黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第五章 変わりゆく関係

13.二人きり

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「あらあら、三人仲良しですわね」
「「「おはようございます」」」

 右腕にモニカ、左腕にティナをくっ付けたままで食堂に入ると、俺達の様子を見たクレマニーさんが口に手を当て楽しげに声をかけてくる。その隣にはいつものようにランドーアさんが居るのだが、若干苦笑い気味に見えるのはティナと寝たことによる後ろめたさ故だろうか。

 席に着き食事を始めるとランドーアさんが今後の俺達について話し始める。

「貴族の結婚式はお客様への招待状だったり会場の用意などで時間がかかる。そうだなぁ、半年後に挙式予定として一先ず婚約という形で良いかね?」

 そんなに準備に時間かかるんですか!?どれだけ大規模な式をするのか知らないが、それだけの時間をかけて準備をするのだ、教会まるっと貸切にして家族や親族、付き合いのある方々をわっさわっさと呼ぶのか!?
 モニカとは庶民の感覚で式を挙げてしまったが不味い事をしたのかと焦りバッと横を見ると、それを見たモニカがクスクスと笑った。

「そんなに心配しなくても私はあれで大満足だよ。お兄ちゃんが私の為に考えて用意してくれたんでしょ?あれ以上の結婚式は他に無いわよ」

「それに……」と、左手をかかげて指輪を眺めつつ、あの時を思い出しているのか右手を頬に当ててうっとりとした表情を浮かべた。

「あんな素敵なプロポーズの後ですぐ式をしたんですもの、最高の思い出だわ」

「レイ!」

 少しばかり嫌な予感がしたが無視するわけにもいかず「何?」と振り向くとプクッと膨れたティナの顔がある。

「私も指輪欲しい」
「お前……指輪をあげるのはいいけど、それあげたらプロポーズのときどうするんだよ。プロポーズ無しでいいのか?」
「その時はその時でまたくれればいいじゃない!」

 いやいや、そういう問題か?指輪二つもどうするんだよ……しまっておくのか?これが庶民と貴族の感覚の違いなのか!?

「ほらっ!早くっ!指輪っ!頂戴っ!!」

「お前、なんだかリリィみたいだぞ?貴族の娘らしくもう少しだけ清楚な感じじゃなかったか?別に嫌いじゃないから良いんだけど、剣の練習なんかしてるからだんだん淑やかさが無くなってきたんじゃないのか?」

 ウグッとバツの悪そうな顔で口をつぐむティナにも自覚はあるらしい。貴族の娘だからとか、お淑やかだからとかの理由でティナが好きなわけではなく、ティナがティナだから好きなのだから多少ガサツになったところで別に構わない。
 だいたい、出会った頃から自分の家が治める町だとはいえ貴族令嬢が一人でうろついて盗賊に攫われるような “お淑やか” というよりは “腕白娘” だったしな。

レイ様・・・、お嬢様の名誉の為に言うのです。お嬢様が剣の稽古をしていたのは貴方の所為。コトに踏み切る前に貴方様のモノになったので大事にはならなかったですが、ぶっちゃけ冒険者となって家を飛び出すつもりだったのです」

「なにぃっ!? 本当なのか、ティナ!!」

「クロエ、それは言わない約束だったじゃない……お父様、本当の話よ。私、誰かさんと同じで冒険者になったもの。ほら、これ見て」

 チラリとモニカを見たと言うことは、モニカがそんなことしてると聞いていたって事だな。クロエさんを師として剣術を学び、密かに冒険者として活動していたそうだ。モニカもそうだったが行動力有り過ぎじゃないか?まぁ俺の好みとしてはお淑やかなお嬢様よりは活発な女の子の方が好きだから願ったり叶ったりなんだけどな。

「ティ、ティナ!?冒険者ランクBってどう言うことだっ!いつからこんなことしてたんだ!?」
「はぁ!?ランドーアさん、嘘ですよね?」
「冗談なら良かったのだがな……」

 ランドーアさんが見せてきたティナのギルドカードにはしっかりと “ランクBⅢ” と表示がされていた。『何してるの!』と思わずティナを見るがサッと顔を逸らしやがる。本当にこの娘は家を出るつもりでいたのか……。

「家出しなかったからセーフよ」
「バカタレ、そんなもんアウトだわ」

 クレマニーさんも困った顔をしてランドーアさんと二人で見つめ合い溜息を漏らしている。

「良いじゃない、冒険者。でも私の方が冒険者歴が長い筈なのに私よりランクが上ってズルいわね」
「ふふ~んだっ、私の方がレイに相応しいって事かしら~?」
「あっ、そーゆーこと言っちゃうの?そーゆー事言っちゃったのね?良いでしょう良いでしょう。今夜どっちがお兄ちゃんと一緒に寝るかを賭けて勝負してあげるわよ?」
「あ~ら奥様、負けて悔しがるのは貴女の方じゃなぁいのぉ?ギルドランクCさんっ、大丈夫ぅ?」
「言ったわねぇ~、新入りのくせにぃ。お兄ちゃんとの愛の年季を解らせてあげるわっ!」

「お、おぃ……」

「お兄ちゃん、そう言うことで今日は狩りに行ってくるわ、いいでしょう?」
「レイ、私を応援しててねっ!」
「あっ、ズルいっ!お兄ちゃんは私を応援するのよっ!」

 なんだか知らないけど火が付いてしまったらしい。見た感じ仲良さげな喧嘩?なので止めはしないが二人は普段もこうなのか?

 今日は一日、それぞれの専属メイドさんを連れて狩りに出る事に決定された。この辺りに出るような魔物ならそんなに危険もないだろうし、クロエさんとコレットさんが付いていれば心配には及ばないだろう。

「じゃあ俺はサラと二人でシュテーアに会いに行って来るかな」


「「えっ!?」」


 何が「え?」なのか分からないが二人見事なハモリを見せた。お暇を頂いたので俺が何しようと勝手だろう、雪はモニカと一緒に行かなくてはならないが俺とサラは特にやることが無いのだ。

「しまった、サラと二人きりか……」
「それは分かってて言ってたんじゃなかったの?それよりお兄ちゃん、シュテーアって誰?」
「シュテーアはレイの愛人よ、これって浮気よね!」
「えぇっ!?……そりゃぁお兄ちゃんが何処で誰としようと良いけど、さっ……むぅっ」

「愛人は否定しないが人間じゃないぞ?それにサラも一緒なんだからモニカの想像は可笑しいからなっ!」


▲▼▲▼


 波乱を呼んだ朝食が終わり両腕を抱えられるようにして連行されたギルド前。やっとのことで解放されるとモニカとティナに頑張ってねのチュウをして別れる。
 サラと二人きりで昨日の宿に向かい女将さんに騒がせた事を謝罪した。

「ウチは大丈夫だよ、それよりアンタがお嬢の良い人だったんだねぇ。お嬢はお転婆だけど良い子だからね、あの子の事よろしく頼んだよっ!」

 ここでもティナの人気ぶりを目の当たりにし、驚くサラと魔導車を回収した後でシュテーアの待つ厩舎へとのんびり歩いて行った。

「ティナはこの町のアイドルらしいよ?小さな頃から町を一人で徘徊なんてしてたから盗賊に攫われて、そこで同じく攫われた俺と出会ったんだよ。知らなかった?」

「盗賊に攫われてっていうのは聞いてましたけど、町を徘徊とかティナは何を考えているのでしょうね。自分の身分と言うものを分かってるのかしら」

『もっと言ってやってくれ』とも思うが、そこがティナがティナである所以なのであまり否定したくないとも思う。

「サラは王宮から出られないって言ってたけど、こうして町を歩いてみてどうなの?やっぱり楽しい?」

「そうですね、こうして見慣れない店などを見てるだけでどんな物があるのか興味を惹かれます。王宮で勉強するのも悪いとは思いませんが、ティナのように町を見て歩くというのもそれはそれで勉強になるのだと思います。
 レイとの旅でいくつかの町を見て、町それぞれに特徴があるのがよく分かりましたし、色々素敵な物が溢れているのも知れました。それだけでも王宮を出て良かったと思えます。お父様やお兄様に感謝しなければなりませんね」

 並んで歩くサラは王宮にいた時と比べてなんだか身軽になったようにも見える。そんなに沢山の彼女を知っているわけではないが王宮で話した時
はなんだか肩肘張っている “王女という仮面を被った女の子” という印象が強かった。
 今は物腰が柔らかくなり一緒に歩いていると王女様という感じがしない。それは単に俺に慣れてくれただけなのかもしれないが、可愛い女の子とのデートという感じがしてきて嬉しくなってくる。

「サラはなんで俺と婚約したんだ?あのときはそれが一番手っ取り早かったのは分かるがそれだけじゃ無いんだろ?」

「えっ?」と視線を逸らすサラを見る限りまだ俺を受け入れてくれる心の準備は無いようだと悟る。

「よし、行くぞっ!」

 走り出した俺に手を引かれよろめきながらも走り出すサラだが足元がおぼつかない。

「ちょっ、待って!私、靴がっ……」

 言われて足元を見るといつもの旅のブーツでは無く、街の女の子の履くような可愛らしいピンクのミュール。

「仕方がないなぁ、ほらっ!」

 サラの脇と膝下に手を入れ抱き上げるとそのまま街中を走り出した。街行く人達が『何だ?』と色めき立つがそんなの御構い無しだ。

「ねぇ、なんで走るのよ」
「なんとなく?」
「何よそれ」

 何だかんだと言いつつしっかりと首に手を回し、俺を見上げている顔に嫌そうな感情は伺えない。それがまた嬉しく思えて調子に乗って身体強化の魔法まで使うと、地面を蹴り一足で三階建ての屋根へと上がった。

「キャッ!」

 なんの前触れもなしにそういうことをすればビックリするのは当然だろう。もちろんビックリして欲しくてやったのだが……。

「ちょっと~っ、何処走ってるの!?」
「何処って、屋根の上?」
「そんなの見れば分かるわっ!どうして屋根の上を走ってるのって聞いてるのっ!」
「なんとなく?」
「またそれなのぉ?」

 三階建てが二階建てとなり、平家が多くなってきたところで家自体が疎らとなる。それも通り過ぎれば、目的地であるだだっ広い草原に囲まれた厩舎へと辿り着いた。


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