黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

文字の大きさ
上 下
183 / 562
第四章 海まで行こう

2.サラの頑張り

しおりを挟む
 浮かない顔で席に着いたサラ王女、続いて俺達も中に戻れば再び馬車が動き出す。

「モニカはなんで平気なんですか?あんなもの見て気持ち悪くないの?」

 小さな声の呟き、サラ王女は顔色があまりよろしくない。
 彼女は一国の王女様だ。魔物など今まで見たこともなかったのだろう。恐らく血ですらあまり目にする機会がなかったろうに、爆発して肉片を撒き散らすのを目の当たりにすれば……まぁ、気持ちは察する。

 剣も魔法も扱えるとは本人が言っていた。特に頼る気もないし頼る時もないだろうけど、習っただけの技術など実戦では役に立たない事くらい知っている。実戦を側で見て根を上げるようなら彼女に旅は無理だ。戻る事になるが王都へ送って行こう。

「私も最初は駄目だったよぉ。でも、慣れたかな?まぁ、誰かさんに蛙の目玉を取らされたときは流石に泣きそうだったけど、ねぇ?」

 笑って誤魔化しておいたけど、あれだって立派な仕事なんだって教えたよな?
 本当はやらせたくなかったんだぞ?本当は……たぶん。

「嫌になったのなら家まで送って行くよ。お城に戻られますか?王女殿下」

 眉間に皺を寄せてプイッと横を向き「帰りませんっ!」と意地を張るサラ王女。

「もぉっお兄ちゃん、意地悪しすぎだよ?サラだってお兄ちゃん助けるの手伝ってくれた……って言うより、一番頑張ってくれたんだからっ!サラのお陰でお兄ちゃんはここに居るんだよ?」

「ちょ、ちょっとモニカ!そんな事言わないでいいからっ」

 違う違うと両の掌を開いたまま振りながら、慌てた様子でワタワタとするサラ王女──そういうところは何とも言えない可愛いらしさがあるな。

「そうだったな、ごめん。助けてくれた事には本当に感謝してます、ありがとう。
 でもさっき言った事も本心だ。王城の生活とはまるで違うはず。辛くなったら、もしも帰りたくなったら遠慮なく言ってくれ」

 さっきまでの照れた可愛い顔は何処へやら。気を遣ったつもりがまた何か気に障ったのか、ツンと澄ました余所行きの顔で横を向く。

「利用されたとはいえ私が要因となり貴方が捕まったのです。あのまま処刑でもされたら寝起きが悪いでしょう?ですから手伝っただけです。
 それに、ここでの生活にもすぐに慣れます。大丈夫ですのでご心配なく」

 大きな溜息を吐くモニカに『どうした?』と視線を投げかけるがフルフルと首を振られた。
 俺、ちゃんと謝ったよ?お礼も言ったぞ?なんでお姫様は機嫌悪くなったんだ?


△▽


 馬車の中では気配探知の練習をしていたので時間が経つのが早かった。夕暮れより遥か前に着いた今日の宿場、夜中に王都を出発したのだから当然だよな。

「コレットさん、夜は焼肉でよろしく」

 宿場のすぐ近くにはそれほど大きくはないが森があり、獲物の気配に誘われ一人で狩りに出かけた。ガサガサと揺れる藪の中、美味しいご飯を見つけたのでラッキーと手を叩きながら小ぶりのシビルボアを一頭狩った。四人で食べるにはちょっとばかり大きいが、またベーコンにでもすれば日持ちもするだろう。

「「お帰りなさいっ」」

 狩りを終えて血抜きをしながらのんびり戻ればモニカと一緒にサラ王女がにこやかにお出迎えしてくれる。

「あ、あの……レイ?」

 やけに遠慮がちな態度に小首を傾げてしまうような少しばかりの違和感を感じはしたが『まぁいいや』と流せば、何故か恥ずかしげに話し掛けてくるサラ王女……言い難い事でもあったのか?

「あの……ですね。これから先、人が居る所にも行くじゃないですか。それで……ですね、えと……あの……『サラ王女』と呼ばれると人目を惹いてしまうと思うのです。
 ですから……私の事は『サラ』と呼んでくださいませんか?」

 いやはや、おっしゃる通り。手配中の身だし、いくらギルドカードに細工してもらったとは言え注目を集めるのは好ましくない。
「わかったよ」と納得の返事をすればサラの顔が花が咲いたように明るくなる。なになに?どういうこと?

「で、では私も貴方の事を《レイ》と呼んでもよろしいですか?」

 あ、はい……どうぞご自由に?っつか、そんなこと断る必要あるのか?変な所で律儀なお姫さんだな。
 何故だか分からないがモニカと二人で小さくガッツポーズしてる。まぁ、楽しそうだから気にしないでおこう。



「今夜の夕食はレイが作ると聞きました。私もお手伝いしてもいいですか?」

「あ、あぁ……良いけど、コレだぜ?」

 俺が鞄からシビルボアを取り出すと意味を察したらしく サーッ とあからさまに顔が青くなる。まだ初日だろ?無理するなよ。

「気持ちだけ貰っておくよ。モニカ、やってみるか?」

「やるやるーっ」っと、張り切ってシビルボアの皮を剥ぎ始めたモニカの隣で技術指導をしながら見守る俺、その影に隠れながら見ちゃいけないものを見る目でなんとか慣れようと努力するサラの姿が在った。
 背中に捕まり顔を出したり引っ込めたりと忙しい。時折「うっ」とか聞こえるが、そこまで無理してたらご飯食べられなくなるぞ?大丈夫かよ。

「サラ、頑張る君の気持ちは分かったけど、無理は良くないと思う。少しずつ慣れていけば良いんじゃないかな?」

「そうね」と言った彼女はそのまま俺の背中に額を押し付けて固まった。そんなに辛いの我慢してたのか、何を思ったか知らないけど極端な子だな。意地っ張りというか負けず嫌いというか。

 一方のモニカはというと、ろくにやった事もなかったにも関わらず熱心に何度もナイフを通して続けて徐々に上手くなって来た。何をやらしても器用にこなす。モニカ、素敵!

「後は俺がやるよ」

 初めてやったにしては綺麗に皮が剥がされ丸裸になったシビルボア、ナイフを受け取ると手際良く解体を始める。
 それも覚えようと真剣な眼差しで見つめるモニカとその後ろに隠れてチラチラと見ているサラ。

「サラ、無理するなよ。コレットさんを手伝ってきたらどうだ?」

「わ、分かったわ」

 青い顔をしたサラはとフラフラとコレットさんの方へと歩いて行ったが本当に大丈夫か?そこまで頑張らなくても良かったんじゃなかろうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

アリスと女王

ちな
ファンタジー
迷い込んだ謎の森。何故かその森では“ アリス”と呼ばれ、“蜜”を求める動物たちの餌食に! 謎の青年に導かれながら“アリス”は森の秘密を知る物語── クリ責め中心のファンタジーえろ小説!ちっちゃなクリを吊ったり舐めたり叩いたりして、発展途上の“ アリス“をゆっくりたっぷり調教しちゃいます♡通常では有り得ない責め苦に喘ぐかわいいアリスを存分に堪能してください♡ ☆その他タグ:ロリ/クリ責め/股縄/鬼畜/凌辱/アナル/浣腸/三角木馬/拘束/スパンキング/羞恥/異種姦/折檻/快楽拷問/強制絶頂/コブ渡り/クンニ/☆ ※完結しました!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...