹立たしい思いで蹴りつけた地面は抉れ、加速という上納金を支払わせる。
勢いよく迫り、振り上げる大剣。未だ動かぬままでいるルイスの不審など気に留めるわけがなかった。『なんだコイツ?』と多少は疑問には思ったものの『良い的』だと認定し、構わず全力で振り下ろす。
「ルイ兄ぃ!!」
「ルイス!?」
「なっ!?」
展開された魔力障壁が美しい虹色を描く。それを脚色するのは夜町に響く乾いた音色。何事かと慌てて飛び出してきた大勢の町人達の目の前でヴォルナーの大剣があっさり跳ね返される。
「これもだと!ばかなっ!!」
明らかに弱そうな見た目に一撃で大ダメージを与える算段だった。予想を裏切る結果に苛立ち、殺すつもりで振り下ろした第二撃。アノカトの属性である雷の魔法を纏う大剣ですら同じように跳ね返された直後、微動だにしなかったルイスが突然動き出し素早く蹴りを突き入れた。
「くっ、このぉっ!」
受け止めた魔力障壁ごと後退させられるものの、怒りに燃える屈辱顔で両足を地面に擦り付けると僅か数メートルで停止し、間髪入れずの急激な反転。黄色く稲光る大剣を乱舞させルイスを滅多斬りにし始める。
「僕をぉぉ誰だと思ってるんだぁぁぁっ!!!」
反撃を試みようとする姿勢は見せるも、いかんせん二メートルの大剣が作り出す結界。両の拳しか攻撃する術のないアンジェラスにとってリーチの差は余りにも大きく、魔力障壁を光らせる事しか出来ないでいた。
「ハンッ!僕に楯突いた事を後悔しながら、死ねっ!」
【雷帝転穿突】
光の塊となった大剣は突き出されていた左手と入れ違いに空気を斬り裂く。高速で突き込まれるヴォルナーの大剣は異形ではあるものの、それはまるで一本の槍のようだった。また、回転を与えられたことにより、歪ながらもドリルのようにも見える。
僅かな接点に小さく展開された%魔力障壁__パリエス__#、身体の中心で受け止めたルイスは弾かれるように宙を舞う。
激しい力の本流は全てを押し流し、なすがまま、されるがままに身を任せるしかなかった。
しかし、およそ一秒という空中散歩を経てコロシアムの入り口を支える太い柱に激突する直前、伸ばされた右腕にあっさり受け止められることとなる。
「おいおいルイス、これ以上俺の家を壊してくれるなよ」
唐突に現れたのはのは燻んだ青色がよく似合う重厚な魔攻機装。『蒼斧』の名を持つコロシアムの主、チュアランだ。
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