黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第二章 愛する人

20.意地

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「それで……さ、ミカ兄に伝えなきゃならないことがあるんだ」

「なんだよ?まさかもう子供が出来ました!とか言わねぇだろうな?父親になるにはまだ早いぜ?もっと人生楽しんでからでも悪くないはずだ」

「ちっげーし!人が真剣な話しようとしてる時に茶化すなよ」

「ほぉ、真剣ねぇ……村でも滅んだか?」

 フォルテア村のことを話すと決めて勇気を出したのに言い当てられてビックリする。 だって俺はまだ何も言っていない、まさか……行ってきたのか?

「なんだ、図星かよ。 大体よ、お前が俺に告白するなんてそうそう無いだろ?子供でもねぇ、アルやリリィは元気。じゃあ後は村の事くらいだ……そうか、フォルテア村は無くなっちまったか。良い村だったのになぁ、当然爺ぃやお袋も死んじまったんだよな?誰にやられたか分かるか?」

 なんでそんなに冷静でいられるんだ?自分の母親が死んだんだぞ?悲しくないわけないだろうに……。

「魔族だ。 昔チェラーノに魔族がいたことがあっただろ?あの時の男の魔族で名前はケネスだ。ほら、頭に布巻いてて背中にでかい剣持ってるってやつだよ。アイツが村をぶっ壊したんだ。
 アイツだけは許さない、必ず俺の手で殺してやるよ」

 思い出しただけで沸き起こる怒り。しかしミカ兄は微笑みながら俺の肩を叩き、静かに言葉を紡いだ。

「復讐なんて止めとけよ、碌なことになりゃしねぇんだ。お前は魔族に関わるな、奴等に関わると不幸になる。
 そんなことよりお前にはもっと大事なことがあるだろ?何の為にユリアーネと結婚したんだ?不幸になる為か? 違うよなぁ、お前はユリアーネを幸せにする為に結婚したんじゃねぇのか?
 だったら魔族なんぞ俺達に任せてこの町で子作りでもしとけ、わかったな?お前は魔族と関わるな」

「ミカ兄、それは無理だよ。俺から動かなくても向こうからやって来る。
 奴等がやろうとしてる事、知ってるのか?町中にモンスターを解き放ち、人間の生活をめちゃくちゃにしようとしてるんだぜ?

 そんな事されたら大勢の人が死ぬ。それが起こることが分かってて見て見ぬ振りするなんて俺には出来ない!平和に暮らす人達を不幸にしようとする奴等を見過ごす事なんて出来ないんだよっ!

 なぁミカ兄、ミカ兄達は魔族を追っていたんじゃないのか?俺達の父親のように人間社会に潜む魔族を排除しようとしているんじゃないのか?
 だったら俺にも手伝わせてくれよ。もう足手まといにはならないだろ?」

 ミカ兄の顔から笑みは消え、静かに怒りが満ちてくるのがわかる。
 だがこれは俺も譲れないところ。魔族に対抗する力がある、なのにそれを使わないのはおかしいだろ。

「てめぇは俺の言う事が聞けないってか?あぁ?糞生意気になりやがって……ああそうさ、俺は魔族を追っている。いつか尻尾を掴んで引きずり出してやるさ。
 だがな、テメェの手なんぞ要らねぇ。ちょっとぐれぇ強くなったからっていい気になってんじゃねぇぞ?魔族はてめぇが思うほど弱くねぇ。
 いいからてめぇは大人しくユリアーネとパコパコしてりゃいいんだよっ!」

 ミカ兄の怒鳴り声に皆が注目し、楽しかった酒の席がシンと静まり返る。
 パコパコってなんだよ、もっと他に言い方あるだろうが。大体、なんで俺は駄目だって言うんだ?何の不満があると?

 確かにミカ兄や、ギンジさんに比べたら弱いのかもしれない。けど、奴等だって一人二人じゃないのならこっちだって人数が多い方が良いはずだ。
 なんで協力すると言ってる俺の事を拒否するのか、意味が分からない。

「ミカ兄……俺に何か隠してるのか?なんで俺を魔族から遠去けようとする? 俺はそんなにも弱いのか?まだ守られなきゃいけないくらい弱い存在なのか?
 頼むよミカ兄、俺にも手伝わせ……」

 言い終わる前に掴まれた胸ぐら、間近に迫るミカ兄の鋭い目は怒りで満ちていた。
 ここで退いたら俺の負けだと、強い意志を込めて見つめ返す。

 殺意にさえ思える覇気に満ちた眼差し、以前ならビビって謝っていただろうが、多少恐怖は感じても逃げ出すほどではない──俺だって強くなったんだ!

「上等だ!てめぇがそこまで言うのなら俺が試してやるよ。ウィリック!訓練場開けろっ」

「分かった分かった……程々にしなよ?」

 渋々立ち上がるウィリックさんに付いて全員で訓練場へと向かう。
 ミカ兄と戦うのか……俺がどこまでやれるか分からないが、それでも今の俺の全てをぶつけて認めさせてやる! 俺だってこの五年間、遊んでた訳じゃないって事を見せつけてやるよっ!



 朔羅を抜き放つ俺を心配そうな顔で見つめ、近寄ってきたかと思えば、みんなの視線など気にもせずキスをしてくる。

「おまじないよぉ」

 微笑み、手に三色の魔法を浮かべるユリアーネ。それを貰い手早く身体強化を施すと全身に馴染ませていく。
 生半可な強化で勝てるとは到底思えない、なので最初から全力だ。

 腹の奥底に宿る火の魔法、全身に熱い力が漲り身体中が ポカポカ する。身体の表面に張り付いた風魔法は薄い膜のように全身を覆い尽くし、小さく分けて配置された水魔法も要所要所で出番を待つ。

「魔法が使えなかったのに三属性同時強化とはやるねぇ。けど、練度の方はどうなんだろうね?」

 冷静に分析してくれるギンジさんの言う通り、俺には練度が足りない。それくらい分かっているがそれを鍛えるにはまだまだ時間が足りていない。
 身体強化が出来るようになってまだ一月足らず、今やれることをやるのみだ。

「ミカル?」
「要らねぇよ、弟殺してどうすんだよ。そこまでやるつもりはないが、あの伸び切ったプライドを ギタギタ にしてやる。
 覚悟は出来たか?怪我なんぞシアが綺麗に直してくれる、てめぇの馬鹿さ加減を思い知らせてやるから全力でかかって来い! そして身の程を知れ!」

 疑問を投げかけたイザベラが身を離すと炎を纏う剣を抜き放った。
 構えなどないかのようにラフな感じに片手で持っているミカ兄。今の俺なら分かる、アレは魔法剣ではなくミカ兄の魔力に反応して湧き出した剣気のようなもの。
 昔、盗賊団のアジトで見た時よりもハッキリとしている炎、当然のようにミカ兄も強くなっているんだろう。目標が遠退いているのを認識したが、それより早く進めば追いつくことは出来る!

 覚悟が決まりユリアーネから離れると、訓練所の中心部へと向かう。

「殺し合いは許さない、いいね?
今ここに結界を張った、ちょっとやそっとじゃ壊れることはないから気にせずにやるといい。始めなさい」

 ウィリックさんの立会いの元、ミカ兄の前に立つ。
 浴びせられるプレッシャーは半端ない。 ミカ兄に対するイメージというのもあるのかもしれないが、向かい合ってるだけで後退りしそうだ。


「うぉぉぉぉっ!」


 そのプレッシャーを吹き飛ばそうと腹の底から思い切り声を吐き出した。


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