黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

文字の大きさ
上 下
272 / 562
第五章 変わりゆく関係

46.指導という名の……

しおりを挟む
「おはよ、お兄ちゃん」

 薄明るくなった窓から朝を告げる光が入り込み始めたいつもの起床時間。目を開くとすぐ横では、俺を見つめるモニカが機嫌良さげに足を パタパタ させていた。

「ああ、モニカ、おはよう」

 おはようのキスをすると ニコニコ のモニカの顔にほんの少しだけ違和感を感じ、何か妙な胸騒ぎを感じる。

「お兄ちゃん、朔羅に会ってたでしょ?」

 一瞬 ドキッ としたが朔羅の事はモニカに話してある。そりゃあ自分を抱いて眠っている時に、夢の中でとはいえ他の女の所に行ってしまっていると知れたら気分の良いものではないだろう。

「ごめんな、実はそうなんだ。あそこに行くのもコントロール出来ればいいんだけど、まだそうもいかなくて……本当にごめんな」

「なんで謝るの?いいよいいよ、気にしてないし。お兄ちゃんは私の事を好きでいてくれるんでしょ?」

 ニコニコとした態度を崩さないモニカ、本当に気にしていない……のか?

「勿論だよ。それは昨日の夜にいっぱい伝えたと思ったけど、伝わらなかったか?
 それならもう一度よく伝えないといけないな」

 指を絡めた両手をベッドに押し付けると上から青い瞳を覗き込む。微笑んだままで真っ直ぐに見返してくる瞳に朝の光が煌き、サファイアのように キラキラ としていてとても綺麗だ。

「今からするの?」
「駄目か?」
「お兄ちゃんってエッチだよね。いいよ、私はお兄ちゃんのモノ。いつでも好きな時に、して」

 目を瞑り俺を待つモニカへとたっぷりと愛情を込めたキスをした。
 昨晩もモニカを抱き、夢の中では朔羅を抱き、起きたらまたモニカを抱こうとしている。俺の欲望は際限がないのだろうか?

 でも仕方ない、これも愛を体現する行動の一つなのだ。

 そう、愛するが故なのだ。


▲▼▲▼


「随分とゆっくりじゃのぉ、いつからそんな身分になったんじゃ?お主、ちと、たるみ過ぎじゃのぉ。さっさと飯を食い、準備せいっ。
 少しばかり強くなったからといって鍛錬を怠るとはけしからんな。その根性、叩き直してくれるぞ」

 台所へ着くなり師匠から死刑宣告が行われた。みんな既に朝食は終わり、食後の団欒の時間になっている。
 確かに師匠の言う通りたるんでいたのは間違いないだろう。けど、俺にだって愛する妻との貴重な時間だったのだ。少しぐらい大目に見て……もらえないか。


 その後はもう、酷いものだった。ストレスでも溜まってましたか?と聞きたくなるほどにめっためたにされ、危うく消化される前の朝食が飛び出して行きそうだった。
 みんな痛いモノを見る目で見ていたが他人事ではないはず……だと思っていたら、キツイのは俺だけでみんなには優しい師匠。男女差別かよ!とも思ったが、アルに対しても普通に接しているので完全に俺だけ……何か気に障る事でもしましたっけ!?


 少しの休憩を言い渡されて木陰で寝転んでいると、近付いて来る二人分の足音。その二人はよく似た歩き方をし、足音を消そうと努力している。
 そんな感じがしたのに完全に消す気が無いのか、はたまた俺が敏感なだけなのかは分からないが、とにかく俺に向かって歩いて来ているのは分かった。

 一人が頭付近で立ち止まると座り込み、俺の頭の下に手を入れ持ち上げたかと思えば柔らかな感触を感じるようになる。
 もう一人は少し離れて木に寄りかかり座り込んだようだ。

「う~ん、太腿気持ちいい。膝枕って落ち着くね」

「あら、起きてらしたのですか?お嬢様じゃなくてすみません。私などの膝枕でもよろしかったですか?」

「コレットさんってさ、なんでそんなに自分に自信がないの?それともメイドの心得か何かで自分を卑下しなさいとかあるの?
 容姿も抜群、性格も良いし、家事やらせたって超一流、恋人に欲しいと思う人なんて星の数ほどだと思うけどな」

「そうですか?肉欲の対象にとは思えど、私を恋人になどと思われる方はいないでしょう?」 

「まぁいいけどさ。この間も言ったけど、俺はコレットさんの事をメイドとしては見てないからね?
 その話は一先ず置いておいて、クロエさんはどうしたの?」

 疲れた様子でぐったりと木にもたれ掛かり座り込んでいるし、服もあちらこちら破れてボロボロなうえに焼け焦げた跡まである。一体何してたんだ?

「お断りしたんですけどね、あんまりしつこいんで相手をしてあげたのです。もちろん忠告もしましたよ?結果は見ての通りですけどね」

「そ、そう……」

 何故クロエさんが対抗心を燃やしたのかは知らないが、弱くはない彼女がここまで一方的にやられるのはコレットさんがそれだけ強いというなによりの証拠。そういえばコレットさんが戦ってるのを見たのって、この間のレッドドラゴンで牽制してくれてる姿しかないな。本気でやったらやっぱり強いのかな?

「レイ様、変な考えはおやめください。レイ様は私の主人であるモニカお嬢様の旦那様。つまり私の御主人様でもあるのです。主人に手をあげるメイドなどいはしませんよ」

 一人の女性としてってのは受け入れてもらえないのかと少しばかり寂しく思ったが、コレットさんからしたらこれが普通なのだろう。主人とメイドという上下の関係よりも、仲間同士、同じ人間同士という対等な関係に見てもらえる日は……来るのかなぁ。

「レイ……休めとは言ったが、なんで膝枕なぞしてもらっとるんだ?お主、やはり鍛錬を舐めとるのぉ。それだけ回復していれば休憩も終わりでいいな?さっさとこっちに来い!」

 一昨日の晩の如く、今度は師匠に襟首を掴まれて引きずられて行く。
 コレットさんがにっこり微笑んで小さく手を振ってくれるので苦笑いで手を振り返すと、それに気が付いた師匠に拳骨を食らった……なんで殴られなきゃならなかったんだ?


 その後は “二刀流の指導” という名の虐待が始まり、夕食前にはボロ雑巾のようになっていた。
 エレナの用意してくれた愛情たっぷりの美味しいご飯を食べ終わると、ルミアがみんなに魔法の講義と指導を少しだけしてくれる。

 朝から晩まで師匠にイジメられ、夜はルミアの魔法の勉強。その後に婚約者達との触れ合いというハードスケジュールをこなしていると、あっと言う間に二週間と言う修練の時間は終わりを告げた。
 師匠のイジメ……じゃなくて熱心な指導のお陰で二刀流はどうにか形にはなった。まだまだ鍛錬を重ねないと実践で使えるレベルにはならないが、それはこれからの課題。

 その副産物として得たのは剣の技術、本気とは到底思えないが、そこそこ気合の入った師匠の剣に付いていけるくらいには上達することが出来たのだ。
 今まで遥か雲の上の人だと思っていた師匠と剣で語り合える、俺にとってはこの上なく嬉しい成長だった。いつの日か、本気の師匠に挑める日が来たらと胸が膨らむ。


 俺の中の枷であった封印が解かれ、本来の力が馴染んで来たところにタイミング良く指導してもらえた。ググっと成長したのは恐らくそういう事なのだろう。
 最初の勢いこそ無いがまだ湧き出す力の泉は枯れておらず、未だに力が増している感覚がある。それに加えてサマンサに流し込まれた火竜の魔力のおかげで俺の火の魔力までもが活性化されているらしく以前より力が増している感じもある。

 本来の力が完全に馴染み、六属性の竜の力が俺の身体に流された時、一体どれほどの力を得ることになるのだろうか?
 その上で鍛錬を重ねれば、師匠にも匹敵する強さを得ることが出来たりする……って、それは流石に甘い考えだよな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...