黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第四章 海まで行こう

7.お邪魔します!

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「おはようお兄ちゃん……その子、誰?」

 翌る日の朝、俺の隣で眠る子供二人にびっくりした女性陣。それはそうだろう、昨日の夜「おやすみ」をした時には居なかった子供が一晩経ったら湧いて出たのだから訳が分からないのも仕方がない。

「レイ様、人攫いは犯罪ですよ?」

 二人より先に起きて来て、さして興味も持たずに朝食の用意をしていたコレットさんがチクリと言ってくる。だが、どうせ彼女の事だ、大凡の予測は付いているのだろう。

「誰が人攫いだよ。俺の隠し子だ、よろしくな」


「「はぁぁぁっっ!?」」


 固まるモニカとサラ……おいおい、こんな大きな子が俺の子供ならいつ作った事になるんだよ。

 大きな声に目が覚めた子供二人。むくりと起き上がり寝ぼけ眼で周りを見回したが、知らない人と見慣れない場所とを認識して昨晩の事を思い出したようだ。

「おはよう。どこか痛い所とか無いか?」

 二人揃ってコクコクと頷くので一先ずコレットさんの用意してくれた朝食を食べる事にした。暖かいスープの入ったコップに顔を近付け、フーフーと冷ます姿がなんとも言えず可愛い。

「美味しい!これ、凄く美味しいよっ」

 二人共かなりお腹が空いていたようで俺達と同じくらいの量をガッツリ食べると満足気な顔になる。自分の料理を美味しいと言ってもらえたからなのか、コレットさんが普段見た事が無いような暖かな視線でその様子を見ていた。
 実はこれぐらいの子供がいるんです……とか言わないよな?モニカの母親であるケイティアさんの事もある。女性の年齢は見た目では判らない。それとも歳の離れた兄弟でもいるのだろうか?


 名前を聞けばお姉ちゃんの方がスーザ、弟がアルミロと言うそうだ。

「二人はコリピサに住んでいるのか?」

「私達はコリピサの近くにある小さな村 〈フォルソリ村〉に住んでいます。昨日の夕方、家に帰る途中で村に入り込んでいた盗賊に攫われました。助けて頂いて本当にありがとうございます」

 ペコリと頭を下げるスーザの真似をしてアルミロも俺に頭を下げた。流石お姉ちゃん、しっかりしてるな。
 たまたま俺が通り掛からなければ二人共どこかに売られていたのだろう。盗賊とは人に迷惑をかける事しか出来ない奴等だなと、自分が盗賊団に捕まった時の事を思い出しながら改めて思う。

 馬車で村まで送って行く約束をして、一先ず目的地であったコリピサに向かう事にした。

 馬車は四人乗りなので溢れた俺は御者席……と思ったが、昨晩働いてくれたお馬さんに乗っていた。少し痩せているが大人しくて良い子だ。
 馬に乗るのも久しぶりだな、シュテーア元気してるかな?会えるのはいつになることやら……また「なんで来なかったの!?」って怒られるだろうからお土産で誤魔化すしかないな。




「お兄ちゃんっ、もっと早く走って~」

 何をやらせても器用にこなすモニカなら馬くらい颯爽と乗りこなしそうではあったものの、初めてだと言って俺の後ろに横乗りでしがみつきながらも足をばたつかせて楽しそうにしている。
 街道を走る馬車の周りをグルリと駆け足で回ってやると、風が気持ちいいのか、結構揺れるのも気にせずキャッキャしていた。

「モニカぁっ、そろそろ代わってよ~。私も乗りたい!」

 乗馬は貴族の嗜みだと言っていたサラは当然のように一人で乗れるらしいのだが、なぜか俺の後ろに乗ると言ってサッとモニカと入れ替わり腰にしがみついて来る。楽しそうな顔で早くとせがむので、特に文句も言わずに好きにさせておいた。

 暫くサラと相乗りで街道を進んでいると、昨日の盗賊との邂逅場所が分かるようにしておいた目印が見えて来た。

「コレットさん、街まで後少しだ。みんなを頼んでも良い?俺はちょっと盗賊のアジトが無いか見てくるよ」

 コレットさんの許可を貰い、何故か渋い顔をするサラを馬車に戻すと、軽く手を挙げ『いってきます』をして真っ直ぐ南に馬を向けた。

 着いた先は昨晩の盗賊が転がる場所。奴等が進んでいた方角を見定め、向かっていただろう先に馬を進めれば、比較的平坦な荒野に岩山っぽい物が見えて来る。
 更に近付けば小さめの山を縦に半分切り取ったような断崖の壁面に三メートルほどの穴が開いていた。他に目立った場所も無かったし、ここに居なければ一先ず諦めようと馬を降り、穴の中に入ってみる。内も入り口と同じくらい広いままで奥へと繋がっており、隠れ潜むにはもってこいな感じだな。

「誰だてめぇ。ここがどこだか分かってるのか?」

 現れたのはどう見ても悪い顔した男六人だった。まだ足音が聞こえる事からもっと湧くだろうなと予測出来る……が、人は見かけによらないので外見から勝手に判断しては不味い。何かの間違いがあると取り返しが付かなくなるので確認はせねば。

「えっと、ここはどこですか?」

「あぁ?知らずに迷い込んだとはとんだ阿保だな。ここは俺達盗賊団  〈黒犬〉のアジトだぜ?お前、運が無ぇ奴だな」

 話しかけてきた少しだけ身なりの良いボスと思しき男に声をかけてみたら周りの男達から下卑た笑いが上がる。運が無いのはどっちなのかという疑問は取り敢えず置いておこう。

「へぇ、盗賊団っていうと人攫いとかがお仕事なんですよね?もしかして昨日、フォルソリ村に出勤なんてしてました?」

 あからさまな動揺を感じる騒めき、かと思えば一斉に武器に手をかけ警戒を示すので分かりやすくて助かる。正にビンゴ、後から湧いてきた男達を含めて暗がりで見えているだけで二十人くらいかな。近隣の街の平和と俺のストレス解消の為に居なくなってもらうことにしよう。

「てめぇ、何者だ?何故それを知ってやがる?そう言えば俺のとこに挨拶に来ねぇが、ジョー達は帰ってきたのか?」

 そう言えばとか、今更自分達の仲間が居ない事に気が付いたらしい。仲間思いな奴等だな。
 確認が取れた所で一応自己紹介しておこうか。朔羅に手を乗せると勾玉を触りながらご挨拶をした。

「実はな昨晩フォルソリ村から連れてこられた子供二人を保護したんだ。聞いたら盗賊なんて輩に攫われたらしくてね、それでこちらにお邪魔する事になった訳なんですよねぇ。まぁそういう事で、平和に暮らす人達の為に居なくなってもらえますか?」

 朔羅を抜けば大の男でも震え上がるような怖い顔をした盗賊団の方々も武器を抜き放ち、ボスの「殺れ!」の合図がかかると一斉に襲いかかって来た。一人を寄って集るなんてホントろくでなし共だよな。


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