黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第四章 海まで行こう

38.朔羅

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 ギシギシと悲鳴を上げるベッドの音と、甘く切ない声と甘美な吐息とで意識が戻る。
 全身を襲う快感に目を開ければ、腰に跨り一心不乱に動く朔羅が居た。以前会ったときより大人びた顔は恍惚として赤く染まり、目を瞑り全身の感覚を集中しているかのようだ。

「朔羅!?」

 その状況に驚いて起き上がろうとすると、薄眼を開け俺の胸を押し留めたかと思いきやそのまましなだれかかり『今は何も言うな』と言わんばかりに俺の口を朔羅の唇が塞ぐ。

 くぐもった朔羅の声が響く中、唇を合わせる二人。俺が欲し、求めた朔羅がすぐそこに居て一つに繋がっている。この状況で言葉など無粋なだけだな。
 自身の欲望に従う事を決めると、彼女の動きに合わせて俺も動き始めた。


 どれくらいそうしていただろう?
朔羅が俺を求め、俺も朔羅を求めた。お互いがお互いを求め合い、尽きることのない欲望を吐き出し続けて気が付いたら胸の上でうっとりとした表情をする朔羅が俺の胸板を指先で愛撫していた。

「んっ、起きたの?もっとする?」

 嬉しそうに問う朔羅のすべすべした背中に腕を回し、掌でその感触を味わうと甘い声が漏れ出す。すっかり大人びて俺と変わりないぐらいまで成長した朔羅。本当に彼女の成長は早い。このままではすぐにおばあちゃんになっちゃうぞ?

「こらっ!誰がおばあちゃんだっ。いくら僕でも怒るぞ?」

 頬を膨らました朔羅が上から覗き込むので、抱き寄せキスをすれば舌が侵入して来て絡み合い、甘い吐息が漏れ出る。

「さっきは力を貸してくれてありがとうな。朔羅が黒い霧を出してくれなかったら勝てなかったよ、助かった」

 話よりも触れ合いたいのか、また俺の胸に頭を置くと胸板に耳を付けた。俺の身体を朔羅の細い指がクルクルとダンスを踊るように滑って行く。

「ドクンドクンって聞こえる。レイシュアの心臓の音、力強い。少し鼓動が早いな、僕が居るからドキドキしてくれてる?」

「ああ」と答えてだいぶ長くなった黒髪を撫でてやると、しばらくそのまま無言の時間が過ぎて行く。
 ユリアーネやモニカといる時とは違った安心感、とても落ち着くのは何故だろう。

──俺はいつから朔羅の事が好きになったんだ?

「僕はねレイシュア、君だけの為に母様に作られた刀なんだよ?言わば君の半身、そこに居て当たり前なんだ。自分で自分の事を本気で嫌いと思う人は居ないよ、つまりレイシュアが僕の事を好きなのは必然であり最初からなんだ」

「でも朔羅は朔羅だろ?じゃないとこんなに朔羅のことを愛しく思えないよ、こんなに欲しいと思える筈ないよ」

「そうね」とベッドに手をついて起き上がりキスしてくる朔羅は俺を見下ろしたままでいる。
 彼女の身体を支える白くて細い腕の間に見える豊かに育った双丘に目が行くと、それを包み込むように優しく触れてみた。

「レイシュア、エッチだ」
「駄目なのか?」

 軽く首を振る朔羅を微笑みながら見ていると最初の頃の姿が思い出される。身体付きはすっかり大人の女なのに顔は大人びたもののあんまり変わってないな。幼さの残る黒髪の美人、俺好みだよ。

「あの黒い霧はレイシュアの力、僕のじゃないよ。ただ、母様は僕の身体をステライトというルスハイデ王国の王族にだけ代々受け継がれて来た特別な金属で造った。だから僕はあの力に耐えられるし、あの力のお陰でここまで早く成長出来たんだよ」

 そっか~と聞きながら朔羅の柔らかくも張りのある胸の感触を楽しむ。

「んんっ!ちょっと!レイシュア聞いてるの?ねぇったらっ、絶対聞いてないよねっ!もぉっ!」

 うるさい口を唇で塞ぐと、体勢を入れ替えて朔羅を組み敷く。聞きたい声を出すようにと身体に手を這わせば、再び朔羅を求めて欲望が動き出した。


▲▼▲▼


 目を開くとすぐ目の前にサラの顔があり、息がかかるほどの至近距離で目と目が合った。まつ毛が長くて綺麗な目、青紫の瞳が隠れては見えてと何度も繰り返す。

 俺、寝てたみたいだけど何してるの?まさか王女様が寝込みを襲う腹積もりなのですか?俺としてはサラならウェルカムなんだけど、君はまだ心が決まってないんじゃないのかい?

「なんだよ、またキスして欲しかったのか?」

 熟したトマトのように真っ赤に染まった美しさが混在する可愛いらしき顔。ジャブを打ち、様子を見てみようとしたがそんなことするまでもなかったな。
 けどやっぱり完全に俺へと向いていない彼女の唇を俺の方から奪うのは気が引けた。オデコにチュッとしてやるとカバッと起き上がり、一目散にモニカの後ろへと逃げて行く。

 サラが近すぎて見えなかったけどモニカも居たらしい。むむっ、共犯か?まさかモニカが煽ったのではなかろうな。モニカはサラと俺がくっつくことを望んでいた筈だ、あり得る………。

「モニカ君、何か言うことはないかね?」

「え!?」と驚いた顔をする。ほらぁ、確定じゃないの?

「大好きだよーーっ!」

 後ろ手を組みニコッと笑うと前のめりになりながら大声でそう叫んだ。

──ドキューンッ!

 はいっ、俺の負けです。可愛い過ぎるよ、モニカさん!

 ベッドから起き上がるとモニカに近寄りサラが背後から見ているのも気にせずにモニカを抱き寄せキスをした。
 顔を離した時サラと目が合ったが、口元に拳を当てて顔を真っ赤にしていたので悪戯心で「サラもして欲しいの?」と言うと、脱兎のごとく飛び出し向かいの部屋へと消えて行く。

「サラをイジメたら駄目って何度も言ってるじゃないっ」

 その様子をキョトンとして見ていた俺。ペチッと頭を叩かれたので驚いて見ればプクッと膨れるモニカが可愛く睨んでいた。
 聞いただけじゃないか!?と反論しそうになったがグッと堪えて別の作戦に出る。

「ごめ~んっ。反省してるからご褒美頂戴」
「もぉ……馬鹿っ」

 それでもちゃんとキスしてくれるモニカを抱きしめ、そのままベッドに押し倒すとキスを続けた。モニカの舌と俺の舌が絡み合いこのまま……と思ったらコンコンと扉を叩く軽い音が聞こえてくる。チッ!邪魔が入ったかっ!

「んーっ!んーっ!!」

 抗議するモニカを無視してキスをすること三秒、仕方なく顔を上げるとジトーッとした目の雪が俺達の返事を待っていた。
 あ、雪だったのね、ごめ~ん。

「トトさま、そういうのは二人きりの夜になさってください。船長さんが起きてたら呼んで来いって言ってらっしゃいましたよ?」

 赤くなったモニカと共にベッドから起きると朔羅がベッドに置きっ放しなのが目に入る。
 フラッシュバックするかのように頭に蘇る朔羅との夢の時間。あぁ、そうか。俺は夢の中で朔羅と何度も会ってたんだ。

 モニカから離れて朔羅を手に取ると、一瞬だけポワンと仄かに黒い光を発した。分かってるよ、大丈夫。いつもは忘れてしまっていたが今度はちゃんと覚えてる。
 柄頭にぶら下がる勾玉にチュッとキスをすると鞘に収めた。

「ごめんごめん、行こうか」

 モニカに再びキスをし雪を抱っこすると雪の頬にもキスをし廊下へと出た。

「トトさまは浮気者です」

 そう言った雪の視線が下へと向いている。それを追えば朔羅だとはすぐに分かる。

「雪は朔羅が分かるのか?」

 コクリと頷く雪の頭を「そうか」と撫でると俺は朔羅の事を話すと決めた。

「モニカ、実はな……」

 朔羅という存在、彼女との事情、今まで忘れていてさっき思い出した事、全部だ。

「なんでそんなこと私に話したの?」

 俺の隣で不思議そうに俺を見つめるモニカは、そう問いかけてくる。
 当然の事だろう、自分の婚約者に他の女の話をされていい気分でいる筈がない。

「こんな話ししてごめんな。でもモニカにはどうしても話したかったんだ。モニカには俺の全てを知っておいて欲しいし、逆にモニカの事は全部知っておきたい。
 これは俺の我が儘だ。それを押し付ける事には申し訳ないと思ってるよ」

「それは私の事が好きだから?」

「勿論そうだ。愛してるよモニカ」

 立ち止まり謝罪と俺からの愛を伝える為にモニカの唇を奪う。顔を離したモニカはなんだかスッキリとした顔でとても良い笑顔をしていた。
 俺の気持ちが理解してもらえたのだろうか?

「私も愛してるわ、レイシュア」

 珍しく名前を呼ばれた。愛称ではなく名前。それだけでモニカの気持ちが篭っているのを感じて嬉しくなる。
 腰に手を回し、狭い廊下を並んで歩き出す。

「私の事も好きでいてくださいますか?」

 俺の頬に小さな手を当て何故か不安そうに雪が聞いてくる。「勿論」と笑顔で答え、その柔らかなほっぺにキスをするとパァッと顔が明るくなる。



 三人で仲良くくっ付き歩いて行くと、船首で難しい顔をしたアラン船長に出会した。何かあったのか?
 たがそれよりも気になる物が在った。ドーンと置かれてる大きな赤い玉。落ちないようにとロープで雁字搦めになっている光景はなかなかに可笑しなものだな。もしかしてこれは……。

「船長、これって魔石か?こんな馬鹿でかいの初めて見たぞ」

「おお、やっと起きたかっ!良いタイミングだ。そいつはあの化け物烏賊の落し物だからお前の物だからな?人魚の姉ちゃんが拾ってきたは良いが、そのデカさでは船の入り口を通らなくてな、落っことさないように固定するのに苦労したぞ」

 フラウが?そうかそうか、普通の鞄では入らないもんな。
 魔石に近寄りペシペシと叩いてみる。それにしても立派な魔石ちゃんだな。体長百メートルと言われた巨大大王烏賊、その大きさから言えばとても小さな石っころだがモンスターの体格で魔石の大きさが変わるなどとは聞いた事がない。こいつは特別製か?

 人の背丈よりも大きな魔石、あり得ない大きさのそれに鞄を近付けると固定していたロープを残し一瞬にして消えて無くなる。
 やる事を終え振り向けばアラン船長以下、側で成り行きを見ていた船員達が揃いも揃ってあんぐりと口を開けて驚いていた。あ、ごめん。先に説明すれば良かったな。

「この鞄は特別製なんだ。それで、俺に用って何だったんですか?」

 ゴッホンと咳払いして元に戻ると、それにつられて船員たちも作業に戻る。アラン船長の真剣な顔つき、なんだ?面倒事の予感しかしないな。

「一難去ってまた一難だ、次のお客が来る。今度はあんなにはデカくないがそれでも四、五メートルはある魚だ。凄いスピードで泳ぎ回りながら船を沈めようと四方八方から魔法で作った津波をぶつけて来る。
 魔法で作られた津波だ、相殺させればいいから防ぐのは簡単なんだが、コッチは対抗出来る人数が限られている上に奴は海中、倒せねぇんだよ。しかもしつこく攻めて来やがるから奴が居る間は漁になりゃしない。嫌な野郎さっ。
 ただな、一つだけ良い情報があるぞ。奴は食うと美味いらしいぜ?」

 突然ニヤリとするアラン船長。ウインクして親指を立てると船首に向かい歩き出す。間も無く今夜のオカズの宅配が届くそうだ、張り切って倒そうではないか。


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