黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第五章 変わりゆく関係

43.今後の課題

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「死んだ人間や、深すぎる傷は治せません。それにそんなに重症なら、リリィさんの時のように魔法陣の助けがないと私には治せませんっ!」

 何故か若干怒り気味のサラ……いや、だってさ、サラ様ってば癒しの最高峰じゃん?死んでなければ治せると言われているサルグレッドの癒しの魔法だしぃ、行けるんちゃうのぉ?とか思ってたら、両手を腰に当ててプクッと膨れたサラの顔がズズィッと近寄り、その距離、鼻と鼻がくっ付くほどの極間近。

「癒せませんからっ!仲間同士でそんな危険な事、やめて下さいねっ!」
「は、はい……すみませんでした」

 あまりの迫力に気圧され、逃げ出したい気持ちを代弁するように後退ろうと動き始めた足をどうにか思い留まらせる。
 謝りを入れることでようやく怒りが収まったのか、膨れた頬が元に戻ると同時にサラの顔が赤くなる。近すぎて恥ずかしいのならやらなきゃいいのにとも思ったが、人間誰しも熱くなると見境がなくなるもんだ。

 先程のみんなでやったバトルの話しをした途端にコレだ。たぶん……いや、間違いなくサラ一人だけハバにされたのがお気に召さなかったのだろう。
 その場の成り行きとはいえ、サラ一人だけ誘わなかった俺が悪いのは重々承知だが、それでも怒られた腹いせにと前触れもなくキスをしてやれば目を見開いて益々赤くなる。こういうウブな所がイジメがいがあって楽しいと感じるのはイケナイ事なのだと分かっていても……ヤメラレナイ。

「なんで照れるんだよ、好きなんだからキスしてもいいだろ?」
「だ、駄目とは言ってないわっ」
「ならもう一回していい?」
「…………だめ」

 可愛くて可愛くて仕方がなくなったのでそっと抱きしめれば、何も言わずに身体を預けてくれる。サラサラの銀の髪の匂いを嗅いで癒されると、やっぱりもう一度キスしたくなりサラを見つめる。
 見つめ返してくる真っ赤な顔に自分の顔を近付ければ、目を閉じ同意を示すので口付けをした。

 しかし、そこに嵐がやってきた。

「あーーっ!こんなところでもイチャイチャしてるっ!ねぇ私はっ!?私とは?」

 元気いっぱいティナちゃんの登場で俺とサラとのラブラブな空気はいずこかへ飛んで行ってしまった。
 キスの現場を目撃され恥ずかしそうに両手で顔を押さえるサラの頭を ポンポン。耳元に顔を近付けると「また後でな」と言い残し今度はティナと二人で外に出た。



 夕日に赤く染まる森、それを一望出来る丘まで連れて来れば目を輝かせて喜んでくれている。平坦なこの森で数少ない良い景色が拝める場所、俺も チョイチョイ 出かけて来てはボーっとしたもんだ。
 二人並んで座り、特に何かを話すでもなく赤い森を眺めていると、昼間より少しだけ冷たくなった風が俺達の隙間を縫って行く。寒さを感じたのか、後ろ手を付く俺にそっと身を寄せてきたティナの髪を片方の手で撫でてやると嬉しそうに目を細めた。

「幸せっ」

 ポツリと聞こえた一言に割と長いティナとの関係が頭を過る。
 出会った頃から好きだと言われ、なんだかんだでそれを拒否して来た。好きだと告げた相手に想いを受け取ってもらえない悲しみは想像でしかないが、辛いものだとは分かるつもりだ。

「随分待たせちゃったな、ごめん」
「どうしたの?急に」

 見上げてくるティナにとって今という時間は過去の寂しい時をも上書きしてしまうほどに嬉しいモノなのだと気が付いたりした。
 胡座を掻くと膝を叩いて見せて『ここに座れ』と合図をすれば、言葉無くとも理解出来たようで遠慮も無しにぴょんっと飛び乗り、俺の首に手を回すと満面の笑顔を見せてくる。
 その背中に手を回し顔を近付けると、目を閉じ口付けを待ってくれるのでそっと唇を重ねた。

「ねぇ……今度はいつ一緒に寝てくれるの?」

 今にも抱いて欲しいと言いだしそうな艶やかな瞳、このまま押し倒してしまいたくもなるがココは見晴らしの良い野外だ。まだ一度しか夜を共にしていないが余程居心地が良かったとみえ、婚約者に気に入ってもらえて俺としては嬉しい限りだ。


 もし一つだけ願いが叶うなら、身体がもっとたくさん欲しい。
 こんなにたくさんの好きな娘がいるのだから一日一人としか一緒に寝れないのはちょっと辛すぎる。

「今日は賭けでモニカが勝ったろ?ごめんな」
「えぇ~っ、アレはモニカじゃなくて、レイが勝ったんじゃないの?」
「モニカと俺のチームの勝ちだろ?だいたいさ、一対四とかどう考えてもおかしいだろ」
「私じゃモニカに勝てなかったわ。いつになったら追いつけるかしら?」
「目標にするのはいいけど、変な対抗心で喧嘩とかやめてくれよ?俺は二人とも愛してるからな」
「うん、分かってる。でも今だけは私を……私だけを見て?」

 顔が近付けられて再び唇を重ねる、すると今度は唇を割って舌が侵入して来る。遠慮なくティナを堪能していると漏れ聞こえる甘い吐息、それに触発された手が胸へと伸びかかった時、誰かがやって来る気配を感じて慌てて引っ込める。
 二人共の気分が高揚し、このままこうしていたら本当に押し倒しそうだったので助かったと言えば助かったのだが、邪魔された感は半端なかった。

「あーっ!居ましたっ、こんなところでイチャイチャしてるっ!もぉっ、随分探したんですよぉ、ご飯ですっ、ごーはーんっ!冷めちゃうから早く帰りましょう!」

 ディープなキスを目撃したにも関わらず、気にした素振りもみぜずに遠慮無く声をかけてくるエレナ。皆のご飯を作ってくれた上にこんなところまでわざわざ探しに来てくれたようだ。

「むぅ……いいところだったのにぃ。でもそう思うとさっきはサラに悪い事したわね、ちょっと反省」
「人の気持ちが分かったか?まぁ、後で一言謝っておげはいいだろ」

「ほら立って!急ぎましょう!行きましょうっ!!はやくっはやくっ、はりーあぁぁぁっぷ!」

 急かされティナを抱きかかえたまま立ち上がればエレナが背後から抱きついて来る……何故だ!?

「おいっ、流石に二人は重いぞ?」
「文句言わないっ、女の子に重いって言わないっ、さっさと帰るっ!早くぅぅ、せっかくのご飯が冷めちゃいますよぉっ。レイさんの為に作ったのに、レイさんの為に作ったのにっ!レイさんの為に……」
「分かった!分かったからそれ以上言うなっ」
「エレナ、激しいわね……私も見習わないと!」
「ティナ……頼むから勘弁してくれ」


▲▼▲▼


「アンタ、何?その格好……」

 みんなが食事中の台所に入ると、前にはティナ、後ろにはエレナでサンドイッチ状態の俺を見て、ものの見事に全員が呆れた顔をしやがった。
 対照的にご機嫌な二人は俺からサッと降りると腕を引っ張り、今度は横からサンドイッチしてテーブルの長椅子に三人並んで座わらされる。

「仲が良いわね。私もあの中に入ろうかしら、ねぇビオラ?」
「フォッフォッフォッ、それは良いが儂は寂しくて死んでしまうぞ?」
「あら、それは困るわね。仕方がないから止めておいてあげるわ」

 なに訳の分からない事を言い出したのかと驚いたが、止めてもらえるとこっちも助かります。
 そんな俺の心を察してか、若干不機嫌そうな視線を向けると再び口を開いた。

「レイ、貴方もみんなを見習ってちゃんと鍛錬なさい。光魔法は基本ブースター、使いこなせるようになれば他の魔法との組み合わせで魔法の威力が跳ね上がるわ。昼間の貴方みたいに直接攻撃に使う方が稀なのよ。モニカだって光魔法の鍛錬してるんだから、貴方がサボってたら示しが付かないわよ?」

 いや、俺だってサボってたわけじゃないんですけど……って、そんなことルミアだって分かってるか。あれじゃ足りないって事だな。
 だってほら、俺ってば寝不足だったしぃ?たまにはゆっくりしたいじゃん?モニカの膝枕も気持ち良かったし……ハッ!俺って、サボってた?

 そのモニカだが、ルミアに見てもらって分かったのだが光魔法を使えるようなのだ。しかも水魔法とまではいかないが結構な適正があるらしく、ルミアに課題を出されて練習していたらしい。
 じゃあ白結氣はモニカが……っと、単純にはいかなかった。モニカには悪いがユリアーネの形見だというのもある。それは差し引いてもモニカに剣の才能が無さそうだというのが一番の理由だ。


「それとなぁ、レイ。お主最近魔法に頼りすぎじゃないかの?せっかく二本も良い刀を持っておるんじゃ、どうせなら使ってみたらどうじゃ?」

 ん?それは二刀流って話ですかね?格好いいし、やりたいとは思うけどさ、問題が……。

「師匠、やってみたい気持ちはあるんだけどさ、それをやろうとすると白結氣が長すぎて抜けないんだよ」

「何を腑抜けたことを言っておるんじゃ?まぁ良い、明日からみっちりシゴいてやるから覚悟しておくがいい。久しぶりに楽しみじゃな」

 うへ……マジかよ。剣を取って教えてくれたことなど殆ど無いので嬉しいと言えば嬉しいんだけど、ゾルタインで師匠の実力を目の当たりにした今は怖いという方が先立つな。アルもリリィも『ご愁傷様』って顔で苦笑いしてるわ……。
 でもまぁ、剣聖から直接何かを学べるなんて幸せな事だし、確実に強くなれるチャンスだ、頑張るとしよう。


「お師匠さん、私はティナさんの相手をしていれば良いですか?」
「そうじゃのぉ、ティナちゃんと一番近いのがエレナじゃからの。人と戦うのが強くなる一番の近道じゃ。相手の動きを考え、自分なりに対策して結果を見る。良ければ更に突き詰めれば良いし、駄目であればまた考え直せば良い。自分で考える事が重要なのじゃ。
 それを早く的確にすることで人は強くなって行く。後は自分のやれる事を増やす事じゃの。

 一先ず明日は、エレナはティナちゃんと、アルはリリィと手合わせをすると良かろう。
 レイは儂がけちょんけちょんにしてやるぞ、フォッフォッフォッ」

 まぁ……あれだ、老人の楽しみの為にこの身を犠牲にしようではないか。
 明日、俺、生きて夕食にありつけるかな……

「サラは私がけちょんけちょんにしてあげるわね」
「はい、よろしくお願いします、先生」

 いつのまにか “先生” なんて呼ぶようになっていたサラがペコリとお辞儀をしている。
 サラは剣術も基礎なら出来るのだが、家系的に魔法の方が遥かに得意のようで自分からルミアに教えを願い出たそうだ。

 ティナと同じでサラも一時期モニカをライバル視していたが、やはり目標というのはあった方が良い。今ではそんな素振りは見せないが、サラも自分で納得の行くまで強くなれるといいな。実は努力家の彼女なら大丈夫だろうと微笑ましく見ておいた。


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