黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

文字の大きさ
上 下
492 / 562
第九章 大森林に咲く一輪の花

33.白きドラゴン

しおりを挟む
 人間など一飲みに出来るほど大きく開かれた口から眩く輝く一条の光が吐き出されると、茜色に染まりつつある晴天の空を突き抜け彼方へと消えて行く。

「良いじゃないか。セレステル、今の感じだ」

 ララに言わせると “公然猥褻行為” により彼女の魔力を探った結果は、レッドドラゴンの名の通り火魔法を得意とする他の者とは違い、白く美しい竜体のセレステルは光の魔力を内包している事が分かった。

 竜へと姿を変えると二十メートルある巨体。空を飛ぶ為の風魔法は勿論の事、今はまだ生活魔法程度ではあるものの水魔法や火魔法も使えはする。これはつまりブースターとなる光魔法を混ぜる事が出来れば今とは段違いの魔法を扱えるという事であり、自分だけが違うことで劣等感を感じていたレッドドラゴンとは別格となる可能性を秘めているのだ。

「ありがとうございます。もう一度行きます!」

 再び開かれる口に合わせて少しだけ傾いた頭の上でバランスを取ろうと、大小五対の角の内一番長い物へと手を伸ばした。
 吸い込まれた大量の空気と共に巨大な身体の内側、胸の中心部分にある《レムネスハーツ》と呼ばれるレッドドラゴンの力の源とされる宝石へと魔力が集まり、そこで変換された光の魔力が口元へと登れば彼女特有の “シャイニングブレス” が吐き出されることになる。

「姉貴、すげぇな……」
「あぁ……竜体であの威力とか、俺の竜化ブレスと変わらないんじゃないか?バケモンかよ、アイツ。あれで自分は不良品だとか言ってたのか?ふざけてるな……」

 人間など跡形もなく消し去りそうな威力を持つ光の柱が再び空を駆け抜れば、両の拳から一メートル程の炎を上げて対峙していた赤体の二人も動きを止めてその光景に見惚れている。


 セレステルの魔力を調べてから丸二日。天性のセンスもありはしたが、彼女の努力が実を結び、ドラゴンの象徴とも言えるブレスを吐ける迄に至った。

 今後の課題としては、ある程度出来るらしい剣術とやった事のない身体強化の魔法については誰かに教えてもらえばそのうち身に付くだろう。
 問題は他に誰も扱うことの出来無い光魔法なのだが、俺なりの説明と僅かな実践練習だけで時間切れとなってしまったので、残念ながらこれより先は独学で学んでもらう他にない。

「よし、セレステル。俺が指導してやれるのはここまでだ。君は出来損ないなんかじゃないのは分かったろ?後はクラウスやトパイアスと実戦訓練して自分を磨いて行け。
 君の中に眠る光の魔力を余す事なく使えるようになれば、レッドドラゴン最強の座も手にしたようなものだぞ?」

「はいっ!三日間のご指導、ありがとうございました。私が最強になってしまったら次期族長はクラウスではなく私になってしまいますねっ」

 力こそが全てだと考えるレッドドラゴンは最強の男が族長となるのが長年の決まりらしいのだが、ギルベルトが次の族長にと考える彼の息子クラウスはレッドドラゴン三強と呼ばれながらもその中では一番下。現状で行けば三日間飽きもせず俺達を眺め続けたレジナードが継ぐことになるのだが、彼の性格上面倒を引き受けるとは思えないので、セレステルの冗談も冗談で無くなる可能性が高いように思える。

 だが、クラウスとトパイアスもこの三日間で大きく成長していた。
 トパイアスは努力をする人物とは思えなかったのだが俺に負けたのがよほど悔しかったのか、はたまたクラウスに感化されたのかは知らないが、俺が出した課題を二人で見事に克服し中距離戦を有利に進める為の武器である炎の剣を両腕から生やし、尚且つそこに火魔法を織り交ぜる技術を磨いて荒削りながらもたった三日でモノにしてしまった。

 今のトパイアスに再戦を申し込まれたら勝てる自信がないなぁと今更ながらに思うが、強くなる事に目覚めた今の彼からは『女を寄越せ』とは言われない……だろうという希望的観測でその件から目を逸らした。



「では、そろそろ日も暮れる事ですし戻るとしますか?」

「ああ、そうするか。もう少し光魔法の使い方を教えてやれれば良かったけど、時間が無くてごめんな」

「いいえ、とんでもありません。レイシュア様は私に希望を下さいました、後は自分でなんとかしますよ。
 それよりも今日はみなさんの出立前夜ですからね、ティナさんがまたカルヴァドスを御所望でしたよ?」

「マジか……」

 あの日以来、食事の席ではワイン一杯しかサラの許可が降りなかったのだが、ここぞとばかりに羽目を外そうという魂胆なのだろう。
 アイツには学習するという機能が備わっていないのかと呆れてしまうが、それほどまでに気に入ったのなら自分に責任の取れる範囲でなら飲んでも構わないだろう……そう、ティナは立派な大人の女性、歯止めの効かないお子様とは違う筈だ……はず、だ。


 光に包まれた白き竜から飛び降りると、風魔法で少しだけ落下速度を調節すれば着地と同時に人間の形と成ったセレステルが腕を絡ませてくる。

「こーらー!!ウチの旦那にくっ付くの禁止って言ってるでしょっ!!!!」

 言い終わらぬ内に威力を調節された糸のように細い雷竜が放たれセレステルへと向かってくる。

「危ないし! 俺まで感電するし!」

 風壁でも氷壁でも相性が悪いと判断し、どうせならと光の魔力で創り出した “光壁” を盾にティナの雷撃を防ぐと、セレステルが片目の端を指で引っ張り舌を出して挑発するものだから収拾が着かない。

「浮気は両成敗よっ!覚悟なさい!!」

「ティ~ナさ~ん、悪戯は程々にしましょうねぇ、こちょこちょこちょちょっ」

 怒れるティナが次の雷竜を撃とうと伸ばした両手に稲妻が走った時、その隙を狙ったエレナが素早く忍び寄り、背後から両脇をがっりしと掴みくすぐり始めた。


「「アババババババババババッ」」


 魔力により生成されたは良いが制御を失った雷は二人の身体をほんの二秒ほど駆け巡ると役目を果たしたように消えて無くなる。
 しかし、威力が極小に抑えてあるとはいえ雷に打たれたとあってはただで済む筈も無い。

「エレナの馬鹿……」
「ティナさんのおたんちん……」

 夜の帳が降り始めた闘技場で二人仲良さげに寄り掛かりながら地面へとへたり込む姿にセレステルと微笑み合うと、恨めしそうに俺達を見る二人に歩み寄り手を差し伸べた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...