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第一章 動き出した運命の輪
20.久しぶりの貴族屋敷
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「これがそのブレスレットね?ふぅ~ん」
俺の腕を持ち上げアリサから貰ったブレスレットをまじまじと見る、綺麗だろ?
でもアクセサリーの類に興味はないと思ってたルミア、そんなにじっくりと見るほど気になるものだったのか?
「それで名前、なんて言ったっけ?」
「アリサ・エードルンドですよぉ」
外でのお茶飲み用にと庭に置かれたテーブル、並んで座る俺達の後ろから聞こえてきたのはユリ姉の声だ──エードルンドだっけ?よく覚えてるな。
「フフフッ、そぉ。アリサねぇ」
ルミアとは反対側の隣に腰を下ろすユリ姉を見ていれば引っかかりのある呟きが聞こえてくる。独り言にしては声量が大きく、視線を向ければそれに合わせて意味深な笑いをするものだから頭の上には大きなハテナマークが浮かんでしまう。
「もしかしてルミアの知り合い?」
何も答えず笑みを浮かべたまま俺を見続けるルミア。疑問を誘ったくせに答えたくないってことかな?
するとおもむろに異空間に手を突っ込み何かを取り出すと ズイッ と俺とユリ姉の前に腕を伸ばし、握っていた手を開いて見せる。
そこにあったのは金色のイヤリング。
直径三センチの三日月を模したイヤリングは専門店でも一番目立つ場所に置かれるだろう可愛いらしき物で、ユリ姉のような美人が身に着けたらとても似合いそう。
欠けている円形部分には小さな真紅の石が吊るされており、更に小さい石が留め具にも嵌め込まれている。
「これは通信具よ、魔力を通せば離れた場所にいても会話が可能になるわ。ただ材料が無くてね、まだ一対しか出来てないのよ。片方は私が持ってるから、もう片方は貴方達の誰かが持っておきなさい」
離れていても会話が出来る!?これまた凄いものを作ったな……こんなものが沢山あったら便利そう。
ユリ姉に視線を送ると『わたし?』みたいな顔をしたので当然のように頷けば、嬉しそうな顔してイヤリングを受け取り左耳に着ける。
蜜柑色の髪をかきあげ耳にかけると「どぉ?」と見せてくる。
色っぽい仕草に ドキッ としたのは内緒にしておこうと思ったのだが、隣で見ていたルミアが クスリ と笑う……絶対に気付かれた!なんだか恥ずかしい。
「ユリ姉、似合ってるよ。可愛い」
「ん、ありがとぉ」
少しだけ赤らんだ頬に軽く手を当て、伏せ目がちにほほ微笑む姿は本当に可愛い。
「何かあれば連絡して来なさい。金具に付いている魔石に転移石と同じ要領で魔力を通すだけだから難しいことはないはずよ」
その真っ赤な石は魔石ですか!?滅茶苦茶濃い赤だから物凄く高価なやつなんだろうなぁ。あんなの身に着けて町を歩くのなんて怖くて無理だわ。
▲▼▲▼
「レイっ!ひっさしぶり~っ」
俺達四人はティナに会う為にゴトゴトと馬車に揺られてレピエーネへと向かい、カミーノ家の屋敷に着くなり熱烈な歓迎を受けた。
飛びついて来たティナに押し倒されそうになりながらもどうにか受け止め、久しぶりに主人に会った忠犬のごとく戯れ付くティナを落ちつかせるとお茶をいただきに食堂へと向かった。
「やぁよく来たね、またしばらく居るんだろ?時間の許す限りゆっくりしていってくれ」
「まぁまぁ、そんなことより座って頂戴な。クロエ、お茶を」
ティナの両親であるカミーノ夫妻が暖かく俺達を迎え入れてくれる。二人とも変わらず元気そうでなによりだ。テーヴァルさんもいつもの席でお茶を飲んでいて、俺と目が合うとにこやかに手を挙げてくれる。
いつもの席に座ると、これまた相変わらず眠たげな目をしたクロエさんが紅茶を淹れてくれた。クロエさんの淹れてくれた紅茶はとても美味しくて俺は大好きだ。まぁもっとも、カミーノ家で使ってる紅茶の葉が良い物だからか、クロエさんの淹れ方が上手なのかは俺には分からないけど、その両方だと言う事にしておくと無難に済むのだろうな。
「またこの間も大きな成果を挙げたそうだね。最初から凄かったが君達も随分と有名な冒険者になったもんだ。ベルカイムでは〈ヴァルトファータ〉というパーティー名を知らぬ者はいないと聞くよ?また是非とも頼もしい冒険の話を聞かせてくれ」
この間は森を一週間ほど徘徊してました、以上です……ってね。今回、本当に何もしてないんだけどなぁ。それにそんなに目立った活動してるわけでもないのに俺達ってそんなに有名なの?全然知らなかったぞ。
困ったなぁと横を見ると、すぐ隣の席には再会してから終始ニコニコしてるティナ。これもここに来た時のいつものポジショニングだな……あれ?そういえばティナって、心なしか身体付きがしっかりして来たような気がする。
「なぁティナ、最近身体でも鍛えてるのか?」
細い眉を ピクッ と動かしたかと思えば、なぜか気まずそうに目を逸らす……どう言う事?
「ちょ、ちょっと運動をね……ほら身体って大事じゃない?適度に動かないと駄目だと思うんだよねぇ」
そうだそうだ、その通りだよね。いくら貴族だからって家の中で習い事してるだけで一日が終わるとか不健康だもんね。運動するのは良い事じゃないかな?
でも、ティナってば貴族のくせに昔から町中を好き放題歩き回ったり、勝手に牧場に行っては馬に乗ったりと、そこそこ身体を動かしてた気がするんだけどな。あと、なんで悪い事したみたいに目が宙を泳いでいるんだ?
「レイ君からも言ってくれないかしら?その子、クロエに頼んで剣術なんて始めたのよ?年頃の娘が剣術なんて……あ、ごめんなさいね。この子、こんなだけど仮にも貴族の娘なのだからもっとお淑やかに……ねぇ?」
ユリ姉はそんなことは気にしないとばかりに微笑みながら紅茶を楽しんでいるし、リリィに至っては目の前のケーキに夢中で聞いてすらいない。
「お母様っ、二人に失礼ですわ。ユリアーネさんだって、リリィだって、クロエだって、みんな年頃の娘じゃないですかっ。みんな剣術を嗜んでいるのに私だけ駄目ってどう言う事ですか?前にも説明しましたよね?またおかしな輩に攫われないように自衛の為の技術だと。それのどこがいけないんですか?」
顔を見合わせため息を漏らすカミーノ夫妻、娘にだだ甘なのも相変わらずだよね。
昔、盗賊に攫われたのは一人で居たからであって、今は街に行く時もクロエさんが付いているからそんな心配は要らないはずだ……ティナは何を企んでるんだ?
予定より早く到着したため夕食まで時間があり、数日お世話になる部屋へと向かえば子犬の様に纏わりつくティナも一緒になって入ってくる。
この部屋は俺達が来ると毎回使わせてもらっているので俺達専用の部屋になっているらしい。遊びに来てるだけなのになんだか悪い気がするけど、部屋なんか在り過ぎて余ってるから大丈夫だと言われてるので遠慮なく使わせてもらってる。
ソファーに座った俺の隣に当然のように腰を下ろしたティナ、ここに来るといつも風呂と寝る時以外は四六時中一緒にいる。もちろんティナに会いに来たわけだし、嫌じゃないので俺としては全然構わないのだが、それこそ年頃の娘がそれでいいのか?
まぁそれはさて置き、先程の疑問を解決せねば……
パタパタと勢いよく振られる尻尾の幻覚が見えてしまいそうなほど興奮冷めやらぬティナの両手を包み込む様に優しく握った。
サファイアのように綺麗な青色の瞳を真顔で覗き込めば血色の良い頬はみるみる内に赤みを増し、思惑通りに緊張した顔。驚きに見開いた目で見つめ返してくる。
「さぁ、本当のところを話してもらおうか?」
ワザと悪戯っぽく ニヤリ とすれば何を言い出したのか分からなかったみたいで、目をパチクリさせて呆けている。しかし数秒の間を置いて理解が追い付くとこれみよがしに深い溜息を吐いてみせ、眉間に皺を寄せてから目を逸らした。
「ちょっと期待した自分が馬鹿でした」
「んん?」
「なんでもないですっ!でも、理由は先程言ったものですよ?クロエは教えるのも上手な良い先生です」
視線を戻した時にはいつもの微笑みに戻っていた。しかし「何故そんなことを?」と言いたげな顔で小首を傾げる。
「お褒めに預かり光栄なのです」
思わぬ方向から突然声がかかり ビクッ!と二人してそちらを見れば、何食わぬ顔で立っているクロエさん……いつの間に入って来たの!?
「ラブラブするのは結構ですが、節度は保ってくれないと私が困るのです。一時間後に夕食なのでそれまではごゆっくりなのです」
言いたい事だけ言うとごく普通に部屋から出て行く。神出鬼没とは彼女を指すのだろう、せめて部屋に入る時も存在感を出して欲しい。扉を開ける音もなく部屋に入るとか……怖すぎるよ。
俺の腕を持ち上げアリサから貰ったブレスレットをまじまじと見る、綺麗だろ?
でもアクセサリーの類に興味はないと思ってたルミア、そんなにじっくりと見るほど気になるものだったのか?
「それで名前、なんて言ったっけ?」
「アリサ・エードルンドですよぉ」
外でのお茶飲み用にと庭に置かれたテーブル、並んで座る俺達の後ろから聞こえてきたのはユリ姉の声だ──エードルンドだっけ?よく覚えてるな。
「フフフッ、そぉ。アリサねぇ」
ルミアとは反対側の隣に腰を下ろすユリ姉を見ていれば引っかかりのある呟きが聞こえてくる。独り言にしては声量が大きく、視線を向ければそれに合わせて意味深な笑いをするものだから頭の上には大きなハテナマークが浮かんでしまう。
「もしかしてルミアの知り合い?」
何も答えず笑みを浮かべたまま俺を見続けるルミア。疑問を誘ったくせに答えたくないってことかな?
するとおもむろに異空間に手を突っ込み何かを取り出すと ズイッ と俺とユリ姉の前に腕を伸ばし、握っていた手を開いて見せる。
そこにあったのは金色のイヤリング。
直径三センチの三日月を模したイヤリングは専門店でも一番目立つ場所に置かれるだろう可愛いらしき物で、ユリ姉のような美人が身に着けたらとても似合いそう。
欠けている円形部分には小さな真紅の石が吊るされており、更に小さい石が留め具にも嵌め込まれている。
「これは通信具よ、魔力を通せば離れた場所にいても会話が可能になるわ。ただ材料が無くてね、まだ一対しか出来てないのよ。片方は私が持ってるから、もう片方は貴方達の誰かが持っておきなさい」
離れていても会話が出来る!?これまた凄いものを作ったな……こんなものが沢山あったら便利そう。
ユリ姉に視線を送ると『わたし?』みたいな顔をしたので当然のように頷けば、嬉しそうな顔してイヤリングを受け取り左耳に着ける。
蜜柑色の髪をかきあげ耳にかけると「どぉ?」と見せてくる。
色っぽい仕草に ドキッ としたのは内緒にしておこうと思ったのだが、隣で見ていたルミアが クスリ と笑う……絶対に気付かれた!なんだか恥ずかしい。
「ユリ姉、似合ってるよ。可愛い」
「ん、ありがとぉ」
少しだけ赤らんだ頬に軽く手を当て、伏せ目がちにほほ微笑む姿は本当に可愛い。
「何かあれば連絡して来なさい。金具に付いている魔石に転移石と同じ要領で魔力を通すだけだから難しいことはないはずよ」
その真っ赤な石は魔石ですか!?滅茶苦茶濃い赤だから物凄く高価なやつなんだろうなぁ。あんなの身に着けて町を歩くのなんて怖くて無理だわ。
▲▼▲▼
「レイっ!ひっさしぶり~っ」
俺達四人はティナに会う為にゴトゴトと馬車に揺られてレピエーネへと向かい、カミーノ家の屋敷に着くなり熱烈な歓迎を受けた。
飛びついて来たティナに押し倒されそうになりながらもどうにか受け止め、久しぶりに主人に会った忠犬のごとく戯れ付くティナを落ちつかせるとお茶をいただきに食堂へと向かった。
「やぁよく来たね、またしばらく居るんだろ?時間の許す限りゆっくりしていってくれ」
「まぁまぁ、そんなことより座って頂戴な。クロエ、お茶を」
ティナの両親であるカミーノ夫妻が暖かく俺達を迎え入れてくれる。二人とも変わらず元気そうでなによりだ。テーヴァルさんもいつもの席でお茶を飲んでいて、俺と目が合うとにこやかに手を挙げてくれる。
いつもの席に座ると、これまた相変わらず眠たげな目をしたクロエさんが紅茶を淹れてくれた。クロエさんの淹れてくれた紅茶はとても美味しくて俺は大好きだ。まぁもっとも、カミーノ家で使ってる紅茶の葉が良い物だからか、クロエさんの淹れ方が上手なのかは俺には分からないけど、その両方だと言う事にしておくと無難に済むのだろうな。
「またこの間も大きな成果を挙げたそうだね。最初から凄かったが君達も随分と有名な冒険者になったもんだ。ベルカイムでは〈ヴァルトファータ〉というパーティー名を知らぬ者はいないと聞くよ?また是非とも頼もしい冒険の話を聞かせてくれ」
この間は森を一週間ほど徘徊してました、以上です……ってね。今回、本当に何もしてないんだけどなぁ。それにそんなに目立った活動してるわけでもないのに俺達ってそんなに有名なの?全然知らなかったぞ。
困ったなぁと横を見ると、すぐ隣の席には再会してから終始ニコニコしてるティナ。これもここに来た時のいつものポジショニングだな……あれ?そういえばティナって、心なしか身体付きがしっかりして来たような気がする。
「なぁティナ、最近身体でも鍛えてるのか?」
細い眉を ピクッ と動かしたかと思えば、なぜか気まずそうに目を逸らす……どう言う事?
「ちょ、ちょっと運動をね……ほら身体って大事じゃない?適度に動かないと駄目だと思うんだよねぇ」
そうだそうだ、その通りだよね。いくら貴族だからって家の中で習い事してるだけで一日が終わるとか不健康だもんね。運動するのは良い事じゃないかな?
でも、ティナってば貴族のくせに昔から町中を好き放題歩き回ったり、勝手に牧場に行っては馬に乗ったりと、そこそこ身体を動かしてた気がするんだけどな。あと、なんで悪い事したみたいに目が宙を泳いでいるんだ?
「レイ君からも言ってくれないかしら?その子、クロエに頼んで剣術なんて始めたのよ?年頃の娘が剣術なんて……あ、ごめんなさいね。この子、こんなだけど仮にも貴族の娘なのだからもっとお淑やかに……ねぇ?」
ユリ姉はそんなことは気にしないとばかりに微笑みながら紅茶を楽しんでいるし、リリィに至っては目の前のケーキに夢中で聞いてすらいない。
「お母様っ、二人に失礼ですわ。ユリアーネさんだって、リリィだって、クロエだって、みんな年頃の娘じゃないですかっ。みんな剣術を嗜んでいるのに私だけ駄目ってどう言う事ですか?前にも説明しましたよね?またおかしな輩に攫われないように自衛の為の技術だと。それのどこがいけないんですか?」
顔を見合わせため息を漏らすカミーノ夫妻、娘にだだ甘なのも相変わらずだよね。
昔、盗賊に攫われたのは一人で居たからであって、今は街に行く時もクロエさんが付いているからそんな心配は要らないはずだ……ティナは何を企んでるんだ?
予定より早く到着したため夕食まで時間があり、数日お世話になる部屋へと向かえば子犬の様に纏わりつくティナも一緒になって入ってくる。
この部屋は俺達が来ると毎回使わせてもらっているので俺達専用の部屋になっているらしい。遊びに来てるだけなのになんだか悪い気がするけど、部屋なんか在り過ぎて余ってるから大丈夫だと言われてるので遠慮なく使わせてもらってる。
ソファーに座った俺の隣に当然のように腰を下ろしたティナ、ここに来るといつも風呂と寝る時以外は四六時中一緒にいる。もちろんティナに会いに来たわけだし、嫌じゃないので俺としては全然構わないのだが、それこそ年頃の娘がそれでいいのか?
まぁそれはさて置き、先程の疑問を解決せねば……
パタパタと勢いよく振られる尻尾の幻覚が見えてしまいそうなほど興奮冷めやらぬティナの両手を包み込む様に優しく握った。
サファイアのように綺麗な青色の瞳を真顔で覗き込めば血色の良い頬はみるみる内に赤みを増し、思惑通りに緊張した顔。驚きに見開いた目で見つめ返してくる。
「さぁ、本当のところを話してもらおうか?」
ワザと悪戯っぽく ニヤリ とすれば何を言い出したのか分からなかったみたいで、目をパチクリさせて呆けている。しかし数秒の間を置いて理解が追い付くとこれみよがしに深い溜息を吐いてみせ、眉間に皺を寄せてから目を逸らした。
「ちょっと期待した自分が馬鹿でした」
「んん?」
「なんでもないですっ!でも、理由は先程言ったものですよ?クロエは教えるのも上手な良い先生です」
視線を戻した時にはいつもの微笑みに戻っていた。しかし「何故そんなことを?」と言いたげな顔で小首を傾げる。
「お褒めに預かり光栄なのです」
思わぬ方向から突然声がかかり ビクッ!と二人してそちらを見れば、何食わぬ顔で立っているクロエさん……いつの間に入って来たの!?
「ラブラブするのは結構ですが、節度は保ってくれないと私が困るのです。一時間後に夕食なのでそれまではごゆっくりなのです」
言いたい事だけ言うとごく普通に部屋から出て行く。神出鬼没とは彼女を指すのだろう、せめて部屋に入る時も存在感を出して欲しい。扉を開ける音もなく部屋に入るとか……怖すぎるよ。
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