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第七章 母を訪ねて三千里
17.回り回る感謝の意
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「一杯付き合え」と上機嫌な様子での好意を断れず、俺達の間に入り背中を押すルノーさんに連れられ一般人用の市へと移動すれば、何軒もの屋台が海から揚がったばかりの魚介類を調理しており食欲を唆る匂いに溢れていた。
その前には屋台お決まりのベンチと長テーブル。朝食を取る人が沢山いる中でその一つに座らされると「待ってろ」と言われたので大人しく待つ事にする。
「ヤス!酒だっ!酒二つと、あぁっと、女の子用に用意してあったヤツ、アレ持ってこいっ。あと適当にツマミ寄越せっ」
屋台の一つに顔を突っ込むと怒鳴り声を上げ始めるルノーさん。海の男とはこういった気性の荒さが無いと締まらないのかもしれないが、陸の上では普通に頼んでも良さそうにも感じる。エレナの分まで酒を用意してくれるようだが、エレナがお酒を飲んでいる姿の記憶がない。
「可愛らしい嬢ちゃんはエールじゃない方がいいよな?コイツは変わった葡萄で作ったワインでな、ちょっとだけ甘めで女の子好みなんだが口に合うかどうかちょっと試してみてくれ」
ジョッキを二つとワインボトルとグラスを器用に両手で持って来ると、ポケットから取り出したコルク抜きで手早くワインを開けた。鮮やかなお手並みに見惚れていると上等なワイングラスに淡い黄色の液体が注がれていく。
「さぁ、どうぞ」
顔に似合わず紳士的な態度に違和感満載だが、人を見た目で判断するのは良くないことくらい知識としてはあるつもりだ。
差し出されたグラスを片方の手のひらで包み込むように持ち上げると桃色の唇へと運んで行くエレナ。グラスが傾き液体が口の中に入ると驚いたように目を開き俺を見てきた。
「すっごい美味しい!ルノーさんっ、私コレ好きですっ」
「そうか、気に入ってもらえて良かったよ。一本しか無くてすまないが、全部飲んで構わないからグイグイ行ってくれ。まぁ、取り敢えず、俺達の出会いに乾杯だっ!」
ルノーさんとジョッキを打ち合わせると、それを待っていたかのようにねじり鉢巻をした髪の無い大きな男が何枚もの皿を持って来てくれる。
「リーディネに行ったんなら刺身は食ったよな?朝飯食ったとはいえツマミも無しに酒は飲めないだろ?残して構わないから適当に食ってくれ。コイツ、こんなナリだが料理の腕はピカイチでよ。ほら、この煮物もうめ~ぞっ」
「船長だって人のこと言えたギリじゃねぇですよ。その面で女の子にはめっちゃ紳士で優しいじゃないですか。その優しさの半分でいいから俺達にもくだせぇよ」
「うっせ!用が済んだらさっさと仕事に戻れっ」
「へぇへぇ、分かりやしたよ。兄さん、嬢ちゃん、腕によりをかけて作ってるんで味に自信はありやすが、腹に入りきらなかったら残しても俺達が食うんで満足したら遠慮なく置いといてくだせぇ。ほいじゃぁ、ごゆっくり」
そういうと男は戻って行ったが、彼が持って来た大きな皿は四枚。
小さく切られて見た目にも綺麗に盛り付けられた刺身が十種類も乗った皿に、四十センチくらいはあろうかという色濃く茶色に染まった魚の煮付け。長細い魚の塩焼きと、拳大の巻貝が山積みにされた皿が置かれている。
どう見てもこの量を三人で食べきるのは無理だろう。しかも俺達はさっき朝食を食べたばかり……それを伝えた筈なのにこの量を持ってくるという事は、気兼ねなく残せという彼等の気遣いなのだろう。
「エレナは刺身を食べたこと無いよな?」
よほど気に入ったのか、空いたグラスをテーブルに置いたエレナに問いかけるとルノーさんが微笑みながらおかわりを注いでくれる。
「そうか、嬢ちゃんは食べた事が無いのか。最初は抵抗があるかもしれないけどな、旨さを知ると病みつきになるぞ?けど、こういう港町でしか生の魚なんて食べられないから、食べたくなったらまた遊びに来てくれや、って食べる前に言っても仕方ねぇよな、ガハハッ!」
ルノーさんの説明を聞き終わると、手本を真似して刺身を一切れ口へと運んだエレナだったが、口に入れた途端に耳が ピンッ! と立ち、大きく開かれた目には涙を浮かべた。
「あぐっ!?ふぅぅっ!!レ、レイしゃんっ!コレは!コレわぁぁっ、はぁっ、くぅぅぅっ……はぁっ、ふぅ、治った。ワサビでしたっけ?少ししか付けて無いのに強烈ですね!おかげでお刺身の味が分かりませんでした」
「いや、お前さ、アレでも多いからっ。ほら、俺のと変えてやるから、そっちの醤油に付けて食べてみろよ」
今度は大丈夫だったようで刺身の味が分かるとその美味しさに頬を緩めて、次から次へと全種類の刺身を食べ比べていた。その中の二種類は魚ではなかったので何かと尋ねると貝だと言う。
「ペラペラのやつは鮑と言ってな、食感はコリコリしてて面白いから人気があるんだが、味が分からないほど薄味でよ、本当は刺身より煮付けや醤油をかけて焼いたヤツの方が美味いんだぜ。
もう一つの丸いヤツはホタテって二枚貝の貝柱だ。魚の刺身とは違って甘みがあって美味いだろ?あとは海老や烏賊なんかも刺身で出すんだが今日は生憎良い物が揚がらなかったようだな。また今度食べに来てくれよ。
それでな、お前さん、アランとは何で知り合いなんだ?」
「リーディネに行った時、海の魔物退治をしてみようって話になってさ、知り合いの商人さんの紹介で行ってみたらアラン船長の船だったってだけだよ。ルノーさんはアラン船長とはどんな関係なんだ?」
「レイさんレイさんっ、海の魔物っておっきな烏賊の時の話ですか?」
「何ぃぃっ!?嬢ちゃん、今なんて言った?」
驚いた顔して突然立ち上がったルノーさんは何故か目を丸くしている。 “驚愕” 正にその言葉が当てはまる驚きように逆にこっちが驚いてしまうほどだ。
「え?……おっきな烏賊の話、ですか?」
ぽやんと不思議そうに繰り返したエレナを驚いた顔のままに見詰めて固まってしまったルノーさんは、しばらく経つとエネルギーが切れたかのように ドカッ と音を立てて力無く椅子に座る。
どこか疲れの見える顔をしてゆっくりと俺に向き直ると、信じられない物を見るような目で見られてしまったが一体どうしたと言うのだろう。
「ヤスッ!酒!!」
「へぃへぃ、ただいまお持ちしやすよ」
すぐに到着したエールの入ったジョッキの一つを俺の前に力強く置くと、ルノーさんが自分のジョッキを突き付けて来る。
「お前さんが退治したのは体長百メートルを超えるレカルマという化け物烏賊だな?ちょっと前に奴が退治されたという話は俺の耳にも届いている。それをやって退けたのがアランの船とそれに乗り込んだ何人かの冒険者だと言う話もな。まさかお前さんがその人物だとは思いもしなかったが、会えて嬉しいよ。
あのレカルマはな、この海の主だったんだ。奴の住処はリーディネの方が近くて被害は向こうの方が遥かに大きかったんだが、奴の行動範囲は広くてな、俺達の海域にも度々現れて数えきれない程の仲間がヤラレていたんだ。奴は船乗り全員の敵だった。
仲間の仇を取ってくれたお前さんには感謝してもしきれねぇよ。海の男を代表……なんて偉そうな事は言えねぇけど、それぐらいの気持ちを込めさせてくれ。
奴を退治してくれてありがとう」
その前には屋台お決まりのベンチと長テーブル。朝食を取る人が沢山いる中でその一つに座らされると「待ってろ」と言われたので大人しく待つ事にする。
「ヤス!酒だっ!酒二つと、あぁっと、女の子用に用意してあったヤツ、アレ持ってこいっ。あと適当にツマミ寄越せっ」
屋台の一つに顔を突っ込むと怒鳴り声を上げ始めるルノーさん。海の男とはこういった気性の荒さが無いと締まらないのかもしれないが、陸の上では普通に頼んでも良さそうにも感じる。エレナの分まで酒を用意してくれるようだが、エレナがお酒を飲んでいる姿の記憶がない。
「可愛らしい嬢ちゃんはエールじゃない方がいいよな?コイツは変わった葡萄で作ったワインでな、ちょっとだけ甘めで女の子好みなんだが口に合うかどうかちょっと試してみてくれ」
ジョッキを二つとワインボトルとグラスを器用に両手で持って来ると、ポケットから取り出したコルク抜きで手早くワインを開けた。鮮やかなお手並みに見惚れていると上等なワイングラスに淡い黄色の液体が注がれていく。
「さぁ、どうぞ」
顔に似合わず紳士的な態度に違和感満載だが、人を見た目で判断するのは良くないことくらい知識としてはあるつもりだ。
差し出されたグラスを片方の手のひらで包み込むように持ち上げると桃色の唇へと運んで行くエレナ。グラスが傾き液体が口の中に入ると驚いたように目を開き俺を見てきた。
「すっごい美味しい!ルノーさんっ、私コレ好きですっ」
「そうか、気に入ってもらえて良かったよ。一本しか無くてすまないが、全部飲んで構わないからグイグイ行ってくれ。まぁ、取り敢えず、俺達の出会いに乾杯だっ!」
ルノーさんとジョッキを打ち合わせると、それを待っていたかのようにねじり鉢巻をした髪の無い大きな男が何枚もの皿を持って来てくれる。
「リーディネに行ったんなら刺身は食ったよな?朝飯食ったとはいえツマミも無しに酒は飲めないだろ?残して構わないから適当に食ってくれ。コイツ、こんなナリだが料理の腕はピカイチでよ。ほら、この煮物もうめ~ぞっ」
「船長だって人のこと言えたギリじゃねぇですよ。その面で女の子にはめっちゃ紳士で優しいじゃないですか。その優しさの半分でいいから俺達にもくだせぇよ」
「うっせ!用が済んだらさっさと仕事に戻れっ」
「へぇへぇ、分かりやしたよ。兄さん、嬢ちゃん、腕によりをかけて作ってるんで味に自信はありやすが、腹に入りきらなかったら残しても俺達が食うんで満足したら遠慮なく置いといてくだせぇ。ほいじゃぁ、ごゆっくり」
そういうと男は戻って行ったが、彼が持って来た大きな皿は四枚。
小さく切られて見た目にも綺麗に盛り付けられた刺身が十種類も乗った皿に、四十センチくらいはあろうかという色濃く茶色に染まった魚の煮付け。長細い魚の塩焼きと、拳大の巻貝が山積みにされた皿が置かれている。
どう見てもこの量を三人で食べきるのは無理だろう。しかも俺達はさっき朝食を食べたばかり……それを伝えた筈なのにこの量を持ってくるという事は、気兼ねなく残せという彼等の気遣いなのだろう。
「エレナは刺身を食べたこと無いよな?」
よほど気に入ったのか、空いたグラスをテーブルに置いたエレナに問いかけるとルノーさんが微笑みながらおかわりを注いでくれる。
「そうか、嬢ちゃんは食べた事が無いのか。最初は抵抗があるかもしれないけどな、旨さを知ると病みつきになるぞ?けど、こういう港町でしか生の魚なんて食べられないから、食べたくなったらまた遊びに来てくれや、って食べる前に言っても仕方ねぇよな、ガハハッ!」
ルノーさんの説明を聞き終わると、手本を真似して刺身を一切れ口へと運んだエレナだったが、口に入れた途端に耳が ピンッ! と立ち、大きく開かれた目には涙を浮かべた。
「あぐっ!?ふぅぅっ!!レ、レイしゃんっ!コレは!コレわぁぁっ、はぁっ、くぅぅぅっ……はぁっ、ふぅ、治った。ワサビでしたっけ?少ししか付けて無いのに強烈ですね!おかげでお刺身の味が分かりませんでした」
「いや、お前さ、アレでも多いからっ。ほら、俺のと変えてやるから、そっちの醤油に付けて食べてみろよ」
今度は大丈夫だったようで刺身の味が分かるとその美味しさに頬を緩めて、次から次へと全種類の刺身を食べ比べていた。その中の二種類は魚ではなかったので何かと尋ねると貝だと言う。
「ペラペラのやつは鮑と言ってな、食感はコリコリしてて面白いから人気があるんだが、味が分からないほど薄味でよ、本当は刺身より煮付けや醤油をかけて焼いたヤツの方が美味いんだぜ。
もう一つの丸いヤツはホタテって二枚貝の貝柱だ。魚の刺身とは違って甘みがあって美味いだろ?あとは海老や烏賊なんかも刺身で出すんだが今日は生憎良い物が揚がらなかったようだな。また今度食べに来てくれよ。
それでな、お前さん、アランとは何で知り合いなんだ?」
「リーディネに行った時、海の魔物退治をしてみようって話になってさ、知り合いの商人さんの紹介で行ってみたらアラン船長の船だったってだけだよ。ルノーさんはアラン船長とはどんな関係なんだ?」
「レイさんレイさんっ、海の魔物っておっきな烏賊の時の話ですか?」
「何ぃぃっ!?嬢ちゃん、今なんて言った?」
驚いた顔して突然立ち上がったルノーさんは何故か目を丸くしている。 “驚愕” 正にその言葉が当てはまる驚きように逆にこっちが驚いてしまうほどだ。
「え?……おっきな烏賊の話、ですか?」
ぽやんと不思議そうに繰り返したエレナを驚いた顔のままに見詰めて固まってしまったルノーさんは、しばらく経つとエネルギーが切れたかのように ドカッ と音を立てて力無く椅子に座る。
どこか疲れの見える顔をしてゆっくりと俺に向き直ると、信じられない物を見るような目で見られてしまったが一体どうしたと言うのだろう。
「ヤスッ!酒!!」
「へぃへぃ、ただいまお持ちしやすよ」
すぐに到着したエールの入ったジョッキの一つを俺の前に力強く置くと、ルノーさんが自分のジョッキを突き付けて来る。
「お前さんが退治したのは体長百メートルを超えるレカルマという化け物烏賊だな?ちょっと前に奴が退治されたという話は俺の耳にも届いている。それをやって退けたのがアランの船とそれに乗り込んだ何人かの冒険者だと言う話もな。まさかお前さんがその人物だとは思いもしなかったが、会えて嬉しいよ。
あのレカルマはな、この海の主だったんだ。奴の住処はリーディネの方が近くて被害は向こうの方が遥かに大きかったんだが、奴の行動範囲は広くてな、俺達の海域にも度々現れて数えきれない程の仲間がヤラレていたんだ。奴は船乗り全員の敵だった。
仲間の仇を取ってくれたお前さんには感謝してもしきれねぇよ。海の男を代表……なんて偉そうな事は言えねぇけど、それぐらいの気持ちを込めさせてくれ。
奴を退治してくれてありがとう」
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