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第三章 騎士伯の称号
31.着せ替え人形
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「朔羅……」
目を開けると俺に寄り添うように眠るモニカの寝顔、朝一番に目にするのが愛しい人の可愛い顔であれば、これほど気分の良い目覚めはない。
「ん……お兄ぃ、ちゃん」
愛しさを抑えきれずオデコにキスをすれば、瞼で封をされていたサファイアの瞳が姿を現す──しまった、起こしちゃった。
「おはよぉ~、今日はお兄ちゃんの方が早いのね。ちゃんと眠れた?」
「あぁ、モニカの肌が気持ちいいからグッスリだよ」
「ふぇっ……」
照れて少し赤くなったモニカにキスをすると、ふと、机に立て掛けてあった朔羅が目に入った。なんだか夢の中で朔羅と名乗る少女に会った気がする。
「どうしたの?何か変?」
朔羅を見て動きを止めた俺に気付き不思議そうに尋ねるが「なんでもないよ」と再びモニカとキスを交わしてベッドから起きた。
今夜開かれる王宮主催の晩餐会、貴族に紛れての食事など堅苦しいだけなので遠慮したかったのだが、晩餐会の前座として騎士伯の叙任式が行われる事が急遽決まったので主張は却下。だが衣装など当然のように持ち合わせていない。
正確に言えばカミーノ家で作ってもらった服があるにはあるのだが、服自体がレピエーネにあるので今回は着ることが出来ない。その為、服の調達に朝一でヒルヴォネン家御用達の仕立屋へと連れられて行った。
ちなみにモニカは久しぶりに王都にきたのだからと最初から晩餐会に参加する予定だったらしく、昨日の午前中にドレス合わせを済ませたそうだ。
馬車を降りればやはりというか当然というか、建物さえ立派に見えるお店。貴族の屋敷のような建物内に足を踏み入れれば一人のご婦人が優雅にお茶を飲んでいた。
凛とした姿勢、俺よりだいぶ年配なのは確定だが恐らく実年齢より若く見えるだろう大人な女性。上等な洋服にかかる金に近いオレンジの髪にはくるくると綺麗なカールがかけられており、手入れがしっかりされているのが見て取れる。
纏う雰囲気と整った顔立ちからはほぼ確定で貴族だろう。しかし、向けられた赤に近い桃色の瞳に “何処かで見た” ような感じを受けた。
あまり見ては失礼かと目を逸らそうとすれば、思わず視線を奪われるような優雅さを携えゆったりとした仕草で立ち上がる。そして驚く事に、にこやかな笑みを浮かべて俺なんかを目指して近寄って来るではないか。
「あらあら、今話題のお方じゃありませんの?こんな所でお会い出来るとは思ってもみませんでしたわ。私はイルゼ・サザーランドよ」
ちょんとスカートの裾を摘みお辞儀をされたので慌てて胸に手を当てて頭を下げ返した──事前に挨拶の仕方を聞いておいて正解だったな。
「俺はレイシュア・ハーキースといいます。あの……突然で失礼なんですけど、何処かでお会いした事がありませんか?なんだか初めて会った気がしなくて……」
優しそうな笑顔に花を添えて微笑みを増すと、頬に手を当て照れたような仕草をする。大人の女性のそんな仕草にドキリとさせられるが、妙に悪戯心が見え隠れするのは気のせいか?
「まぁまぁ、お上手ですわね。こんな歳なのに若き英雄様に口説いてもらえるなんて光栄ですわっ。あらあらどうしましょう。今日は良い一日になりそうですわね、うふふふっ」
「あっ、いえ、すみません。そんなつもりではなかったのです、俺の勘違いでしたね」
「いいえ勘違いではなくてよ?でも実際に会うのは初めてだものね、驚かれても仕方ないわ。貴方の噂はずっと前から聞いていたの、やっとお会い出来たわ。
ふふふっ、私の実家はねレピエーネなのよ。旧姓はカミーノ、貴方の良く知るランドーアの妹、ビックリしたかしら?」
マジかっ!どうりで見たことがあると……そう言われてみればなんとなく目や顔の印象が似ている。広い王都の中、申し合わせも無しで会うって、凄い偶然だな。
「それで、其方のお嬢さんはどなたかしら?」
「私はモニカ・ヒルヴォネンと申します。お兄ちゃんの婚約者です」
俺の斜め後ろで成り行きを見ていたモニカがスカートの裾をちょんと摘み貴族らしい挨拶をした。こんな姿初めて見たな。っつか婚約者って言わなくても……あぁ、ティナの血縁だからか。
一瞬、驚いた顔をしたイルゼさん、だがすぐに穏和そうな優しい顔に戻った。
「ヒルヴォネン公爵の……そぉ。レイシュアはカッコいいものね、モテるのも当然よね。それで、ティナの事はどうするつもりかしら?」
「伯母様、御安心ください。ティナとは友達だもの。ちゃんと仲良くしますわ」
「あらまぁっ!それを聞いて安心したわ。晩餐会の衣装を探しに来たのよねっ、私も手伝っちゃおうかしら?」
説明も無しに “仲良く” という言葉の意味を瞬時に理解した様子を見せるイルゼさん。その理解力には驚かされるが、それを聞いて嫌な顔一つしない柔軟さには更に驚いた。
そんな俺を余所に「お願いできます?」と誘いに乗ったモニカは店員さんと三人で作り置きの衣装を見て回っている。俺はサッパリ分からないし興味も持てないので全てお任せだ。
それでね、モニカさん。ティナと友達とか初めて聞きましたよ?二人の仲が良いのは助かるけどティナが多妻を受け入れるか聞いたわけじゃないし、第一、娘大好きなカミーノさんがそれを許すとも思えない。
「ねぇコレットさん、これっていつ終わるの?」
愉しそうに熟考する三人、早く終わってくれと思う俺を尻目に隣に居てくれるコレットさんは笑顔を浮かべるだけ。
その後、あーでもない、こーでもないと着せ替え人形にされた後、身体の各部を採寸され二時間近くが経った。俺はそれだけでクタクタになったのだが女性はそういうの好きだよな。
目を開けると俺に寄り添うように眠るモニカの寝顔、朝一番に目にするのが愛しい人の可愛い顔であれば、これほど気分の良い目覚めはない。
「ん……お兄ぃ、ちゃん」
愛しさを抑えきれずオデコにキスをすれば、瞼で封をされていたサファイアの瞳が姿を現す──しまった、起こしちゃった。
「おはよぉ~、今日はお兄ちゃんの方が早いのね。ちゃんと眠れた?」
「あぁ、モニカの肌が気持ちいいからグッスリだよ」
「ふぇっ……」
照れて少し赤くなったモニカにキスをすると、ふと、机に立て掛けてあった朔羅が目に入った。なんだか夢の中で朔羅と名乗る少女に会った気がする。
「どうしたの?何か変?」
朔羅を見て動きを止めた俺に気付き不思議そうに尋ねるが「なんでもないよ」と再びモニカとキスを交わしてベッドから起きた。
今夜開かれる王宮主催の晩餐会、貴族に紛れての食事など堅苦しいだけなので遠慮したかったのだが、晩餐会の前座として騎士伯の叙任式が行われる事が急遽決まったので主張は却下。だが衣装など当然のように持ち合わせていない。
正確に言えばカミーノ家で作ってもらった服があるにはあるのだが、服自体がレピエーネにあるので今回は着ることが出来ない。その為、服の調達に朝一でヒルヴォネン家御用達の仕立屋へと連れられて行った。
ちなみにモニカは久しぶりに王都にきたのだからと最初から晩餐会に参加する予定だったらしく、昨日の午前中にドレス合わせを済ませたそうだ。
馬車を降りればやはりというか当然というか、建物さえ立派に見えるお店。貴族の屋敷のような建物内に足を踏み入れれば一人のご婦人が優雅にお茶を飲んでいた。
凛とした姿勢、俺よりだいぶ年配なのは確定だが恐らく実年齢より若く見えるだろう大人な女性。上等な洋服にかかる金に近いオレンジの髪にはくるくると綺麗なカールがかけられており、手入れがしっかりされているのが見て取れる。
纏う雰囲気と整った顔立ちからはほぼ確定で貴族だろう。しかし、向けられた赤に近い桃色の瞳に “何処かで見た” ような感じを受けた。
あまり見ては失礼かと目を逸らそうとすれば、思わず視線を奪われるような優雅さを携えゆったりとした仕草で立ち上がる。そして驚く事に、にこやかな笑みを浮かべて俺なんかを目指して近寄って来るではないか。
「あらあら、今話題のお方じゃありませんの?こんな所でお会い出来るとは思ってもみませんでしたわ。私はイルゼ・サザーランドよ」
ちょんとスカートの裾を摘みお辞儀をされたので慌てて胸に手を当てて頭を下げ返した──事前に挨拶の仕方を聞いておいて正解だったな。
「俺はレイシュア・ハーキースといいます。あの……突然で失礼なんですけど、何処かでお会いした事がありませんか?なんだか初めて会った気がしなくて……」
優しそうな笑顔に花を添えて微笑みを増すと、頬に手を当て照れたような仕草をする。大人の女性のそんな仕草にドキリとさせられるが、妙に悪戯心が見え隠れするのは気のせいか?
「まぁまぁ、お上手ですわね。こんな歳なのに若き英雄様に口説いてもらえるなんて光栄ですわっ。あらあらどうしましょう。今日は良い一日になりそうですわね、うふふふっ」
「あっ、いえ、すみません。そんなつもりではなかったのです、俺の勘違いでしたね」
「いいえ勘違いではなくてよ?でも実際に会うのは初めてだものね、驚かれても仕方ないわ。貴方の噂はずっと前から聞いていたの、やっとお会い出来たわ。
ふふふっ、私の実家はねレピエーネなのよ。旧姓はカミーノ、貴方の良く知るランドーアの妹、ビックリしたかしら?」
マジかっ!どうりで見たことがあると……そう言われてみればなんとなく目や顔の印象が似ている。広い王都の中、申し合わせも無しで会うって、凄い偶然だな。
「それで、其方のお嬢さんはどなたかしら?」
「私はモニカ・ヒルヴォネンと申します。お兄ちゃんの婚約者です」
俺の斜め後ろで成り行きを見ていたモニカがスカートの裾をちょんと摘み貴族らしい挨拶をした。こんな姿初めて見たな。っつか婚約者って言わなくても……あぁ、ティナの血縁だからか。
一瞬、驚いた顔をしたイルゼさん、だがすぐに穏和そうな優しい顔に戻った。
「ヒルヴォネン公爵の……そぉ。レイシュアはカッコいいものね、モテるのも当然よね。それで、ティナの事はどうするつもりかしら?」
「伯母様、御安心ください。ティナとは友達だもの。ちゃんと仲良くしますわ」
「あらまぁっ!それを聞いて安心したわ。晩餐会の衣装を探しに来たのよねっ、私も手伝っちゃおうかしら?」
説明も無しに “仲良く” という言葉の意味を瞬時に理解した様子を見せるイルゼさん。その理解力には驚かされるが、それを聞いて嫌な顔一つしない柔軟さには更に驚いた。
そんな俺を余所に「お願いできます?」と誘いに乗ったモニカは店員さんと三人で作り置きの衣装を見て回っている。俺はサッパリ分からないし興味も持てないので全てお任せだ。
それでね、モニカさん。ティナと友達とか初めて聞きましたよ?二人の仲が良いのは助かるけどティナが多妻を受け入れるか聞いたわけじゃないし、第一、娘大好きなカミーノさんがそれを許すとも思えない。
「ねぇコレットさん、これっていつ終わるの?」
愉しそうに熟考する三人、早く終わってくれと思う俺を尻目に隣に居てくれるコレットさんは笑顔を浮かべるだけ。
その後、あーでもない、こーでもないと着せ替え人形にされた後、身体の各部を採寸され二時間近くが経った。俺はそれだけでクタクタになったのだが女性はそういうの好きだよな。
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