黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第十章 嬉しい悲鳴をあげた大森林

16.弟子?

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「あんれぇ?父ちゃん、こったら所で何すちゅる?」

「おっ!?クララ!おんめぇ、なしてジジィの家から出てきよるんだ!? ま、まさか、おめぇ……」

「阿保言うな!だぁれが好き好んでこんな肉達磨とエロい事すっぺよ!?私は仕事で来でだだけだっ、勘違いもえぇ加減にすときんさいよ!この年中発情期男がぁっ!!」

 族長の家から出てきた小柄な女の子に視線を奪われ、驚きのあまり目が離せなくなったのは彼女を知らないアリサ意外。

「おんめぇ、実の親さ向がって何てこと言いよる!」
「カカカッ、いいぞクララっ、もっど言っだれ!」

 目を疑うほどによく似ているクララと呼ばれた女の子。この村で会う人会う人がぽっちゃり体型の中、ジジルとこの娘だけは人間の子供と変わりがないスリムバディだ。
 どうやらシャロとは姉妹関係のようだが、それにしても似ている。   

「あぁあっっ!もぉっ!!二人どもうっざ!うざうざうっざ!半径三メートル以内さ近寄んね……って、そこなカッコいい兄さん何すて……って嘘ぉぉっっ!?」

「何ぃぃっ!!」
「まさか!おんし本当に人間だべか!?」

 喋り方や性格を除けば双子と言っても過言ではないクララに唯一欠けたものを補うべく、散々加工して小慣れたミスリルの塊を鞄から取り出すと魔力を加え、柔らかくして コネコネ しながら思いを描く。

「ちょっと失礼」

「えっ? あっ……何!?」

 残念ながら土竜ミカエラのように素材の色を変える事は出来ない。
 レンズは入っていないものの出来上がったばかりの不釣り合いに大きな銀縁眼鏡をクララに掛けさせてもらえば、そこにいるのがシャロだと言われれば納得してしまうくらいだ。

「まさに母さまです」
「本当、シャロさんそっくり」
「ですねぇ、よく似てます。 どちらかと言えば少し歳の離れたお姉さんって感じですかね?」

 我ながら良い出来だと満足していれば、綺麗な緑色の瞳を パチクリ させたクララが、ずり落ちようとする眼鏡を指で戻しながらも遠慮がちに口を開く。

「あの……兄さん? 一応確認すたい思うのんだげんど、ちょっと聞いでもいいっぺか?」

 口調が違う……とは本人ではないので文句を言うことは出来ないが、こうまで似ているとなんだか違和感を感じてしまうのは俺だけか?

「一応聞くけんども、この眼鏡、今どうやって造っただ? あんましびっくりすたもんだから自分の鑑定自信なくなってしもたげど、これってばミスリルだべ?粘土みたいに手で捏ねたと思たら勝手に形整うなんで今まで見だことさ無えっけん。
 まさかまさか、まさかのまさかどは思うげんども、今のは兄さんの土魔法け?」

 ジッと見つめられると照れる……が、何かを期待した目付きで答えを待つ彼女の後ろには、似たような雰囲気を醸し出す肉達磨と小さいおじさん。   

 ドワーフ作と注意書きがあればそれだけで値が上がるほど良質な武器を造れる彼等の家に炉があると聞いた時、まさかという思いが頭の片隅にはあった。
 土魔法を使えるようになった時、シャロのやっていた事を見様見真似でやったら出来てしまったのでこういうモノなのだと認識していたけれど、どうやら現実は違うらしい。

「そうだけど、それがどうかした?」

 その言葉が弾丸であったかのように硬直したまま頭から背後に倒れ行くクララは、途中で魔法が解けたかのように慌てて体勢を戻すと、ヘッドバッドでもされるかと思うほど凄い勢いで寄って来て空いている俺の右手を両手で握りしめた。


「兄さん!弟子さすてぐださい!!!」


「え?いや、それはちょっと……」

「なんでやーーっ!後生やでそね邪険すねぇでぐださい!ちょっとぐらい教えでくれでもええべさね?ちょっとだけ、ほてんちょっとだげでもええべ? なっ? なっ? なぁ~?」

 膝を突き、縋り付く様子にどうしたものかと雪と顔を見合わせると、陽気だった先ほどまでと違いジロジロと俺の顔を見ながら近寄って来るシド。

「おめさぁ、フラれた男に毎回そげな事すてるでねぇべな?気持ちは分がらんでもねぇげども、みっともねから頼むで止めれ」

 首根っこを掴まれ引き離されたものの、突然 ガバッ と起き上がり逆にシドの胸ぐらを掴んで額を突き合わせるクララ。

「阿保言うなやエロ親父!おめもこの色男の魔法その目で見たべ?このお人はうぢらドワーフよりすんげぇ土魔法使いよるんやど?あれは神の領域や、神魔法や!
 もす人間界にほだなすんげぇ人がゴンロゴロすとったら、ウチみでな片田舎の小さな集団なんぞ プチッ と潰されでウチ等みんな干されでじまうど?
 今こごでこのお人さ捕まえて技術学ばねば、この村の死活問題になる事さ分がらねぇが!?」

 あまりの剣幕に両手を挙げ降参のポーズを示すが彼女の目にはそんなものは入らない。
 そんな二人を見かねてか、族長のゼノが間に入り興奮冷めやらぬクララを引き離すと大きな溜息を漏らした。

「お前さの言い分はもっともだ。けどもその男はただの遣いだ、それ以上でもねぇし、ますてや神なんかじゃねぇべさ。
 兄さん達はラブリヴァから命令を受げてここまでやって来た、つまりこの手紙にあるようにおらを連れて帰らねばならね事情があっぺ。言うなればおらのご機嫌を取る必要がある、そうだべ?」

 典型的な悪者じみた嫌らしい笑みを浮かべて渡した手紙で パタパタ と自分を仰いで『これだぞ?』とアピールしてくる。
 彼の顔からは『はい、分かりました』の二つ返事の返答などあり得ず、どんな無理難題を押しつけられるのかと溜息が出そうになるのを我慢していれば、その手紙を俺に向けて止めると審判の言葉を吐き出した。

「取り敢えず、家に入って酒でも飲むべ」

 何を言われるのかと少しだけ ドキドキ していた俺を他所に、シドとクララの肩を抱くと踵を返して機嫌良さげな軽い足取りで自分の家へと向かって行ったのだった。


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