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第九章 大森林に咲く一輪の花
52.安らかなるひととき
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「でさぁ……っでね……なんてこと言うんだよ?それに…………って事があったんだけど……は、どう思う?酷くない?最低よね、さいてーっ」
「クスクスクスッ、でも…………ですわよね?お互いさまじゃないこと?」
「そぉ~だけどさぁ……むぅ、そうなのか?」
「ええ、きっとそうね」
微睡む意識の端で何やら楽しそうに会話する女の子達の声が聞こえる。普段なら気にする事もないだろうに、なんだが妙に気になる二人の声。
──人が気持ち良く寝てるってのに、何くっちゃべってるんだ?
「あははははっ!でしょ?でしょ?」
「……って事ですわよね?あぁっ、可笑しいったらありゃしないわ」
「だよね~、ぷぷぷぷぷっ」
──うるさいなぁ、俺はたくさん戦って疲れてるんだぞ?雑談なら他所で……あれ?
「あれぇ?起きた……ってまだか。この寝坊助めっ!」
「自分より強い者と戦うのは身体に負担がかかるのよ?ましてやそれが連戦ともなれば精神的にも疲れてしまったのではないかしら?」
──そうだ、アゼルという魔族を倒して……
「そんなこと言われなくても分かってますよ~っだ!」
「そうね、貴方も一緒に戦ったんだもの。当然よね」
「そうよ、当然よっ」
──次にアリサと戦って……負けたんだ
「それにしてもいい加減起きてくれないかな……待ちくたびれたぞ?」
「あらあら、女は待つのが仕事みたいなものよ? わたくし、自慢ではないけど、運命に出会うまでに二百年以上待ったのよ?」
「うひゃ~っ、そんなの耐えらんないよ!待ってても来てくれないのなら、僕の方から探しちゃうもんね!」
──下僕だと言われて、何故か近くにあった小屋に……!?
何故か抜けかけていた今日の出来事の全てが思い出されれば、意識を無くす直前の事も思い出されて慌てて目を開いて飛び起きる。
「アリサ!!!!」
突然の大声に キョトン とした顔でこっちを見るアリサと、その向かいの椅子に座る黒髪の女。
「くすくすっ、多少なりとも疲れは取れたかしら? 大声で叫ばれるのは困るけど、そんな顔で名前を呼んでもらえるなんて嬉しい限りだわ」
微笑みながら手にしたティーカップを机に置くと優雅さを醸し出すゆったりとした動きで立ち上がり、ベッドへ歩み寄り腰を降した。
「顔色は良さそうね、何処かおかしなところはあるかしら?」
体温でも診たのだろうか。
額に当てられた手から温もりが伝われば、そこにいる彼女が幻などでは無い事が認識出来る。
「あう、あの、その……あり、アリサ?」
「やだわ、お化けでも見るような目で見るのは止めて頂戴な。わたくしは正真正銘アリサ・エードルンド、貴方のご主人様よ?うふふっ」
──アリサ…………生きてる!?
ルガケーアの呪縛から解放してやれず死を迎えたはずのアリサがすぐそこにいる。理解が及べば生きて再び会えた事に涙腺が緩み、込み上げる感情のままに身体が動き出す。
「アリサぁっ!……ぶっ!いってぇ~」
抱き付こうと手を広げた直後、彼女の背後から伸びた手のひらに顔面を直撃されて押し戻されてしまった。
愛する者への愛情表現を阻止され苛立ちが自分の出番だと台頭してきたのだが、そこに現れた予想だにしない顔に動き出したばかりの思考が凍りつく。
「アリサがご主人様で、そのご主人様を助けたのがこの僕だという事は、この中では僕が一番偉いということだねっ!
つまり、ハグするなら僕が先という事だよ、レイシュア。さぁっ、ぎゅぎゅっとしちゃってよ! カモンっ、カモ~ンっ!」
アリサの横で差し出した右手の指を順番に握り、早く来いと誘う黒髪の美女。
小高い鼻と鋭利な印象を受ける顔とが姿勢良く立つ姿と相まって凛々しく見えるが、生地少な目の黒い布に包まれた豊満な胸と少しだけ控えめなお尻とが成熟した女の色気を前面に押し出し、美しさの方が先に感じる。
何を食べればそんなに綺麗になるのかと聞きたくなるほどの真っ直ぐで艶やかな髪はお尻を覆うほどに長く伸び、窓から差し込む光が映り込んで天使の輪が乗せられているように見える。
服も髪も、瞳の色ですら黒に統一された彼女に華を添えるのは一つだけ着けられた金の髪留め。 小さな蝶をモチーフとし、光を乱反射させる細かな宝石をあしらった存在感のあるソレは紛れもなく俺が造ったモノ。
「朔羅!どうして!?」
アリサの向かいに座っていたのだから視界に入らなかった筈がない。しかし、生きてる筈のないアリサに意識が集中するあまり認識出来ていなかった。
理解が及べば大きな疑問がのし掛かるが、アリサとの反応の違いに眉を寄せると満面の笑みは一変し、頬を膨らませてあからさまに不機嫌な顔へと早変わりする。
「せっかく実体化出来るようになったってのに、僕がここにいるのが不満なの?アリサにはあんなに嬉しそうな顔で飛びつこうとした癖に、僕はお邪魔虫って事かい?
あぁそうですか、そうですかっ。そういう塩対応なら二人を邪魔するお邪魔虫はお暇……」
理由なんてどうでもいいっ!
待ち焦がれたアリサは死んでなくて、いる筈のない朔羅が確かにそこに居る!!
嬉しい事が重なり、勢いよく膨らんだ感情が思考を押し退ければ、反射の如く勝手に身体が動きだす。
「朔羅ぁっ!!!!」
「うわぁぁっ!」
唐突に抱き付けば、何事かとびっくりして逃れようとする朔羅。歯車の噛み合わない二人のバランスなど取れるはずもなく、勢い転じてベッドに引き倒す結果となった。
「なんだよぉ、今更……」
「朔羅っ……朔羅!本物だよな!?」
「こんな可愛い僕が偽物なわけないだろ?でもね、僕を呼ぶのは《サクラ》にしてくれない?朔羅は僕の本体だけど、ほら、ややこしいし……」
「名前なんてどうでもいいよ!」
「良いわけあるかぁ!僕の名前だぞ?大事だろ!?」
「分かった分かった、サクラ、サクラぁっ!」
触れ合って尚、サクラがそこにいるのに確信が持てず、四つん這いで見下ろす形の彼女の頬に、髪に、肩にと、あちらこちらに手をやり本当にそこに存在する事を何度も確かめた。
「あはっ、レイシュアってばや~らしぃっ!そんなにシタかったの?」
たわわにぶら下がる大きな胸へと押し付けられる俺の手。細められた目と共に見せ付けるようにゆっくりとした舌舐めずりをするものだから、その妖艶さにゾクリとした言い知れぬモノが背筋を駆け登っていく。
「待てっ!そういうこ……んんっ!」
唇が塞がれれば胸へと落ちて来る長い髪、その勢いに乗じて “サクラの匂い” が届いたかと思えば、口の中へと侵入して来た柔らかなモノから “サクラの味” が感じられ、彼女の存在をもっと感じたいという欲望が目を覚ます。
「ずっと待ったんだ。オアズケされる気持ち、理解出来る? もう我慢なんて嫌!」
「落ち着けっ!落ち着くんだ!俺もずっとサクラに会いたいと思っ……」
「じゃあ問題無いね!早く……」
服の肩にかけたサクラの手を慌てて掴んで制すると、そんな俺達の事を何も言わずにすぐ側で見守っていたアリサがどんな顔色をしているのか気になり チラリ と視線を向けた。
すると、我が子のじゃれ合いでも見るかのように微笑ましげにしていた彼女と目が合う。
「ん?アリサ?……じゃあ、三人でスレばいいじゃんっ!僕、知ってるからっ。猫耳娘二人と三人でヤッてたの見てたんだから!
アリサも別に構わないよね?」
「えっ?わたくしも……一緒に!?」
素っ頓狂な提案に頬を赤らめるが一瞬落とした視線はすぐに戻り、拒否してくれればいいものを、何故だか知らないが覚悟を決めた顔をしていたので不味い展開を予感せざるを得ない。
「わたくしはレイに命を助けられました。つまり、わたくしの命を含めて身体だってレイのモノよ。レイが望むのなら拒否する権利はわたくしには無いわ」
「まぁ、アリサの命が助かったのは僕のおかげなんだけどねっ。つっまっりっ、僕こそがアリサのご主人様ってこと!
問題が解決したところで三人でスルよ! ほらっ、早くっ!僕っ、我慢っ、限界!早くっ!!」
「わぁぁっ!分かった!分かったから一先ず待てって!
俺の戦いは終わったけど、まだ町を襲う魔族が暴れてるかもしれない。サクラの欲求は分かったし俺も今すぐ抱きたい気持ちはあるけど、みんなが戦ってるってのに俺だけ良いコトしてたら駄目だろ?」
「それなら心配無くってよ?
獣人王国ラブリヴァを襲った魔族達には揺動を命じただけ。わたくしが王宮を堕とした合図として分かりやすく結界を張った時点で適当に切り上げて戻るように言ってあるわ。
あれからだいぶ経つから、今頃は全ての撤退が終わっている筈よ?」
魔族を率いていたアリサは特に深い意味もなく親切心から現状を教えてくれた。だがそれは、それ以上は上がらないだろうという所まで口角を吊り上げたサクラの援護射撃に他ならない。
「心配事が無くなって良かったねぇ、これで気兼ねすることもないでしょ?
ほらっ、アリサ!君も早く脱いで脱いで!」
「え……あ、はい。仰せのままに、ご主人様」
逃れられないように組み敷かれた俺に顔を寄せ少し照れた顔で軽い口付けをすると、言われるがままに躊躇なく服へと手をかけるアリサ。
「待てっアリサ!サクラ、ストップ!!
分かった!本当に分かったから、なっ?せめて一人ずつにしよう!!!」
「うるさいっ!順番なんて待っていられるかぁっ!!女を待たせる男なんてクズだっ!ゴミだ! ミノムシ以下だ!いやっミノムシが可愛そう!ミノムシに謝れ!
そんなことはどうでもいいっ、男ならつべこべ言わずに覚悟を決めろぉ!!」
なんだ?見た事もないサクラのこの勢いはなんなのだ?待ち望んでいた実体化とはいえ、何が彼女をここまで駆り立てる?
愛か?これが彼女の中で湧き上がる愛情だとでも言うのか!?
実体化した影響で爆発した俺への愛ならば受け止めてやるのが相棒である俺の使命。
だがしかし、四人の妻と一人の婚約者に加えて絶賛口説き中の女性がいる上でアリサまで手に入れた俺が語るのもなんだが、人は生きて行く上でモラルと言うものが必要不可欠なのだ。
アリサはああ言ったが、例え他のみんなの戦いが終わっていたとしても、戦後の処理やら他にある俺達の目的の為にと休むことなく動いているはずだ。誰も見てないからといってこんな時に、こんな場所で、一人だけ イチャイチャ してて良いワケがない。
「もう少しだけ待てよ!あと何時間かで良いっ、夜まで待ったってバチは当たらないだろっ!」
「うっさい!僕はもう決めたんだ、何を言われても止まらないよっ!ほらっ、女の子みたいにシーツになんかに包まってないでさっさとっ、僕達をっ、抱きなさい!!」
「うわぁぁっっ!やめろ!勘弁してくれぇっ、サクラ!サクラぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」
暴走するサクラは俺の意見など聞くはずも無く、剥ぎ取られたシーツと共に俺の意志も投げ捨てられたのだった……。
「クスクスクスッ、でも…………ですわよね?お互いさまじゃないこと?」
「そぉ~だけどさぁ……むぅ、そうなのか?」
「ええ、きっとそうね」
微睡む意識の端で何やら楽しそうに会話する女の子達の声が聞こえる。普段なら気にする事もないだろうに、なんだが妙に気になる二人の声。
──人が気持ち良く寝てるってのに、何くっちゃべってるんだ?
「あははははっ!でしょ?でしょ?」
「……って事ですわよね?あぁっ、可笑しいったらありゃしないわ」
「だよね~、ぷぷぷぷぷっ」
──うるさいなぁ、俺はたくさん戦って疲れてるんだぞ?雑談なら他所で……あれ?
「あれぇ?起きた……ってまだか。この寝坊助めっ!」
「自分より強い者と戦うのは身体に負担がかかるのよ?ましてやそれが連戦ともなれば精神的にも疲れてしまったのではないかしら?」
──そうだ、アゼルという魔族を倒して……
「そんなこと言われなくても分かってますよ~っだ!」
「そうね、貴方も一緒に戦ったんだもの。当然よね」
「そうよ、当然よっ」
──次にアリサと戦って……負けたんだ
「それにしてもいい加減起きてくれないかな……待ちくたびれたぞ?」
「あらあら、女は待つのが仕事みたいなものよ? わたくし、自慢ではないけど、運命に出会うまでに二百年以上待ったのよ?」
「うひゃ~っ、そんなの耐えらんないよ!待ってても来てくれないのなら、僕の方から探しちゃうもんね!」
──下僕だと言われて、何故か近くにあった小屋に……!?
何故か抜けかけていた今日の出来事の全てが思い出されれば、意識を無くす直前の事も思い出されて慌てて目を開いて飛び起きる。
「アリサ!!!!」
突然の大声に キョトン とした顔でこっちを見るアリサと、その向かいの椅子に座る黒髪の女。
「くすくすっ、多少なりとも疲れは取れたかしら? 大声で叫ばれるのは困るけど、そんな顔で名前を呼んでもらえるなんて嬉しい限りだわ」
微笑みながら手にしたティーカップを机に置くと優雅さを醸し出すゆったりとした動きで立ち上がり、ベッドへ歩み寄り腰を降した。
「顔色は良さそうね、何処かおかしなところはあるかしら?」
体温でも診たのだろうか。
額に当てられた手から温もりが伝われば、そこにいる彼女が幻などでは無い事が認識出来る。
「あう、あの、その……あり、アリサ?」
「やだわ、お化けでも見るような目で見るのは止めて頂戴な。わたくしは正真正銘アリサ・エードルンド、貴方のご主人様よ?うふふっ」
──アリサ…………生きてる!?
ルガケーアの呪縛から解放してやれず死を迎えたはずのアリサがすぐそこにいる。理解が及べば生きて再び会えた事に涙腺が緩み、込み上げる感情のままに身体が動き出す。
「アリサぁっ!……ぶっ!いってぇ~」
抱き付こうと手を広げた直後、彼女の背後から伸びた手のひらに顔面を直撃されて押し戻されてしまった。
愛する者への愛情表現を阻止され苛立ちが自分の出番だと台頭してきたのだが、そこに現れた予想だにしない顔に動き出したばかりの思考が凍りつく。
「アリサがご主人様で、そのご主人様を助けたのがこの僕だという事は、この中では僕が一番偉いということだねっ!
つまり、ハグするなら僕が先という事だよ、レイシュア。さぁっ、ぎゅぎゅっとしちゃってよ! カモンっ、カモ~ンっ!」
アリサの横で差し出した右手の指を順番に握り、早く来いと誘う黒髪の美女。
小高い鼻と鋭利な印象を受ける顔とが姿勢良く立つ姿と相まって凛々しく見えるが、生地少な目の黒い布に包まれた豊満な胸と少しだけ控えめなお尻とが成熟した女の色気を前面に押し出し、美しさの方が先に感じる。
何を食べればそんなに綺麗になるのかと聞きたくなるほどの真っ直ぐで艶やかな髪はお尻を覆うほどに長く伸び、窓から差し込む光が映り込んで天使の輪が乗せられているように見える。
服も髪も、瞳の色ですら黒に統一された彼女に華を添えるのは一つだけ着けられた金の髪留め。 小さな蝶をモチーフとし、光を乱反射させる細かな宝石をあしらった存在感のあるソレは紛れもなく俺が造ったモノ。
「朔羅!どうして!?」
アリサの向かいに座っていたのだから視界に入らなかった筈がない。しかし、生きてる筈のないアリサに意識が集中するあまり認識出来ていなかった。
理解が及べば大きな疑問がのし掛かるが、アリサとの反応の違いに眉を寄せると満面の笑みは一変し、頬を膨らませてあからさまに不機嫌な顔へと早変わりする。
「せっかく実体化出来るようになったってのに、僕がここにいるのが不満なの?アリサにはあんなに嬉しそうな顔で飛びつこうとした癖に、僕はお邪魔虫って事かい?
あぁそうですか、そうですかっ。そういう塩対応なら二人を邪魔するお邪魔虫はお暇……」
理由なんてどうでもいいっ!
待ち焦がれたアリサは死んでなくて、いる筈のない朔羅が確かにそこに居る!!
嬉しい事が重なり、勢いよく膨らんだ感情が思考を押し退ければ、反射の如く勝手に身体が動きだす。
「朔羅ぁっ!!!!」
「うわぁぁっ!」
唐突に抱き付けば、何事かとびっくりして逃れようとする朔羅。歯車の噛み合わない二人のバランスなど取れるはずもなく、勢い転じてベッドに引き倒す結果となった。
「なんだよぉ、今更……」
「朔羅っ……朔羅!本物だよな!?」
「こんな可愛い僕が偽物なわけないだろ?でもね、僕を呼ぶのは《サクラ》にしてくれない?朔羅は僕の本体だけど、ほら、ややこしいし……」
「名前なんてどうでもいいよ!」
「良いわけあるかぁ!僕の名前だぞ?大事だろ!?」
「分かった分かった、サクラ、サクラぁっ!」
触れ合って尚、サクラがそこにいるのに確信が持てず、四つん這いで見下ろす形の彼女の頬に、髪に、肩にと、あちらこちらに手をやり本当にそこに存在する事を何度も確かめた。
「あはっ、レイシュアってばや~らしぃっ!そんなにシタかったの?」
たわわにぶら下がる大きな胸へと押し付けられる俺の手。細められた目と共に見せ付けるようにゆっくりとした舌舐めずりをするものだから、その妖艶さにゾクリとした言い知れぬモノが背筋を駆け登っていく。
「待てっ!そういうこ……んんっ!」
唇が塞がれれば胸へと落ちて来る長い髪、その勢いに乗じて “サクラの匂い” が届いたかと思えば、口の中へと侵入して来た柔らかなモノから “サクラの味” が感じられ、彼女の存在をもっと感じたいという欲望が目を覚ます。
「ずっと待ったんだ。オアズケされる気持ち、理解出来る? もう我慢なんて嫌!」
「落ち着けっ!落ち着くんだ!俺もずっとサクラに会いたいと思っ……」
「じゃあ問題無いね!早く……」
服の肩にかけたサクラの手を慌てて掴んで制すると、そんな俺達の事を何も言わずにすぐ側で見守っていたアリサがどんな顔色をしているのか気になり チラリ と視線を向けた。
すると、我が子のじゃれ合いでも見るかのように微笑ましげにしていた彼女と目が合う。
「ん?アリサ?……じゃあ、三人でスレばいいじゃんっ!僕、知ってるからっ。猫耳娘二人と三人でヤッてたの見てたんだから!
アリサも別に構わないよね?」
「えっ?わたくしも……一緒に!?」
素っ頓狂な提案に頬を赤らめるが一瞬落とした視線はすぐに戻り、拒否してくれればいいものを、何故だか知らないが覚悟を決めた顔をしていたので不味い展開を予感せざるを得ない。
「わたくしはレイに命を助けられました。つまり、わたくしの命を含めて身体だってレイのモノよ。レイが望むのなら拒否する権利はわたくしには無いわ」
「まぁ、アリサの命が助かったのは僕のおかげなんだけどねっ。つっまっりっ、僕こそがアリサのご主人様ってこと!
問題が解決したところで三人でスルよ! ほらっ、早くっ!僕っ、我慢っ、限界!早くっ!!」
「わぁぁっ!分かった!分かったから一先ず待てって!
俺の戦いは終わったけど、まだ町を襲う魔族が暴れてるかもしれない。サクラの欲求は分かったし俺も今すぐ抱きたい気持ちはあるけど、みんなが戦ってるってのに俺だけ良いコトしてたら駄目だろ?」
「それなら心配無くってよ?
獣人王国ラブリヴァを襲った魔族達には揺動を命じただけ。わたくしが王宮を堕とした合図として分かりやすく結界を張った時点で適当に切り上げて戻るように言ってあるわ。
あれからだいぶ経つから、今頃は全ての撤退が終わっている筈よ?」
魔族を率いていたアリサは特に深い意味もなく親切心から現状を教えてくれた。だがそれは、それ以上は上がらないだろうという所まで口角を吊り上げたサクラの援護射撃に他ならない。
「心配事が無くなって良かったねぇ、これで気兼ねすることもないでしょ?
ほらっ、アリサ!君も早く脱いで脱いで!」
「え……あ、はい。仰せのままに、ご主人様」
逃れられないように組み敷かれた俺に顔を寄せ少し照れた顔で軽い口付けをすると、言われるがままに躊躇なく服へと手をかけるアリサ。
「待てっアリサ!サクラ、ストップ!!
分かった!本当に分かったから、なっ?せめて一人ずつにしよう!!!」
「うるさいっ!順番なんて待っていられるかぁっ!!女を待たせる男なんてクズだっ!ゴミだ! ミノムシ以下だ!いやっミノムシが可愛そう!ミノムシに謝れ!
そんなことはどうでもいいっ、男ならつべこべ言わずに覚悟を決めろぉ!!」
なんだ?見た事もないサクラのこの勢いはなんなのだ?待ち望んでいた実体化とはいえ、何が彼女をここまで駆り立てる?
愛か?これが彼女の中で湧き上がる愛情だとでも言うのか!?
実体化した影響で爆発した俺への愛ならば受け止めてやるのが相棒である俺の使命。
だがしかし、四人の妻と一人の婚約者に加えて絶賛口説き中の女性がいる上でアリサまで手に入れた俺が語るのもなんだが、人は生きて行く上でモラルと言うものが必要不可欠なのだ。
アリサはああ言ったが、例え他のみんなの戦いが終わっていたとしても、戦後の処理やら他にある俺達の目的の為にと休むことなく動いているはずだ。誰も見てないからといってこんな時に、こんな場所で、一人だけ イチャイチャ してて良いワケがない。
「もう少しだけ待てよ!あと何時間かで良いっ、夜まで待ったってバチは当たらないだろっ!」
「うっさい!僕はもう決めたんだ、何を言われても止まらないよっ!ほらっ、女の子みたいにシーツになんかに包まってないでさっさとっ、僕達をっ、抱きなさい!!」
「うわぁぁっっ!やめろ!勘弁してくれぇっ、サクラ!サクラぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」
暴走するサクラは俺の意見など聞くはずも無く、剥ぎ取られたシーツと共に俺の意志も投げ捨てられたのだった……。
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