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第一章 星が集いし町
16.昔の女はお帰り召しませ
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街灯などとは比較にならない眩いばかりの過剰な光。周囲を明るくするものもあるが、その大半はまるでステージを彩るスポットライトのようにダニエメ家の入り口を焼く勢いで照らす。
⦅やっとお出ましかよ。犯罪者のクセしやがって……随分と焦らしてくれちゃうねぇ⦆
数えきれない帝国兵が並び立つ真ん中、気怠そうに立ち上がった黄色を主体とするカラーリングの派手な魔攻機装は、拡声器を手に大々的に嫌味をぶち込む。
歳の頃は十五、六の若い男。目は細く、平坦で特徴の無い顔ではあるが、肩口で切り揃えられた真っ直ぐな銀髪は愛機に合わせて黄色のラインが入れられている。
──ヴォルナー・コンラハム
【アノカト】を駆る宮廷十二機士第六位の男は、無能の烙印を押されたレーンの事を昔から嫌っている。
「よぉ、ヴォルナー、相変わらずカリカリしてんなぁ。そんなんじゃ将来禿げるぞ?
あっ、わりぃわりぃ、親父さんはハゲだったな。性格云々じゃなくお前はハゲ確定か」
実力主義の帝国にあり、能力の無いレーンが次期皇帝など納得できない。持っている血筋だけで最上級だとされ敬われるレーンが嫌で嫌で仕方がなかったのだ。
だからこそ定期的に行われる魔攻機装の模擬戦では、年上であり目上でもあるにも関わらず手加減なく挑み、毎回ボコボコにしていた。
ギヨームも似たような事はしていたが、傍目から見たら彼が行っていたのはあくまでも “指導” であり、上手く隠れながらも陰湿なイジメをしていたのだ。それに対しヴォルナーは “歳が近いから” と特に咎められないのを良いことに、隠すこともなく容赦のない勢いでストレスを発散していた事はレーンの記憶に深く刻まれている。
⦅明日という未来ですら無くなった貴様には、僕の未来を心配する必要などないっ!! くっだらない御託で時間を引き伸ばしても無駄だっ、大人しくさっさと死に晒せ!犯罪者め!!⦆
「おいおい、俺にかかってるのはアシュカル殺害未遂の容疑だよな?容疑者と犯罪者の区別もつかないダメダメなオツムとは知らなかったぜ。
それとお前が受けた命令は『殺せ』じゃなく『連れ帰れ』だろ?それを無視して殺したらお前が罪に問われるんじゃねーのか?ろくに頭も使ったことねぇから脳みそにカビが生えんだよ、このポンコツがっ」
⦅ポ、ン、コ、ツ、だとぉぉっ……この宮廷十二機士たる僕に向かって無能皇子がポンコツとほざいたかぁぁぁ!!!!⦆
「宮廷十二機士っつったって、たかが六位だろ? 映えあるリヒテンベルグの皇子たるこの俺様に楯突くなら、せめて一位のウィルバー・クラフトに勝ってからにしろ」
僅かにでも動く様子を見せないフルプレートアーマーに身を包む帝国兵ではあったが、外からは見えない鉄製の兜の内側では、笑いを堪えるのに必死になっていた。
魔攻機装の登場により格差の大きくなった兵士階級。その最大の難所は魔攻機装を操れるか否か、また、運良くそれを与えられるかそうでないかにより天国と地獄ともいえる差別を受けることになる。
苦い顔で成り行きを見つめる魔攻機装兵とは違い、同じ帝国の兵士でありながらも普段から虐げられる一般兵にとっては、自分達をゴミのように扱ういけ好かない上官がボロクソに言い負かされているのが楽しくて仕方がなかった。
⦅散々ボコボコにされまくってたゴミ皇子のくせに偉そうに!!!ポンコツはお前……⦆
あっさり挑発にのって怒りのボルテージを跳ね上げたヴォルナーではあったが、手にした拡声器を跳ね飛ばされたと同時に聞こえた声を認識した途端、我に返る。
「耳障りですので静かにして頂けますか? それに、街中で大声を上げるなど、貴族の品位を疑われますわよ?」
場の視線を奪ったのは、赤と白の見事な配色に桃の差し色が入った、女性機らしい色合いに仕上がったスリムな魔攻機装。右手に持たれた一メートルもある巨大な扇子で鼻から下を器用に隠す姿は、上品な淑女の仕草そのもの。
【カタリッシ】の名を持つ魔攻機装を駆るのはレーンが要注意だと告げたジルダである。
まるで汚物でも見るかのように冷たい視線を向けていたジルダだが、サファイアのような青色の瞳がレーンを捉えた途端に扇子を畳み、魔攻機装の無骨な指先でスカートの端を摘むと、優雅なカーテシーを決める。
「ご無沙汰しております、レイフィール殿下」
「お、おぅ……」
「お元気そうで何よりですわ」
「お、お前も、な?」
「こんな夜も更けた時間に不躾ではありますが、王宮の命により殿下のお迎えに参上致しました」
「そ、そうか……わざわざ手間をかけるな」
魔攻機装を纏っているとはいえ、話し方や雰囲気は格式ある貴族令嬢そのもの。だがその内に秘めた黒さを肌身で知っているレーンからすれば、彼女は苦手意外の何者でない。
「いえ、勿体なきお言葉。矮小な私如きが殿下のお出迎えに遣わされるとは身に余る光栄に存じます。ですが、単身で帝都を出られたと聞いては居ても立ってもいられず、率先して任を受けたはしたない行いにはどうぞ目を瞑って下さいまし。
これもひとえに貴方様を心配するが故。婚約者たる私の胸に溢れて止まないレイフィール殿下への愛のさせる愚行なのです」
侯爵という身分は皇子たるレーンに釣り合いのとれるモノであり、精巧なビスクドールのように整った顔立ちのジルダは隣に並び立つ皇后として相応しき容姿。
吸い込まれるような青色の瞳に合わせたかのような毛量の多い金の髪は手間のかかる縦巻きロールで整えられ、それを引き立てる黒いドレスにはピンクと白のレースがふんだんに使われ、ゴシックかつロリータ的な個性溢れるファッションへと昇華されている。
(レーン……アレ、キモい)
(気持ちは分かる……が、そう言ってやるな)
(婚約って本当なの?)
(嘘ではないが、昔のことだ)
(じゃあ今はもう?)
(アレの性格が破綻してるのは話したろ?)
(うん、で?)
(それに気付いた親父も、アレはヤバイと破棄したはずだ、当然当人にも話しはしてある)
(それを受け入れてないってことね?)
(まぁ、そういうこったから俺は奴と関係ない)
(うふふっ、浮気がバレた亭主みたい)
(こんな時にバカ言ってんじゃねーよっ)
見た目、性格ともにディアナがドストライクなレーン。容姿こそ悪くはないとは思いつつも、性格を知ってしまえばジルダに対して『ナイナイ』と手を振ってしまう。
一途に想いをぶつけてくる彼女も決して悪い女ではないのだ。ただ、いつの頃からか、何がきっかけだったのかなどは知らないが、歪みに歪んだ彼女を受け入れるつもりは更々無かった。
「あら?」
向けられた視線を敏感に感じ取り、あからさまに身を震わせたディアナ。
出てきた時から隣におり、手を繋いだままで登場したというのに、今、初めて気が付いたかのようなわざとらしい反応にもう一度身震いをしてしまった。
「貴方、お名前は?随分とレイフィール様のお近くにいらっしゃるけど、彼とはどういった関係なのかしら?」
「え、えっとぉ……」
「コレは俺の女だ」
「あぁ、そういう事ですのね。大丈夫、問題ありませんことよ。皇帝ともなれば言い寄る女など星の数ほどいるのは知っております。愛人がいくらいようが全て受け入れてこそ正妻の器量というものなのです」
愛人呼ばわりされ苦笑いを浮かべるディアナではあったが、この人に何を言おうと無駄だと悟り反論などという意味のないことはしない。
だが、盛大な溜息を吐き出したレーンは以前からの鬱憤が蓄積しており、思わず漏れた言葉が彼女に火を付けてしまう。
「ジルダ、お前との婚約は昔のことだろう?婚約は解消したと何度も説明はした、いい加減受け入れてくれ」
「何を仰っているのか分かりませんわ? 私は生を受けた時から殿下に身を捧げることを運命付けられた女。その私から生きがいを取り上げるという事はすなわち、死ねと言っているのと同義。何故そのような酷いお言葉を……あぁ、そういうことですか。その女に拐かされたのですね。
良いでしょう、女狐。少々二人きりでおはなしして差し上げましょう」
一振りで開かれた巨大な扇子を片手に、反対の腕を上げディアナを指差すジルダ。彼女が要求したのは一対一の対決であり、取り囲む帝国兵との混戦でないのは願ってもない状況であった。
「じゃあ俺は時間を持て余す皇子殿下の相手をしてても良いってことだよな?」
「許可します。殿下が退屈なさらないよう、誠心誠意ご奉仕なさいませ」
「りょーっ! 任せて下さい、ジルダ侯爵令嬢」
ご機嫌で返事をしたヴォルナーはまるで幼き子供のようであったが、その目は獲物を狩る獣そのもの。自分の上位者たるジルダの機嫌を取りつつレーンを痛ぶる許可を得た彼は地面に突き立てられていた大振りの剣を手に取り、口角を吊り上げた。
その一方で標的と定められたディアナは見せつけるようにもう一度レーンとキスをすると、そこから離れつつ、左腕に嵌められた紅い腕輪へと魔力を流し込む。
彼女を包み込む紅の魔力光。それが形となったときにはディアナの身体にプロテクターのようにスマートな真紅の鎧が姿を現した。
普段着であるチャイナドレスに金属のロンググローブと高いヒールを持つロングブーツ。ベース形状により少しだけ開かれることになる立ち姿は、いつもは見え隠れしている白い脚をスリットの合間から連れ出しており、身体の中心となった女性のシンボルたる豊かな胸と相まって、美しくもあるが情欲をも感じさせる芸術的なバランスを備えている。
「下心が見え過ぎて少々下品にも思えますが、なるほど、そんなに悪い見た目ではありませんわね。 先ず一つ目は及第点。続く二つ目の実力のは私自らが推し量って差し上げましょう」
「貴女のお眼鏡に敵うかどうかは知らないけど、私がレーンに相応しい女だって分からせてあげる。だから貴女は遠慮なく身を引いてくださるかしら?」
「ふふふっ、口の減らない女だこと。レイフィール様に相応しいのはこの私以外に居るはずもない。高貴なる私と下賤な貴女、比べるまでもありませんが、身の程というものを教えて差し上げますことよ?」
⦅やっとお出ましかよ。犯罪者のクセしやがって……随分と焦らしてくれちゃうねぇ⦆
数えきれない帝国兵が並び立つ真ん中、気怠そうに立ち上がった黄色を主体とするカラーリングの派手な魔攻機装は、拡声器を手に大々的に嫌味をぶち込む。
歳の頃は十五、六の若い男。目は細く、平坦で特徴の無い顔ではあるが、肩口で切り揃えられた真っ直ぐな銀髪は愛機に合わせて黄色のラインが入れられている。
──ヴォルナー・コンラハム
【アノカト】を駆る宮廷十二機士第六位の男は、無能の烙印を押されたレーンの事を昔から嫌っている。
「よぉ、ヴォルナー、相変わらずカリカリしてんなぁ。そんなんじゃ将来禿げるぞ?
あっ、わりぃわりぃ、親父さんはハゲだったな。性格云々じゃなくお前はハゲ確定か」
実力主義の帝国にあり、能力の無いレーンが次期皇帝など納得できない。持っている血筋だけで最上級だとされ敬われるレーンが嫌で嫌で仕方がなかったのだ。
だからこそ定期的に行われる魔攻機装の模擬戦では、年上であり目上でもあるにも関わらず手加減なく挑み、毎回ボコボコにしていた。
ギヨームも似たような事はしていたが、傍目から見たら彼が行っていたのはあくまでも “指導” であり、上手く隠れながらも陰湿なイジメをしていたのだ。それに対しヴォルナーは “歳が近いから” と特に咎められないのを良いことに、隠すこともなく容赦のない勢いでストレスを発散していた事はレーンの記憶に深く刻まれている。
⦅明日という未来ですら無くなった貴様には、僕の未来を心配する必要などないっ!! くっだらない御託で時間を引き伸ばしても無駄だっ、大人しくさっさと死に晒せ!犯罪者め!!⦆
「おいおい、俺にかかってるのはアシュカル殺害未遂の容疑だよな?容疑者と犯罪者の区別もつかないダメダメなオツムとは知らなかったぜ。
それとお前が受けた命令は『殺せ』じゃなく『連れ帰れ』だろ?それを無視して殺したらお前が罪に問われるんじゃねーのか?ろくに頭も使ったことねぇから脳みそにカビが生えんだよ、このポンコツがっ」
⦅ポ、ン、コ、ツ、だとぉぉっ……この宮廷十二機士たる僕に向かって無能皇子がポンコツとほざいたかぁぁぁ!!!!⦆
「宮廷十二機士っつったって、たかが六位だろ? 映えあるリヒテンベルグの皇子たるこの俺様に楯突くなら、せめて一位のウィルバー・クラフトに勝ってからにしろ」
僅かにでも動く様子を見せないフルプレートアーマーに身を包む帝国兵ではあったが、外からは見えない鉄製の兜の内側では、笑いを堪えるのに必死になっていた。
魔攻機装の登場により格差の大きくなった兵士階級。その最大の難所は魔攻機装を操れるか否か、また、運良くそれを与えられるかそうでないかにより天国と地獄ともいえる差別を受けることになる。
苦い顔で成り行きを見つめる魔攻機装兵とは違い、同じ帝国の兵士でありながらも普段から虐げられる一般兵にとっては、自分達をゴミのように扱ういけ好かない上官がボロクソに言い負かされているのが楽しくて仕方がなかった。
⦅散々ボコボコにされまくってたゴミ皇子のくせに偉そうに!!!ポンコツはお前……⦆
あっさり挑発にのって怒りのボルテージを跳ね上げたヴォルナーではあったが、手にした拡声器を跳ね飛ばされたと同時に聞こえた声を認識した途端、我に返る。
「耳障りですので静かにして頂けますか? それに、街中で大声を上げるなど、貴族の品位を疑われますわよ?」
場の視線を奪ったのは、赤と白の見事な配色に桃の差し色が入った、女性機らしい色合いに仕上がったスリムな魔攻機装。右手に持たれた一メートルもある巨大な扇子で鼻から下を器用に隠す姿は、上品な淑女の仕草そのもの。
【カタリッシ】の名を持つ魔攻機装を駆るのはレーンが要注意だと告げたジルダである。
まるで汚物でも見るかのように冷たい視線を向けていたジルダだが、サファイアのような青色の瞳がレーンを捉えた途端に扇子を畳み、魔攻機装の無骨な指先でスカートの端を摘むと、優雅なカーテシーを決める。
「ご無沙汰しております、レイフィール殿下」
「お、おぅ……」
「お元気そうで何よりですわ」
「お、お前も、な?」
「こんな夜も更けた時間に不躾ではありますが、王宮の命により殿下のお迎えに参上致しました」
「そ、そうか……わざわざ手間をかけるな」
魔攻機装を纏っているとはいえ、話し方や雰囲気は格式ある貴族令嬢そのもの。だがその内に秘めた黒さを肌身で知っているレーンからすれば、彼女は苦手意外の何者でない。
「いえ、勿体なきお言葉。矮小な私如きが殿下のお出迎えに遣わされるとは身に余る光栄に存じます。ですが、単身で帝都を出られたと聞いては居ても立ってもいられず、率先して任を受けたはしたない行いにはどうぞ目を瞑って下さいまし。
これもひとえに貴方様を心配するが故。婚約者たる私の胸に溢れて止まないレイフィール殿下への愛のさせる愚行なのです」
侯爵という身分は皇子たるレーンに釣り合いのとれるモノであり、精巧なビスクドールのように整った顔立ちのジルダは隣に並び立つ皇后として相応しき容姿。
吸い込まれるような青色の瞳に合わせたかのような毛量の多い金の髪は手間のかかる縦巻きロールで整えられ、それを引き立てる黒いドレスにはピンクと白のレースがふんだんに使われ、ゴシックかつロリータ的な個性溢れるファッションへと昇華されている。
(レーン……アレ、キモい)
(気持ちは分かる……が、そう言ってやるな)
(婚約って本当なの?)
(嘘ではないが、昔のことだ)
(じゃあ今はもう?)
(アレの性格が破綻してるのは話したろ?)
(うん、で?)
(それに気付いた親父も、アレはヤバイと破棄したはずだ、当然当人にも話しはしてある)
(それを受け入れてないってことね?)
(まぁ、そういうこったから俺は奴と関係ない)
(うふふっ、浮気がバレた亭主みたい)
(こんな時にバカ言ってんじゃねーよっ)
見た目、性格ともにディアナがドストライクなレーン。容姿こそ悪くはないとは思いつつも、性格を知ってしまえばジルダに対して『ナイナイ』と手を振ってしまう。
一途に想いをぶつけてくる彼女も決して悪い女ではないのだ。ただ、いつの頃からか、何がきっかけだったのかなどは知らないが、歪みに歪んだ彼女を受け入れるつもりは更々無かった。
「あら?」
向けられた視線を敏感に感じ取り、あからさまに身を震わせたディアナ。
出てきた時から隣におり、手を繋いだままで登場したというのに、今、初めて気が付いたかのようなわざとらしい反応にもう一度身震いをしてしまった。
「貴方、お名前は?随分とレイフィール様のお近くにいらっしゃるけど、彼とはどういった関係なのかしら?」
「え、えっとぉ……」
「コレは俺の女だ」
「あぁ、そういう事ですのね。大丈夫、問題ありませんことよ。皇帝ともなれば言い寄る女など星の数ほどいるのは知っております。愛人がいくらいようが全て受け入れてこそ正妻の器量というものなのです」
愛人呼ばわりされ苦笑いを浮かべるディアナではあったが、この人に何を言おうと無駄だと悟り反論などという意味のないことはしない。
だが、盛大な溜息を吐き出したレーンは以前からの鬱憤が蓄積しており、思わず漏れた言葉が彼女に火を付けてしまう。
「ジルダ、お前との婚約は昔のことだろう?婚約は解消したと何度も説明はした、いい加減受け入れてくれ」
「何を仰っているのか分かりませんわ? 私は生を受けた時から殿下に身を捧げることを運命付けられた女。その私から生きがいを取り上げるという事はすなわち、死ねと言っているのと同義。何故そのような酷いお言葉を……あぁ、そういうことですか。その女に拐かされたのですね。
良いでしょう、女狐。少々二人きりでおはなしして差し上げましょう」
一振りで開かれた巨大な扇子を片手に、反対の腕を上げディアナを指差すジルダ。彼女が要求したのは一対一の対決であり、取り囲む帝国兵との混戦でないのは願ってもない状況であった。
「じゃあ俺は時間を持て余す皇子殿下の相手をしてても良いってことだよな?」
「許可します。殿下が退屈なさらないよう、誠心誠意ご奉仕なさいませ」
「りょーっ! 任せて下さい、ジルダ侯爵令嬢」
ご機嫌で返事をしたヴォルナーはまるで幼き子供のようであったが、その目は獲物を狩る獣そのもの。自分の上位者たるジルダの機嫌を取りつつレーンを痛ぶる許可を得た彼は地面に突き立てられていた大振りの剣を手に取り、口角を吊り上げた。
その一方で標的と定められたディアナは見せつけるようにもう一度レーンとキスをすると、そこから離れつつ、左腕に嵌められた紅い腕輪へと魔力を流し込む。
彼女を包み込む紅の魔力光。それが形となったときにはディアナの身体にプロテクターのようにスマートな真紅の鎧が姿を現した。
普段着であるチャイナドレスに金属のロンググローブと高いヒールを持つロングブーツ。ベース形状により少しだけ開かれることになる立ち姿は、いつもは見え隠れしている白い脚をスリットの合間から連れ出しており、身体の中心となった女性のシンボルたる豊かな胸と相まって、美しくもあるが情欲をも感じさせる芸術的なバランスを備えている。
「下心が見え過ぎて少々下品にも思えますが、なるほど、そんなに悪い見た目ではありませんわね。 先ず一つ目は及第点。続く二つ目の実力のは私自らが推し量って差し上げましょう」
「貴女のお眼鏡に敵うかどうかは知らないけど、私がレーンに相応しい女だって分からせてあげる。だから貴女は遠慮なく身を引いてくださるかしら?」
「ふふふっ、口の減らない女だこと。レイフィール様に相応しいのはこの私以外に居るはずもない。高貴なる私と下賤な貴女、比べるまでもありませんが、身の程というものを教えて差し上げますことよ?」
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