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第十章 嬉しい悲鳴をあげた大森林
4.戦いの終焉
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「話を戻そうと思ったんだけど名前を聞いてなかったわね?」
「はい、私の名はグレゴリオと申します。そこにお出の魔族、四元帥アリサ様の参謀を務めさせて頂いている者です。 それで、隣にいるのが……」
「僕はテオフィルと申します。アリサ様の副官候補生という事でこの場に同行しました。
あの……貴方が噂のレイシュア・ハーキースですか?」
先程とは違い、見た目同様の落ち着いた動作で立ち上がった老人が自己紹介すれば、隣に居る青髪の青年も スクッ と音がしたかと思えるほどキビキビした動作で立ち上がる。
アーミオンが彫りが深くてしっかりとした顔立ちの武道派系イケメンなら、テオフィルは街に出れば道行く女性が振り返るような爽やかさが全面に出るアイドル系のイケメン顔。何がそうさせるのか分からないが、ただ立ち上がっただけで何処か優雅な感じがした不思議な青年だ。
「噂かどうかは知らないけど俺がレイシュアで間違いないよ」
「差し出がましいのだけれど、二人はこのまま帰してあげられないかしら?」
何を驚いたのか、少し大きく開かれたテオフィルの薄い紫色の瞳が明るくなったと思ったら、背後から歩み寄ったアリサがすぐ近くで立ち止まり、手を前で組んで申し訳なさそうに小さくなりながら俺とアリシアとを交互に見る。
「貴女達はラブリヴァを襲った魔族の幹部、生きて帰しては被害に遭った国民に顔向け出来ないわ。
貴女の処遇はこの国を救ったレイ君が決める。けど、この二人を見逃せと言うのなら然るべきモノと交換しなくては割に合わない」
俺に向けられたアリシアの顔には悪戯っぽい笑みが溢れており、何かを企んでいるのが一目瞭然。 二人の命と交換するようなモノ……と考え始めたとき、他からは見えない方の片目を パチリ と瞑ったのに気が付き、一芝居打てとの合図だと悟る。
身内だけなら『はい、おっけー』で済まされる事も、この部屋にはメイドや兵士がおり、言うなればこの国の目がそこにある。
アリシアが言ったように、襲って来た相手を無事に帰すとなると国王の座を狙う彼女にとってマイナスのイメージを植え付ける結果となるだろう。
しかし逆に言えばそれはチャンスでもあり、アリシアこそが国王に相応しいと広められれば今後の展開も楽になることだろう。
「然るべきモノかぁ、そうだな……じゃあ、アレだ。
今回襲って来た魔族の主戦力である、倒しても倒しても復活してくる魔物の殺し方、なんてどうだ? それが分かれば俺達も楽になるし、もし次にラブリヴァが襲われたとしても対処法が分かっていれば脅威とはなり得ない、だろ?」
「むぅ……確かに。強力とはいえど、魔物自体は倒せなくない。だが厄介な点は何度でも復活してくるという事でした。
恐らく魔石を破壊すれば良いのでしょうが、アレには何らかの魔法が掛かっているようで砕くこと叶いませんでした。その対処法さえ分かれば魔族などには屈しはしません!」
先の戦いを思い出し、悔しそうに拳を握り締めるアーミオン。それとは対象的に目を丸くしたのはテオフィルだった。
実は既に分かっているとはいえ、そんなことは知らない彼からしたら、町を襲うための主戦力の弱点を教えろと言われて困惑しない方がどうかしている。
「それはっ!」
「待ちなさい。それは魔族にとって致命傷ともなり得る重要な機密、アリサ様、私共は貴女が無事なら殺されても文句など言いますまいが、如何致しますか?」
何か言いたげに身を乗り出そうとしたテオフィルを制したのはグレゴリオだったが、その姿はなんとも胡散臭い。多分、あの爺さんは俺達の芝居に気が付いているな。
静かに頷いたアリサが了承の意を示すと、懐に手を入れ赤色の魔石を取り出した。
「戦ったのなら見たかもしれませんが、この《魔導石》が町で暴れた魔物の正体です。貴方が仰るように魔導石を砕けば最後、二度と魔物は現れません。
獣人の方で武器に魔法を載せる事が出来る方はみえますか?」
「そんなに強くは無理ですが、多少なら私が……」
「なにぃっ!本当なのかアーミオン!?」
「ジェルフォ、黙って!」
魔法の不得意な獣人において魔法が武器に付与出来る者など稀にしかいないだろう。
思わず声を上げたジェルフォだったが冷ややかな目をしたアリシアに睨まれ、すごすごと引き下がる。
グレゴリオの手により皆の見える床の上に置かれた〈魔導石〉と呼ばれる魔物に変化する魔族の作り出した特別な魔石。
その前に立ったアーミオンが腰に刺した剣を引き抜くと、微量ながらも光の魔力で増幅された風魔法を纏わせるので思わず感嘆が漏れ出した。
「ハアッ!」
気合と共に振り下ろされた剣が魔導石を真っ二つにすれば、塵となり崩れ行くソレを目の当たりにした戦場に出たであろう二人の兵士が歓喜の声を上げる。
「満足してもらえたかしら?」
「ええ、武器に魔法を乗せる技術は目下訓練中ですが、出来る出来ない以前に、知っているのと知らないのとでは戦略がまるで変わります。
交換条件とはいえ有意義な情報提供をありがとうございます」
「交渉成立ね。それじゃあ、無理を押し付けられないうちに早く帰った方がいいんじゃない?」
剣を仕舞ったアーミオンは自国を襲った憎い相手である筈のアリサに目礼をすると、自分の立ち位置はここだと言わんばかりに壁際に引っ込んだ。
代わって進み出したのはグレゴリオとテオフィルの二人。
アリサの前まで来るとテオフィルの表情が緩み始め、何か一押しでもされれば崩れてしまいそうだ。
「アリサ様……」
「全ての責任はわたくしにあります。貴方達が気に留める事など何も無いわ。
グレゴリオ、これまでの貴方の忠誠に感謝します。最後のお願い、わたくしは死んだものと報告してください。
テオフィル、貴方の未来はまだまだこれからよ。何が正しいのかを己の目で判断し、自分が信じた道を進みなさい。
二人共、元気で」
挨拶は終わりだと背を向けたアリサの表情は沈んでおり、彼女にとっても別れは辛いらしい。
そんな彼女を尻目に、涙が頬を伝い始めたテオフィルの手をグレゴリオの皺枯れた手がしっかり握ると、俺とアリシアに一礼し、身体を包んだ光の中へと消えて行った。
「失礼します。お食事の用意が整いましたので準備をさせていただきます」
不穏な空気の室内に飛び込んだ事をすぐに悟った様子のメアリ以下数人のメイド達だったが、そこは仕事だと押し切り言葉を続けた。
「ナイスタイミングよ、メアリ。でもちょっと予定変更、二人分の椅子が空いたから貴女とアーミオン、二人も同席しなさい」
「はい!?お嬢様、何を……」
持ち込んだ机と食事を部屋へと運び込もうと歩き出したメアリだったが、想定外の命令に思わず立ち止まってしまう。
そうなると困るのは部下であるメイド達。思わぬ事に対応しきれず、急停止したメアリのお尻に机を打つけてしまい青い顔をしていたのが気の毒に思える。
「全員一緒にと言いたいところだけど、これでも空気を読んだのよ?大人しく生贄になりなさい、いいわね? アーミオン、分かった?」
頭の片隅に予感でもあったのか、はたまたアリシアの性格上言い出したら聞かないと知っていただけなのか、机を打つけられたお尻になど気にも止めず、こめかみを抑えて深い溜息を吐くと重い足取りで歩き始める。
一方のアーミオンはと言うと、有り得ない状況に思考が固まり動かない。
そんな彼を豪快に笑いながら肩を バンバン 叩くジェルフォを見てほっこりすると、未だ暗い顔をしているアリサの肩を抱き寄せた。
「はい、私の名はグレゴリオと申します。そこにお出の魔族、四元帥アリサ様の参謀を務めさせて頂いている者です。 それで、隣にいるのが……」
「僕はテオフィルと申します。アリサ様の副官候補生という事でこの場に同行しました。
あの……貴方が噂のレイシュア・ハーキースですか?」
先程とは違い、見た目同様の落ち着いた動作で立ち上がった老人が自己紹介すれば、隣に居る青髪の青年も スクッ と音がしたかと思えるほどキビキビした動作で立ち上がる。
アーミオンが彫りが深くてしっかりとした顔立ちの武道派系イケメンなら、テオフィルは街に出れば道行く女性が振り返るような爽やかさが全面に出るアイドル系のイケメン顔。何がそうさせるのか分からないが、ただ立ち上がっただけで何処か優雅な感じがした不思議な青年だ。
「噂かどうかは知らないけど俺がレイシュアで間違いないよ」
「差し出がましいのだけれど、二人はこのまま帰してあげられないかしら?」
何を驚いたのか、少し大きく開かれたテオフィルの薄い紫色の瞳が明るくなったと思ったら、背後から歩み寄ったアリサがすぐ近くで立ち止まり、手を前で組んで申し訳なさそうに小さくなりながら俺とアリシアとを交互に見る。
「貴女達はラブリヴァを襲った魔族の幹部、生きて帰しては被害に遭った国民に顔向け出来ないわ。
貴女の処遇はこの国を救ったレイ君が決める。けど、この二人を見逃せと言うのなら然るべきモノと交換しなくては割に合わない」
俺に向けられたアリシアの顔には悪戯っぽい笑みが溢れており、何かを企んでいるのが一目瞭然。 二人の命と交換するようなモノ……と考え始めたとき、他からは見えない方の片目を パチリ と瞑ったのに気が付き、一芝居打てとの合図だと悟る。
身内だけなら『はい、おっけー』で済まされる事も、この部屋にはメイドや兵士がおり、言うなればこの国の目がそこにある。
アリシアが言ったように、襲って来た相手を無事に帰すとなると国王の座を狙う彼女にとってマイナスのイメージを植え付ける結果となるだろう。
しかし逆に言えばそれはチャンスでもあり、アリシアこそが国王に相応しいと広められれば今後の展開も楽になることだろう。
「然るべきモノかぁ、そうだな……じゃあ、アレだ。
今回襲って来た魔族の主戦力である、倒しても倒しても復活してくる魔物の殺し方、なんてどうだ? それが分かれば俺達も楽になるし、もし次にラブリヴァが襲われたとしても対処法が分かっていれば脅威とはなり得ない、だろ?」
「むぅ……確かに。強力とはいえど、魔物自体は倒せなくない。だが厄介な点は何度でも復活してくるという事でした。
恐らく魔石を破壊すれば良いのでしょうが、アレには何らかの魔法が掛かっているようで砕くこと叶いませんでした。その対処法さえ分かれば魔族などには屈しはしません!」
先の戦いを思い出し、悔しそうに拳を握り締めるアーミオン。それとは対象的に目を丸くしたのはテオフィルだった。
実は既に分かっているとはいえ、そんなことは知らない彼からしたら、町を襲うための主戦力の弱点を教えろと言われて困惑しない方がどうかしている。
「それはっ!」
「待ちなさい。それは魔族にとって致命傷ともなり得る重要な機密、アリサ様、私共は貴女が無事なら殺されても文句など言いますまいが、如何致しますか?」
何か言いたげに身を乗り出そうとしたテオフィルを制したのはグレゴリオだったが、その姿はなんとも胡散臭い。多分、あの爺さんは俺達の芝居に気が付いているな。
静かに頷いたアリサが了承の意を示すと、懐に手を入れ赤色の魔石を取り出した。
「戦ったのなら見たかもしれませんが、この《魔導石》が町で暴れた魔物の正体です。貴方が仰るように魔導石を砕けば最後、二度と魔物は現れません。
獣人の方で武器に魔法を載せる事が出来る方はみえますか?」
「そんなに強くは無理ですが、多少なら私が……」
「なにぃっ!本当なのかアーミオン!?」
「ジェルフォ、黙って!」
魔法の不得意な獣人において魔法が武器に付与出来る者など稀にしかいないだろう。
思わず声を上げたジェルフォだったが冷ややかな目をしたアリシアに睨まれ、すごすごと引き下がる。
グレゴリオの手により皆の見える床の上に置かれた〈魔導石〉と呼ばれる魔物に変化する魔族の作り出した特別な魔石。
その前に立ったアーミオンが腰に刺した剣を引き抜くと、微量ながらも光の魔力で増幅された風魔法を纏わせるので思わず感嘆が漏れ出した。
「ハアッ!」
気合と共に振り下ろされた剣が魔導石を真っ二つにすれば、塵となり崩れ行くソレを目の当たりにした戦場に出たであろう二人の兵士が歓喜の声を上げる。
「満足してもらえたかしら?」
「ええ、武器に魔法を乗せる技術は目下訓練中ですが、出来る出来ない以前に、知っているのと知らないのとでは戦略がまるで変わります。
交換条件とはいえ有意義な情報提供をありがとうございます」
「交渉成立ね。それじゃあ、無理を押し付けられないうちに早く帰った方がいいんじゃない?」
剣を仕舞ったアーミオンは自国を襲った憎い相手である筈のアリサに目礼をすると、自分の立ち位置はここだと言わんばかりに壁際に引っ込んだ。
代わって進み出したのはグレゴリオとテオフィルの二人。
アリサの前まで来るとテオフィルの表情が緩み始め、何か一押しでもされれば崩れてしまいそうだ。
「アリサ様……」
「全ての責任はわたくしにあります。貴方達が気に留める事など何も無いわ。
グレゴリオ、これまでの貴方の忠誠に感謝します。最後のお願い、わたくしは死んだものと報告してください。
テオフィル、貴方の未来はまだまだこれからよ。何が正しいのかを己の目で判断し、自分が信じた道を進みなさい。
二人共、元気で」
挨拶は終わりだと背を向けたアリサの表情は沈んでおり、彼女にとっても別れは辛いらしい。
そんな彼女を尻目に、涙が頬を伝い始めたテオフィルの手をグレゴリオの皺枯れた手がしっかり握ると、俺とアリシアに一礼し、身体を包んだ光の中へと消えて行った。
「失礼します。お食事の用意が整いましたので準備をさせていただきます」
不穏な空気の室内に飛び込んだ事をすぐに悟った様子のメアリ以下数人のメイド達だったが、そこは仕事だと押し切り言葉を続けた。
「ナイスタイミングよ、メアリ。でもちょっと予定変更、二人分の椅子が空いたから貴女とアーミオン、二人も同席しなさい」
「はい!?お嬢様、何を……」
持ち込んだ机と食事を部屋へと運び込もうと歩き出したメアリだったが、想定外の命令に思わず立ち止まってしまう。
そうなると困るのは部下であるメイド達。思わぬ事に対応しきれず、急停止したメアリのお尻に机を打つけてしまい青い顔をしていたのが気の毒に思える。
「全員一緒にと言いたいところだけど、これでも空気を読んだのよ?大人しく生贄になりなさい、いいわね? アーミオン、分かった?」
頭の片隅に予感でもあったのか、はたまたアリシアの性格上言い出したら聞かないと知っていただけなのか、机を打つけられたお尻になど気にも止めず、こめかみを抑えて深い溜息を吐くと重い足取りで歩き始める。
一方のアーミオンはと言うと、有り得ない状況に思考が固まり動かない。
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