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第七章 母を訪ねて三千里
55.彼女の真相
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真っ暗闇に瞬く無数の星々……青、白、黄、橙、そして赤。地面すら無く星しか見えない場所をふわふわと漂いながら、自分の意思とは別に前へ前へと進んでいた。
目に入った小さな星が強い輝きを放ったかと思えば、徐々に弱まり消えて行く。するとまた別の場所でも同じように輝きを放った星がゆっくりと光を失い暗闇と同化して行く。
特に何も考える事なく、ただ綺麗だなと其処彼処で輝きを放っては消えて行く星達を見つめていると、背後から来た流れ星が細長い尾を引きながら漂う俺をゆっくりと追い越して行く。
その様子を目で追っていると、再び俺を追い越す流れ星があるのでそちらに視線を移したとき……
「ミア?」
目にしているのは何処からどう見ても光の尾を引く小さな丸い玉。
何故自分がそう呟いたのか理解出来ないが、呟きと共に最後に見せたミアの笑顔が星空に咲いたかと思いきや、花火のように スーッ と消えて行く。
「ミア!?」
ミアの顔が消えた後には先程の流れ星が彼方へと進んで行くのが見えてくる。
まさかアレがミアだとでも言うのか!?
「ミア!待て!待ってくれよぉっ!!!」
どうしようもない不安に駆られて叫んでみるが返事が返って来ることは無い。
「ミアーーーーーーッ!!!!!」
気が付いたときには部屋の灯りを写して キラキラ と輝く黒い瞳が覗き込んでおり、それが朔羅の物なのだと気が付いた──いや、違う。その人は朔羅ではない。
朔羅と瓜二つな容姿を持つ別の人物……いやいや、人ですらない、闇の属性竜ヴィクララ。
彼女は俺を覗き込んだままで動かない。俺も彼女の宝石のような黒をジッと見つめ返す。
「あの……ミアは何処に?」
さっき見た幻が気になって仕方なくなり、ミアの事を知っている口ぶりだったヴィクララに直接問いただしてみた。
すると彼女は深い溜息を吐くと呆れた顔をする。
「妾の問いを無視し、逆に別の女の事を聞いて来るとはなんと傲慢なのじゃ。そなたは紛れもなくルイスハイデの血族じゃな、女癖の悪さは天下一品と誇るが良い。
呆れたついでに教えてやるが、うぬの求める女子はここには居らぬよ。残念じゃったな、諦めるがよい」
「居ない? 一緒にここに転移したのにか?何処に行ったんだ?」
「あやつは自分の国に帰った、もう二度とうぬと会う事は無かろう。早々に忘れることじゃ」
「どういう事だよっ!国に帰った?国って何処にあるんだ?サヨナラも言ってないのに一人で勝手に帰ったのか?ミアはそんな事をする奴じゃないぞ?
ミアを何処に隠したんだ?教えてくれよ」
眉間に皺を寄せて不機嫌さを表すヴィクララだったが、胸に押し寄せる不安がミアに会えるまで退いてはいけないと告げる。
もし本当に何も言わずに国に帰ったのだとすれば、その理由くらいは知る権利はあるだろう。
「うぬもしつこいな。女など他にいくらでもおるじゃろ?ほれ、そこでぼけちょんとしておるアリシアも女の端くれじゃ。アレでは気に入らんのか?」
俺達のやり取りを何も言わずに見ていたアリシアは「私?」と自分を指差して小首を傾げている。「端くれとか酷いわねぇ」と独り言を言っているが確かにその通り。だが今はそれを指摘している余裕はない。
込み上げてきた焦燥感を胸に宿し目の前のヴィクララにさらに詰め寄った。
「女なら誰でもいいんじゃない、ミアに会いたいんだ。頼む、会わせてくれよ」
「ほぉっ。そんなにまで会いたいと申すのなら会わせてやっても良いぞ?但し……二度と帰って来れぬがその覚悟はあるのじゃろうな?」
再び抜き放たれた朔羅が俺の喉元数ミリ手前で止まり、それ以上踏み込むなと訴えている。
いつの間に抜いたのかすら分からなかったが、細められた黒い瞳は俺を見下すものではなく、仕方のない子供を諭すような印象を与えてくる。
「あの扉から入って来たのはレイさんだけですよ?」
その言葉に少し身を引き抜き身の朔羅から離れて振り向けば、哀しそうな色を宿したアリシアの瞳が俺を見ている。
何故?と疑問に思ったときヴィクララの溜息が漏れた。
「アリシア、余計な事を言うでない。……レイシュアよ、うぬは何故にミアを求める?あの娘以外にもうぬの周りには女なぞ沢山おるじゃろう?自分から姿を消した者を何故わざわざ追いかけるのじゃ?」
朔羅を降ろしたヴィクララは呆れたと言うよりは可哀想な者を見る目をするが、なんで二人してそんな目をするのか益々分からない。
「ミアと付き合っているわけじゃない。けど、たった何日かの間だったけど一緒に居て俺の心を癒してくれた。事情があるのかもしれないけど、そんな人にサヨナラも言えずにお別れとか、あまりにも酷すぎやしないか?……頼むよヴィクララ」
「無条件に人心を引き寄せる虚無の魔力の持主の心を二人も奪うとは、ミアも罪な女じゃの……よかろう、聞かせてしんぜる。
あの娘が向かった先は空の彼方にある天の国。人は皆、肉体が滅んで魂だけの存在となると天へと昇り神の国へと向かうのじゃ。そこで生前の傷を癒した後に再び地上に舞い戻り何処かで生を受ける。命とはそうして巡り巡るものなのじゃ。
そこまで言えば察するのも難しくはなかろう。あの娘は魂だけの存在で、故有ってこの世に留まったままであったところに妾が偽りの肉体を貸し与えたのじゃ。
ミアが生きていたのは今から五百年も昔、闇魔戦争という名で伝わる大戦の事は聞いておるな?
アレは今のうぬと同じぐらい強き虚無の魔力を宿した一人の男の暴走が招いたものじゃった。
その男の名はアベラート・ランドストレム・オブ・ルイスハイデ。彼奴は稀代の女誑しでな、毎晩毎晩違う女を取っ替え引っ替えしておったそうじゃ。じゃがそんな奴の心にも純愛などと言うものがあったらしく、お互い心惹かれ合う女がおった。
その女こそが、当時ルイスハイデが祀り信仰する存在であった妾の巫女をしていた銀狼の娘ミア。
ルイスハイデの長たるアベラートは妾の所に度々訪れており、ここで出会った二人は密かに心通わせるだけの間柄じゃった。
人間の歴史の中でも随一を誇る女誑しのアベラートが大事に思い過ぎて手が出せないでいる娘など笑えるじゃろ?
そんな男だからな、分かってはいても喧嘩は多かったようじゃ。
しかし、それでも惹かれ合う二人は順調とは言えずとも愛を深めていったのじゃが、虚無の魔力を狙っておった男の計略に嵌り、想いを遂げること無くミアの命が奪われたのをキッカケにアベラートの力が暴走し世界は大混乱に包まれる事となった。
ミアを失ったのは妾の失態でもある。
戦争終結後、罪を問われたアベラートの魂はルイスハイデの象徴である桜の木に縛られ、天に還る事を許されなかった。それを知ったミアの魂もまた地上に残る意思を示したので妾が手を貸していたという訳なのじゃ。
そうして時は流れ、アベラートの後継者たるうぬが現れた。それを知った妾がミアに仮の肉体を与えて呼びに行かせたという訳じゃ。
理解したか?
ミアはアベラートの為に待ち続け、役目を終えた彼奴の魂と共に天へと昇った。
アベラートと瓜二つの肉体を持つうぬに惹かれたのは否めないが、恐らく心は彼奴の元にあったのではなかろうか?直接問いただす事など出来ぬ今、真相は分からぬがな」
目に入った小さな星が強い輝きを放ったかと思えば、徐々に弱まり消えて行く。するとまた別の場所でも同じように輝きを放った星がゆっくりと光を失い暗闇と同化して行く。
特に何も考える事なく、ただ綺麗だなと其処彼処で輝きを放っては消えて行く星達を見つめていると、背後から来た流れ星が細長い尾を引きながら漂う俺をゆっくりと追い越して行く。
その様子を目で追っていると、再び俺を追い越す流れ星があるのでそちらに視線を移したとき……
「ミア?」
目にしているのは何処からどう見ても光の尾を引く小さな丸い玉。
何故自分がそう呟いたのか理解出来ないが、呟きと共に最後に見せたミアの笑顔が星空に咲いたかと思いきや、花火のように スーッ と消えて行く。
「ミア!?」
ミアの顔が消えた後には先程の流れ星が彼方へと進んで行くのが見えてくる。
まさかアレがミアだとでも言うのか!?
「ミア!待て!待ってくれよぉっ!!!」
どうしようもない不安に駆られて叫んでみるが返事が返って来ることは無い。
「ミアーーーーーーッ!!!!!」
気が付いたときには部屋の灯りを写して キラキラ と輝く黒い瞳が覗き込んでおり、それが朔羅の物なのだと気が付いた──いや、違う。その人は朔羅ではない。
朔羅と瓜二つな容姿を持つ別の人物……いやいや、人ですらない、闇の属性竜ヴィクララ。
彼女は俺を覗き込んだままで動かない。俺も彼女の宝石のような黒をジッと見つめ返す。
「あの……ミアは何処に?」
さっき見た幻が気になって仕方なくなり、ミアの事を知っている口ぶりだったヴィクララに直接問いただしてみた。
すると彼女は深い溜息を吐くと呆れた顔をする。
「妾の問いを無視し、逆に別の女の事を聞いて来るとはなんと傲慢なのじゃ。そなたは紛れもなくルイスハイデの血族じゃな、女癖の悪さは天下一品と誇るが良い。
呆れたついでに教えてやるが、うぬの求める女子はここには居らぬよ。残念じゃったな、諦めるがよい」
「居ない? 一緒にここに転移したのにか?何処に行ったんだ?」
「あやつは自分の国に帰った、もう二度とうぬと会う事は無かろう。早々に忘れることじゃ」
「どういう事だよっ!国に帰った?国って何処にあるんだ?サヨナラも言ってないのに一人で勝手に帰ったのか?ミアはそんな事をする奴じゃないぞ?
ミアを何処に隠したんだ?教えてくれよ」
眉間に皺を寄せて不機嫌さを表すヴィクララだったが、胸に押し寄せる不安がミアに会えるまで退いてはいけないと告げる。
もし本当に何も言わずに国に帰ったのだとすれば、その理由くらいは知る権利はあるだろう。
「うぬもしつこいな。女など他にいくらでもおるじゃろ?ほれ、そこでぼけちょんとしておるアリシアも女の端くれじゃ。アレでは気に入らんのか?」
俺達のやり取りを何も言わずに見ていたアリシアは「私?」と自分を指差して小首を傾げている。「端くれとか酷いわねぇ」と独り言を言っているが確かにその通り。だが今はそれを指摘している余裕はない。
込み上げてきた焦燥感を胸に宿し目の前のヴィクララにさらに詰め寄った。
「女なら誰でもいいんじゃない、ミアに会いたいんだ。頼む、会わせてくれよ」
「ほぉっ。そんなにまで会いたいと申すのなら会わせてやっても良いぞ?但し……二度と帰って来れぬがその覚悟はあるのじゃろうな?」
再び抜き放たれた朔羅が俺の喉元数ミリ手前で止まり、それ以上踏み込むなと訴えている。
いつの間に抜いたのかすら分からなかったが、細められた黒い瞳は俺を見下すものではなく、仕方のない子供を諭すような印象を与えてくる。
「あの扉から入って来たのはレイさんだけですよ?」
その言葉に少し身を引き抜き身の朔羅から離れて振り向けば、哀しそうな色を宿したアリシアの瞳が俺を見ている。
何故?と疑問に思ったときヴィクララの溜息が漏れた。
「アリシア、余計な事を言うでない。……レイシュアよ、うぬは何故にミアを求める?あの娘以外にもうぬの周りには女なぞ沢山おるじゃろう?自分から姿を消した者を何故わざわざ追いかけるのじゃ?」
朔羅を降ろしたヴィクララは呆れたと言うよりは可哀想な者を見る目をするが、なんで二人してそんな目をするのか益々分からない。
「ミアと付き合っているわけじゃない。けど、たった何日かの間だったけど一緒に居て俺の心を癒してくれた。事情があるのかもしれないけど、そんな人にサヨナラも言えずにお別れとか、あまりにも酷すぎやしないか?……頼むよヴィクララ」
「無条件に人心を引き寄せる虚無の魔力の持主の心を二人も奪うとは、ミアも罪な女じゃの……よかろう、聞かせてしんぜる。
あの娘が向かった先は空の彼方にある天の国。人は皆、肉体が滅んで魂だけの存在となると天へと昇り神の国へと向かうのじゃ。そこで生前の傷を癒した後に再び地上に舞い戻り何処かで生を受ける。命とはそうして巡り巡るものなのじゃ。
そこまで言えば察するのも難しくはなかろう。あの娘は魂だけの存在で、故有ってこの世に留まったままであったところに妾が偽りの肉体を貸し与えたのじゃ。
ミアが生きていたのは今から五百年も昔、闇魔戦争という名で伝わる大戦の事は聞いておるな?
アレは今のうぬと同じぐらい強き虚無の魔力を宿した一人の男の暴走が招いたものじゃった。
その男の名はアベラート・ランドストレム・オブ・ルイスハイデ。彼奴は稀代の女誑しでな、毎晩毎晩違う女を取っ替え引っ替えしておったそうじゃ。じゃがそんな奴の心にも純愛などと言うものがあったらしく、お互い心惹かれ合う女がおった。
その女こそが、当時ルイスハイデが祀り信仰する存在であった妾の巫女をしていた銀狼の娘ミア。
ルイスハイデの長たるアベラートは妾の所に度々訪れており、ここで出会った二人は密かに心通わせるだけの間柄じゃった。
人間の歴史の中でも随一を誇る女誑しのアベラートが大事に思い過ぎて手が出せないでいる娘など笑えるじゃろ?
そんな男だからな、分かってはいても喧嘩は多かったようじゃ。
しかし、それでも惹かれ合う二人は順調とは言えずとも愛を深めていったのじゃが、虚無の魔力を狙っておった男の計略に嵌り、想いを遂げること無くミアの命が奪われたのをキッカケにアベラートの力が暴走し世界は大混乱に包まれる事となった。
ミアを失ったのは妾の失態でもある。
戦争終結後、罪を問われたアベラートの魂はルイスハイデの象徴である桜の木に縛られ、天に還る事を許されなかった。それを知ったミアの魂もまた地上に残る意思を示したので妾が手を貸していたという訳なのじゃ。
そうして時は流れ、アベラートの後継者たるうぬが現れた。それを知った妾がミアに仮の肉体を与えて呼びに行かせたという訳じゃ。
理解したか?
ミアはアベラートの為に待ち続け、役目を終えた彼奴の魂と共に天へと昇った。
アベラートと瓜二つの肉体を持つうぬに惹かれたのは否めないが、恐らく心は彼奴の元にあったのではなかろうか?直接問いただす事など出来ぬ今、真相は分からぬがな」
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