黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

文字の大きさ
上 下
77 / 562
第一章 動き出した運命の輪

31.ウサギの所有者

しおりを挟む
 は~ぁ、私の悠々自適な人生もここで終わりかぁ。きっとこれから変態オヤジに嬲られて弄ばれる生活なんだろうなぁ……短かったなぁ。思えば楽しい事も少なかった。あの人間、レイさん達と一緒に行けばこんな事にはならなかったのかなぁ……まぁ、今更そんな事思っても仕方ないよね?

 私はあの森の街道でレイさん達と別れた後、お父さんの声を頼りに再び森の中を進んで無事合流する事が出来た……でも、その後すぐに人間に襲われ捕まってしまったの。
 その後はよくわからない──けど、町に連れて行かれて首輪を付けられ、オークションという見せ物会場で誰かに売られたみたい。

 あーあっ、結局はお母さんと同じ運命だったのかなぁ。せっかく綺麗に花咲いた所なのに……これから素敵な恋して、子供産んで育てて、幸せな暮らしが待っていると思ってたのになっ。
 私の頭の中にレイさんの顔が思い浮かび、そして消えて行く……人生って儚いよね。



 暗い部屋に置かれた檻の中、グルグルと私の頭の中を悲観した思いだけが駆け巡って行く。もう二度と自由など無いこれからの生活を思い、いっそ今、死んでしまいたいと思うがそんな勇気もなくて涙が溢れてくる。

 私を生き地獄へ送り込むため部屋の扉を開けて入ってきた黒い服の人間。いよいよ変態ご主人様とのご対面なのね……あぁ、やっぱり死にたい、誰か私を殺して!

「さぁ出るんだ、お前のご主人となる人がお待ちだぞ?そう悲観するな、あの御方は良い方だ。お前はラッキーだったな。精々頑張って仕えると良い」

 良い人って、何? 何が基準なの? 私を自由にしてくれるの?……そんな訳ないよね。だって金貨七千枚とか聞こえたもの、私だってそれが物凄く大金だって事ぐらい分かるわ。そんなお金出してまで買っておいて何もしないなんてわけ無いじゃない!
 私の純潔も奪われて毎日毎日弄ばれる日々が始まるんだわ……それは、楽しいのかしら?死んだ方がマシなのかしら?どちらにしても選択肢なんて私には無いわね。お父さんごめんなさい、私は地獄に行きます。一人ぼっちにしてしまうけど、お父さんはどうか元気に暮らして下さい。

 憂鬱な思いが重くのしかかり前を向く気力すら無く、足枷を付けられているかのような重い足取りで檻を出ると黒服に付いて行く。
 死刑台へと向かう廊下を進めば、扉の前で止まった黒服が丁寧にノックして部屋に入る。ここが私にとっての地獄の一丁目、どうせなら魂でも抜けてくれないかと思い深く、深く、溜息を吐き出してみたが、そんな都合の良いことは起きやしない。

「カミーノ伯爵、商品をお届けしました。どうぞお受け取りください。ほら、お前もご挨拶くらいしたらどうだ?これからお世話になる方だぞ?」

 何を言われようとも私の人生は終わったのだ。もう何でも良い、好きにしなさいよ。
 黒服を無視して俯いたまま立ち尽くす私。そう、私はただの物なのよ、物は何も考えちゃいけないわ。私は物……私は物……

「ふむ、近くで見るとますます美しいな、まぁ手続きも終わったし宿に戻るとしようか。慣れなくて煩わしいかもしれないが首輪は君の身元の保証となるからそのまま着けていてくれ。
 悲観したい気持ちは分かるが悪いようにはしない、顔をあげてごらん?」

「いつまでショゲてるんだ?ほら、さっさと行くぞっ馬鹿兎」

「はいっ」

 あれれ?今、 “馬鹿兎” って……なんか聞いたことのある声……いえ、レイさんの声が聞こえた。逢いたい想いが募り過ぎてとうとう幻聴まで聞こえるようになったのか、笑っちゃうよね。

──でも私、反射的に返事したけどなんで?


「…………えっ!?」


 不思議に思い、淡い期待を胸に恐る恐る視線を上げれば、にこやかに微笑む優しそうなおじさん。この人が私のご主人様、かな?
 そんなことよりも……その隣に立つ居るはずのない人に鼓動が跳ね上がる。

 癖のある黒い髪。私を見つめる黒い瞳と、呆れたような表情をする恋い焦がれた人の顔。


『レイさんがいる!!』


 そう認識した時には身体が勝手に動き出し、なりふり構わず全力で飛び付いていた!


▲▼▲▼


「レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レ……「やかましいわっ!」……痛っぁぁ!」

 頭に手刀を叩き込んでも涙を浮かべて仰け反るのみで痛いほどに抱き付いて離れようとしない馬鹿兎。不安だったろうからいきなり飛びついて来たのはまぁいいとしても……叫び過ぎだろ。
 思ってた以上に精神的にやられていたようなので、仕方がないから今だけはこのままでいてやるか。

「なんでレイさんがこんなところに居るんですか?分かりましたっ、私、分かっちゃいました!レイさんが私のご主人様なんですね!そうなんですね!!キャーッ嬉しいわっ!
 私ね、ほらっ、もう変態ハゲ親父に嬲られて過ごすだけの死んだ方がマシな人生が待ってるんだぁと思ってたのにレイさんがご主人様だなんて!!ほらご主人様ならご主人様らしく再会のチュウをぶちゅっと、ほら早くぶちゅっとして……痛っ!オデコ腫れちゃうって!それ痛いって前から言ってるじゃないですかぁ。
 もぉ、照れちゃって~、仕方ないご主人様ですねぇ。レイさんがしてくれないなら私からしちゃいますよ!うふふっ……ひょっとれいひゃん?ほっへつままないれくらはいよ。ちゅうれきはいしゃなひれすか」

 いい加減やかましくなったのでほっぺを引っ張ってやる。相変わらず柔らかくてよく伸びるほっぺだな。

「お前のご主人様はこのランドーア・カミーノ伯爵様だ。俺の我儘を聞いてくださってお前を買ってくれたんだよ。ちゃんと言うこと聞くんだぞ?」
「え?うそ……」

 晴れた笑顔から一転、また不安そうな顔になり『冗談だと言って!』といった感じに涙目で俺を見上げる馬鹿兎──お前、いつまでくっ付いてるつもりだよ。

「大丈夫だよ、この人はお前の思ってるような人じゃない。酷いことなんてされたりしないぞ?安心してお仕えしろよ」

 いつまでも見つめ続ける馬鹿兎だが、どれだけ見ても現実は変わらないぞ?お前の主人はランドーアさんだ、少なくとも俺が借金を返し終わるまではな。

「二人は随分と親しいのだな。それでその事なんだが、彼女はティナの恩人なのだろう?ならば奴隷としておくのは申し訳ない、私としては解放しようと思うんだがどうだろう?君の気にしている金も心配要らない、私が自分の為に使っただけだから返す必要など無いよ。
 ただ解放してもまた捕まったら元も子もないから、保護だけはしてやってくれよ?」

「いえいえ、それは駄目です。俺が頼んだことです、俺自身が納得出来ません。お金は時間がかかっても必ず返します。それまではランドーアさんがコイツの主人ですよ。ただ、俺がお金を返し終えたなら、その時は解放してやってください」

「そうよ駄目よ。レイさんは頑張って借金返すんだから。そうすればずっと家に来るわ。借金が無くなっちゃったら会えなくなっちゃうじゃない」

 あの時の卑屈な薄ら笑いを浮かべるティナ。馬鹿兎の事で頭がいっぱいで忘れてた!ティナがおかしくなっていたんだった……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...