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第七章 母を訪ねて三千里
幕間──シンデレラ・ノア 前編
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私はごく普通のありふれたキツネの獣人、イヌやネコの獣人に次いで人数の多い種別です。しかも残念な事に何をやっても上手に出来ず、よく失敗をしてしまう “おちこぼれ” というヤツなのです。
そんな私が生活するエルコジモ男爵邸で与えられた仕事はメイド。それも屋敷に訪れるお客様の目に付く仕事ではなく、人気の無い場所でのお掃除やら片付け、何かの準備と所謂雑用係さんなのです。
ですが、たまたま……です。そう、本当にたまたま人手が無かったようで、二本の棒を持って中庭に行きなさいと指示されて慌てて向かったのですがそこには誰も居ません。
『おや?間違えたか?』と思いもしましたが、しばらくそのまま待っていると、お気に入りの獣人四人を連れたご主人様と屋敷で一番強いジェルフォさんに続き、カッコいい男の人を先頭にしたお客様らしき集団が到着しました。
ジェルフォさん、棒、中庭、男のお客様……ピンと来た私はジェルフォさんに近寄り、持っていた棒を渡すと「ありがとう」と渋い声でお礼を言われました。
よしよし、私の勘は合ってるぞと調子に乗りカッコいいお兄さんに近寄ると、全力スマイルで棒を手渡します。
「ありがとう」とスマイル返しでお礼をくたことに「よし!」と心の中でガッツポーズです。
まぁぶっちゃけますと、その笑顔に クラッ と来て倒れそうになってたんですけどね~。
役目を終えた私はカッコいい彼の姿を見ていたくてそのまま部屋の入り口の方で『終わった棒は回収します!』って顔していかにも仕事してる風に立っていれば思惑通りにお二人の戦いが始まりました。
ジェルフォさんの方が遥かに強そうに見えるのに結果はまるっきりの逆、しかも最後は床に現れた炎の円が ズゴゴーッ と ドッカーン となってジェルフォさんが黒焦げになってしまいました。
その戦いの凄さに ポーッ としていると、何故だかわかりませんがお兄さんが私に向かって歩いてくるではありませんか!?
しかし、肩を抱かれた私に向けられたのは凄く怖い顔。「俺のペットにしてやる」と悪い顔で言うのでさっきまでの憧れは一転し恐怖に身体が震えてしまいます。
お連れ様であるお姫様達がレイ様のペット発言にお怒りになり帰って行かれる中、何故かビクビクとしているレイ様の様子をまじまじと観察してしまいました。
さっきは最初の印象とは違い怖い顔をして自分でお姫様達を怒らせたというのに、今は逆に怒られるのを怖がっている?私と同じでドジっ子なのか?と少しばかり親近感が湧いたほどです。
そのままレイ様に連れられ食堂まで来ると、今度は隣に座って食事を一緒にと言うではありませんか!?お客様用の食事などという高級な物を私などが食べていい筈がないので困り果てていると、ご主人様が「これも仕事だから」と命じるので、仕方なく……ええ、仕方なくですよ?ご命令とあらばこれも仕事のうちと、後で他から怒られる事を覚悟の上で初めて食べる豪華な食事に胸を踊らせレイ様に感謝の笑顔を向けました。
私の頭がご飯の事で一杯になっていると、仲良しのミアちゃんがレイ様を誘っています。
唇をチロチロっとか舐めてみたり、指をペロペロとかしてみたりと私が見ていても「うゎ~っうゎ~っ」と声が出そうな程にエッチな顔でレイ様を誘うのです。
ミアちゃんの新たな一面を見てちょっと驚きでしたが、やっぱりミアちゃんは可愛いなぁと羨ましくも思う一方で、レイ様が然程興味を示していない事を不思議に思いました。
食事が終わり幸せな気分で『さぁ仕事に戻るか』と思っていると、あれよあれよとレイ様に連れられソファーに座らされると、屋敷で一番優秀なメイドさんのミミちゃんがレイ様に渡したワイングラスをそのまま私に渡してくるので「今度はグラス持ちかぁ」と両手で持ってると「飲める?」と聞かれてこれが私の分なのだと気が付きました。
お酒など飲む事の無い私の生活だったけど、せっかくレイ様が与えて下さった機会を逃すまいと少し口を付けてみれば口の中に甘い香りと少しの渋味が拡がったのです。
『うまっ!』
あまりの美味しさにもう一口と口を付ければ再び拡がる甘い香り。今度はあまり渋さも感じられず三度口を付けました。
あまりの美味しさに止まらなくなりレイ様がミミちゃんも座れと口説くのを横目に、ちびちびちびちびと何度もグラスに口を付けているとなんだか フワフワ して来て気持ちよくなってきます。
レイ様がミミちゃんの尻尾を掴んでまじまじと見ているので「私のも見て~っ」と、頬を撫でてみると思惑通りに振り向いてくれました。
獣人のみんなが呼ばれてご挨拶をして行く中、部屋に入って来たみんなはソファーに座る私とミミちゃんを見て『何してるの!?』と驚いているのが楽しくてたまらない。
普段、日陰人である私からは考えられない立場。お客様の場所に座り、こんな美味しいお酒を飲んで、みんなが仕事してる姿をただ見てるだけ。まるで何処かの国のお姫様にでもなったみたい!
少しずつ少しずつ呑んでいたワインも無くなってしまい、もっと欲しくて見渡すと、ミアちゃんが私を ジーッ と見ていた。
ミアちゃんっ、今日の私はお姫様なのよーっ!キャハッと心の中で告げるとミミちゃんが押して来たワゴンの上に置いてあるワインボトルが目に入った。ムフッ、まだ呑んでもいいよね?残ってるし、いいよね?
手を伸ばしてボトルを取るとミアちゃんが呆れた顔をしたけれど ニコッ と笑って誤魔化しておく。ゲットしたワインをグラスに注いだだけで良い香りがして今度はさっきより多めに口に含んでみると、甘い香りが再び口に拡がる。
うはっ、幸せっ!ワイン最高!お姫様最高!レイ様最高!!
その後の事はあまり覚えていない。レイ様と何か喋り、抱きついて甘えてしまった気もする。
気が付くと自分の部屋のベッドで寝ていて、窓から見える空は夕方を告げていた。
「嘘でしょ!レイ様、帰っちゃった!?」
お姫様な気分を味合わせてくれたレイ様にお礼も言えずにお別れなんて絶対にダメ!
飛び起きた私は屋敷の中を走り回って探したがレイ様を見つける事が出来ず、不安だけが心を締め付けていた。
不安?
私、何が不安なんだろう?
レイ様を探しているのはただお礼が言いたいだけ?
それともお姫様気分をまだ味わいたいから?
もっと美味しいお酒が飲みたいから?
…………分からない。
自分の気持ちが分からないままに息を切らして走っていると、ミアちゃんが立っています。
「ミアちゃんっ!ハァハァハァハァッ、レ、レイ様……レイ様知らない?ハァッハァッ……」
膝に手を突き、息の整わない私を前にミアちゃんが黙って指差す先には庭にある木の根元で眠る探し人の姿がある!
「あ、あんなところに……ハァハァハァッ。ミアちゃんっ、ハァッ、ありがと!」
再び走り出した私はレイ様の元に辿り着いた途端に気が抜けたのか倒れ込んでしまった。
仕方なしに四つん這いで近寄ると死んでしまったかのように眠るレイ様に必死で呼びかけた。
目を覚ましたレイ様は優しく微笑み、私の心配をしてくれる。
優しげに頬を撫でられるなど今までされた事はなかった。走って速くなったのとは違う鼓動が襲いかかり、胸が ドクンドクン と高鳴って思わずその手を握りしめてしまった自分に自分で驚いた。
酔い潰れた事を謝ると何故かレイ様に抱きしめられてしまう。突然そんな事をされれば普通ならきっと嫌がるだろうけど、全然そんな感じは無く、寧ろ心地が良い。頭まで優しく撫でられて気持ち良くなってくると、このまま離れたくなくなってしまう。
ドキドキが治らずレイ様に聞こえてしまうのではないかと心配になり、離れたくない欲求と対立を始めたが、残念ながら夕食の時間という事もあり居心地の良い時は終わりを告げてしまった。
レイ様は夕食も共にと言って下さった。
またしても夢のような豪華な食事、私はこの為にレイ様を求めた?……じゃあさっきのドキドキは一体ナニ?レイ様を見てると幸せな気分になるのはナンで?
お風呂に入ると石鹸で念入りに身体を綺麗にした。石鹸の匂い、私は好きだ。レイ様もこの匂いを気に入ってくださるだろうか?
ルンルン気分でレイ様のお部屋へと向かう途中、またミアちゃんに会った。
今日は良く顔を合わせる日だなと思い「夕方はありがとね」と感謝を告げ、軽く擦れ違おうとしたら腕を掴まれてびっくり。ミアちゃんはそんな事する子じゃないのにどうしたのだろう?
「あの男の部屋に行くの?」
「へっ!?あ……えっと……ぅん」
「こんな時間に男の部屋に行くのがどういう事か、分かってるわよね?」
「……ぅん。ミアちゃん、私決めたの!レイ様は私に夢のような時間を下さったわ。じゃあ私がその恩返しに出来ることって……こんな事くらいしかないからっ」
「男爵に言われたの?」
「ううん、違う。私の勝手な意志よ」
「だったら、そんなの必要ない。好きでもない男に抱かれる必要なんてないわ?」
「……違う、の。私……もしかしたらレイ様の事が好きなのかもしれない。
自分じゃまだよく分からないけど、レイ様を見てると幸せな気分になるの。触れられるとドキドキするの。だから決めたの、例えレイ様が私の事をなんとも思ってなくっても私の初めてを貰ってもらおうって」
「馬鹿な娘……遊び半分の男でいいというの?」
「うん、私はレイ様がいいの。ミアちゃんには分かってもらえないかもしれないけど、これは私が決めた事。じゃあ……行くね」
立ち尽くすミアちゃんを置き去りにレイ様のお部屋の前まで来ると大きく息を吸い込んで気合いを入れました。
ですがお部屋には肝心のレイ様がいらっしゃいません……はれ?何故?ドコ?
レイ様はお風呂に入っていたので、これは私の好きな石鹸をレイ様にも好きになってもらうチャンス!
服を脱いでタオル一枚になると急に恥ずかしくなり、ドッドッドッドッと離れていてもレイ様に聞こえるんじゃないかと思うくらいに鼓動が高鳴ります。
頬を叩き覚悟を決めると戸惑うレイ様を無視して石鹸の準備をしました。はっきり言って勢いで乗り切らないと私の方が逃げ出したいくらいに恥ずかしかったのです。レイ様の裸がすぐそこにある、私も殆ど裸……お風呂なのだから当然ですよね!
レイ様の体を綺麗にしてあげようと思いつく限り必死にがんばりましたが、それはレイ様にとって迷惑なだけだったようで「止めろ」と言われてしまいました。
けど、きっとレイ様も恥ずかしがってるだけ。私も恥ずかしいからおあいこですねと納得して尚も続けると、とうとう「出て行け」と言われてしまいます。
──ですが、この一言が私の胸を打ったのです
レイ様はきっと嬉しがって下さると思い、この身を捧げることを覚悟して来ました。お風呂もきっとレイ様は遠慮なさってるから「止めろ」と言うのだと。
でも実際は違ったようです……たった数回優しくされただけで私はレイ様にとって特別なのだと勘違いしていたようなのです、馬鹿ですよね。
でもそれが分かると、チクチクとした小さな針が胸を刺します。何度も何度も刺されて穴だらけになってしまいそうです。あまりの痛みに涙が出て来ました。
そして…………私はレイ様の事がやっぱり好きなのだと確信しました。
レイ様にとってはただの気まぐれ、ごく普通の事だったのかもしれません。しかし、私にとっては一生に一度あるかないかの特別な思い出。華やかな世界を見せてもらい、恋人のように扱ってくださった。
でも、レイ様にとってはたまたま近くに居ただけのただのメイドだったようです。
言われた通りに帰ろうと思い立ち上がると、何故か抱き寄せられてしまいました。その勢いでお風呂のお湯が ドパッ と溢れて行くのが目に入り「勿体ない」と見ていれば今度は「ここにいろ」と仰います。
出て行けと言ったりここにいろと言ったり、レイ様は忙しい人ですね。
でもこれはチャンスかもしれません。いいえ、チャンスなのです。たとえ一方通行だとしても私の想いを伝えるのは今しかないと思い、丸めて固めてこれでもくらえっ!とレイ様に発射すると、あれよあれよと考えてもいなかった言葉が口から出ていきます。終いには「ペットでも構わない」とか口走っていました!
確かに私の覚悟を形にする為には獣人という特性を活かした手段が効果的なのかもしれませんが、何故かレイ様も満更ではない様子。
女は度胸よ!と自分からレイ様の唇を奪うと、こんな私の誘惑でもレイ様は我慢しきれなくなったようで、とうとう私の願いは叶い結ばれる事となりました。
そんな私が生活するエルコジモ男爵邸で与えられた仕事はメイド。それも屋敷に訪れるお客様の目に付く仕事ではなく、人気の無い場所でのお掃除やら片付け、何かの準備と所謂雑用係さんなのです。
ですが、たまたま……です。そう、本当にたまたま人手が無かったようで、二本の棒を持って中庭に行きなさいと指示されて慌てて向かったのですがそこには誰も居ません。
『おや?間違えたか?』と思いもしましたが、しばらくそのまま待っていると、お気に入りの獣人四人を連れたご主人様と屋敷で一番強いジェルフォさんに続き、カッコいい男の人を先頭にしたお客様らしき集団が到着しました。
ジェルフォさん、棒、中庭、男のお客様……ピンと来た私はジェルフォさんに近寄り、持っていた棒を渡すと「ありがとう」と渋い声でお礼を言われました。
よしよし、私の勘は合ってるぞと調子に乗りカッコいいお兄さんに近寄ると、全力スマイルで棒を手渡します。
「ありがとう」とスマイル返しでお礼をくたことに「よし!」と心の中でガッツポーズです。
まぁぶっちゃけますと、その笑顔に クラッ と来て倒れそうになってたんですけどね~。
役目を終えた私はカッコいい彼の姿を見ていたくてそのまま部屋の入り口の方で『終わった棒は回収します!』って顔していかにも仕事してる風に立っていれば思惑通りにお二人の戦いが始まりました。
ジェルフォさんの方が遥かに強そうに見えるのに結果はまるっきりの逆、しかも最後は床に現れた炎の円が ズゴゴーッ と ドッカーン となってジェルフォさんが黒焦げになってしまいました。
その戦いの凄さに ポーッ としていると、何故だかわかりませんがお兄さんが私に向かって歩いてくるではありませんか!?
しかし、肩を抱かれた私に向けられたのは凄く怖い顔。「俺のペットにしてやる」と悪い顔で言うのでさっきまでの憧れは一転し恐怖に身体が震えてしまいます。
お連れ様であるお姫様達がレイ様のペット発言にお怒りになり帰って行かれる中、何故かビクビクとしているレイ様の様子をまじまじと観察してしまいました。
さっきは最初の印象とは違い怖い顔をして自分でお姫様達を怒らせたというのに、今は逆に怒られるのを怖がっている?私と同じでドジっ子なのか?と少しばかり親近感が湧いたほどです。
そのままレイ様に連れられ食堂まで来ると、今度は隣に座って食事を一緒にと言うではありませんか!?お客様用の食事などという高級な物を私などが食べていい筈がないので困り果てていると、ご主人様が「これも仕事だから」と命じるので、仕方なく……ええ、仕方なくですよ?ご命令とあらばこれも仕事のうちと、後で他から怒られる事を覚悟の上で初めて食べる豪華な食事に胸を踊らせレイ様に感謝の笑顔を向けました。
私の頭がご飯の事で一杯になっていると、仲良しのミアちゃんがレイ様を誘っています。
唇をチロチロっとか舐めてみたり、指をペロペロとかしてみたりと私が見ていても「うゎ~っうゎ~っ」と声が出そうな程にエッチな顔でレイ様を誘うのです。
ミアちゃんの新たな一面を見てちょっと驚きでしたが、やっぱりミアちゃんは可愛いなぁと羨ましくも思う一方で、レイ様が然程興味を示していない事を不思議に思いました。
食事が終わり幸せな気分で『さぁ仕事に戻るか』と思っていると、あれよあれよとレイ様に連れられソファーに座らされると、屋敷で一番優秀なメイドさんのミミちゃんがレイ様に渡したワイングラスをそのまま私に渡してくるので「今度はグラス持ちかぁ」と両手で持ってると「飲める?」と聞かれてこれが私の分なのだと気が付きました。
お酒など飲む事の無い私の生活だったけど、せっかくレイ様が与えて下さった機会を逃すまいと少し口を付けてみれば口の中に甘い香りと少しの渋味が拡がったのです。
『うまっ!』
あまりの美味しさにもう一口と口を付ければ再び拡がる甘い香り。今度はあまり渋さも感じられず三度口を付けました。
あまりの美味しさに止まらなくなりレイ様がミミちゃんも座れと口説くのを横目に、ちびちびちびちびと何度もグラスに口を付けているとなんだか フワフワ して来て気持ちよくなってきます。
レイ様がミミちゃんの尻尾を掴んでまじまじと見ているので「私のも見て~っ」と、頬を撫でてみると思惑通りに振り向いてくれました。
獣人のみんなが呼ばれてご挨拶をして行く中、部屋に入って来たみんなはソファーに座る私とミミちゃんを見て『何してるの!?』と驚いているのが楽しくてたまらない。
普段、日陰人である私からは考えられない立場。お客様の場所に座り、こんな美味しいお酒を飲んで、みんなが仕事してる姿をただ見てるだけ。まるで何処かの国のお姫様にでもなったみたい!
少しずつ少しずつ呑んでいたワインも無くなってしまい、もっと欲しくて見渡すと、ミアちゃんが私を ジーッ と見ていた。
ミアちゃんっ、今日の私はお姫様なのよーっ!キャハッと心の中で告げるとミミちゃんが押して来たワゴンの上に置いてあるワインボトルが目に入った。ムフッ、まだ呑んでもいいよね?残ってるし、いいよね?
手を伸ばしてボトルを取るとミアちゃんが呆れた顔をしたけれど ニコッ と笑って誤魔化しておく。ゲットしたワインをグラスに注いだだけで良い香りがして今度はさっきより多めに口に含んでみると、甘い香りが再び口に拡がる。
うはっ、幸せっ!ワイン最高!お姫様最高!レイ様最高!!
その後の事はあまり覚えていない。レイ様と何か喋り、抱きついて甘えてしまった気もする。
気が付くと自分の部屋のベッドで寝ていて、窓から見える空は夕方を告げていた。
「嘘でしょ!レイ様、帰っちゃった!?」
お姫様な気分を味合わせてくれたレイ様にお礼も言えずにお別れなんて絶対にダメ!
飛び起きた私は屋敷の中を走り回って探したがレイ様を見つける事が出来ず、不安だけが心を締め付けていた。
不安?
私、何が不安なんだろう?
レイ様を探しているのはただお礼が言いたいだけ?
それともお姫様気分をまだ味わいたいから?
もっと美味しいお酒が飲みたいから?
…………分からない。
自分の気持ちが分からないままに息を切らして走っていると、ミアちゃんが立っています。
「ミアちゃんっ!ハァハァハァハァッ、レ、レイ様……レイ様知らない?ハァッハァッ……」
膝に手を突き、息の整わない私を前にミアちゃんが黙って指差す先には庭にある木の根元で眠る探し人の姿がある!
「あ、あんなところに……ハァハァハァッ。ミアちゃんっ、ハァッ、ありがと!」
再び走り出した私はレイ様の元に辿り着いた途端に気が抜けたのか倒れ込んでしまった。
仕方なしに四つん這いで近寄ると死んでしまったかのように眠るレイ様に必死で呼びかけた。
目を覚ましたレイ様は優しく微笑み、私の心配をしてくれる。
優しげに頬を撫でられるなど今までされた事はなかった。走って速くなったのとは違う鼓動が襲いかかり、胸が ドクンドクン と高鳴って思わずその手を握りしめてしまった自分に自分で驚いた。
酔い潰れた事を謝ると何故かレイ様に抱きしめられてしまう。突然そんな事をされれば普通ならきっと嫌がるだろうけど、全然そんな感じは無く、寧ろ心地が良い。頭まで優しく撫でられて気持ち良くなってくると、このまま離れたくなくなってしまう。
ドキドキが治らずレイ様に聞こえてしまうのではないかと心配になり、離れたくない欲求と対立を始めたが、残念ながら夕食の時間という事もあり居心地の良い時は終わりを告げてしまった。
レイ様は夕食も共にと言って下さった。
またしても夢のような豪華な食事、私はこの為にレイ様を求めた?……じゃあさっきのドキドキは一体ナニ?レイ様を見てると幸せな気分になるのはナンで?
お風呂に入ると石鹸で念入りに身体を綺麗にした。石鹸の匂い、私は好きだ。レイ様もこの匂いを気に入ってくださるだろうか?
ルンルン気分でレイ様のお部屋へと向かう途中、またミアちゃんに会った。
今日は良く顔を合わせる日だなと思い「夕方はありがとね」と感謝を告げ、軽く擦れ違おうとしたら腕を掴まれてびっくり。ミアちゃんはそんな事する子じゃないのにどうしたのだろう?
「あの男の部屋に行くの?」
「へっ!?あ……えっと……ぅん」
「こんな時間に男の部屋に行くのがどういう事か、分かってるわよね?」
「……ぅん。ミアちゃん、私決めたの!レイ様は私に夢のような時間を下さったわ。じゃあ私がその恩返しに出来ることって……こんな事くらいしかないからっ」
「男爵に言われたの?」
「ううん、違う。私の勝手な意志よ」
「だったら、そんなの必要ない。好きでもない男に抱かれる必要なんてないわ?」
「……違う、の。私……もしかしたらレイ様の事が好きなのかもしれない。
自分じゃまだよく分からないけど、レイ様を見てると幸せな気分になるの。触れられるとドキドキするの。だから決めたの、例えレイ様が私の事をなんとも思ってなくっても私の初めてを貰ってもらおうって」
「馬鹿な娘……遊び半分の男でいいというの?」
「うん、私はレイ様がいいの。ミアちゃんには分かってもらえないかもしれないけど、これは私が決めた事。じゃあ……行くね」
立ち尽くすミアちゃんを置き去りにレイ様のお部屋の前まで来ると大きく息を吸い込んで気合いを入れました。
ですがお部屋には肝心のレイ様がいらっしゃいません……はれ?何故?ドコ?
レイ様はお風呂に入っていたので、これは私の好きな石鹸をレイ様にも好きになってもらうチャンス!
服を脱いでタオル一枚になると急に恥ずかしくなり、ドッドッドッドッと離れていてもレイ様に聞こえるんじゃないかと思うくらいに鼓動が高鳴ります。
頬を叩き覚悟を決めると戸惑うレイ様を無視して石鹸の準備をしました。はっきり言って勢いで乗り切らないと私の方が逃げ出したいくらいに恥ずかしかったのです。レイ様の裸がすぐそこにある、私も殆ど裸……お風呂なのだから当然ですよね!
レイ様の体を綺麗にしてあげようと思いつく限り必死にがんばりましたが、それはレイ様にとって迷惑なだけだったようで「止めろ」と言われてしまいました。
けど、きっとレイ様も恥ずかしがってるだけ。私も恥ずかしいからおあいこですねと納得して尚も続けると、とうとう「出て行け」と言われてしまいます。
──ですが、この一言が私の胸を打ったのです
レイ様はきっと嬉しがって下さると思い、この身を捧げることを覚悟して来ました。お風呂もきっとレイ様は遠慮なさってるから「止めろ」と言うのだと。
でも実際は違ったようです……たった数回優しくされただけで私はレイ様にとって特別なのだと勘違いしていたようなのです、馬鹿ですよね。
でもそれが分かると、チクチクとした小さな針が胸を刺します。何度も何度も刺されて穴だらけになってしまいそうです。あまりの痛みに涙が出て来ました。
そして…………私はレイ様の事がやっぱり好きなのだと確信しました。
レイ様にとってはただの気まぐれ、ごく普通の事だったのかもしれません。しかし、私にとっては一生に一度あるかないかの特別な思い出。華やかな世界を見せてもらい、恋人のように扱ってくださった。
でも、レイ様にとってはたまたま近くに居ただけのただのメイドだったようです。
言われた通りに帰ろうと思い立ち上がると、何故か抱き寄せられてしまいました。その勢いでお風呂のお湯が ドパッ と溢れて行くのが目に入り「勿体ない」と見ていれば今度は「ここにいろ」と仰います。
出て行けと言ったりここにいろと言ったり、レイ様は忙しい人ですね。
でもこれはチャンスかもしれません。いいえ、チャンスなのです。たとえ一方通行だとしても私の想いを伝えるのは今しかないと思い、丸めて固めてこれでもくらえっ!とレイ様に発射すると、あれよあれよと考えてもいなかった言葉が口から出ていきます。終いには「ペットでも構わない」とか口走っていました!
確かに私の覚悟を形にする為には獣人という特性を活かした手段が効果的なのかもしれませんが、何故かレイ様も満更ではない様子。
女は度胸よ!と自分からレイ様の唇を奪うと、こんな私の誘惑でもレイ様は我慢しきれなくなったようで、とうとう私の願いは叶い結ばれる事となりました。
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アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
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