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第四章 海まで行こう
20.精霊
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「トトさまと一緒にいます」
中に戻るように言えば嬉しい答えが返ってきたので、お腹に手を回して万が一にも落ちないようにした。
浮いた足を プラプラ とぶらつかせる雪は変わり映えのない景色を眺めているだけなのになんだか楽しげだ。
「トトさまは昨日、どちらの娘とお会いになられたのでしょうねぇ~」
ポツリと漏れた小さな呟き。聞き取れなくて「なに?」と聞いたが「なんでもありません」と教えてはくれなかった。
「トトさま達は何も聞いて来ませんが、私が何者か解っていらっしゃらないのですか?」
雪の質問の意味が分からずポカンとしてしまう。
雪はあの時、気が付いたらモニカの側に立っていた。何処から来たのか、どうしてあんな場所に居たのかも分からない。分かっているのは無害な可愛い女の子ってことだけだ。盗賊に連れ去られて来た、そう考えるのが普通だろう。
俺とモニカを父母と呼ぶのは小さな子供だからと思えば違和感はあるもののおかしくもないだろう。だが雪の言い方からすると俺が雪の事を知っているかのような言い回しだ。
しかしどう考えても雪に会ったのは昨日が初めてのはず……。
「どういうことだ?全然わかんないよ?」
はぁっと一丁前に可愛らしく溜息を吐く雪。
トンっと俺に背中を預けるとそのまま仰け反り俺を見上げる。クリクリとした大きな青い眼、髪の色と同じで雪という存在によく似合う。
「私の眼の色、何処かで見たことありませんか?トトさま、もっと近くでよく見てください」
体勢的にちょっと苦しかったが、ぐぐっと顔を寄せると雪が頬を赤らめた。自分でやれって言ったのにおませさんだなぁ。
気にせず青い眼を覗き込むと、うっすらとだが銀粉が溶け込んだようにキラキラと輝いて見える。あれ?これって何処かで……。
「トトさまぁ、やっぱり恥ずかしいですっ」
食い入るように至近距離で見つめてしまったが雪の一言で顔を離した。
「モニカぁ、ちょっと来てくれる?」
「今度は何?」とひょっこり顔を出したモニカとサラ。
シュネージュを借りると柄の先にぶら下がる勾玉を見ると……やはり一緒だ。雪の眼と同じくキラキラと光を乱反射する銀粉混じりの青い色。
「どういうことだ?」
にっこりと笑う雪はまた一つヒントをくれる。
「トトさまとカカさまは私の育ての親です。私の本当の母さまはトトさまも良く知る方です。大きな眼鏡を掛けた方ですよ」
「それってシャロのことか?シャロが母親?じゃあ何であんな所に居たんだ?」
シャロの娘だと告げれば俺が解ると思ったようで、小首を傾げ「あれれ?」と不思議そうにしている雪。
「母さまは何も伝えていないのですね。では私がご説明します」
皆の注目を集め「んっんんっっ」と可愛らしく咳払いをする姿は、それはもう可愛らしくてギュッとしたくなるほどだ──ぶっちゃけ、実際にギュッとしたんだが……。
「その勾玉は〈精霊石〉と呼ばれる同じ属性の精霊を集める事が可能な特別な石です。
シュネージュに水の魔力を通すことで集められた水の精霊と、シュネージュに宿されていた意志とが融合して形と成ったのがわたくし、雪でございます。
母さまは私の身体、つまりシュネージュをお創りになるときカカさまが使うことを前提としました。ですがトトさまが最初に魔力を通してしまわれたので私の主はトトさまとカカさまの二人になってしまいました。
それは特別問題ではないのですけれども、突然生成された身体の方は大問題です。
本来カカさまがシュネージュを使い続けることにより水の精霊が蓄積されて行き、私が成長した段階で具現化する筈でした。
しかし契約者であるカカさま自身の血が大量にシュネージュへと注がれたことにより、不完全なままの私が具現化してしまったのです。
残念ながらこの状態では本来の力を発揮することが出来ません。
そこでトトさまとカカさまにお願いがあります。私を母さまの元に連れて行ってもらえませんか?勿論すぐにとは言いません。都合の良い時で構わないのでお願い出来ませんか?」
「雪ちゃん、精霊様なの!?」
目を丸くするモニカが雪を見るとにっこり微笑みコクコクと頷く。
「カカさま、精霊などそこら中に居ます。魔法とはどういう仕組みで発動するのかご存知ですか?
魔法とは、人間の持つ魔力という力を餌にして其処彼処に漂う精霊を集めて仕事をさせることにより様々な現象を起こす方法の事です。
魔法はどこででも使えますよね?つまり精霊もどこにでもいるということです。
精霊は意志を持たず意識もありません。その存在を感じる事も出来ません。言わば空気のようなモノだと思ってください。
しかし人間でも町で暮らす大半のようにありふれた能力の方達もいれば、トトさまやカカさまのように強い力を持つ者もいます。精霊においても個の強さはまちまち。
世界中の至るところに数限りなく居る精霊達、稀に現れる強い精霊は他の弱き精霊を取り込み可視化されることがあります。これが世間一般で言われるところの “精霊” なのですが、それが意志を持ち具現化するなど極々稀にしか起きない現象。精霊の目撃例が少ないのは具現化した精霊の絶対数が少ないからなのです。
では何故、私はここに居るのでしょう?
先にもご説明した通り、カカさまがシュネージュを通して水魔法を使うことにより精霊石に水の精霊が集められていました。ですがそれだけでは核となる存在が足りない。
そこで登場するのが武具に存在する意志なのです。
シュネージュの意志と精霊とを融合させることにより人工的に精霊を具現化させたのが “雪” という存在。ですので私はシュネージュであり水の精霊でもあるのですよ、カカさま」
初めて聞くことが満載で若干頭から煙が出そうになっていたが、何とか飲み込むと理解は出来た。
一言で言うと雪は凄いという事だ。
ただこのままでは雪は大きくなれない病のままなのでシャロに見てもらう必要があるって事だよな?
聞かされたとんでも発言以外は平和な道のりで、雪はずっと俺の膝の上に座って外を眺めていた。目にする物全てが新鮮だと言わんばかりに代わり映えのない景色をずっと眺めてニコニコしている。
日が傾き始めた頃、海の町〈リーディネ〉へと到着した。
この町にアリサが居るという話だ。ちゃんと謝らないと。
中に戻るように言えば嬉しい答えが返ってきたので、お腹に手を回して万が一にも落ちないようにした。
浮いた足を プラプラ とぶらつかせる雪は変わり映えのない景色を眺めているだけなのになんだか楽しげだ。
「トトさまは昨日、どちらの娘とお会いになられたのでしょうねぇ~」
ポツリと漏れた小さな呟き。聞き取れなくて「なに?」と聞いたが「なんでもありません」と教えてはくれなかった。
「トトさま達は何も聞いて来ませんが、私が何者か解っていらっしゃらないのですか?」
雪の質問の意味が分からずポカンとしてしまう。
雪はあの時、気が付いたらモニカの側に立っていた。何処から来たのか、どうしてあんな場所に居たのかも分からない。分かっているのは無害な可愛い女の子ってことだけだ。盗賊に連れ去られて来た、そう考えるのが普通だろう。
俺とモニカを父母と呼ぶのは小さな子供だからと思えば違和感はあるもののおかしくもないだろう。だが雪の言い方からすると俺が雪の事を知っているかのような言い回しだ。
しかしどう考えても雪に会ったのは昨日が初めてのはず……。
「どういうことだ?全然わかんないよ?」
はぁっと一丁前に可愛らしく溜息を吐く雪。
トンっと俺に背中を預けるとそのまま仰け反り俺を見上げる。クリクリとした大きな青い眼、髪の色と同じで雪という存在によく似合う。
「私の眼の色、何処かで見たことありませんか?トトさま、もっと近くでよく見てください」
体勢的にちょっと苦しかったが、ぐぐっと顔を寄せると雪が頬を赤らめた。自分でやれって言ったのにおませさんだなぁ。
気にせず青い眼を覗き込むと、うっすらとだが銀粉が溶け込んだようにキラキラと輝いて見える。あれ?これって何処かで……。
「トトさまぁ、やっぱり恥ずかしいですっ」
食い入るように至近距離で見つめてしまったが雪の一言で顔を離した。
「モニカぁ、ちょっと来てくれる?」
「今度は何?」とひょっこり顔を出したモニカとサラ。
シュネージュを借りると柄の先にぶら下がる勾玉を見ると……やはり一緒だ。雪の眼と同じくキラキラと光を乱反射する銀粉混じりの青い色。
「どういうことだ?」
にっこりと笑う雪はまた一つヒントをくれる。
「トトさまとカカさまは私の育ての親です。私の本当の母さまはトトさまも良く知る方です。大きな眼鏡を掛けた方ですよ」
「それってシャロのことか?シャロが母親?じゃあ何であんな所に居たんだ?」
シャロの娘だと告げれば俺が解ると思ったようで、小首を傾げ「あれれ?」と不思議そうにしている雪。
「母さまは何も伝えていないのですね。では私がご説明します」
皆の注目を集め「んっんんっっ」と可愛らしく咳払いをする姿は、それはもう可愛らしくてギュッとしたくなるほどだ──ぶっちゃけ、実際にギュッとしたんだが……。
「その勾玉は〈精霊石〉と呼ばれる同じ属性の精霊を集める事が可能な特別な石です。
シュネージュに水の魔力を通すことで集められた水の精霊と、シュネージュに宿されていた意志とが融合して形と成ったのがわたくし、雪でございます。
母さまは私の身体、つまりシュネージュをお創りになるときカカさまが使うことを前提としました。ですがトトさまが最初に魔力を通してしまわれたので私の主はトトさまとカカさまの二人になってしまいました。
それは特別問題ではないのですけれども、突然生成された身体の方は大問題です。
本来カカさまがシュネージュを使い続けることにより水の精霊が蓄積されて行き、私が成長した段階で具現化する筈でした。
しかし契約者であるカカさま自身の血が大量にシュネージュへと注がれたことにより、不完全なままの私が具現化してしまったのです。
残念ながらこの状態では本来の力を発揮することが出来ません。
そこでトトさまとカカさまにお願いがあります。私を母さまの元に連れて行ってもらえませんか?勿論すぐにとは言いません。都合の良い時で構わないのでお願い出来ませんか?」
「雪ちゃん、精霊様なの!?」
目を丸くするモニカが雪を見るとにっこり微笑みコクコクと頷く。
「カカさま、精霊などそこら中に居ます。魔法とはどういう仕組みで発動するのかご存知ですか?
魔法とは、人間の持つ魔力という力を餌にして其処彼処に漂う精霊を集めて仕事をさせることにより様々な現象を起こす方法の事です。
魔法はどこででも使えますよね?つまり精霊もどこにでもいるということです。
精霊は意志を持たず意識もありません。その存在を感じる事も出来ません。言わば空気のようなモノだと思ってください。
しかし人間でも町で暮らす大半のようにありふれた能力の方達もいれば、トトさまやカカさまのように強い力を持つ者もいます。精霊においても個の強さはまちまち。
世界中の至るところに数限りなく居る精霊達、稀に現れる強い精霊は他の弱き精霊を取り込み可視化されることがあります。これが世間一般で言われるところの “精霊” なのですが、それが意志を持ち具現化するなど極々稀にしか起きない現象。精霊の目撃例が少ないのは具現化した精霊の絶対数が少ないからなのです。
では何故、私はここに居るのでしょう?
先にもご説明した通り、カカさまがシュネージュを通して水魔法を使うことにより精霊石に水の精霊が集められていました。ですがそれだけでは核となる存在が足りない。
そこで登場するのが武具に存在する意志なのです。
シュネージュの意志と精霊とを融合させることにより人工的に精霊を具現化させたのが “雪” という存在。ですので私はシュネージュであり水の精霊でもあるのですよ、カカさま」
初めて聞くことが満載で若干頭から煙が出そうになっていたが、何とか飲み込むと理解は出来た。
一言で言うと雪は凄いという事だ。
ただこのままでは雪は大きくなれない病のままなのでシャロに見てもらう必要があるって事だよな?
聞かされたとんでも発言以外は平和な道のりで、雪はずっと俺の膝の上に座って外を眺めていた。目にする物全てが新鮮だと言わんばかりに代わり映えのない景色をずっと眺めてニコニコしている。
日が傾き始めた頃、海の町〈リーディネ〉へと到着した。
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