黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第四章 海まで行こう

15.求めた再現

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「クソ!いい加減に死ねよっ!女よこせや!!」

 威勢だけは良いが実力が無さすぎる。もっと鍛錬しなさいよ……ってそんな事しないで楽な方に流されているから盗賊なんてやってるんだよな。
 それにしても数が凄い。斬っても斬っても怯むことなく次々と襲いかかってくる、本当に二百人居たりして?若干飽きてきたが俺がサボるとモニカ達に影響が出るので働くしかない。コレットさんが俺の代わりをすれば俺は要らないんじゃないか?

 この程度の相手に手こずっていたティナーラのギルドは本当に碌な奴が居なかったのだろうと思えてしまう。まぁ筆頭冒険者がアレじゃあしょうがないか。

──だが油断は禁物だ。

「おーおー、派手にやらかしてくれてるじゃねぇか?お前、誰だよ。俺のシマ荒らすんじゃねぇ!」

 崖の上の遠距離攻撃部隊を蹂躙していた水蛇。その鼻頭を片手で鷲掴みにして止めると、力任せに握りつぶした。

「!!」

 二メートル近かった巨体はただの水へと成り代わり地面を濡らす。
 しかしその光景に唖然としたものの、すぐさま次の水蛇を創り出すモニカは流石だと言えよう。

「モニカっ、あいつ以外を狙え!アレは俺がやる。コレットさん、ここを頼む」

 自分だけ何もしていない事に疎外感を感じていたのか、水を得たとばかりにすぐさま反応を見せたコレットさん。表立っては変わらぬ表情ながらも足取りはいつも以上に軽く、黒い小さな刃物を何処からともなく抜き放つ姿からはウキウキしているのが俺には分かる──いいけど……頼むよ?

 二足で崖の上に到達すれば不敵な笑みを浮かべるジャケットを羽織るだけの半裸男、格好もそうだが細身の筋肉質な身体は近衛三銃士ガイアを彷彿とさせる。
 感じられる覇気は比べるべくもないが、モニカの水蛇を握りつぶすくらいだし魔族というのも強ち間違いではないかもしれないな。

「お前がこの盗賊団のボスか?随分とまぁ人を集めたもんだ。けど、雑魚ばかりの数合わせだな。多少なりとも骨のある奴は居ないのかよ」

「くくくっ、言ってくれるな。威勢だけじゃねぇのは見てりゃ分かる。だが死に急ぐなんて、オメェ馬鹿だろ?
 気狂いに付き合いたくはないがコッチも舐められたままじゃ気分が悪い、オイッ」

 前に出たのは下卑た笑いを浮かべる三人の男。見た目からしても三下、下に居た奴等よりはまし程度にしか思えないな。
 それでも周りの連中の視線を集めるようにこれ見よがしに気合を入れれば、体内に発生した魔力が身体に染み渡り、強化された肉体を見せつけるかのように手を握っては開いてと繰り返している。

 三人とも身体強化が出来るらしく周りの雑魚共から喝采が上がる。確かに身体強化とは一部の者しかたどり着けない強者たる証、その有無は雲泥の差となり普通の冒険者とは一線を画す。だからこそ有象無象が沸くのは理解出来るのだが、俺判定で奴等は身体強化の初心者、期待出来るほどのものではない。
 文句の一つでも言おうかとボスを見れば腕を組んで高みの見物らしい。まぁ、身体強化出来る奴が三人も居れば、あの冒険者達では敵わないのだろうな。

「てめぇ、俺たちを舐めてるのか!?」
「地面に這いずり許しを乞うがいい」
「ぶっ殺してやる!!」

 アピールタイムが長すぎて痺れを切らし、なかなか襲って来ない雑魚共に向けて『かかってこい』と顎をシャクってやれば見事に挑発に乗る三人。たったそれだけで怒りを顔に滲ませ飛びかかってくるのは、まさに三下だという証拠だな。

 三方向から繰り出される剣を見極め力任せに弾き返してやるが、驚きの表情をしながらも果敢に剣を繰り出し続ける。
 奴等は火魔法だけを使い身体強化をしているようで、スピードは大した事がないがそれなりにパワーがあって重くは感じる……けど、それだけだ。

「お前ら、魔法に溺れたな?身体強化が出来るからっていい気になって剣術の鍛錬をしていない、残念だったな」

 ガラ空きになった首に朔羅を当てると、さしたる抵抗もなく三つの首が宙を舞った。それを目にしたボスが苦虫を噛み潰したような怒りに燃える表情を浮かべて叫ぶ。

「チッ!おい、殺れっ!」

 下された命令に踊り出る八人、身体強化をした強面の男達が叫び声を挙げながら向かって来るがさっきの三人と差ほど変わり映えがない。

 程度は知れている、しかしこれだけ身体強化が出来る奴が居ればギルド員云々は抜きにしても討伐隊が手こずるのも納得出来なくはない。
 殆どの冒険者が独学で強くなって行くことを考えると、身体強化が出来るまでたどり着ける奴なんて一握りだろう。それが十一人、サルグレッドの軍が動けばひとたまりもないだろうが、この辺り一帯を支配するには十分な戦力だと言えよう。

 しかし残念ながら相手が悪かったな。俺は伝説の剣聖ファビオラ・クロンヴァールに剣を習い、魔導具の母ルミア・ヘルコバーラに魔力を鍛えられ、姉弟子ユリアーネ・ヴェリットと共に切磋して来た。ただ威張り散らし、鍛錬することなくやりたい放題していたような奴等に負けるわけがない。

 しかもルミアに転移とばされて以来すこぶる調子が良い。たいして鍛錬もしていないのに魔法の扱いもどんどん上手くなり、一段昇った感覚のある身体能力もそうだが使用できる魔力の量も以前より随分と多くなった。今ならあのオーガにでも遅れはとるまい……不思議だな。


 実力が知れていたので追加の八人もさっさと片付ける。驚きを隠す事なく顔に出すボスが額に汗を滲ませて放心している時だった。

「おお?」

 側面から飛んできた火球、慌てず、急がず、落ち着いたまま、朔羅の一振りで消し去れば続けて二つの火球が飛んで来る──良いねぇ、攻撃のための魔法が使えるヤツ!

 強者の予感に心が躍り返す刃で二つの火球を叩き斬ると、口の端を吊り上げた魔法を飛ばしてきた奴に向かい斬り込んで行く。
 盗賊にしては良さそうな剣、思わず感嘆が漏れるが朔羅を受け止めた事には驚かされる。益々吊り上がる男の口角、間近でニヤつかれるのは癪に障るが、手を抜いているとはいえ止められるとは思ってもみなかった。

「お前、やるじゃないか。それなりの実力があるのになんで盗賊なんてやってるんだ?真っ当に働いてもそこそこ良い暮らしが出来るだろう?」

「そんな生活の何が楽しいんだ?俺はやりたい事をやる、この力を使ってなぁ!ココは俺の居場所だっ、てめぇの好きにはさせねぇ。だから、死ね!」

 剣を押しつつ出された脚、それに自分の足を合わせると、それを踏み台に飛び退いて空中で華麗なる一回転。ヤツのお望み通り距離をおく。
 何をするつもりなのかと期待に胸を膨らませればどうやら魔力を練り込んでようだ。魔法が得意なのかと興醒めする思いに駆られた瞬間、男の剣に パリッ と黄色い光が走る。

「おおっ!マジか!!」

 期待を裏切らないまさかの雷魔法!
思わず握り締めた朔羅を鞘に戻すと、ニヤける頬はそのままに腰を落とした。
 左手で鍔を押し上げ鯉口を切る。久しぶりの抜刀術の構え、頭の中にはアルとやりあった光景が蘇る。あの時はユリアーネが飛んで来て止められたんだよな。


──ユリアーネ、また飛んでこいよ……。


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