黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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序章 旅の始まりは波乱と共に

14.いいもの見つけた!

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 かつて、これほどワクワクしたことがあっただろうか?村を出たあの日より、人を殺した昨日より、高鳴る鼓動は早く、それに煽られるように気持ちが急く。
 三人でオデコを突き合わせて皮袋の口を開く。目に飛び込んで来たのは金色の物体、感嘆の声が誰ともなく漏れ出る。初めて目にする金のコイン、金貨だ!すげーーっ!!三人で手を合わせて喜びを分かち合った。

 ここは宿の部屋、その唯一の机に皮袋をひっくり返して中身をぶちまける。現れたのは金貨の山だ!一枚手に取り、まじまじと眺めてみる。表には国家の印である絡み合う二匹の龍、裏には六芒星が刻まれている。

 十枚づつ山にしてみると、十二の山が出来た。
 ご飯食べると銀貨一枚、宿は一部屋銀貨二枚。銀貨二十枚で金貨一枚だから、金貨が一枚あれば一日二食とすると五日暮らせる。一人当り金貨四十枚貰える計算で……普通に暮らす分には二百日も生活出来る!
 お金持ちじゃんっ、俺達!

「なぁ、ミカ兄は本当に要らないのか?」

 あえてもう一度だけ聞いてみると ギロッ と睨まれたが、すぐに呆れた顔になった。

「おめぇもしつこいな。そんなに気に病むなら今日の夜飯はお前が奢れよ、それでチャラにしてやる」

 笑顔で親指を立ててやったら、溜息を吐き出しやがった。


▲▼▲▼


 相変わらず怪しい雰囲気をしている武器屋の前に着くと『ココに入るんですか?』って嫌そうな顔でティナが俺を見る。
 だよね~、怪しいよね~……見た目。「大丈夫だから」と店の中に入ると、オスヴィンさんが相変わらずの迫力で座っていた。

「よぉ、ミカルんとこの坊主じゃねーか。話は聞いたぜ?お手柄だったそうだな。んで、どうした?もう剣を壊したか?がはっはっはっはっ」

 武器を無くしたことを話すと顎に手を当て、眉間に皺を寄せて俺の腰へと視線を向ける。

「その剣は使えねーのか?俺が渡したヤツじゃなくても、最初の頃なんざ取り敢えずなんでもいいだろ?」

「それが、さ。いきなり良い物が欲しいなんて言わないけど、流石にこれは駄目じゃない?」

 俺が持っているのは、あの時見張りをしていたジーニアスが持っていたショートソード。鞘ごと腰から引き抜くとオスヴィンさんに手渡した。
 ボロボロの剣身を見て嫌そうな顔をするが実情はもっと深刻、指で弾くと俺の言いたい事が分かったようで溜息を吐いてから視線を向けてくる。

「こりゃ駄目だな、ひでぇ粗悪品だ。こんなになっててよく折れなかったな。前のと同じヤツでいいだろ?ちょっと待ってろ」

 広くない店内で巨体が蠢く、良いのあるかな?

 アルが持っている剣は盗賊団のボスが使っていたロングソードで、まぁ、ちゃんとした普通の武器だった。アルが買ったヤツよりちょっと長いけど、本人曰くこれで良いらしい。
 けど俺が持っていたショートソードは、ボスの攻撃をずっと防いでいて痛んだのもあるが、もともと安物だったらしく、叩くと中が空洞にでもなっているようなおかしな音がする。おそらく芯の部分が鉄ではなく、他の安い材料でも使っているのだろう。

 ちなみに真剣を触ったのはこの町に来てからだが、そういう粗悪品の見分け方の勉強は村でちゃんとして来たんだぞ?まだ駆け出しの俺達にとってはそうでもないが、冒険者にとっての武器とは命に近いほど大切な物。ちゃんと知っておかないと、いざ戦うとなった時に壊れたりしたら即死亡ってなりかねないからな。
 オスヴィンさんも言ってたが、この剣がまだ健在なのは奇跡に近いと思う。もしボスと戦っている時にこれが折れていたら……もしもの話しは止めておこう。俺は今、ココにいる。

 オスヴィンさんがもぞもぞしている間に薄暗い店内に目をやると、棚の上の方にカッコいい剣を見つけた。見た目は細身の剣で軽そう。俺好みなんだけど高そうな予感がした。でも、見るだけならいいよね?

「オスヴィンさん、あの剣見せてもらってもいいかな?」

「んん?あぁアレか、目が肥えてるな坊主。見るだけならいいがアレはお前さんにはちと早いぞ?もっと実力付けてからのほうがえぇなっ。どれ、待ってろ」

 手渡された変わった剣、鞘からしても刃幅は狭く、厚みもかなり薄い。だが持ってみると意外と軽すぎることはなく、重量感の感じられる程良い重みがあった。なんか中身がギュッと詰まってる感じ?そして何より目を引くのが、刀身が少し反っていること。
 どんな剣なのか益々興味をそそり鞘から抜いて見ると……なんじゃこりゃ?刃が反りの外側にしかない。思わずポカンと口を開けたまま固まってしまった。

「それは刀という片刃の剣だ。長い割には軽いだろ?軽いから使いやすいそうに見えるが、ところがどっこい、素人には無理だな。
 一般的な剣ってどっちかって言うと剣の重みで “叩き斬る” 斬り方なんだが、その刀は刃の斬れ味で “引き斬る” んだ。
 そうだな……料理の時、包丁を使うだろ?アレを思い出せ。包丁も刃に力を込めれば物は切れる、だがそれは力任せに押し切ってるんだ。そうではなく、少しだけ刃を滑らせながら切っていくと力を入れなくても スッ と切れるんだぞ?その斬り方を剣でやるんだ。
 もちろん一般的な剣でも斬る瞬間に刃を滑らせると威力が増す。上級者は常にそういう斬り方をするんだが、素人には無理だろ?何せ当てるだけで精一杯だ。その斬り方を特化させた使い方をするのが、この “刀” だ」

 細長くスリム、刃の部分にある波のような模様も素敵だ。見た目もカッコいいが、使い方までカッコいいとは……これ、欲しいです!

「坊主がもっと “斬る” ことに慣れたら売ってやってもいいぞ?がははははっ。まぁ、まだ今はこれで頑張れよっ。あぁ金は要らん、初の大仕事達成の祝いだ。持っていけ」

 片目を瞑り ニカッ と笑う、強面に似合わず優しさ溢れる巨漢の男。
 ずずいっと突き出された新しい剣を受け取り抜いて見る。うん、この間買ったのと同じ普通のヤツだ。よしっ、コイツと一緒に強くなるぞっ!

 そしていずれ、あの刀を……


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