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第八章 遠回りこそが近道
40.抱えている闇
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フラウの魔石を口にしたモニカにララの手伝いを得て闇魔法をかけ終わると、一緒に居た雪におやすみのキスをして部屋を後にする。
「ちゃんと練習しなさいよ?」
力強く背中を叩きながら釘を刺し自分にあてがわれた部屋へと戻って行くララを見送ると、この施設の事を聞こうとコレットさんの部屋を訪れたのたが、ノックしても返事が無い上に中に人の気配もなかった。
ここに来てからのコレットさんの様子に少しばかり心配に思ったが、明日でいいかとティナの待つ部屋に帰ると肝心のティナの姿は見えない。
視線を巡らせればソファーに掛けられたバスローブ。その先のベッドに出来上がっている膨らみの隙間からは薄紅色の瞳がこちらを覗いていた。
「ごめん、おまたせ」
「むーーっ!」
ベッドの脇にしゃがみ込み隙間を覗き込めば、頬を膨らませた顔だけが布団から姿を現し不機嫌さをアピールしてくる。
「ごめんってば、すぐ帰って来ただろ?それくらいで怒るなよ」
「むぅぅっ、じゃあゴメンねのチュウゎ?」
亀のように丸まっていた身体を解き仰向けに転がると目を瞑って早くしろと尖らせた唇を鳴らしてキスをせがむ。
その姿に可愛いなと微笑んでから、唇を重ねつつ布団越しに胸の膨らみへと手を這わせた。
「んんっ」
柔らかな感触と共に甘い反応が得られると、俺だけに聞かせてくれる声がもっと聞きたくて手を動かし始めたところで今夜二度目の邪魔が入る。
コンコンッ
「レイシュア様、もうお休みになられましたか?」
今日はもう寝るだけの筈なのにこんな時間に何の用事だろうと、邪魔ばかりされて不機嫌そうにむくれるティナの頭を撫でてから扉を開ければ、バスローブ姿にスリッパというティナと同じ格好のシュリが立っていたので困惑してしまう。
「レイシュア様がご希望されるのなら夜伽をと……」
覚悟を決めているのかは分からないが、特段恥じらうでもなく平然と言って退ける様子に違和感を感じ、ティナには悪いが一先ず入ってもらう事にした。
「えっ?あっ!すっ、すみません!すぐに退出致します」
再び丸まって顔だけ出したティナに半目で睨まれ、慌てて帰ろうとするシュリを捕まえると「いいから」とソファーに座らせる。
しかしティナの事が気になるのかチラチラと視線を送っていたので間に入るようにして腰を降ろした。
「見た感じ初めてする訳ではなさそうだよね?まさかとは思うけど、こんな事も教育されてるの?」
五歳から施設にいて、外界との交流は一切無しとくれば彼女のお相手が誰かというのは自ずと絞られる。
彼女の意思でそういった教育を受けているのなら俺が口を出す問題ではないが、どうやらそうではなさそうだ。
「私達はご主人様となられるただ一人の為に存在します。ご主人様にはどのような奉仕でも出来るように様々な事を学んでいます。これもその一つだと教官にご指導いただいております」
「そんなのあり得ないわっ!護衛メイドは主人を守り主人の支えとなるのが仕事よ、主人の下の世話なんて仕事に入る訳ないっ。
現にクロエは買主であるお父様とはそのような関係とはならず、自らの意思で愛する人に貞操を捧げているのよ?」
「ティナ様の仰るクロエ様とは桃色の髪を頭の横でツインテールにしている方でしょうか?」
シュリによると、彼女がまだこの施設に入りたての頃によく面倒を見てくれた姉的存在で、絶対である教官達に歯向い叱られる自分達を庇って対立すらしてくれた事もあると言う。
何をやらせてもそつなくこなす優秀な成績故に護衛メイドとして巣立って行ったが、教官に歯向かって無事に済んでいたのは彼女くらいだというので、異質な存在だったのだろう。
俺の記憶だとあまり熱心に働く様子が思い浮かばないクロエさんだが、そんな一面もあるんだと聞いていたら「お邪魔しました」と席を立ち部屋から出て行ってしまったので、なんだかはぐらかされた気分になる。
「なんか、おかしな感じね。逆らえないのを良い事に教育だと言いくるめられて教官のおもちゃにされてる感じがしたわ。もし勘違いじゃないのだとしたら、最低な施設ね」
まったくもってその通りだが、それをどうにか出来る力がある訳ではないので気付かぬ振りをするしかない。
だが金持ち達が護衛メイドを求める限り、被害に遭うだろう女の子達がこの施設へと買われて来るのは止まらないだろう。
コレットさんを見てる限りは非常に優秀な人材育成の場なのに抱えている闇はその分深いのかと残念に思う。
この館に信用が置けなくなり、念の為にみんなの部屋の扉に風の結界を張り出入りがあれば分かるようにしておくと、三度目の邪魔はされないようにと、この部屋にも結界を張った。
△▽
翌朝、朝食の席で顔を合わせた村長に施設の見学をさせてくれと申し入れると目を細めて嫌そうな顔をしたが、王族の強権を振りかざせば、ここで見たものの一切を記憶に封ずる事に念を押され、昼食後に村を出るのを条件に渋々納得した。
外から見たときは窓が見当たらず違和感満載の建物だったが中に入ってみるとそうでもなく、中庭側には窓があり多少暗いもののそれほど変わった様子もない部屋。
その中では同期生六人が一つの部屋におり、一人ないし二人の教官の指導の元、掃除や洗濯、裁縫や料理、更に言えばテーブルマナーやドレスの着付けから髪の手入れの仕方などを教え込まれている、少しレベルは高いが所謂普通の職業訓練場だった。
「これは凄いですな」
普通のメイドと大きく違うのは、最初からメイド長を任せられる程に卓越したメイドとしての技量もさることながら、戦えるメイドさんであるという事。
中庭で行われていた戦闘訓練は獣人族の近衛隊長を務めるジェルフォですら唸り声をあげる程に激しく、ギルドで冒険者を集めて行っても付いていけない者が続出しそうな程に高度なもので、ベテランを感じさせる教官一人で二人の女の子の指導をしていた。
「ここまでの戦闘技術がいるのか?」
「その名の通り護衛メイドですから、彼女達の本領は主人を守ることにあります。いついかなる時、いかなる状況にあっても主人を守り通す為にはいくら強くとも強すぎると言う事はありません。例え相手が上級モンスターや魔族であろうとも、危害を及ぼす魔の手から主人を生かすことに全力を尽くすのが仕事なのです」
一通り見せてもらって特におかしいとは思わなかったが、一つだけ気になったのは教官達の視線。メイド候補の子達が人里から隔離されたこの村に事実上の監禁をされているのであれば、それを指導する教官達も似たような状況にあると言えよう。
外から来た俺達が物珍しいのは分かるが彼等の視線はそういったモノではなく、サラ達女性陣を下から上へと舐め回すようなねっとりとした気持ちの悪いもので、わざわざ檻に入って来た新しい獲物を狙っている野獣のようだった。
「コレット、少しいいか?」
昼食も終わり後はデザートを食べてお茶を飲んだらお暇しますかというタイミングで馴染みがあるっぽい教官に呼ばれて部屋から出て行くコレットさん。
憂鬱そうな顔をしていた彼女の事が気になったが、出された紅茶を口にしデザートを待っていると、口から全身へと拡がるピリピリとした痺れと強烈な眠気が襲って来る。
──やられた!?
ガタッと言う音に視線を向けると隣に座っていたサラが机へと倒れ込んでいる。
その向こうにいるみんなの様子もおかしく、一様にフワフワしたり頭を抱えたりしているので紅茶に毒を盛られたのは確実なようだ。
「そろそろいいかな?」
下卑た笑い声と共に教官達が入って来るので、これが誰の仕業なのか一目瞭然だろう。
「お前達、何を考えているのだ?」
「村長、そりゃ聞くまでもないだろ?こんな辺境にやって来た者がどうなろうと誰も分かりゃしない。魔族に襲われて死ぬか、モンスターに襲われて死ぬか、そんな事故があっても不思議じゃないだろ?
どうせ死んじまうんだったら、その前に俺達が捕まえて食っちまっても良いじゃねぇか。こんな上玉がゴロゴロいるんだぜ?みすみす逃すなんておかしいだろ。王女だぜ?王女。こんなチャンス逃したら二度と手に入らない代物だぜ?」
「お前達の女好きに限りはないのか。そういう頭があるのなら他に回して欲しいものだな。まぁいい、もうヤッちまったものは仕方がないから証拠が残らないようにしろよ?」
一人の教官がサラの頬に手を滑らせたところで殺してやりたい衝動に駆られたが、身体は一向に動かないどころか魔力も上手く練れない。
怪しげな雰囲気があったにも関わらずこんな簡単に嵌められて情けないと自分を責めたが、不味いとは思いながらもどうする事も出来ずに意識が刈り取られてしまった。
「ちゃんと練習しなさいよ?」
力強く背中を叩きながら釘を刺し自分にあてがわれた部屋へと戻って行くララを見送ると、この施設の事を聞こうとコレットさんの部屋を訪れたのたが、ノックしても返事が無い上に中に人の気配もなかった。
ここに来てからのコレットさんの様子に少しばかり心配に思ったが、明日でいいかとティナの待つ部屋に帰ると肝心のティナの姿は見えない。
視線を巡らせればソファーに掛けられたバスローブ。その先のベッドに出来上がっている膨らみの隙間からは薄紅色の瞳がこちらを覗いていた。
「ごめん、おまたせ」
「むーーっ!」
ベッドの脇にしゃがみ込み隙間を覗き込めば、頬を膨らませた顔だけが布団から姿を現し不機嫌さをアピールしてくる。
「ごめんってば、すぐ帰って来ただろ?それくらいで怒るなよ」
「むぅぅっ、じゃあゴメンねのチュウゎ?」
亀のように丸まっていた身体を解き仰向けに転がると目を瞑って早くしろと尖らせた唇を鳴らしてキスをせがむ。
その姿に可愛いなと微笑んでから、唇を重ねつつ布団越しに胸の膨らみへと手を這わせた。
「んんっ」
柔らかな感触と共に甘い反応が得られると、俺だけに聞かせてくれる声がもっと聞きたくて手を動かし始めたところで今夜二度目の邪魔が入る。
コンコンッ
「レイシュア様、もうお休みになられましたか?」
今日はもう寝るだけの筈なのにこんな時間に何の用事だろうと、邪魔ばかりされて不機嫌そうにむくれるティナの頭を撫でてから扉を開ければ、バスローブ姿にスリッパというティナと同じ格好のシュリが立っていたので困惑してしまう。
「レイシュア様がご希望されるのなら夜伽をと……」
覚悟を決めているのかは分からないが、特段恥じらうでもなく平然と言って退ける様子に違和感を感じ、ティナには悪いが一先ず入ってもらう事にした。
「えっ?あっ!すっ、すみません!すぐに退出致します」
再び丸まって顔だけ出したティナに半目で睨まれ、慌てて帰ろうとするシュリを捕まえると「いいから」とソファーに座らせる。
しかしティナの事が気になるのかチラチラと視線を送っていたので間に入るようにして腰を降ろした。
「見た感じ初めてする訳ではなさそうだよね?まさかとは思うけど、こんな事も教育されてるの?」
五歳から施設にいて、外界との交流は一切無しとくれば彼女のお相手が誰かというのは自ずと絞られる。
彼女の意思でそういった教育を受けているのなら俺が口を出す問題ではないが、どうやらそうではなさそうだ。
「私達はご主人様となられるただ一人の為に存在します。ご主人様にはどのような奉仕でも出来るように様々な事を学んでいます。これもその一つだと教官にご指導いただいております」
「そんなのあり得ないわっ!護衛メイドは主人を守り主人の支えとなるのが仕事よ、主人の下の世話なんて仕事に入る訳ないっ。
現にクロエは買主であるお父様とはそのような関係とはならず、自らの意思で愛する人に貞操を捧げているのよ?」
「ティナ様の仰るクロエ様とは桃色の髪を頭の横でツインテールにしている方でしょうか?」
シュリによると、彼女がまだこの施設に入りたての頃によく面倒を見てくれた姉的存在で、絶対である教官達に歯向い叱られる自分達を庇って対立すらしてくれた事もあると言う。
何をやらせてもそつなくこなす優秀な成績故に護衛メイドとして巣立って行ったが、教官に歯向かって無事に済んでいたのは彼女くらいだというので、異質な存在だったのだろう。
俺の記憶だとあまり熱心に働く様子が思い浮かばないクロエさんだが、そんな一面もあるんだと聞いていたら「お邪魔しました」と席を立ち部屋から出て行ってしまったので、なんだかはぐらかされた気分になる。
「なんか、おかしな感じね。逆らえないのを良い事に教育だと言いくるめられて教官のおもちゃにされてる感じがしたわ。もし勘違いじゃないのだとしたら、最低な施設ね」
まったくもってその通りだが、それをどうにか出来る力がある訳ではないので気付かぬ振りをするしかない。
だが金持ち達が護衛メイドを求める限り、被害に遭うだろう女の子達がこの施設へと買われて来るのは止まらないだろう。
コレットさんを見てる限りは非常に優秀な人材育成の場なのに抱えている闇はその分深いのかと残念に思う。
この館に信用が置けなくなり、念の為にみんなの部屋の扉に風の結界を張り出入りがあれば分かるようにしておくと、三度目の邪魔はされないようにと、この部屋にも結界を張った。
△▽
翌朝、朝食の席で顔を合わせた村長に施設の見学をさせてくれと申し入れると目を細めて嫌そうな顔をしたが、王族の強権を振りかざせば、ここで見たものの一切を記憶に封ずる事に念を押され、昼食後に村を出るのを条件に渋々納得した。
外から見たときは窓が見当たらず違和感満載の建物だったが中に入ってみるとそうでもなく、中庭側には窓があり多少暗いもののそれほど変わった様子もない部屋。
その中では同期生六人が一つの部屋におり、一人ないし二人の教官の指導の元、掃除や洗濯、裁縫や料理、更に言えばテーブルマナーやドレスの着付けから髪の手入れの仕方などを教え込まれている、少しレベルは高いが所謂普通の職業訓練場だった。
「これは凄いですな」
普通のメイドと大きく違うのは、最初からメイド長を任せられる程に卓越したメイドとしての技量もさることながら、戦えるメイドさんであるという事。
中庭で行われていた戦闘訓練は獣人族の近衛隊長を務めるジェルフォですら唸り声をあげる程に激しく、ギルドで冒険者を集めて行っても付いていけない者が続出しそうな程に高度なもので、ベテランを感じさせる教官一人で二人の女の子の指導をしていた。
「ここまでの戦闘技術がいるのか?」
「その名の通り護衛メイドですから、彼女達の本領は主人を守ることにあります。いついかなる時、いかなる状況にあっても主人を守り通す為にはいくら強くとも強すぎると言う事はありません。例え相手が上級モンスターや魔族であろうとも、危害を及ぼす魔の手から主人を生かすことに全力を尽くすのが仕事なのです」
一通り見せてもらって特におかしいとは思わなかったが、一つだけ気になったのは教官達の視線。メイド候補の子達が人里から隔離されたこの村に事実上の監禁をされているのであれば、それを指導する教官達も似たような状況にあると言えよう。
外から来た俺達が物珍しいのは分かるが彼等の視線はそういったモノではなく、サラ達女性陣を下から上へと舐め回すようなねっとりとした気持ちの悪いもので、わざわざ檻に入って来た新しい獲物を狙っている野獣のようだった。
「コレット、少しいいか?」
昼食も終わり後はデザートを食べてお茶を飲んだらお暇しますかというタイミングで馴染みがあるっぽい教官に呼ばれて部屋から出て行くコレットさん。
憂鬱そうな顔をしていた彼女の事が気になったが、出された紅茶を口にしデザートを待っていると、口から全身へと拡がるピリピリとした痺れと強烈な眠気が襲って来る。
──やられた!?
ガタッと言う音に視線を向けると隣に座っていたサラが机へと倒れ込んでいる。
その向こうにいるみんなの様子もおかしく、一様にフワフワしたり頭を抱えたりしているので紅茶に毒を盛られたのは確実なようだ。
「そろそろいいかな?」
下卑た笑い声と共に教官達が入って来るので、これが誰の仕業なのか一目瞭然だろう。
「お前達、何を考えているのだ?」
「村長、そりゃ聞くまでもないだろ?こんな辺境にやって来た者がどうなろうと誰も分かりゃしない。魔族に襲われて死ぬか、モンスターに襲われて死ぬか、そんな事故があっても不思議じゃないだろ?
どうせ死んじまうんだったら、その前に俺達が捕まえて食っちまっても良いじゃねぇか。こんな上玉がゴロゴロいるんだぜ?みすみす逃すなんておかしいだろ。王女だぜ?王女。こんなチャンス逃したら二度と手に入らない代物だぜ?」
「お前達の女好きに限りはないのか。そういう頭があるのなら他に回して欲しいものだな。まぁいい、もうヤッちまったものは仕方がないから証拠が残らないようにしろよ?」
一人の教官がサラの頬に手を滑らせたところで殺してやりたい衝動に駆られたが、身体は一向に動かないどころか魔力も上手く練れない。
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