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第六章 ダンジョンはお嫌い?
56.未知の武器
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しがみ付くモニカとリリィは俺の腕に込めた力を更に強めて引き千切るつもりかという勢いだ……そりゃぁもぅ痛いのなんのってありゃしない。
おまけに二人揃って大きな声で悲鳴を上げるものだから耳まで痛いという始末。もう勘弁してくださいと言いたいが二人の尋常じゃない怖がり様を見るとそうも言えなかった。
固く目を瞑り カタカタ 震えながらしがみ付く二人を尻目に、チャンスとばかりに背後から飛び付いてくるヤツがいる。そいつは俺の肩越しに顔を並べると、白くて長い耳を揺らし嬉しそうに微笑んでいた。
「エレナはオバケ、大丈夫なのか?」
俺が “オバケ” というキーワードを吐いただけで ビクッ とする二人とは対照的に、あっけらかんとして「ぜんぜんっ」と軽く答えると、そんな事はどうでもいいとばかりに頬を擦り寄せて来た。
サラもコレットさんも平気な様子で現れた女の子のオバケをまじまじと興味深そうに見つめている。
「出遅れた」と小さく呟いたティナはサラの隣に スススッ と寄って行きオバケから隠れるように彼女の手を握ったので、ティナもあまり得意な方ではないのだろう。
クロエさんはというと、アルにしがみ付き俯いて何やらブツブツと言っているので間違い無く苦手だろうな。
このメンバーでゴースト系の魔物に襲われると厄介だなぁと思っていると事態は急変した。
俺にも感じられる悪寒がしたかと思えば周りの空気が急に冷えた気がした。
すると人気の無かった街に一瞬にして人が溢れ返る。それはもう、この地下深くから地上の街中へと転移でもしたかのように “急に” だ。
執事服に似たパリっとした服を着て四角い鞄を手に持ち足早に歩く人や、見たこともない可愛い服を着た女の子の集団がキャッキャしながら歩いている。手を繋ぎ三人で並んで歩く楽しげな様子の親子連れや、俺達のようにべったり寄り添って歩くラブラブしたカップルなどなど、沢山の人達……いや、ゴースト達が所狭しと道を行き来している。
半透明でなければとてもゴーストだとは思えない程に普通の人間と遜色無く、それぞれの生活を送っているようにしか見えないので、さっきまであんなに震えていたモニカもリリィも顔を上げ ポカン とその様子に魅入っていた。
そして不思議な事に、俺達が歩いて来た大通りの両脇にある一段上がった少し狭めの通路にはたくさん居るというのに、俺達がいる広い真ん中の方には誰一人として降りてこようとはしない。
「彼等が歩いている場所は〈歩道〉と言って文字通り人の歩く場所でした。逆に私達が今いる場所は〈車道〉と言って魔導車のような乗り物が走る専用の場所だったようです。ですから彼等はコッチには降りて来ませんのでご安心を」
「で、でも……さ、いっぱい居るよ?いっぱい……」
「モニカ様、大丈夫です。彼等は降りて来ません。未だ生きているかのように街を歩く事を、ただただ愉しんでいるだけなのです」
二千年もの間ずっとこうして街を歩き続けるという事は、それほどここでの生活が楽しかったのか、若しくは突然変わり果てた世界に対する憤りが凄かったかのどちらかだろう。
俺は悔いの無いように今を生きようと思った時、楽しげな街の雰囲気が一転した。
ゴーストの群れは突然揃って歩みを止めると、この街にとって異質な存在である俺達を今初めて認識したという感じで一斉にこちらに視線を向けてきた。
「ヒィィッ!!ここここ、こっち見てる!こっち見てるよぉぉ!!」
「嫌ぁ!やめて!見ないで!助けてっ怖ぃぃぃ!!!」
「見つかっちゃったみたいですねぇ」
特に何かをして来るわけでもなく、ただそこに佇み ジッ と見つめているだけ。それでもモニカとリリィは全力で腕にしがみ付くと、顔を背けてその視線から逃れようと必死になって押し付けて来る。
「あれは?」
サラの呟きが耳に届く頃、何者も居なかったはずの場所に、他とは雰囲気の違う五体のゴーストが俺達の前に立ちはだかるようにしてゆっくりと色付いていく。
他のゴーストのように歩道に、ではなく、俺達のいる車道に現れたのだ。
ソイツ等からはあからさまな敵意が感じられる上に、武器のような小さくて黒い物を両手で握り締めて突き出すと仁王立ちになり、俺達に向けて構えを取った。
流石に殺気を向けられればモニカもリリィも顔を上げざるを得ないと、俺の腕に縋り付くように顔を隠しながらも片目だけはしっかりとソイツ等を視界に入れている。
「あの手にしている物、気になりますね」
「襲ってくるみたいだぞ?離れろよ」
「「嫌っ!」」
未だ俺の頬にぴったりと顔をくっ付けるエレナの顔は真剣そのものなので、戦闘ともなれば彼女は離れることだろう。
だが問題なのは両腕にしがみ付く二人だ。この期に及んではっきりと拒絶されては、何か仕掛けられた時に反撃はおろか、避ける事すらままならないではないか……頼むわ……。
「アンタ何言ってんのよ!レイの邪魔するんじゃないわよ、離れなさいっ」
「リリィさんこそ何言ってるんですか?私が先にお兄ちゃんの手を取ったんだからリリィさんが離れればいいじゃないですかっ」
「何ぉぉっ!」
「何よっ!」
二人が俺越しに睨み合った時だっだ……
パンッ パッパパパンッ
ゴーストの武器らしき物から何かが弾けたような乾いた音が聞こえたと同時に小さな豆粒のようなものが飛び出したのが目に写る。
その瞬間、身体が後ろへと引っ張られる感覚がしたかと思うとエレナが俺を飛び越え前へと回り込み、俺の胸を踏み台にして飛び出して行く。
握られたフォランツェの一振りで五つの豆粒が甲高い金属音を立てて叩き落とされると、間髪入れずにゴーストの足元から緑色の槍が突き上がる。
瞬きをする暇も無いくらいの、まさに一瞬の出来事、ゴースト達との距離は五十メートルは離れていたにも関わらず、飛んできた豆粒を叩き落としたのはすぐ目の前だ。エレナの機転がなければもしかしたら怪我では済まなかったかも知れない。
エレナの魔法に突かれた五体のゴーストはそのまま消えて居なくなったのだが、アレで倒せたのかは疑問が残る。ゴーストとは物理攻撃は効かない上に魔法も効きにくいと書物には書かれているのだ。
「逃げましょう」
ベルの声にアルがクロエさんを抱きかかえて走り出すと、サラもティナを引っ張り走り始めた。
「行け!」
モニカとリリィに言うが拒否するかのように渋い顔をしたので、もう一度「行け」と告げると流石に状況を考えたのか、悲痛な面持ちながらも背に腹はかえられぬと俺から離れベルを追って走り出した。
「雪っ!」
手を伸ばすと同時に俺に飛び込んで来る人影が二つ。「何でお前まで!?」と言う暇も無く上手いこと右手と左手に別れて飛び付いて来たので仕方なく二人を抱えて逃げる事にした。
「コレットさん!殿なんていいから今は全力で逃げよう!行くぞっ」
コレットさんが コクリ と頷くのと、俺の左手に抱えられたミカエラが ニヤリ と笑うのは同時だった気がする。
土の魔力が働いたのを感じると背後で大きな音が聞こえてきた。多分だが、再び現れた武装ゴーストにミカエラが魔法で牽制したのだろう。これで少しは時間が稼げるなと思いつつ、コレットさんと並んで皆の背中を追った。
おまけに二人揃って大きな声で悲鳴を上げるものだから耳まで痛いという始末。もう勘弁してくださいと言いたいが二人の尋常じゃない怖がり様を見るとそうも言えなかった。
固く目を瞑り カタカタ 震えながらしがみ付く二人を尻目に、チャンスとばかりに背後から飛び付いてくるヤツがいる。そいつは俺の肩越しに顔を並べると、白くて長い耳を揺らし嬉しそうに微笑んでいた。
「エレナはオバケ、大丈夫なのか?」
俺が “オバケ” というキーワードを吐いただけで ビクッ とする二人とは対照的に、あっけらかんとして「ぜんぜんっ」と軽く答えると、そんな事はどうでもいいとばかりに頬を擦り寄せて来た。
サラもコレットさんも平気な様子で現れた女の子のオバケをまじまじと興味深そうに見つめている。
「出遅れた」と小さく呟いたティナはサラの隣に スススッ と寄って行きオバケから隠れるように彼女の手を握ったので、ティナもあまり得意な方ではないのだろう。
クロエさんはというと、アルにしがみ付き俯いて何やらブツブツと言っているので間違い無く苦手だろうな。
このメンバーでゴースト系の魔物に襲われると厄介だなぁと思っていると事態は急変した。
俺にも感じられる悪寒がしたかと思えば周りの空気が急に冷えた気がした。
すると人気の無かった街に一瞬にして人が溢れ返る。それはもう、この地下深くから地上の街中へと転移でもしたかのように “急に” だ。
執事服に似たパリっとした服を着て四角い鞄を手に持ち足早に歩く人や、見たこともない可愛い服を着た女の子の集団がキャッキャしながら歩いている。手を繋ぎ三人で並んで歩く楽しげな様子の親子連れや、俺達のようにべったり寄り添って歩くラブラブしたカップルなどなど、沢山の人達……いや、ゴースト達が所狭しと道を行き来している。
半透明でなければとてもゴーストだとは思えない程に普通の人間と遜色無く、それぞれの生活を送っているようにしか見えないので、さっきまであんなに震えていたモニカもリリィも顔を上げ ポカン とその様子に魅入っていた。
そして不思議な事に、俺達が歩いて来た大通りの両脇にある一段上がった少し狭めの通路にはたくさん居るというのに、俺達がいる広い真ん中の方には誰一人として降りてこようとはしない。
「彼等が歩いている場所は〈歩道〉と言って文字通り人の歩く場所でした。逆に私達が今いる場所は〈車道〉と言って魔導車のような乗り物が走る専用の場所だったようです。ですから彼等はコッチには降りて来ませんのでご安心を」
「で、でも……さ、いっぱい居るよ?いっぱい……」
「モニカ様、大丈夫です。彼等は降りて来ません。未だ生きているかのように街を歩く事を、ただただ愉しんでいるだけなのです」
二千年もの間ずっとこうして街を歩き続けるという事は、それほどここでの生活が楽しかったのか、若しくは突然変わり果てた世界に対する憤りが凄かったかのどちらかだろう。
俺は悔いの無いように今を生きようと思った時、楽しげな街の雰囲気が一転した。
ゴーストの群れは突然揃って歩みを止めると、この街にとって異質な存在である俺達を今初めて認識したという感じで一斉にこちらに視線を向けてきた。
「ヒィィッ!!ここここ、こっち見てる!こっち見てるよぉぉ!!」
「嫌ぁ!やめて!見ないで!助けてっ怖ぃぃぃ!!!」
「見つかっちゃったみたいですねぇ」
特に何かをして来るわけでもなく、ただそこに佇み ジッ と見つめているだけ。それでもモニカとリリィは全力で腕にしがみ付くと、顔を背けてその視線から逃れようと必死になって押し付けて来る。
「あれは?」
サラの呟きが耳に届く頃、何者も居なかったはずの場所に、他とは雰囲気の違う五体のゴーストが俺達の前に立ちはだかるようにしてゆっくりと色付いていく。
他のゴーストのように歩道に、ではなく、俺達のいる車道に現れたのだ。
ソイツ等からはあからさまな敵意が感じられる上に、武器のような小さくて黒い物を両手で握り締めて突き出すと仁王立ちになり、俺達に向けて構えを取った。
流石に殺気を向けられればモニカもリリィも顔を上げざるを得ないと、俺の腕に縋り付くように顔を隠しながらも片目だけはしっかりとソイツ等を視界に入れている。
「あの手にしている物、気になりますね」
「襲ってくるみたいだぞ?離れろよ」
「「嫌っ!」」
未だ俺の頬にぴったりと顔をくっ付けるエレナの顔は真剣そのものなので、戦闘ともなれば彼女は離れることだろう。
だが問題なのは両腕にしがみ付く二人だ。この期に及んではっきりと拒絶されては、何か仕掛けられた時に反撃はおろか、避ける事すらままならないではないか……頼むわ……。
「アンタ何言ってんのよ!レイの邪魔するんじゃないわよ、離れなさいっ」
「リリィさんこそ何言ってるんですか?私が先にお兄ちゃんの手を取ったんだからリリィさんが離れればいいじゃないですかっ」
「何ぉぉっ!」
「何よっ!」
二人が俺越しに睨み合った時だっだ……
パンッ パッパパパンッ
ゴーストの武器らしき物から何かが弾けたような乾いた音が聞こえたと同時に小さな豆粒のようなものが飛び出したのが目に写る。
その瞬間、身体が後ろへと引っ張られる感覚がしたかと思うとエレナが俺を飛び越え前へと回り込み、俺の胸を踏み台にして飛び出して行く。
握られたフォランツェの一振りで五つの豆粒が甲高い金属音を立てて叩き落とされると、間髪入れずにゴーストの足元から緑色の槍が突き上がる。
瞬きをする暇も無いくらいの、まさに一瞬の出来事、ゴースト達との距離は五十メートルは離れていたにも関わらず、飛んできた豆粒を叩き落としたのはすぐ目の前だ。エレナの機転がなければもしかしたら怪我では済まなかったかも知れない。
エレナの魔法に突かれた五体のゴーストはそのまま消えて居なくなったのだが、アレで倒せたのかは疑問が残る。ゴーストとは物理攻撃は効かない上に魔法も効きにくいと書物には書かれているのだ。
「逃げましょう」
ベルの声にアルがクロエさんを抱きかかえて走り出すと、サラもティナを引っ張り走り始めた。
「行け!」
モニカとリリィに言うが拒否するかのように渋い顔をしたので、もう一度「行け」と告げると流石に状況を考えたのか、悲痛な面持ちながらも背に腹はかえられぬと俺から離れベルを追って走り出した。
「雪っ!」
手を伸ばすと同時に俺に飛び込んで来る人影が二つ。「何でお前まで!?」と言う暇も無く上手いこと右手と左手に別れて飛び付いて来たので仕方なく二人を抱えて逃げる事にした。
「コレットさん!殿なんていいから今は全力で逃げよう!行くぞっ」
コレットさんが コクリ と頷くのと、俺の左手に抱えられたミカエラが ニヤリ と笑うのは同時だった気がする。
土の魔力が働いたのを感じると背後で大きな音が聞こえてきた。多分だが、再び現れた武装ゴーストにミカエラが魔法で牽制したのだろう。これで少しは時間が稼げるなと思いつつ、コレットさんと並んで皆の背中を追った。
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