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第二章 愛する人
幕間③──エレナの決断 下
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お師匠さんの言う通り先生に付いて魔法の練習をしていると、数日後にはレイさん達が帰って来ました。だいぶ上手くなった魔法を優しく褒めてくれたのは良かったのですが、またしても私を置き去りにしてユリ姐さんと二人で出かけて行きます。
滞在時間わずか二時間、数日待ってたったの二時間しか会えない事に愕然としましたが、スパルタ教師リリィさんに連れられて魔法の練習をさせられていると、いつしか憤りも収まって行きました。
「リリィさんはレイさんの事をどう思っているんですか?」
休憩の合間に率直に聞いてみました。ここには私達二人しか居ません。
リリィさんの本音が聞きたくて真剣な顔で問い詰めます。
「ど、どうって何よ。どうもこうもないわ」
するとどうでしょう、いつもクールな感じのリリィさんが明らかに動揺し、よく見ないと分からない程度ではありますが頬を染めてるではありませんか……これは、ライバル確定ですね。
ですが占い師さんの言葉が思い出されます。
レイさんはティナさんに “一人だけ” と言いましたが、占い師さんは “いずれ幾人もの愛を” と言ったのです。
つまり今はまだ一人だけしか受け入れてもらえないかもしれませんが、いずれは私も、そしてリリィさんもあの人のモノになれるという事なのです。
そうなると “ライバル” ではなく “同志” という事になります。そんな答えに行き着いた私は、余計にリリィさんに親しみが持てるようになりました。
何日かして帰って来たレイさんはなんだか雰囲気が少し違いました。レイさんのお母さんが殺されて、生まれ故郷が滅ぼされたそうです。
そして最大の要因はユリ姐さんでした。
なんと、二人は恋仲になったそうなのです!
仲睦まじい様子の二人に少しばかり嫉妬心が芽生えましたが、それでも構いません。私は私でレイさんに気に入ってもらえるよう精一杯出来る事をするのみです。
って思ってたら、またしても私を置いて二人で出かけて行きました!
私にチャンスは……チャンスは無いのですか!?
でもまぁ、恋仲になったばかりの二人の間には入る隙は無さそうだったので、今のうちに私は私を磨く事にします。いつか私の事を気に入らせ、あの人の側に置いてもらえるように。
帰って来た二人はお揃いの指輪を左手の薬指に嵌め、益々仲が良さげです。聞けば二人は結婚したそうなのです……なんて羨ましい!
小さく溜息を吐きながらも今はまだ我慢だと自分に言い聞かせ努力を重ねます。
私が今できる事──鬼教官と化したルミア先生の魔法の特訓と、ご飯の用意です。
以前は持ち回りでみんなでご飯を作っていたそうですが、私が来てからというもの私が率先してやっているので今では私の担当になってます。
「二人の時はルミアが作ってくれるんじゃがのぉ……」
お師匠さんは愛する先生の手料理が食べたいのか、ポツリと漏らした事がありました。それ以来先生の時間のある時には色んな料理を教えてもらいながら花嫁修行に勤しんで来ました。
そんなある時、先生から教えてもらったミートパスタを作りレイさんに食べてもらうと「美味しい」と褒められ沢山食べてくれたのです。その時は本当に嬉しくて「よしっ次も頑張ろう!」と心に誓いました。
ですが、そういう時に限って邪魔が入るのです。
そうです!またしてもレイさんはお出かけをすると言うのです。今度こそは!と意気込み付いて行こうと主張する私を「駄目」と一言で一刀両断する先生。酷すぎますっ!!そろそろ私でも泣きますよ?
風魔法の修行も板に着き、だいぶ自在に操れるようになって来た頃、先生と共にレイさんとユリ姐さんが魔法で帰って来ました。
ですが、いつもとは違い表情に焦りが見えます。
みんなを集めて話を聞くと魔族との戦いに行くそうなのです。よし!と気合を入れる私にまたしても “お留守番” の命令が下りました。
レイさん達の故郷が滅ぼされてからというもの、ずっと塞ぎ込んでいるリリィさんのお世話を頼まれたのです。確かに今のリリィさんは一人にしてしまうと死んでしまいそうなくらい何も出来ない人になってしまっています。
誰かが側に居てあげなくてはならない、それは理解出来るし私が適任だとも分かります。けど……けど、何か分からないモヤモヤとした不安な気持ちが胸に渦巻き、どうしてもレイさんと一緒に行きたかったのです。
解ってはいましたが私の意見など通るわけもなく、再びレイさんはユリ姐さんと共に旅立って行きました。
何日か過ぎるとお師匠さん達も出かけて行きリリィさんと二人きりのお留守番、リリィさんはご飯だと呼びに行かない限り部屋から出て来ないので実質独りぼっちです。
先生の言いつけ通り課題を済ませるとぼんやりと空を眺めました。今頃レイさん達は魔族から町を守るために戦っているのでしょうか?みんなが無事に帰ってくるよう太陽さんにお祈りしました。
そうだ!
ある事を思い付き慌てて夕食の準備に取り掛かりました。今日帰って来るかは分かりませんが、たぶんきっと明日には帰ってくることでしょう。下拵えだけでもしておけば、疲れて帰って来たみんなを私のご馳走で癒してあげられる、そう考えて張り切って料理を作って行きます。
ちょっとしたパーティー、そんな量の準備が終わる頃、先生がお師匠さんとアルさんを連れて帰って来ました。
「お帰りなさいっ!」
笑顔で迎えた私とは対照的に三人の表情はとても暗いものでした。嫌な予感がして恐る恐る聞いてみるとユリ姐さんが魔族との戦いで命を落としたのだと言うではありませんか……。
優しくて、お淑やかで、それでいて凄く強かった私の憧れた女性はもういない。一緒に旅をして、一緒に買い物もした。一緒に料理を作り、レイさんの好みも教えてくれた。
これから一緒にレイさんの事を愛して行ける人だと思っていたのにもう二度と会う事が出来なくなってしまった、そう思うと涙が溢れてきました。
けど、もっと重要な事を思い出しました。
「レイさん……わ?」
ユリ姐さんと結婚し、今一番愛している人を失ったレイさんはここに居ない。何処にいるんだろう?きっと私以上に悲しみに暮れて、何処かで泣いているのではないだろうか?だったらこんな時こそ私が側にいて慰めてあげなくちゃいけない!
「レイは何処かに転移してしまって行方不明なのよ。転移しただけだから生きてはいるけど、探すのには時間がかかるわね」
先生の告げた現実は過酷なものでした。
ユリ姐さんは亡くなり、レイさんも居なくなった。あの時の胸騒ぎはこの事だったのかと今更ながらに思います。例え私が一緒に付いて行ってたとしても何も変わらない結果があっただろうとは思いますが、私に戦う力があったのなら少しは違う結果になっていたかもしれません。
自分に力が無いばかりに選択肢すら無い、置いてかれてただ待つばかりなのはもう嫌です。独りぼっちは嫌なのです。
「お師匠さん、お願いがあります」
お師匠さんも疲れているのか、それともユリ姐さんがいなくなってしまった悲しみに心を病んでいるのか、何時ものにこやかな表情ではありませんでした。それでも、今、私のこのお願いを聞いて欲しくて伝えることを決めました。
「私に、戦う力をください」
滞在時間わずか二時間、数日待ってたったの二時間しか会えない事に愕然としましたが、スパルタ教師リリィさんに連れられて魔法の練習をさせられていると、いつしか憤りも収まって行きました。
「リリィさんはレイさんの事をどう思っているんですか?」
休憩の合間に率直に聞いてみました。ここには私達二人しか居ません。
リリィさんの本音が聞きたくて真剣な顔で問い詰めます。
「ど、どうって何よ。どうもこうもないわ」
するとどうでしょう、いつもクールな感じのリリィさんが明らかに動揺し、よく見ないと分からない程度ではありますが頬を染めてるではありませんか……これは、ライバル確定ですね。
ですが占い師さんの言葉が思い出されます。
レイさんはティナさんに “一人だけ” と言いましたが、占い師さんは “いずれ幾人もの愛を” と言ったのです。
つまり今はまだ一人だけしか受け入れてもらえないかもしれませんが、いずれは私も、そしてリリィさんもあの人のモノになれるという事なのです。
そうなると “ライバル” ではなく “同志” という事になります。そんな答えに行き着いた私は、余計にリリィさんに親しみが持てるようになりました。
何日かして帰って来たレイさんはなんだか雰囲気が少し違いました。レイさんのお母さんが殺されて、生まれ故郷が滅ぼされたそうです。
そして最大の要因はユリ姐さんでした。
なんと、二人は恋仲になったそうなのです!
仲睦まじい様子の二人に少しばかり嫉妬心が芽生えましたが、それでも構いません。私は私でレイさんに気に入ってもらえるよう精一杯出来る事をするのみです。
って思ってたら、またしても私を置いて二人で出かけて行きました!
私にチャンスは……チャンスは無いのですか!?
でもまぁ、恋仲になったばかりの二人の間には入る隙は無さそうだったので、今のうちに私は私を磨く事にします。いつか私の事を気に入らせ、あの人の側に置いてもらえるように。
帰って来た二人はお揃いの指輪を左手の薬指に嵌め、益々仲が良さげです。聞けば二人は結婚したそうなのです……なんて羨ましい!
小さく溜息を吐きながらも今はまだ我慢だと自分に言い聞かせ努力を重ねます。
私が今できる事──鬼教官と化したルミア先生の魔法の特訓と、ご飯の用意です。
以前は持ち回りでみんなでご飯を作っていたそうですが、私が来てからというもの私が率先してやっているので今では私の担当になってます。
「二人の時はルミアが作ってくれるんじゃがのぉ……」
お師匠さんは愛する先生の手料理が食べたいのか、ポツリと漏らした事がありました。それ以来先生の時間のある時には色んな料理を教えてもらいながら花嫁修行に勤しんで来ました。
そんなある時、先生から教えてもらったミートパスタを作りレイさんに食べてもらうと「美味しい」と褒められ沢山食べてくれたのです。その時は本当に嬉しくて「よしっ次も頑張ろう!」と心に誓いました。
ですが、そういう時に限って邪魔が入るのです。
そうです!またしてもレイさんはお出かけをすると言うのです。今度こそは!と意気込み付いて行こうと主張する私を「駄目」と一言で一刀両断する先生。酷すぎますっ!!そろそろ私でも泣きますよ?
風魔法の修行も板に着き、だいぶ自在に操れるようになって来た頃、先生と共にレイさんとユリ姐さんが魔法で帰って来ました。
ですが、いつもとは違い表情に焦りが見えます。
みんなを集めて話を聞くと魔族との戦いに行くそうなのです。よし!と気合を入れる私にまたしても “お留守番” の命令が下りました。
レイさん達の故郷が滅ぼされてからというもの、ずっと塞ぎ込んでいるリリィさんのお世話を頼まれたのです。確かに今のリリィさんは一人にしてしまうと死んでしまいそうなくらい何も出来ない人になってしまっています。
誰かが側に居てあげなくてはならない、それは理解出来るし私が適任だとも分かります。けど……けど、何か分からないモヤモヤとした不安な気持ちが胸に渦巻き、どうしてもレイさんと一緒に行きたかったのです。
解ってはいましたが私の意見など通るわけもなく、再びレイさんはユリ姐さんと共に旅立って行きました。
何日か過ぎるとお師匠さん達も出かけて行きリリィさんと二人きりのお留守番、リリィさんはご飯だと呼びに行かない限り部屋から出て来ないので実質独りぼっちです。
先生の言いつけ通り課題を済ませるとぼんやりと空を眺めました。今頃レイさん達は魔族から町を守るために戦っているのでしょうか?みんなが無事に帰ってくるよう太陽さんにお祈りしました。
そうだ!
ある事を思い付き慌てて夕食の準備に取り掛かりました。今日帰って来るかは分かりませんが、たぶんきっと明日には帰ってくることでしょう。下拵えだけでもしておけば、疲れて帰って来たみんなを私のご馳走で癒してあげられる、そう考えて張り切って料理を作って行きます。
ちょっとしたパーティー、そんな量の準備が終わる頃、先生がお師匠さんとアルさんを連れて帰って来ました。
「お帰りなさいっ!」
笑顔で迎えた私とは対照的に三人の表情はとても暗いものでした。嫌な予感がして恐る恐る聞いてみるとユリ姐さんが魔族との戦いで命を落としたのだと言うではありませんか……。
優しくて、お淑やかで、それでいて凄く強かった私の憧れた女性はもういない。一緒に旅をして、一緒に買い物もした。一緒に料理を作り、レイさんの好みも教えてくれた。
これから一緒にレイさんの事を愛して行ける人だと思っていたのにもう二度と会う事が出来なくなってしまった、そう思うと涙が溢れてきました。
けど、もっと重要な事を思い出しました。
「レイさん……わ?」
ユリ姐さんと結婚し、今一番愛している人を失ったレイさんはここに居ない。何処にいるんだろう?きっと私以上に悲しみに暮れて、何処かで泣いているのではないだろうか?だったらこんな時こそ私が側にいて慰めてあげなくちゃいけない!
「レイは何処かに転移してしまって行方不明なのよ。転移しただけだから生きてはいるけど、探すのには時間がかかるわね」
先生の告げた現実は過酷なものでした。
ユリ姐さんは亡くなり、レイさんも居なくなった。あの時の胸騒ぎはこの事だったのかと今更ながらに思います。例え私が一緒に付いて行ってたとしても何も変わらない結果があっただろうとは思いますが、私に戦う力があったのなら少しは違う結果になっていたかもしれません。
自分に力が無いばかりに選択肢すら無い、置いてかれてただ待つばかりなのはもう嫌です。独りぼっちは嫌なのです。
「お師匠さん、お願いがあります」
お師匠さんも疲れているのか、それともユリ姐さんがいなくなってしまった悲しみに心を病んでいるのか、何時ものにこやかな表情ではありませんでした。それでも、今、私のこのお願いを聞いて欲しくて伝えることを決めました。
「私に、戦う力をください」
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